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第二話「迷いの森へ」③

 次の日、昨夜が遅かった為、遅めの動き出しとなった。光の翼のナス達のテントは起きた時には撤収されていた。目が覚めると、日はかなりの昇り、完全に寝坊した。けど、みんな昨夜騒ぎ過ぎて、起きた時間はどんぐり背くらべの様だった。


 僕たちは今日一日、迷いの森で調査をして、もう一日ここで泊まって帰宅する。荷物をここにおいての行動となる為、身軽な恰好で迷いの森に入る。

 昨夜のナス達の情報では迷いの森のモンスターは基本的にアンデット系が多く占めている。魔王の瘴気が残る所にはアンデット系の出現が多い。アンデット系の多くは通常の攻撃が効きにくい。その為、聖系の魔法攻撃か光系の魔法攻撃が有効。

 僕はその事を予想して、光の石を持ってきておいた。この石のマナを仲間にマナ寄せして戦えば、何とかなりそうだ。


 朝の身支度を整えていると、グロスが近寄ってくる。

「昨日はすごかったな。お前はユウすら越えるかもな。」

 僕の横で同じ様に水を飲みながら言った。

「ユウは無理だよ。既に遥か遠くにいるよ。Cランク冒険者になっている。僕はまだ王下Eランクだ。」

 グロスは僕の肩に手をおいた。

「昨夜、あのナディって人も言っていただろ。お前はすごいって。」

「あれは酒の席だろ。」

「そうかもしれないけど、お前の力はこの部隊を必ず勝利に導いてくれると信じている。俺は。」

「言い過ぎた。」

 グロスはそう言って支度をする為、戻って行った。

 僕は昨日戦った広場を眺めた。昨日の戦いが思い出された。

 


 あの夜、僕はナスの暫圧切りを受けて吹き飛ばされた。気がつくと、僕は砂利の上で横たわっていた。全く立ち上がる事が出来なかった。ナスの暫圧切りは僕の30㎝横を通り過ぎた。僕が避けたと言うより、明らかに攻撃の軌道がズレていた。手加減されたのだろう。手加減されて、この威力。正面から無防備で食らっていたらやばいダメージだった。ましてや、棒切れではなく、剣ならいったいどのくらいダメージになるのだろう。死んでいるかな?間違いなく。

 起き上がろうとしても、身体に力が入らない。圧力波の影響か体中が痺れている。痺れが止まらない。これはしくじったかな。負けても良いから、後ろに下がるべきだった。かなり重度のダメージだ。コハルのさざ波の唄でも回復しきれないだろう。

 完全に見誤った。今回の冒険はこれで離脱だ。初めての冒険で冒険前に離脱とは、苦い思い出だ。その時、僕の方へと一番に近づいてきた影があった。もう一人の冒険者である。彼女はナディと名乗った。

 彼女は回復士の資質であり、僕に手を伸ばして起き上がらせると、ハイヒールを掛けてくれた。

 一瞬にして体力と身体に残っていた痺れが回復した。そして、倒れていた僕を起き上がらせてくれた。

「君はすごいね。あのナスに一撃を入れるなんて。」

 そう言って褒めてくれた。


 その日が暮れると、僕達はナスとナディの宿営地に招待された。

「まあ、飲め、飲め。」

 ナスが既に出来上がっていて、愉快そうにビールを勧めてくる。

「僕たち、未成年なんで。」

 僕が断わると、そんな法律無視しろと言わんばかりに、全員にビールを振舞う。結局、ユウとグロスは飲み始めた。

 こいつら、普段から飲んでいるな。

 ナスとユウとグロスはすっかり3人で出来上がってしまった。僕はあの集団には入る気がせず、アイカとコハルと魔牛の肉を食べていた。すると、ナディが近寄って来た。

 アイカがナディに聞く。

「こんな量の荷物2人で運んでいるのですか?」

「私は亜空間魔法が使えるから、クローゼット1個分くらいの量なら亜空間に入れておけるの。あなたたちも、早めに亜空間魔法が使える仲間を引き入れた方が良いわよ。でもね、亜空間魔法も万能ではないから。肉だって徐々に鮮度を失うし、出し入れにはかなりのマナを使う。重さを感じない事だけが長所かな。」

