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七本槍の道化衆  作者: 熊野文助


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第十三話 封印と幕開け③

 世界は広い。

 昔、八本首のドラゴンの話を聞いた事がある。体がひとつなのに首が8本生えていると言うものだった。蛇が洞穴から顔を出す様に、ドラゴンの身体から8つ首が出ており、その一つ一つがこちらを食べようと襲って来る。

 小さい頃、セタ村の農村側に村長と呼ばれているお爺さんがいた。その人は若い頃冒険者で、世界を周り数々のモンスターを倒したと昔話の様に冒険譚を話してくれた。今思うと、セタ村の長は街側の役所にいるから、その人が村長のはずがない。あの人が何者かは今となっては分からない。しかし、子供の頃は純粋に村長として尊敬しており、嘘か本当か分からない冒険譚を夢中になって聞いていた。

 まだ小さい頃からサマールに連れられて、僕とコハルは村長の家へ話を聞きに行っていた。中でも好きだったのが、八本首のドラゴンの話だった。

 村長達冒険者部隊は4人で首を2個ずつ受け持ち、2首を絡めて動けなくした。そして、トドメにファイアースターソードと言う剣の特殊剣技、「星降火粉」でドラゴンの身体もろとも砕き焼き尽くした。という話しだった。

 冒険者学院に入って知った事は、八本首のドラゴンは今だに確認してされていないと言うことだった。(もちろんファイアースターソードも)。双首竜ですら確認されていない。冷静に考えると頭が2以上あってどうやって思考を体に伝えるんだ?騙されてた。いや、おとぎ話だったんだ。


 魔王バンパイアロードは復活を遂げた。しかし、復活の儀式が不十分の為、玉座の上で動けない状態だ。今ここで、「崩壊の一撃」を魔王の核に叩き込み、再び封印するしかない。動けないと言って攻撃をして来ない訳ではない。四方八方に瘴気を飛ばしている。ただの瘴気ではない、殺傷の能力を持つ単純攻撃魔法と言った方が分かりやすいと思う。

 その瘴気が竜の顔の様な表層をして、魔王の回りを渦巻きながら飛び、徐々に小さくなって消えていく。まるで20本近くの首を持つ巨大なドラゴンの様に見える。

 この巨大なドラゴンをかい潜って魔王のコアにどうやって到達するのか。ライガ達の作戦は実に単純。ただの強行突破だ。ライガとマーロンで前方から飛んでくる瘴気を斬り、カールが後方及び上空を守る。そして、前方の2人が出来るだけ近づき道を作る。玉座手前2メールを切ったら、合図でカールが僕を投網で前方に飛ばすから核を突け。という実に単純明快で分かり易い作戦……。最後は掛け以外の何ものでもないと思う。

 結局投網、あんたら投網以外に考える事ないのかと思えるけど、それを超えるアイデアが無いのも確かである。やるしかないのか。

 


 玉座直下の壇下に着いた時、魔王が僕達を敵と認識した。瘴気の向きが明らかに変わり、僕達目がけて飛んで来た。いよいよ、20体のドラゴンの首との戦いだ。いや、その倍以上が一気に襲いかかってきた。

「百段突撃」

「聖撃昇」「聖閃光」

 ライガとマーロンが次々に攻撃を仕掛けて瘴気のドラゴンを消して、一歩一歩、壇を上がって行く。僕達が壇上まで上がるのが先か、ライガかマーロンのマナが尽きるの方が先かの戦いに突入した。瘴気の量が半端なく渦巻いているので、スキルを使い続けないと対応出来ない。

 壇中央まで来た時、瘴気の量が一段と増した。マーロン側が押され始めた。ライガは百段突撃の1スキルで事を得ているが、マーロンは縦の攻撃の聖撃昇と横攻撃の聖閃光を交互に撃たないと倒しきれない。マーロンが弱いのではなく、敵が厄介だ。瘴気の塊だから、普通に斬っても2つに分裂するだけ。木端微塵に切り裂く必要がある。

 マーロン側からは瘴気の塊が時より突き抜けて飛んでくるからこっちは躱しながら進んでいくしかなかった。

「ぐわ!しまった。」

 僕の後ろから奇声が聞こえた。カールの声だけ。瘴気を躱しきれなかったか?

 僕がカールの方を見ようとすると、ライガが吠えた。

「ナギト、前方に集中しろ!前だけを見ろ。」

 僕の行動を先読みしたかの忠告だった。その後でカールの声が響いた。

「後は頼むよ。お前達を壇上まで飛ばす。俺はここまでだ。」

「任せろ。」

 カールが投網で僕たちを投げ飛ばす気だ。それはいいけど、瘴気の塊はどうするんだ。

「万段突撃」

 その言葉と同時に僕たちは斜め上空に投げ出された。前方がライガの槍で見えなくなる程の突きが全面に綺麗に咲いた。

 多段突撃は無限界スキルと言われる類に属する。通常、スキルの威力はマナの力と肉体(精神力?)の力によって決まる。無限界スキルはそれに加えて、ある条件が揃うとスキルの威力自体を上げて行くことの出来るスキルである。

