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1話——生まれ変わっても寝坊助でした。

 カッ カッ


 あまり聞き慣れない音が聞こえて、私は重たい瞼をゆっくり開けた。

 異様に身体が重く、頭が上手く働かないのは分かる。

 ぼやけていた視界が徐々にはっきりしてくると、見慣れない模様の天井が見えた。目線だけ動かし、どこかの部屋にいる事だけは理解出来た。

 指先の感覚で、多分寝具の上だろうと推察する。

 背中に吸い付くような、身体がゆったりと沈み込むような、なんせ驚く程寝心地が良い。

 起きあがろうとしたけど、びっくりするくらい身体が動かなくて諦めた。

 ここが何処なのか、自分がどんな状況に置かれているのか、きちんと把握しなければと思ったのに、頭がぼーっとして働かない。

 その内に身体の力が抜けていって寝具と一体化したような錯覚に陥り、抗う間も無く睡魔に意識が拐われた。




 どれくらい眠っただろう……

 近くで話し声が聞こえる。

 若そうな男性の声で、聞いていてとても心地良い声だった。

 大好きなアニメのキャラクターの声優さんのような声。


 「(あー……この声好きだなぁ……)」


 呑気にもそんな風に思っていた。

 瞼は重くて開けられそうに無い。

 声は二人分聞こえて来る。何を話しているのかは聞き取れなかった。

 きっと私の事なんだろうなと思ったけど、やっぱり瞼は開かなくて起き上がることも出来なかった。




 再び目を開けた時は真っ暗だった。

 暗闇に目が慣れていたせいか、なんとなく辺りの様子がわかる。近くの窓からは星が見え、部屋の中に灯りはない。

 そこそこ広い部屋なのか、奥の方が真っ暗でちょっと怖い。

 身体は……前よりは動くみたいだ。大分軽くなった。

 喉がカラカラに渇いていて水が欲しい。周りを目を凝らして見てみたもののそれらしきものは無さそうだ。

 声を出そうと試みたけど、渇いた喉からは掠れた声しか出なかった。


 「(近くに誰かいるのかな? お願いしたら水って貰えるんだろうか)」


 そんな不安を感じながら、ゆっくり確かめるように移動してベッドの縁へ腰掛けた。

 歩き出そうとして近くに置いてあった物を盛大に蹴飛ばす。大きな音を立てながら、それは床へ転がった。

 足の小指を強打して痛みに悶絶した私もそのまま床へ転がった。


 バンッ!!


 凄い勢いで扉が開き、室内に光が差し込む。

 涙目でそちらへ視線を向けると、慌てた様子の男女が駆け寄ってくる。小指が痛すぎて立ち上がる事が出来ない。


「———!? ——……gatぁんだ!! ——丈夫か!?」


 耳の奥にチリチリとノイズが走り、ラジオのチャンネルを合わせるかのような不思議な感覚の後、駆け寄って来た青年の声が聞き取れるようになった。

 彼は私に声を掛けるや否や、背中と膝裏へ逞しい腕を当てがってくる。

 もしかしてベッドから落ちたと思われた!? 私はそんなに寝相悪くないです!!

 そんな言い訳をする間もなく軽々と宙に浮いた私の身体は、次の瞬間にはベッドの上にあった。

 訳のわからないまま見上げると、鼻先が触れる程の距離にまだ幼さの残る青年の顔があり、ばっちり目が合ってしまった。


「「!!!?」」


 お互いに絶句していると、メイドらしき女性が側へ寄ってくる。青年が慌てて身を起こし、彼女の後ろへと下がっていく。


「駄目ですよ、無理をしては。貴女は森で倒れていたのですから。今はゆっくりお休みくださいね」


 慣れた手付きでベッドを整えてくれた。

 しわがれた声で返事をすると「お水持ってきますね」と、部屋を出ていってしまう。青年を一人残して。


 私はもう一度彼を伺い見る。彼もこちらを見ていたようで、さりげなく視線を反らされてしまった。

 沈黙が痛い。小指もまだ痛い。

 何となく居心地の悪さを感じていると、いくらもしない内にメイドさんが戻って来てくれた。その後ろには別の男性がついて来ている。

 白いシャツが良く似合う、楽な格好をした、こちらも若そうな人だった。


「目が覚めたんだね。……良かった」


 そう言うとベッドの縁へ腰掛けてきた。そしてあろう事か「触るね」なんて言いながら、手首を軽く握ってきたのだ!

 本来なら過剰反応したところだが、頭が上手く回らないお陰で大人しくしていられた。驚きはしたものの手つきが優しく、ひんやりした大きな手が気持ち良かった。


「熱は無さそう。……魔力も……うん、落ち着いたようだね」


 先程寝ぼけながら聞いた心地好い声だった。この人が話していたのかと、ぼーっと目の前の顔を見つめる。

 彼はメイドさんから水の入ったグラスを受け取ると、私の口元へ運んでくれた。

 それを受け取り冷たい水を喉へと流し込む。

 カラカラだった喉に潤いが戻り、ほっと息をつく。生き返った気分だ。


「何か食べられそう?」


 そう言われて少し考える。確かに今日は何も食べていなかったが、それよりも横になりたかった。

 私が首を小さく振ると、彼は微笑み「じゃぁゆっくり休んで」と部屋を出て行った。その後ろをあの青年もついて出て行った。


「何かあればいつでも呼んでくださいね」


 メイドさんが小さなベルを枕元の台へと置いてくれる。そこに置かれたランプを手にすると、姿勢正しく部屋を出て行った。

 一人残され部屋に暗闇が戻ると、すぐに眠気がやってくる。

 何でこんなに眠いのかと思いながら、私は三度眠りへと堕ちていった。


 こうして転生初日から大寝坊した私は、結局三日も眠りこけていた事実を後から聞かされ、大変恥ずかしい思いをすることになるのでした。

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