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第二話 迷いの森へ①

 聖京都から南に歩き続ける事、6時間、ようやく迷いの森が見えて来た。

 ユウが立ち止まった。

「よし、休憩。」

 今更か?個人的にはもう2回は欲しかった。あいつらどれだけ体力があるんだ。と、思いながら、近くの岩に腰をおろした。

 その横にコハルも腰を下ろしてきた。少し疲れた様な顔をしている。頬も赤くなっている。この炎天下だから仕方ないだろう。

「コハル大丈夫か?」

 僕はコハルに水を渡した。彼女はそれを受け取り、にっこりと微笑みながら飲んだ。コハルは少し空を見上げて僕に言った。

「これでも、少しは体力付いたけど、今回の日程は足に来るよね。」

 そう言った後で膝を撫でて始めた。笑ってはいるが表情は少し辛そうだった。元々コハルの体力はこのメンバーの中で一番低い。資質に関係なく、生まれながらの体質だろう。しかし、コハルの体力どうこうではなく、流石に6時間ぶっ通し出歩くのは狂気の性だ。あの3人は化け物並みの体力だ。

「誰が化け物だって?」

 体力の限界を感じてダウンしている僕達の前に、アイカがやって来た。

「まだ、何も言ってないだろ。」

 心の内を読まれた気がして、動揺してどもった。アイカは案外勘がするどい。

「顔がそう言う顔してるわよ。2人とも!」

「え!私?」

「今日はいつもより厳しい、鬼ババアって思っているでしょ。」

「そ、そ、そんな事思ってないよ。私は。」

 コハルも完全にどもっている。図星か。

「はい。」

 アイカは僕達に何かを手渡してきた。

「何?」

「うめぼし、こういう疲れた時には良いよ。」

 受け取ろうした手が下がってしまった。

「私たちの故郷セタ村の名産よ。」

 なんでわざわざ故郷のものを持って来るんだ。と心の中で叫んでしまった。

「アイカとコハルで先週セタ村に帰ったそうだ。」

 グロスが僕達の会話に割り込んできた。アイカがうめぼしをグロスに渡そうとすると、グロスも手を横に振った。

 「セタ村に帰ったのか。それで、このタイミングでうめぼしが出て来たのか。」

 僕とグロスの態度を見て、アイカは呆れた顔をして言った。

「あんた達ねえ。少しは実家に帰りな。この前の村祭りくらい帰る口実になるでしょ。」

「おい、おい、あんなしょうもない村祭りに誰が行けるか。」

 二人の相反するやり取りが始まる。


 

 僕達の故郷セタ村は聖京都から南西に数キロ離れた農村。ビワの湖の湖岸に沿って南下すると広々とした農村地帯が広がってくる。ビワの湖から流れ出すセタ川の東西に分かれている。東側は農村と言っても、それなり栄えており、都会に近い。病院、学校だけでなく、冒険者連合の臨時支部もあり、少数派ではあるが幾人かの冒険者はあの村を根城にしている。

 しかし、僕やグロスが忌み嫌う行事があの村にはある。それが村祭りである。村の生誕を祝うめでたい祭りではあるが、生誕108年というありえない肩書から、売名行為の祭りとして疎まれている。

 そもそも、聖京都が出来て今年で100年なのに、それ以前に存在する事自体がお粗末すぎる。昔は5人で祭りを楽しんでいたが、この事を知る様になると、公然と売名行為で人を集める村に嫌悪感を感じ始めた。ましてや恥ずかしすぎてセタ村出身だという事を公に言えるわけがない。もちろん、村祭りに出るなんてもっての他である。

 


 突如、ユウが立ち上がって、空色を伺った。

「そろそろ行くぞ。」

 ユウが号令を掛けると、アイカとグロスも口論をやめ、コハルも立ち上がった。

 僕はコハルと肩を並べ歩き出した。

「ユウって、なんか変わったよな。冒険者になってあいつが一番変わった。」

「隊長はやっぱり違うのよ。私達を守らないといけないからね。」

 コハルがそう答えながら、こっちを向いた。

「ナギト、それはそうと、頑張ってよ。私応援するから。」

「何が?」

「3年目の審判よ。」


 3年目の審判とは冒険者審査の事である。

 通常冒険者は3年に1回、冒険者資格の延長を申請する義務がある。その時、冒険者審査を受けることになる。基本的には資質の確認(変化しているか)と、スキルの調査がメインとなるが、最大の難関が面接である。この時に、3年間の冒険者実務を報告する。恐ろしい事に報告内容次第では冒険者資格を失う。犯罪などの過去の犯罪履歴も調べられる。裁判ざたにならない場合でもこの面接で断罪される事もありうる。しかしながら、最も重罪とされているのが、何もしていない事である。

