第十三話 封印と幕開け①
昔から大きな戦いには代償を伴う。魔王大戦、魔災害、これらの戦にも多くの人が犠牲となった。今回も多くの人の命が失われた。七本槍の道化衆も例外ではない、4人の人生がモンスターの犠牲となった。そして、僕自身も2本の腕を失った。
さっきからストナが聖回復で腕を癒そうとしてくれているが、治りそうにない。治る以前に一切腕が動かない。大きな代償、しかし、後悔はない。やるべき事はやり終えた。
目の前で倒れているバーブルのマナが完全に消えた。その時、声が頭に響いた。バーブルの声だ。
「あ、あ、エイディ、我が愛する子、私はもうあなたを抱けない。ごめんね。悪い母を許して……。」
……。
エイディ?
僕はその声を聞いて、緩んでいた筋肉が一気に硬直する。エイディ?マナの英雄エイディ?エイディの母親?
魔王を封印を解く、4つ目のカギ。「あの方が最も憎む者の魂。エイディの血を色濃く残す者の魂」
「嘘だろ。バンパイアって処女じゃないのかよ。なんでこいつがエイディの母親なんだ。」
僕の言いたい事をカールが代言してくれた様だ。
「バンパイア伝説は言い伝えでしかない。しかし、最悪の状況には変わりないな。」
僕達の不吉に感じている思いが実現するように、バーブルの身体から粉の様な物が上へと昇っていく。
バーブルは闇の粉となってゆっくりと消えていく、代わりに空っぽだった4つ目のグラスに何かが満ち始めた。
カールとマーロンが満ち始めたグラスに攻撃を仕掛けるが、どうやら無効にされて全く意味が無いようだ。
ライガがグラスを眺めていて、僕の方を振り向いた。
「マナ寄せは出来るか?どうやら、上空のグラスには攻撃が効かない。いっその事、あの玉座をぶっ壊したらどうかな。」
ライガはそう言って、上を見上げる。
「あのグラス4杯が周回しながら徐々に傾いてきている。傾きの方向から推測すると、玉座に注がれて、玉座に魔王が復活する仕組みだ。それなら、玉座をぶち壊せれば、この装置その物を無効化出来るかもしれん。」
「玉座は無理よ、玉座こそ石になっている。そもそも攻撃が効かないわ。」
ストナが冷静に答える。
「ナギトが最後にやったやつだよ。全部をマナ寄せを俺の槍に頼む。玉座そのものを破壊出来るかもしれん。」
僕はストナが先程から握ってくれている両腕を見た。ストナが触れている感覚すらない。
「ライガさん、無理です。腕が動かない。マナを扱う以前の問題で何も出来ません。」
ライガも僕の腕を手に置いた。
「そうか、無理か。」
その時、強烈な光が僕達を包む様に覆った。
あまりにも強い光で一瞬、視界を失った。ようやく視界を確保した時、僕達は見知らぬ空間にたたずんでいた。その空間は何もない白い空間でどこまでも続くのか分からない地平線が全方向に見えていた。
何があったのか理解出来なかった。死んだのか?ふと、そう思った。僕とストナ、マルマル、ライガの4人だけの空間だった。
「亜空間魔法か?」
ふと、ライガが呟いた。
「亜空間に人間を入れる事が出来るんですか?」
「出来なくはない。理論上、ある条件を満たした者を一時的に亜空間へ飛ばす事は可能と師匠が言っていた。」
「ある条件?」
「例えば、魔王の玉座を破壊しようとした者を亜空間に飛ばす事も不可能ではない。」
「これも、バーブルの仕業?」
「リトダ教授かもね。」
僕とストナはもう一度空間を見渡した。何もない世界が広がっている。どこまで続く不思議白空間に気持ちよく悪さを覚えた。
「ライガさん、どうやって出るんですか?」
ライガは首を傾げた。
「案外、儂らは既に死んでいる可能性もあるぞ。」
マルマルが怖い事を言う。
「怖い事、言わないで下さい。」
「亜空間には生物は入れない。昔からの常識だ。魔王の復活を阻止するのではなく、既に魔王が復活して、最初の一撃を受けてここにいるかもな。記憶がないだけで。そのうち、残り2名もやっくるだろ。」
……。そうなのか?