「そうか、誰かスカウトするかな。」

 アイカはそう言いながら、考えを巡らせている様だった。アイカを後目にナディは僕の方を見た。

「君はすごいね。あの動き、ナスの技を見切る力は凄まじかった。本当にEランク?」

 僕は少し頭をかきながら、正直に答えた。

「実は不正をしました。」

 ナディとアイカがその言葉に反応した。

「不正?」二人は同時に反応した。

 僕は隣にいるコハルの顔を見てから、ゆっくりと種明かしをした。

 僕のスキル「マナ寄せ」とはマナを別の物に移動させる。光の石が持つマナの力をユウの大剣に寄せる事で、ユウの大剣は一時的に光の大剣としての効果を付ける事が出来る。これが基本的使い方である。

 昨日の僕は特技である「開眼」にコハルのスキル「水滴」のサーチ力をマナ寄せしたのである。その為、相手のマナの動きが手に取る様に分かった。試合中コハルには水滴のスキルを絶えず使ってもらった。だからナスとあんな戦いが出来た。そうでなければ、瞬殺されていただろう。

 アイカが関心して言ってきた。

「いつから出来たんだ。」

「何を?」

「コハルの水滴で相手のマナの力を読める様になったのは?」

「何時って、さっき、なんか出来そうな気がして、コハルにお願いした。」

 アイカがその事を聞いて、呆れた様な顔をした。

「気がした?お前のその感覚、時に恐ろしく感じるな。」

 その話を聞いていたナディは焼かれていた魔牛の串焼きの焼き具合を見に行ってしまった。

 アイカは呆れぎみに僕の方をみた。

「結構冒険家だな。ナギトは。」

「ま反則と言えば、反則になる。仲間のスキルを使っていいというルールは無かった。」

「使うなというルールも無いわよね。」

 

 ナディは魔牛の串焼きを全て手に持って来た。ゆっくりとアイカとコハルに一本づつ渡した。僕にくれるかと思うと、背を向けてユウ達の方へ歩いて行った。

 ナディはユウに魔牛の串焼きを2本手渡した。

「はい、君の分、君の戦い方は素晴らしかった。作戦勝ちだね。でも防御は苦手かな?攻撃力はかなりのものを持っていると思うよ。でもね、予想外の一撃を食らったら終わるわよ。いつもこっち主導で戦えるわけではないから、課題も多いかな。」

 そう言い終えると、今度はグロスに串を1本渡した。

「君はまだまだね。スキルを使うタイミングと使い方が自分の能力に合っていない。もう少しやり方を変えればナスの棒切れくらいは折れたと思うよ。」

 そう言い終えると、もう一度、僕の方に向きを変えて近づいてきた。手に持っている残り全ての串焼き、4本を手渡してくれた。

「これが君の評価、良い?冒険は学院時代の試合試験の戦いではないわ。小さな油断で死ぬこともある。反則と思われても、勝つためにやれることはやる。それでいいと思うよ。」

 と言って、ナディは皆に聞こえるような大きな声を出した。

「私達も本当の事を言うわ。戦いを挑んだ理由は2つ。1つあなたたちの実力を見る事、もう1つは、実力がなければ怪我をさせて、聖京都に追い返す為よ。」

 僕は「なんで」と聞き返してしまった。

「私達の今回の任務は迷いの森のレベル調査。私達の見解ではこの森はDからCランク。決して危険な森ではない。でもね。何か嫌な胸騒ぎするの。何が理由かは分からない。時々、私でも背筋が凍るような瘴気がどこから流れているように感じる。ただ単に魔王の瘴気が残っているだけかもしれないけど。だから、あまりに弱いようなら追い返そうと思ったの。だから私は名乗らなかった。回復士である事を伏せておいたわ。でも、あなたたちは私達の上を行った。特にあなたね。」