 「万段突撃」って最早何でもありでしょと言いたくなるような名称。百の百倍だけあって、目前の瘴気が水蒸気の様に消滅して消えていく。そのまま前方の瘴気は無くなり、投網で投げ飛ばされた僕達は無事に壇上に辿り着いた。魔王まであと5メートル。

 壇上で迫り来る瘴気は次元が違う。万段突撃でもほとんど進めない。スキルを使ってやっと一歩進める程度だ。ジリジリと魔王との距離を詰める。しかし、ライガ、マーロンのマナが尽きないかが心配になる程、先程からスキルの応酬となっている。2人には息をつく暇が無いほどだ。

「ナギト、あと2歩、2歩進んだ時にお前を前方に投げる。一気にけりを付けろ。」

「分かりました。」

 マーロンが僕の腕を取った。

「二万段突撃!」

 更に上限突破、2万まで来た。

 ライガは万段突撃を2連続で突き出した。その威力に魔王までに微かな道が出来た。

 今だ。

 マーロンは僕の手を思いっきり引っ張って前方へ投げ飛ばした。しかし、瘴気と言うか魔王のオーラと言うのか。魔王から出てくる風圧で僕達は壇上の先まで戻されてしまった。

「まずいな。カールの投網が無いと最後の一歩が踏み出せない。」

 僕は檀下のカールに目を向けた。どうやら、手負ではあるが、無事の様だ。

「ライガ、諦めるぞ。」

 マーロンがライガに撤退を促した。

「だめだ、俺の体力も残ってない。撤退して再び戻ることは出来ない。」

「死ぬぞ、ここで死ねば犬死にだ、魔王もこのままで直ぐに復活とは限らない。ここは一度聖京都に戻って体制を整える。」

「後少しだ。」

「バカか!あの風圧をどうやって抜ける!何度やろうと押し流されて終わりだ。」

 2人の言い争いにあることが思いついた。

「ライガさん、マーロンさん、もう一度だけ、さっきのところまで連れて行ってもらえませんか?試してみたい事があります。」

「乗った!」

 僕の一言にライガはすぐに答えた。

「お前達はバカを通り越したバカだな。…………。分かった付き合ってやる。ライガ、あと何回二万段突撃が使える?」

「あと3回だ。多分。」

 ライガは目の前に迫る瘴気を百段突撃で防ぎながら言った。この場にいるだけで、常に瘴気を倒しているから、マナは常に摩耗している。マーロンの言うように、一旦引くのが正論。僕もここまで来て諦められない。風圧で、押し流されたので、魔王までの距離は再び5メートルの位置に戻された。

「ナギト、ライガが二万段突撃を2回使って、さっきの位置まで進む。3回目に俺も全てのマナを放出するから、お前は真っ直ぐ進め!最後のチャンスだ。」


 ライガが二万段突撃を繰り返しひねり出す。その場でいるのと、前に進むのは大違い至難の業だ。魔王から繰り広げられる瘴気攻撃の重圧が増している様に見える。完全復活が近いのかもしれない。本当にこれが最後のチャンスになりそうだ。

 2回目の二万段突撃を繰り出し、進んだ距離は2メートル。本来ならもう数歩進みたい。しかし、ライガのマナが限界。ここで行くしかない。

「ラストチャンスだ」

 マーロンが吠えた。全身にマナを寄せた。その時、マーロンのマナの流れが変わった。

「ひらめいたー!」

 再びマーロンが叫んだ。

「万位十字格子閃」

「聖撃昇」「聖閃光」を合わせて細かくした様な上下左右の十字の斬撃が魔王向かって飛び交う。でも、何でもかんでも万つければ良い雰囲気ないか?と思ってしまう。スキルが、頭に閃くけど、スキル名って実は自分でつけられる?ふと疑問に思ってしまう。明らかに対抗してない?

 ライガとマーロンの攻撃で、魔王との空間に不思議な静寂が流れた。

「行ける。」

 僕は魔王に向かって駆け足で距離を詰めた。

 あと、2メートル。1メートル。

 ここからなら剣が魔王の核に届く。僕は剣に力を入れた、その時、魔王の風圧が復活した。吹き飛ばされそうになる。ここまでか……。

 いや、これを待っていた。

「マナ回転返し」

 僕は剣を魔王の風圧を裂くようにゆっくりと心臓目がけて弧を描いた。マナ回転返しは相手の力を利用する。この風圧を逆手に取れば、前に進める。しかし、思った以上に魔王の風圧は強力だ。その場に停止するだけで精一杯。

「当たれ!」

 ほんの数ミリだけで良い、核を破壊するんじゃない。核に剣を重ねるんだ。

 剣が描く弧の先には魔王の核が!風圧は身体を押し流そうする。少しでも距離を詰める為、剣を右手で持ち、更に柄頭側を持ち少しでも長さを出す。

「行け!」

 僕は全身全霊を剣先に集中させた。剣は魔王の透明な身体をすり抜け、ついに剣先は核と接触した。

 魔王の悲鳴が聞こえた、そんな気がした。



 