どうせ死んだのであれば、最後に腕を動かせてほしかった。
再び、目の前が光を放った。
1人の男性が立っていた。
誰?天使?本当にここは天国?
「あなた、天使?」
ストナが質問するが回答はない。いや、むしろ動いてすらいない。何も無い静かな時間が流れた。男性を見るのは初めてだった。ただ、何か温かい感じがした。マナ寄せ開眼を使っていなくても、彼のマナは綺麗な色をしているのだろう。止まっている事に、なぜか違和感を感じなかった。
時が動き出すかの様に、突然、その男性は話し出した。
「よくここまで来てくれた。私の名はエイディ。私の子孫、私の血を色濃く残す者よ。そして、その仲間達。今、目の前にいる私は残影に過ぎない。本当の私は既にこの世にいない。しかし、ここで対峙していると言う事は魔王復活の時を迎えたのだろう。今君に1つの力を授ける。」
そこまで話すとエイディの残影は再び止まってしまった。
「エイディってマナの英雄の?本当に?」
「お嬢ちゃん、ひとつだけ分かっている事がある。エイディの肖像はない。だから、目の前の男が本当にエイディなのか、エイディの真似をしているだけなのかは誰も分からない。」
本当にその通りだ。彼がエイディかどうかなんて分からない。でも、彼はエイディだと思う。断定は出来ないけど、嘘をついている様には見えない。
「彼はエイディだと思う。」
「なんで?」
「理由はないよ。そう思うだけ。」
ストナは僕の顔を覗き込んだ。
「子孫が言うなら間違いないか。」
子孫かどうかも分からないけど。でもこの間は何だろう。なぜいちいち話が止まるのか?
「どうして、彼は話を続けないだ?」
ライガが僕の疑問を推理する様に答えた。
「可能性は2つ、1つエイディがこれを作ってから時間が経っているから発動に時間が掛かっている。もう1つは何パターンか存在して必要な物を映し出しているかだな。」
「必要なもの?」
「さっきエイディが言っただろ。その仲間達って、ここに俺達がいるって100年前にどうして分かる?1人で来ている可能性だってある。今の状況を把握して必要な残影を投影しているかもな。」
「そんな事出来るんでしょうか?」
「さあ、エイディに聞いてくれ。答えてくれたらの話だがな。」
すると、またエイディが動き出した。
エイディが一瞬で僕の前に現れた。
「どうやら、君の腕はマナ崩壊をしている様だね。両腕を出して。」
エイディが言葉を発すると、全く動かなかった僕の腕が前に勝手に動いた。
「マナ回復」
その瞬間、僕の手は一瞬に元通りも動ける様になった。ストナがそれを見て、「良かった」と僕に抱きついてきた。彼女には心配をかけた様だ。エイディはまだ話を続けた。
「気をつけた方がいい。マナ崩壊はマナ回復でしか直せない。一族の中でマナ回復が使えるのは私だけ。君達が生きている時代にマナ回復を使える人がいなければ、その手は一生治らない。」
すると、エイディが一瞬、後ろに下がった様に見えた。今回は間髪入れずに話しだした。
「マナが持つ属性に火、水、土、風、光、闇、聖、邪とある。知っているかな?それぞれ相反関係にあり、通常相反する力は使えない。でも、私達一族はマナを持たない一族。マナ寄せによって通常扱えないものを強引に合わせる事が出来る。そして、その最大のリスクがマナ崩壊となる。そのマナ崩壊を利用したのが、「崩壊の一撃」と言うものだ。相手の持つマナ以外の全てのマナを相手に当てる事で、相手を破壊させる一族最強の技。」
と、ここまで話してまた止まった。
「崩壊の一撃だって、ナギトの技、なかなかやるね。」
「でも、自分の体も崩壊させるから、使えないよ。」
そう言いながら、両腕を見た。手が動く。これならマナ寄せも可能だ。良かった。一生動かないと思っていた。でも、ここから出れば魔王と戦う事になる。今度は命がない可能性だってある。
「何あれ?」