 冒険者資格をはく奪された者は二度と冒険者になる事は出来ない。

 最大の敵は怪我と言われている。最初の冒険で大怪我をして治療してる間に3年が経ち、冒険者資格を失ったと言う人は少なくない。実際に瀬田村にも冒険者資格をはく奪されて戻って来た人も多くいる。

 そういう人達の多くは最初の冒険に無理をしたとか。功をあせり、高ランクの依頼を受けたとか。身の丈に合わない冒険者部隊に入って冒険したとか。色々と言われている。無茶をする事が結局破滅を招くと教わってきた。しかし、ここに来て彼らの取った行動を一概に否定できない。僕だって、手柄が欲しい。多少の無茶をしても。ここで挫ける訳にはいかない。怖くないとは言わない、けど、やるしかないんだ。

 

 ユウとアイカは今年度末に審査を迎える。もちろん、無事に通過するだろう。3年でCランクなら言う事ないだろう。グロスとコハルも多分大丈夫だろう。2人とも水脈発掘の功績がある。

 僕だけが、まだ、手柄を立てていない。恐れるな、ここが始まりだ。そう自分自身に言い聞かせて、迷いの森へと進んでいった。


 休憩から小一時間程歩くと、宿営地に到着した。ユウ、アイカ、グロスがテントの準備を始めた。僕とコハルは黙って、3人の仕事を眺めていた。岩に座り込んで体力を回復させながら。

「コハル、食事の準備をするよ。」

「はい。」

 そう言うと、コハルは立ち上がり、少し、背筋を伸ばした。そして、僕く顔を近づけて言った。

「私を冒険者にさせたのはナギトだからね。責任取ってよね。」

 そう耳元でつぶやいて、アイカの方へ走って行ってしまった。

 一瞬、まだ6歳の頃、二人で遊んだ記憶が頭をよぎった。

 僕とコハルは家が隣同士の幼馴染だ。セタ村はセタ川挟んで聖京都に近い東側が中心地、西側が農村となっていると、ユウ、アイカ、グロスは中心地出身である。僕とコハルは農村側。中心地と違い何もない田舎である。何もないとは言い過ぎで、魔王大戦の傷跡が残り、砦の跡地などが所どころに放置されている。近くの農家に同年代の子供はあまりおらず、同い年だった僕とコハルはいつもその跡地で冒険者ごっこをしていた。最初は年上の人達と冒険ごっこをしていたが、最終的にはコハルと2人になった。

 ある日、コハルが僕に聞いた。

「将来何になりたい?」

 僕は冒険者になりたい。

 それをコハルに打ち明け、「一緒に冒険者になろ。」とコハルを誘った。

 それが始まりだったのかは記憶は曖昧だが、いつの間には僕とコハルの夢は冒険者となり、その道を歩み始めていた。「コハルは僕が守る。」まだ誰にも言っていないが、僕が冒険者学院に入る時、自分自身に立てた誓いだ。幼馴染として、将来の……いや、これは心に留めておこう。同じ部隊になったんだ。必ずやり遂げる。僕はこの時、再び心に誓った。

 


 今、僕たちは「迷いの森」手前の宿営地にいる。

 テイルエンドの南側にはビワの湖から流れ出す川、通称セタ川が海まで流れている。セタ川は途中流れを東側に流れるヨド川と西のセタ川へと2分割する。その流れはテイルエンドの南側の大樹海を3等分に分ける様に流れていく。

 この3等分になった森は性質、生物、樹木も異なる物となっている。一番東側の森を「迷いの森」と呼ぶ。森の中全体が魔王の瘴気で覆われ、生物というより、ゴースト・アンデット系が漂う森として有名である。