 昨夜、ナディが僕を指さして「特にあなた」と言ってくれた事が今でも脳裏に残っている。

 ユウより褒められるのは初めてな気がする。ユウは飲んでいたから、覚えているか分からないが、覚えていたら嫉妬するだろうな。今日は顔を合わせにくい。出発までは会わせない様にしよう。

 ナスとナディは今日の午前中まで迷いの森を調査して、午後には聖京都に戻ると言っていた。もう会う事もないかもしれない。


 迷いの森は入って例の結界地点まで行った。冒険者連合で言われた通りに歩く、すると、一気に周りが暗くなった。

 森の中心部と言われるエリアに入った。ここからは気を付けて歩く必要がある。出口は今入ったところしかない。

 コハルが少し前に歩き出し、スポイトを取り出した。

 「水滴」

 そう唱えると、スポイトから水の様な液体が落ちる。その液体はコハルのくるぶし辺りで水に落ちた様に波紋が広がる。波紋はゆっくりと広がっていく。コハルを中心にきれいな円が広がる。

 これを繰り返して、周囲を探知していくのが、コハルの水滴の能力である。昨日の戦いのときはもっと簡易的に使ってもらったから、何度も使えたらしいが、実際には本気の水滴は1回使うと15分くらいは休まないと使えない。マナの使用量というより、周りの状況が頭の中に入ってきてそれを整理するのに時間が掛かるらしい。

 その為、その後、地図に落とし込む作業を含めると、1回1時間くらい掛けて進んでいくことになる。

 ゆっくり進めば、敵もやってくる。


 予想通り前方にゴーストの集団がやって来た。

 ほとんど無防備なコハルをグロスが守り、ユウとアイカが敵を倒すのが、この七本槍の道化衆のスタイル、僕も攻撃に参加する。アイカが火炎球を飛ばす、ゴーストに当たり相手が一瞬砕ける様に辺りに飛び散るが、次第に戻っていく。

 ユウも疾風切りで刃を飛ばすが、火炎球と同じで倒せない。

「ナギト光のマナを頼む。」

 僕は光の石を取り出し、マナ寄せをユウの大剣とアイカのロッドに寄せ付けた。

 アイカが火炎球をユウが疾風切りをゴーストに飛ばすと、今度は、火炎球と疾風切りが当たったと同時に、ゴーストは消滅した。

「ナギト、サンキュ、後は見ていていいぞ。」

 ユウはそう言って、数歩前に出て、ゴーストなぎ倒していった。


 6時間掛けて、コハルは地図を作っていき、5キロメートル四方の地図を完成させた。

 僕達5人は出来上がった地図を眺めた。

「これ何?」

 全員が同じ意見だった。

 入り口から1キロ歩いた地点に地図の空白があった。疑問に感じて5人はその地点に行ってみた。

 何もない森、しかし、歩いていくと、その地点を通り越している。

「何か封印がかかっているわね。」

 アイカは空白の方向に火炎球を飛ばしたが、そのまま奥へ飛んでいくだけだった。

「コハル、もう1回水滴を使える?」

 僕はコハルの水滴に合わせて、マナ寄せ開眼を使ってみる事にした。

「水滴」

「マナ寄せ、開眼」

 左側にある大きな木がマナで出来ている。見た目は普通の木なのに。

 ユウが木を切ろうと鎌鼬を使うが、技が吸い込まれて行く様に、何をおこらない。

「ねえ、ナギト、ユウに光のマナを寄せて、ユウ、光のマナで鎌鼬を使ってみたら。」

 アイカの助言を素直に聞いて、僕はユウにもう一度マナ寄せを使った。ユウが鎌鼬を使うと、大きな木はうめき声の様な音をかきあげて消えて行った。


 そして、そこに空間が現れた。

 空間は小さな庭になっていた。その庭の真ん中に古い館が建っていた。

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