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七本槍の道化衆  作者: 熊野文助


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第十三話 封印と幕開け②

 魔王バンパイアロードがこの世界に現れたのはいつか?その起源は帝国史にも残っていない。帝国史上、正式に魔王バンパイアロードという言葉が使われたのはサーバン記から、すなわち魔王大戦からである。しかし、500年以上前から各種文献には魔王という言葉は存在していた。

 帝国師団書、帝国師団の冒険手記をまとめた書巻。信憑性はほぼゼロとも言われている。その理由としては中には旅の途中で亡くなった人の手記も含まれ、ドラゴンや巨人を倒したが致命傷を受けた類の遺書に近い文章がそのまま掲載された事。その内容もさることながら、研究者によると、編集された時期で内容が全く異なる事である。冒険手記と言うより冒険活劇に近いと言われている。帝国文書と言うより、民間伝承、大衆娯楽の類を集めた書巻という見方が強い。

 この様に、批判的な意見が多いものの、記録された内容には当時の生活状況や戦争の歴史などを垣間見る事が出来る。そういう意味で歴史書に分類される。

 古い手記にも登場する冒険の理由が魔王退治、魔王の居城(今の聖京都地方全体を指す)調査など魔王関連の物。その多さは他を凌駕する。また、手記の中には現在の聖京都の地形が正しく描かれており、全くの創作と言えない部分もある。


 ちなみに余談になるが、帝国師団書にはマナの剣士が登場する。(ライガ談)

 マナの剣士ではなく、「全てを持つ剣使いと術使い」という名称で書かれている。リトダはこれをマナの戦士として位置づけて調査していたらしい。



 話が少し逸れたが、今、その伝説の魔王が目の前で復活した。いや本当に復活したのか?僕達は良く分からない状況を眺めていた。

 天井で回っている4杯のグラスは既に90度以上傾き、中身は全て玉座に注がれ切っている。要するにグラスは空。そして玉座には魔王が鎮座している。既に魔王との戦いになってもおかしくないのに、ただ何もないかの様に動く気配がない。その身体はまだ透明で色黒く輝いてる。黒色透明な銅像と言ったほうが表現的には合っている。

 眺めていたライガが動き出した。

「チャンスかもな。とりあえず、光と聖のマナ寄せを頼む。」

 ライガはそう言いながら、槍を僕の方へ差し出した。チャンス?僕はその言葉に耳を疑って聞き返してしまった。

「チャンスってどういう意味ですか?」

 ライガは僕とストナを見て、逆に質問してきた。

「なぜ魔王は復活しない。なぜ動かないんだ。」

 僕とストナは首を傾げた。

「俺の予想、いや、この現状から推測に至る事実は一つだ。復活の儀が不十分だったんだ。」

「不十分?既に儀式は完成したのに?」

 僕はライガの言っている事が分からず、言い返した。

「本来マナ獣からマナを抽出するのに、訳の分からない、ゴーストにマナを付けての代用。もっと言えば、最強の肉体として、火炎ドラゴンを用意した。しかし、肉体最強は暗黒竜だろ。」

「暗黒竜って、魔王よりもずっと昔のおとぎ話でしょ。そんな伝説を探しても時間の無駄よ。」

「そう、まさにお嬢ちゃんの言う通りなんだ。」

 僕達は顔を見合わせた。全く的を得ないライガの質問に頭の中で「?」が飛び回っている。

「時間だよ。バーブル、いや師匠は魔王復活の儀式を早めないといけない緊急事態が起こったんだ。だから、急遽、寄り合わせの儀式を行った。」

「緊急事態?」

 ライガが僕を直視した。ストナも僕の方を見る。

「そうか、ナギトか。あなたがバーブルの前に現れた。だから、そうか。」

「2人で納得しないでください。」

「お前、いや七本槍の道化衆が死狂の館に足を踏み入れた事が全ての始まりだったんだ。」


 推測の域を出ないが、ライガの考えを話してくれた。

 七本槍の道化衆が死狂の館に入った事で、バーブルと師匠(リトダ)に緊急事態が発生した。

 たまたま迷い込んだ冒険者部隊にマナの剣士が紛れていた。どうして、僕がマナの剣士と分かったのか不明。雰囲気かスキルか何かを感じ取ったからなのかはライガでも読めていない。ただ、バーブルとリトダにとってまたとない機会が訪れた。言われてみれば、あの時、2回目に死狂の館に行った時、バーブルは僕の血を舐め、「懐かしい」と言う言葉を発した。あの時、気にしていなかつたが、バーブルと血が繋がっていると言う意味だったのだろうか。

