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第四話 援軍要請①

 冒険者連合東部支部、1階のフロアは2000平方メートルもある巨大な広場になっている。2階以上は事務局となっている為、冒険者が入れるのは1階のみ。

 ここには冒険者登録。メンバー集め、仕事(任務)探し。また、冒険者への依頼など、冒険者だけでなく、多くの人でにぎわっている。

 巨大な空間の7割りを占めるのがテーブル席である。100席以上あるテーブル席で依頼を待つ人、隣接するレストランや屋台で食事などをする人などでごった返している。通称「待合広場」。今日はいつもよりは人は少なく、テーブル席も空いていた。

 

 僕は受付で援軍の依頼をした。

 今回、迷いの森であった事、死狂の館での出来事を詳細に受付嬢に話し、少しでも早く援軍を出せないか上と掛け合ってほしいと頼み込んだ。

 しばらく待つ様に指示され、僕はテーブル席に腰をおろした。

 あの後、一時間程、聖京都の東城壁、「悲しみの壁」で待ち続けた。結局、コハルもグロスも現れなかった。そもそも、あそこだけが出口なのかも分からない。ランダムで出口が発生する構造なら、待っていても仕方ない。

 僕は2人を待つ方法を変更する事にした。今回の冒険(迷いの森、死狂の館、バンパイアの遭遇)を公表して、冒険者連合の上位冒険者や王下聖騎隊の応援部隊を出してもらい、仲間を助けに行く。コハルや、グロスが別の場所から脱出していても、騒ぎを大きくすれば、彼らの元にも声は届く。どこかで合流が出来るだろう。今、僕が出来る事は何が何でも死狂の館へ援軍を出してもらいもう一度館内を捜索する事だ。


 僕が席に座って待っていると、ビール片手のおっさんが同じテーブルに座って来た。

「よう!にいちゃん、元気か?ビールでも飲むか?」

 昼間から出来上がっている様子だった。武器は持っていないが、防具品から、戦士系の冒険者の様であった。

 ここのフロアは冒険の依頼が来るのを待つ人達も多い。

 冒険者連合への依頼方法は2つ。

 ひとつは冒険者で登録されている名簿から依頼主が冒険者を選ぶ方法。強い冒険者隊や、名の知れた冒険者隊が選ばれやすい、前金を必要とするが強い冒険者に、頼める特権がある。

 もう1つは、誰でも良いから依頼を頼む方法、達成後に報酬を支払う為、手数料を必要としない。しかし、依頼はすぐに受けてもらえない場合もある。冒険者側も基本的には登録しておくと、依頼が来ると、冒険者隊へ連絡が来るシステムである。だから、このフロアにいつもいる必要はない。

 しかし、時には急ぎの案件があると、ここにいる冒険者が選ばれる。その為、仕事を求めて多くの冒険者が集っている。

 また、「値切り」と呼ばれる冒険者連合を通さず、ここにいる冒険者へ直接交渉するやり方もある。違法ではないが、その場合は何かあっても冒険者連合は一切関与しない為、闇交渉とされている。依頼後のトラブルの元となるが、様々な事情から無くならい取引である。

 闇取引を敢えてなりわいとする輩は、依頼の成功率の低い部隊や、ブラックリストに載っている部隊が大半を占める。


 このおっさんはその類の人だろう。

 依頼を待っている間に酒だけが進み、いつのまにかアルコール中毒になっていくパターンが問題視されてはいるが、こういう輩がいなくなる事はない。もう一度、隣に座った人へと目を向けると、いない?ビールジョッキだけテーブルの上に残して消えていた。

 このジョッキは僕が片付けるのか?

 この腑に落ちない気持ちを抑えながら、ウエーターを探して、見回した。

 この広いフロアを隣接するレストランのウエイターが給仕している。自分のテーブルへと来た際に注文すれば、その場で注文を受けてくれるが、広さの割りには少ないので、(むしろここは待合広場なので)ウエイターを待つよりは自分で行った方が早い為、後片付け専門の人と思っている人も多い。

 遠くから、ウエイターが歩いてくる。


 近くに来たら、このジョッキを持っていってもらう。そう思って待っていると、ウエイターは両手に串焼きが大量に入った大皿を抱えていた。更にその後ろへ両手にジョッキを持ったあのおっさんが歩いてきた。