ストナが上空を眺めて言った。僕も上を見上げた。何か光ものが降りてくる様だった。
その物体はゆっくりと降りてきた。暫く何か分からなかったが、近づくにつれて物体の輪郭が浮き上がってきた。
「剣?」
上から降りてきたのは、少し小型の長剣だった。他の剣となんら変哲のない剣、あえて言うなら、剣の輝きが少し鈍っている。何だろう。金属の加減か分からないが、不思議な感じのする剣だった。その剣は僕の目の前で止まり、宙に浮いた状態で静止していた。エイディが話し出す。
「剣を取りなさい。」
僕は目の前で静止している剣を手に取った。剣は僕が持つと浮いていた力がなくなり、重量を両腕で感じ取れた。
剣を構えてみる。しっくりと手に馴染む。剣の長さ重量も悪くない。僕が剣に見入っていると、エイディが再び話しました。
「その剣は通称「マナの剣」と呼ばれるものだ。特殊な鋼材でできているから、マナを一切受け付けない。魔封じの剣とも呼ばれている。この剣にマナを入れ込む事ができるのは「マナ寄せ」のみ。言っている意味が分かるかな?」
残影に質問されるのはなんか変な気分たが、とりあえず頷いた。
「マナ寄せ以外のマナを受け付けないと言うことは、「崩壊の一撃」を使っても、反動のマナ崩壊は伝わって来ないと言うことになる。すなわち、「崩壊の一撃」を使える唯一の剣となる。」
僕達は僕の持っている剣に注目した。
「これが魔王を倒せる唯一の剣。」
ストナが首を傾げる。
「なら、どうしてエイディは死んだの?」
言われてみれば、この剣で「崩壊の一撃」を食わわせれば魔王を倒せたのではないだろうか?エイディも8人全員が無事帰還出来たのでは?
僕はエイディを見上げたが、残影は止まったままだった。
「何か裏がありそうだな。」
ライガがそう言ってマナの剣をまじまじと眺めている。
「何の鉱石かが気になるな。」
マルマルは剣に触れて確認している。
「ねえ?何でエイディは死んだの?」
「僕に聞かないでよ。」
「あなたが使うのよ。そんなに恐ろしいもの使うの?」
再び剣を見下ろした。鈍い輝きが剣先から手元まで輝く。傷1つない剣の輝きだった。この剣は一体どんな化け物なのか?それともただのガラクタか?
エイディが動いた。
「「崩壊の一撃」を魔王の心臓の核、コアに斬りつければ、全ては終わる。魔王は再び封印されるだろう。気をつけなさい。魔王の核は闇のマナに通じている。崩壊の一撃でも砕く事は出来なかった。だが、マナ崩壊から全てが石化する。」
再びエイディの残影は止まった。
「石化?」
石化って何?
「噂通り、この城は石化によって出来たって事か?おい、エイディ、なぜ?お前は死んだ。」
ライガの質問を無視する様にエイディの残影は話し出した。
「これも受け取って欲しい。」
エイディがそう言うと、僕の目の前に巻き物が現れた。僕がその巻き物を手に取ると、その巻き物はすーと消えていった。消えた?違う。心の中に入った。不思議な感覚だった。心の中に巻き物を置かれた事が感覚で分かる、しかし、読めない。
「その巻き物には、マナの剣の「技法【玉鋼】」が封印してある。それを北の地のドワーフ族の長が持っている「技法【たたら】」と合わせればマナの剣の封印が解ける。封印を解かなくて良い事を祈る。」
エイディは天井に両手を仰ぐ様にかざした。
「祝福あれ、我が子孫の末裔とその仲間達に。」
エイディが言葉を発すると、周りの風景が消え始めた。白い空間は徐々に色を失い始めた。亜空間が消える。
その時、エイディの声だけが聞こえた。
「確証はない。しかし、魔王に崩壊の一撃を与えたら、すぐに手を離しなさい。石化から守られるかもしれない。……。……。魔王城も石化する、すぐに逃げなさい。……。……。」
亜空間はなくなり、魔王城の玉座の前に僕達は立っていた。僕の手にはマナの剣、魔封じの剣を掴んでいた。