 絶好の機会を手に入れたバーブル達はうまく立ち回り、僕達をいや、僕を誘導した。

 僕とライガを脅して、光の坑道に足を運ばせて、最も暗い闇の瘴気を手に入れた。あの時、試験管の様な物に瘴気を入れたのはまだこのグラス装置が出来てなかったのか、光の鉱山は範囲外だったのか。

 ただ、光の鉱山の一件からバーブル達の動きは加速する。わざわざ、アタゴ山麓に死狂の館を出現させ、バンパイアの存在を強調させた。そして、大軍を向けさせて、戦士の血を集めた。

 本来、ドラゴンの肉体は光る坑道でゴン太を殺させて、手に入れる予定だったが、ゴン太が死ななかった。だから、魔王城にゴン太ママを用意した。結局、ゴン太を連れてきてしまった為、ゴン太とゴン太ママの両方を倒すことになったけど。

 最後のピース、エイディの血を色濃く残す者の魂として、僕をここまで連れてきた。

 ライガの予想は僕の魂は最後にした。理由は、「エイディの血を色濃く残す者の選定が難しいのでは?」と言うとのだ。エイディの血を色濃くとはエイディの一族と言うよりはマナの戦士の資質を受け継ぐ者。僕の一族だったら、去年死んだ親戚のおじさんだって良かったはずだ。

 

 結局、巧妙な罠に僕もライガもハマってしまった。

 しかし、バーブル達もこの絶好の機会を我が物に出来た訳ではなかった。マナ獣の代わりにゴーストの塊を代用として作り上げ。暗黒竜の代わりに火炎竜を用意することとなった。最終的には僕の代わりにバーブルが生贄となった。

 バーブルが生贄になる事も、リトダの中では想定内だろうが、バーブルの血をエイディは受けている。しかし、エイディの血を色濃く残した者としては、バーブルの魂はやはり次点、資質も違う。いや、戦士系だから、マナの戦士だった可能性はあるけど。

 結局、復活の儀式は半分以上が代用品となった。その代用儀式で魔王は復活したが、完全復活とまでは言えない状況。ここまでがライガの推理だ。

 色々と理屈を捏ねたが、要約すると、魔王を倒すなら今しかない。

 と言う事だ。

 


 魔王バンパイアロードは黒色の透明体となっている。身体も動いていない。ただ、気をつけなければいけいないは瘴気だ。魔王の周りを舞う瘴気が毒々しい。この瘴気をまともに喰らえば死ぬ。マナ寄せ開眼で見なくても、感じ取れた。

「ナギト、俺達に光と聖のマナ寄せを頼む。お前を守って、玉座まで行く。最後の止めは任せた。あと、お嬢ちゃんとマルマルはここで見てな。」

「何で。私も戦えるわよ。」

「ダメだ。お前のマナとそのドワーフのスキルは最後まで残しておけ。お前達が死ぬと、再トライが出来なくなる。」

 マーロンがストナを上から目線で諭した。いや、命令したのかな。

「でも、マーロン隊長も、聖のマナが使えるでしょ。」

 マーロンはストナのその言葉に対して、怒りとも取れる表情を見せつけて言った。

「死人は2人もいらん。弱い奴は出しゃばるな。」

 ストナもそれ以上は声を発せられなかったようだ。俯いて黙ってしまった。マーロンの口の悪さは言うほど暴君ではなさそうだ。僕達の身を案じてくれている。僕の腕とマナの剣も特に問い詰めもせずに受けいてくれた。カールにしろ、マーロンにしろ、あまり細い事を考えないのか、考えないようにしているか。応用力があるのか。謎な人達だった。

「あ!」

 突然、マルマルが大声を上げた。

「どうした?」

「ない。火の魔吸石がない。」

 ……。

 ん!全てのマナが無いと崩壊の一撃は使えない。僕は周りを見渡した。カールは水。マーロン、ストナは聖。ライガ、マルマルは抽出出来る程の属性マナはない(と思う)。

「皆さん。何か火のマナを帯びた道具は持っていませんか?」

 僕は全員の顔を見た。全員が首を横に振った。

「ストナ亜空間に何かない?」

 ストナも首を傾げる。

「無いと思う。今回の戦いに備えて予備の武器と食料系は多めに持って来たけど、火系マナの道具は基本的に持ってないから。」

 万事休すか。

 その時、カールが上を見上げ、指差して言った。

「ある。火のマナ。」

 カールが指差した方向にはゴーストが4体宙を浮いていた。

「おい、取ってこい。」マーロンが僕を見て言った。

 え?