 「分水嶺」と言う言葉がある。

 山の頂点に落ちた水が南北、東西に分かれる境界線の例えである。落ちた方向が数センチ違うだけで行き着く先は全く逆方向になる。

 実際、頂上に落ちた水は地下に染み込み、やがてどちらかの水脈として流れ出る。その為、頂上イコール分水嶺とは限らないと思うが、あくまで例えである。物事には必ず境界線と言う物が存在する。

 普段見えない様に思えるが、必ずどこかに存在する。生と死の境界、勝者と敗者の境界、そして、勝者の中にも凱旋と離去。

 僕の回りは今、風の分水嶺が起こっている様だった。魔王に「崩壊の一撃」に食らわした。その瞬間、核が爆発するかの様に爆風が中央から玉座のある壇上全体に巻き起こった。ライガ、マーロンはその爆風に飛ばされて壇下へ落ちていった。

 しかし、僕の回り?僕だけがその爆風とは逆方向に引っ張られる様にその場で立ち尽くしていた。何が起きているのか、暫く理解が出来なかった。マナ寄せ開眼、開眼も使えない、いや、目が見えているのかもわからない。だけど、壇上て起こっていることが手に取る様に理解できた。

 そして、ぼくの目の前にいる、魔王に起こっている事も。

 マナ崩壊を起こした魔王の核には破れ目が生まれ、そこから闇のマナが流れ出ようとする。するとその闇のマナに崩壊の亀裂が入り、それを繰り返して次第に石化していく。

 この石化は徐々に世界を飲み込んでいく。僕を飲み込み。魔王城の空間を飲み込み。この謁見間を中心に全てを石化して、この力が尽きて止まる。

 エイディの時と同じように。

 このままではだめだ。剣から手を離さないと石化する。頭で分かっているのに身体が離れない。記憶が曖昧になる。記憶と現実、幻想と夢が交差するような……。世界が歪み始めた。ここは……?

 


 広い草原を一人歩いていた。前にも同じ所を歩いた記憶がある。

 ここは?

 十メートル程先に女性が僕を背を向けて立っている。見覚えのある立ち姿だった。

「コハル?コハルか?」

 僕はその女性に向かって叫んだ。僕の声に気付きその女性はこちらを向いた。コハルだった。涙が出そうになった。

「コハル、お前の仇を討った。」

 コハルは僕を見て少し笑った。いつもの笑顔だった。何年も見ているコハルの素直な笑顔がそこにあった。

「返して。」

 コハルが僕に何かを語った。

「返して。」

「コハル、何を返すんだ?僕は何か借りていたか?」

「……返して。」

「コハル分からない。はっきり話してくれ。」

 僕がコハルに近づこうとすると、コハルの姿がストナと重なった。

「ストナ?」

「ナギト、返せ!」

「だから、何を返すんだ!」

 今度はストナとライガの姿が重なる。

「ナギト、マナを返せ!」

「マナ?」

 そうだ。マナだ。

 


 僕は現実世界に引き戻された。魔王の前に剣を核に当てた状態で止まっている自分がいる。

 マナの剣はもう半分近くが石化していた。手は離れない。身体全体が動かない。僕は最後の気力を振り絞った。

「マナ返し」

 闇のマナと僕の手が反発した。一瞬、手が剣から離れた。その瞬間、魔王の爆風が僕を襲った。一気に天井近くまで吹き飛ばされた。しかし、身体は相変わらず動けない。受け身も取れない。そのまま、頭から落下した。

 ドン!

 衝撃と共に誰かに抱き抱えられた様な感触があった。

「ナギト、良くやった。帰るぞ。」ライガの声だった。

 誰かが僕の手を握った。

「大丈夫、石化はしていない。」ストナの声だ。

 何人かに頭をど突かれた感覚があった。

「よくやった。」マルマルだ。

「ありがとう。」カールも無事の様だ。

「聖騎隊に来い、隊長にしてやる。」マーロンだ。遠慮します。

 その後、意識が闇の中へ消えていった。



 微かに花の匂いがする。

 重い瞼を開けると、そこは草原だった。見覚えのある世界。愛宕山麓の死狂の館のあった場所だった。

「ナギト良かった。」

 ストナが抱きついてきた。

「ちょっと、ストナ何があったの?」

 今の状況を飲み込めていない自分がいた。すると、後ろから頭を思いっきり握られた。ライガだった。

「終わったぞ。見てみろ。魔王城も完全に石化した。」

 魔王城の城門のあった場所が巨大岩になっていた。それどころか、愛宕山自体が更に大きな岩化しているようだった。

「帰るぞ、歩けるな。」

 僕は立ち上がった。体調は軽くて痛みも無い。ストナが聖回復を使ってくれたのだろう。僕はストナの方を向いて言った。

「大丈夫、帰ろう。」

 大空は晴天、夕方の涼しい風がなびいていた。

 僕は天を見上げた。

「終わったよ。終わったんだー。」

 誰に言ったのか分からないけど、大声を出していた。

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