 今から食事をする様だ。他のテーブルへ行ってくれ。こちらの願望とは裏腹にウエイターは僕が座っているテーブルに大皿の串焼き山盛りを置いた。

 おっさんが席に着くと、空になったジョッキを持って帰って行った。

 おっさんは僕の目の前にジョッキを置いた。

「飲め、食え。」

 僕は要りませんという様に片方の手の平をおっさんの前に向けた。

「ビールじゃない。水だ。ほら、食え、飲め。」

 お腹が空いてないと言うと嘘になるが、食べる気がしない。あんな事があって、まだ死狂の館に仲間が閉じ込められていると思うと、自分だけこんな所で食事をして良いのかと自責の念に駆られる。今は食べるわけにはいかない。

「お前、迷いの森へ行く前に死ぬぞ。」

 その言葉にハッとして、隣のおっさんを見た。おっさんは串焼きをこちらに手で渡してきた。

「これは先輩からの忠告だ、冒険者は何があろうと、食える時に食うの鉄則だ。大切なものを守りたいなら、自分のメンテナンスを怠るな。食う、寝る、鍛えるは全てそろって意味をなす。」

 何かよく分からないが、説得させられ、串焼きを手に取ってしまった。一口、串焼きを食べる。

 食べている内に涙が溢れだした。

 おっさんが、もう一本、もう一本と勧めてくるので、いつの間にかかなりの量を食べていた。

「満足したか?」

 その言葉に素直に頷いた。朝、迷いの森へ向かってから、既にお昼を過ぎようとしていた。何を食べたり飲んだりする余裕が無かった。こうして、串焼きを食べて、少し落ち着きを取り戻した。

「にいちゃん、名前は?」

「ナギトと言います。」

「七本槍の道化衆のナギトか。」

 僕はどうして、隊名を知っているのか疑問に思った。おっさんはそれを見透かす様に笑いながら話を続けた。

「どうして、知っているかって顔だな。俺は何でも知っている。にいちゃん達が、迷いの森で死狂の館を見つけた事も、死狂の館にバンパイアがいて、仲間が取り残されている事も。」

 僕は目を丸くしておっさんに注目した。誰なんだ?

「俺が誰かって顔だな。そりゃ当然だ。にいちゃん、さっき受付の嬢ちゃんと大声で話しているから、聴きたい放題だ。」

 なんだ。ちょっとびっくりしたが、トリックが分かれば、マジックなんて子供騙し的な内容だった。

 おっさんはこっちを真顔で見て来た。

「にいちゃん、忠告してやる。」

「忠告?」

「ああ、そうだ。冒険者としての先輩から忠告だ。仲間は諦めろ。」

「は?」

 僕は大声が出てしまった。フロアに声が響いた様で何人かがこっちを見ていた。少し罰が悪く、小声で聞き直した。

「なんですか?それは。」

「にいちゃん、2大魔災害って知っているか?」

「もちろんです。僕はこれでもこの国の冒険者学院を卒業したんですよ。そのくらい座学で学びます。」

 おっさんは僕の目を見る様にして、ジョッキを取りビールを飲み干した。そして、丁度通りかかったウエイターにもう一本注文した。

「死狂の館の戦いが魔災害になっているのは知っている様だな。それなら、死狂の館の戦いを指揮した人は覚えているか?」

 指揮した人?そういえば習った気がする。そうだ。この国の現王アーサード7世だ。

「現王です。そのくらい知ってます。」

「流石、よく勉強しているな。それなら、にいちゃんは今何をした?」

「何を?意味が分からない?そもそも、あなたは何者ですか。」

「にいちゃんが受付の嬢ちゃんに報告した事だよ。」

「援軍の要請ですが、何か?」

 なんなんだ。この人は?優しくしてくれたり、人の行動にとやかく言って来たり。僕はこれ以上話すのは無駄と考え、ちょっと下を向いた。

 すると、ウエイターがビールを持ってきた。


 おっさんはビールを受け取るとまた上機嫌になって、飲み始めた。単に酒がなかっただけか。ビールを飲みながら、おっさんはまた話し出した。

「これは独り言だ。」

 ?、僕はおっさんを見てしまった。

「死狂の館は魔災害案件、冒険者連合に報告すれば、王に届く。ましてや援軍を要請となればなおさら王下聖騎隊を出す事になる。自分が解決した魔災害、実は解決されていません。と言っているようなものだ。王からしたらどう思う?」

 そこまで考えていなかった。

「でも事実なんです。仲間が殺されているんです。いや、ゾンビ化したんです。」

「だからなんだ?王はな、まだ皇太子の時、第二皇太子だった。この死狂の館の戦いを高く評価され王の座を手に入れた。そして、楯突いた第一皇太子と第三皇太子を自らの手で惨殺した。有名な話しだ。お前の報告は王に楯突く報告と見なされれば。」

 そこまで言って、おっさんは親指で首を切ったう動きをして、指を下に向けた。

 首を切られる?