「ナギト良かったな。行け。」ライガも勝手なことを言う。

「ちょっと待ってください。どうやってあんな所のまで行くんですか?」

「飛べ。」

 無理無理。何を言っているんだ。どう考えても数メートル、いや、十数メートル上空を泳いているゴーストまで飛べるんだよ。

 


 無理無理。絶対に無理。

「無理です。こんなことやった事がない。」

「大丈夫。受け止めるから、ナギトくんは空中でマナ寄せして落ちてくればいいだけだから。」

「それが無理です。そんな事できたら……。」

「やれ。」マーロンの静かな死刑宣告とも取れる一言で、僕は一気に上空へと投げ出された。強力な風圧が掛り僕は空中遊泳へと旅立った。カールの投網を弓のようにして、僕を上空に投げ出したのだ。弓が的を射るように直線を描いて空中に放たれているのだろう。自分を見られないのが残念な限りだ。

 天高く飛ぶ一瞬の間に人生が走馬灯の様に駆け巡ることは無かった、むしろ本当にこの方法しか無かったのか?自問自答した。結論は絶対にあった。こんな乱暴な方法を取らなくても、もっと人を物扱いしなくてもいい方法が……。

 天井近くまで投げ出された。物体は上空に上げられるとその最上点で一旦停止するという法則は間違いなく存在すると全身全霊で感じ取れた瞬間だった。

 その時、火のゴーストが目の前にいた。むしろ、そこを狙って投げられたと言うのが正しい表現だろうが……。苦痛の表情を浮かべるアイカの顔と、目が合った。合った様に感じた。いつもなら、どんな時でも笑顔を忘れない女性だった。でも、今、その面影すらない。僕はマナの剣に火のマナをマナ寄せする。そして、アイカ、ユウ、グロスにその戦いを終える事を誓った。

 誓い終えるやいなや、今度は重力が僕を引き寄せた。為されるがまま落下する。カールさんは「受け止めるから大丈夫だ。」と言う言葉を信じて身を任せていたのか?、されるがままで身を任せていたのか?色々ありすぎて考えられなく成っていたのか?分からないけど。このまま激突したら死ぬだろうなという高さからの強烈な落下したが悲鳴は上げなかった。

 結果的にはカールの投網で受け止められて身体は無傷、心はズタボロだった。

 ストナが近寄って来て、一言。

「聖騎隊の新人男性の扱いはこんなものだから、気にしないで。」

 おかしいでしょ。絶対に。

 カールやマーロン、ライガまで、既にさっきの行為が無かったかのように振る舞っている。本当にこんな扱いなの?聖騎隊に入らなくて良かったと思う、一方で既に足を踏み込んでしまったと思う自分がいた。

 


 ライガ達にマナ寄せとマナ寄せ開眼の共有サーチを使った。全員に魔王のマナの凄まじさが共有された。エイディが言っていた「魔王の(コア)は闇のマナに繋がっている。」と意味が核を注視するとその深さへと飲まれそうになるほどよく分かる。魔王の闇が迫って来る。

 エイディは確かに言った。マナの剣は別名魔封じの剣だと。魔封じのと何か。魔法を封じるのか、それとも、魔王を封じるのか。後者に掛けたい。

 マナの剣には6つのマナが取り巻いている。剣の周りを回りながら互いに相反している様だ。マナを受け付けない剣だけあって、マナ寄せをすると自然と周回を始めた。前の剣ではマナの反発しないように全集中して、剣に全てを注がないとこの形を保てなかった。その為、身動きが取れなくなった。しかし、この剣にはそれが必要ない。普段通り、全体を見渡す余裕がある。集中力も増す。

 これでこちらの準備は万全。

「行くぞ。」

 ライガの声に、マーロン、僕、カールと続いた。魔王大戦の再来とまで大袈裟な事は言わないが、魔王封印の最終作戦が始まった。

 

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