 迷いの森はその名の通り、森の中で迷う森である。単純に地図を見間違えやすいとか、似た道があって間違いやすいというレベルではない。確かに、森全体が瘴気で覆われており、昼間でも薄暗く霧に覆われている様だと言われているが、過去に迷いの森の調査中にいつの間には別の森にいたという報告が多発した。また、迷いの森で行方不明になった冒険者の遺体が別の森で発見される不可解な事件が相次いだ。

 最近の調査・研究で迷いの森の外周部と中心部には結界が張られている事が明らかになった。そして、その結界を通り抜ける方法が見つかった。

 結界はその場所から別の場所へ移動(反射)させる性質がある。無理に突き進もうとすると、その反射力は増して、全く別の場所へ移動させてしまう。その手順を正しく行う事で逆にその反射を利用して中に入る方法が発見された。(ある地点で地形を利用する方法の為、その箇所以外では入れない。)

 世紀の大発見である。

 

 僕たち、七本槍の道化衆の冒険はこの迷いの森へ挑戦する事ではない。

 残念ながら。

 今回の任務も地図の依頼だ。簡単に言うとコハルの出番。

 この宿営地から結界への入り口までと結界の中の数キロを地図に起こす仕事だった。実際に現在Bランク以上の冒険者団が中に入り調査を実施している最中である。実際に入り口数キロ内であれば危険は無いと判断された様だ。

 実際に迷いの森はここから海まで数百キロも続く巨大樹海である。中に何が潜むか誰も分からない。いきなりドラゴンなんかと遭遇すれば、僕達でも全滅だって事はあり得る。そんな危険な場所に冒険者連合が派遣するとは思えない。しかし、油断は禁物である。冒険には何があるか分からない。これは冒険者学院の受け売りだけど。


 

 アイカとコハルが食事の準備を始めた頃に、僕とユウ、グロスは狩りに出掛けた。一応最低限の食料は持参したが、何か獲る事が出来れば、それに越した事はない。

 冒険者は基本自給自足の生活だ。必要最小限の食料だけを持って移動して、それ以外は狩る、採るが基本となる。冒険の内容では数日間、飲まず食わずに過ごしたなんて話もよく聞く。

 小一時間探したが、近くに獲物がおらずに諦めた。考えてみると、この流域は魔王の瘴気でモンスターと言ってもゴーストやアンデット系が占めているから、食べられるモンスターなんているのだろうか?

 僕たちは、水浴びも兼ねて近くの小川で魚を探し、小さな鯉を一匹捕まえただけだった。

 手ぶらではないが、胸を張る程の収穫でもない。アイカに見せたが、あまり喜ぶ様子も無く、テントの中から、食料を用意し始めた。まだ辺りの日が暮れていないが、あと暫くすれば徐々に暗くなる。今日はこれ以上動かない方が良いとのユウの判断だろう。


 その時、二人の冒険者が僕たちに声を掛けて来た。

「君たちは「七本槍の道化衆」?」

 突然の事で驚いたが、相手の顔を見て更に驚きは増した。声をかけて来たのはAランク冒険者のナスだった。世界中に冒険者を送り出している最大級の冒険者旅団、「光の翼」のメンバーである。

 冒険者なら知らない人はいない。特にこのナスは結構有名である。人気もあるし、ファンも大勢いると聞く。もう一人は女性で誰かは知らないが、多分光の翼のメンバーだろう。何も警戒せずに近づいてきたナスにユウが答える。

「私達に何か用ですか?」

 ナスはユウを見て話し出した。

「君がユウか。なかなか強そうだ。どうだ、力比べをしないか。君と君と君。」

 と、ナスはユウとグロスと僕を指さした。

「君達と私が一対一で対戦をして、君達が2勝すれば、魔牛の干し肉をあげよう。どうかな。」

 ユウは一瞬考えた様に見えたが、直ぐに回答した。

「分かりました。やりましょう。でルールは?」

 今からやるの?ユウの性格から売られた喧嘩は必ず買うが、少しはこっちにも相談してほしかった。確かに魔牛の肉は魅力的である。持ってきた食料から、3日分の食料を計算すると、やっぱり本日はあの獲った鯉と非常食になるだろう。明日からの仕事は基本的に地図作りだから、そこまでハードな仕事にはならない。しかし、ここでやっぱり食べておきたい。

 ユウはそこまで考えての回答だったのかは分からない。けど、やるしかないか。どうなるの?

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