 嘘だろ。冗談だよな。このおっさんが僕をからかっているだけだ。

 でも、只の冗談にしては信憑性がありすぎる。その話を聞いて背筋が凍り付いた。

「にいちゃんには道は2つ。1つ、首切りを覚悟に援軍要請する。もう1つはほら。」

 そう言って、おっさんは冒険者募集の受付を指さした。

「あっちに行って、新しい仲間を探すかだ。にいちゃんはまだ若い。なんなら王下聖騎隊で腕を磨くって方法もある。強くなって、強い仲間を引き連れて、再度ダンジョンへ挑む。それが冒険者の基本だ。」

「それじゃあ、仲間が、仲間が。」

 おっさんは僕の方を睨むような視線をおくった。

「それが冒険者だ。冒険は危険と隣り合わせだ。何かあったら誰かが助けてくれると思うな。」

 おっさんが言うのは正論だ。何も言い返せない。

 でも、僕はどうすればいいのか?

 おっさんは人差し指を前に向けた。

「来たぞ、選択の時間だ。受付の嬢ちゃんの裏を歩いているのが、この連合代表のキグナスだ。あいつも元王下聖騎隊で現王の配下だった人物だ。その更に後ろを歩いているのが、この冒険者連合直属の冒険者部隊「東部の風」リーダー、Aランク冒険者のゾルアだ。」

 おっさんは僕を見て、もう一度親指で首を切って、指を下に向けた。

「どうする?援軍を要請するか?やめるか?」

 


 受付嬢が僕の前に止まった。

「ナギト様、只今、代表を連れてまいりました。」

 その後ろから代表のキグナスが顔を見せた。隣のおっさんと近い年代の長身でスラっとした男性だった。魔法使い資質だろうか。武器を持って戦っていたとは思えなかった。

「君がナギトくんか。この東支部表のキグナスだ。よろしく。」

 そう言って、右手を出してきた。僕は立ち上がってキグナスの手に添えた。

 キグナスは僕を見た後で、隣に座っているおっさんを見た。おっさんはキグナスに無口で手をあげて挨拶をした。

「なんでライガがここにいる?お前は七本槍の道化衆と関係ないだろ。」

 おっさんの名前はライガと言うのか。そういえば、名前を聞いてなかった。おっさんはビール片手にキグナスに対して話し出した。

「このフロアのどこで食事をしようが、勝ってだろ。それに懐かしい響きが聞こえてきたら、興味をもってな。死狂の館だの、バンパイアだの。」

 キグナスはライガとの話を途中で切り上げる様に無視して、僕の方へ向きを戻した。

「話を折って申し訳ない。先程の話をもう一度してもらいたい。君は死狂の館に入り、バンパイアを見たのか?」

 その瞬間、ライガというおっさんがこっちを睨んでいるのが分かった。先程忠告された、選択の時だ。ここで「はい」と答えれば、王へ報告される。「いいえ」と答えれば、僕達の冒険は記録上無かった事になるだろう。

 でも、そんな事は出来ない。

「はい、僕達七本槍の道化衆は迷いの森の地図作りの依頼を受け、迷いので死狂の館を…………。」

 僕はもう一度今回の冒険内容を詳細に報告した。


 キグナスは僕の話を聞いて、少し目をつぶった。そして、ゆっくりを目を開けて、僕を見た。

「分かった。今回の事は上に報告しておく。しかし、内容が内容なだけに、調査が必要となる案件だ。残念だが、援軍は出せない。今後、迷いの森は立ち入り禁止。2週間掛けて、調査を実施して、君の報告の裏が取れた後に、バンパイア討伐部隊を派遣。以上が冒険者連合の判断だ。」

「な、なんで。」

 キグナスは僕の肩に手を置いた。

「分かってくれ、死狂の館やバンパイアは重要案件となる。それに君の言った事が本当なら、低ランクの応援部隊を出しても返り討ちになるだけだ。調査隊だって、Aランクのメンバー選定に時間が掛かるし、この街を出るに色々と許可が必要だ。君の仲間は自力で脱出する事を願いうしかない。」

「そ、そんな。」

 僕は絶望に駆られた。今すぐにでも助けに行かないと。でも、どうすれば?

「おい、キグナス。この街を出なくても調査は出来るだろ。」

 僕達は隣でビールを飲むおっさん、いやライガを見た。

「このにいちゃんはなんて報告した。「悲しみの壁から出て来た。」って言ったんだ。そこを調べればいいだろ。もしかしたら、出口から中に入れるかもしれない。」

 キグナスはその言葉に悩むように考えていた。最終的にライガと言われているおっさんの提案を受けて、何人かで悲しみの壁まで行く事になった。

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