第十二話 決戦魔王城②
王下聖騎隊4番隊隊長、カール。35歳、漁師資質。スキルは「投網」や「一本釣り」。
「投網」は先程の戦いでフェアラーの「炎槍ボルケーノ」を空中で受け止めたスキル。使い勝手が良く、網の幅を変える事で様々な事に利用できるそうだ。実際に漁も出来るし、夏の森ではテントにもなる。風を入れて虫を入れない隙間にすることで市販品より快適とか?雪山でも網を何重にもすることで温暖なテントになり、風まで防ぐ様に作る事も出来、おまけに小さく作れば寝袋にもなる。と自慢していた。かなり盛っている感はあるがスキルの力は本物だと思う。
奥さんは聖京都で1番の美人であり、子供2人も自分に似て美男、美女に成長中と笑顔で話す。(本人談。ストナの証言では奥さんと子供達はあながち嘘とまでは言え無いが少々盛っているとの事。)
カール自身も特殊資質の為スキル習得に時間が掛かり、冒険者学院時代は2留年したらしい。境遇が僕と似ているせいか僕のことを気に留めて色々と話してくれた。一度話し始めると止まらなくなるタイプの人ではある。
この人と話していると、最初はストナやマルマルも一緒になって聞いたいたが、次第に周りに人が僕以外にいなくなっていくという不思議な現象が起こった。
そして、もう一人。恐帝マーロン。聖騎隊5番隊隊長。結局、この人とは一切話はしていない。話をするタイミングがない。むしろ、殺気のある目で睨め付けてくるので、話をしようとも思えない。
性格はどうあれ、七本槍の道化衆として、魔王城に乗り込んでいる。2人共、一緒にいてくれるだけで心強い。心強いを通り越してプレッシャーになるけど……、約1名は。
そして、この2人が今、ドラゴンと対峙していた。ゴン太ママと勝手に命名した巨大ドラゴン、火炎(系)ドラゴン種のメス。火炎(系)ドラゴンは一般的なドラゴン。一般的と言っても普段見ることはほとんどない。むしろゴン太が人生初めてのドラゴンだった。討伐ランクはA〜Bランク。鋭い歯や爪、尾撃に熱波、ブレス。それらを躱して厚く覆われた鱗を切り裂くにはスキルを巧みに操る技術とスキル強力さを兼ね備える必要がある。
そのドラゴンにカールとマーロンが僕達を制して戦うと言い出したのだ。
ライガもお手なみ拝見とばかりに戦闘体制を解いて見学している。
魔王城第3回廊の中央でこの戦いは始まった。僕達は少し離れた場所から二人の戦いを見守っていた。
暫く、臨戦態勢でお互いに睨み合っていたが、ドラゴンの口にマナが集まった。ブレス攻撃が来る。早い。思いもよらない早業、ブレスを撒き散らす様に2人にぶつけて来た。マナを集めてからのブレスへの流れがゴン太とは違う。これが大人のドラゴンなのか。特大のブレスがマーロンとカールを襲撃する。
「投網」
カールが投網のスキルを使って、ブレスの炎を網の中に吸収させ、相殺した。網の範囲にブレスそのものが無かった様になっている。投網恐るべし。
その隙にマーロンが投網の隙間を利用してドラゴンの足元へと移動した。ドラゴンはマーロンに気づいていない。マーロンは剣を足元から上へと振り上げた。
「聖撃昇」
マーロンがスキル「聖撃昇」を放つと光の刃が地から2本出てきて、ドラゴンを突き刺した。
「すごい。」僕が言うとストナが返す。
「何もすごくない。あの人の聖撃昇は形だけ。実際に最強と謳われた聖騎士が昔いたらしいけど、その人は聖撃昇で5本の刃を出せたって言われているわ。それにマナ負けしているからね。あの人は。」
マナ負けとは、通常マナで刃を作るタイプの攻撃は、相手を切れば刃で切られた様に身体は裂ける。しかし、相手のマナが強ければ、マナの刃で斬っても切れない。すなわち、ダメージが少ない。その事をマナ負けという。本来なら、聖撃昇の2本の光の刃で切られたのだから、ドラゴンの身体は3当分に縦分断されていてもおかしくないのに、多少痛みを感じている程度。少ししかダメージを受けていない様子だ。それにしても、ストナはマーロンにはきつい。仕方ないと言えば仕方ないが。
ドラゴンが聖撃昇でダメージを受けた瞬間を狙って、カールが動く。
「一本釣り」
カールは手から縄を投げた。その縄はドラゴンの首に巻き付いた。いや、正確には巻き付いていない、巻き付いた様に見えているだけで、1本の糸(縄)がカールの手とドラゴンの首を結び付けているのだ。
ドラゴンは首の違和感に気づいた様で、首を思い切り動かして、カールの縄を取ろうとする。しかし、カールはその縄を長くしたり短くしたりと、本当に釣りをしている様に糸を前後させて、相手の動きをコントロールしている様だった。業を煮やしてドラゴンが思いっきり引っ張った。その瞬間をカールは見逃さなかった。一瞬で糸を伸ばして、ドランゴの引きを無力にした。更に、その反動を利用してドラゴンを首ごと、手前に引き寄せた。
そこで、構えていたマーロンが閃光を放った。
「聖閃光」
先程の聖撃昇は縦攻撃に対して、この聖閃光は横攻撃。
この聖閃光は威力が違う。マナの練りが違うと言うべきか。放った瞬間、本物の刃より鋭いマナがドラゴンの首を突き抜けた。
首と胴体が離れていく。首が巨大な音を立てて床に落ちると、胴体もゆっくりと崩れ落ちていった。わずか数分で勝負は着いた。ストナが言った聖撃昇は形だけとう意味が良く分かる。聖閃光の強さから比較すると、確かに劣る。しかし、それは聖撃昇が弱いのではなく、聖閃光が別格に強いと言う事だろう。
「でも、最強の聖騎士の一角を担うなら、ドラゴンくらい1人で倒して欲しいわ。」
相変わらず、ストナの辛口なコメントは続いていた。
「あの2人、息ぴったりだ。」
「そりゃそうよ。聖騎隊で元々同部隊出身、昔からのコンビを組んで戦っていた事は有名よ。」
「最強のコンビだ。」
「コンビならね。」
そう言って、ストナはライガの方をチラッと見て、進んで行った。聖閃光のマナの力は確かに強い。しかし、ライガの撃突の一突と同等にも思えた。あの人はどれだけ強いんだろう。
ようやく、謁見の間の手前まで来た。
ここから先、本当の戦いが待つ。謁見の間は中か非常に重たいマナが外に吹き出している。そしてこのマナの感覚はバーブルに間違いない。謁見の間からはバーブル以外のマナは感じられない。小さなマナは至るところに感じる事は出来るが、マナの濁り方からバンパイアやゾンビ系のマナではない。1人で待ち構えている。しかし、彼女の強さを甘く見るなら全滅の一言しか残らない。死狂の館でライガと一緒に対峙した時、あの時、彼女が本気だったのか、遊びだったのかも分かっていない。
僕は聖と光のマナをマルマル以外の全員の武器にマナ寄せした。ライガが全員を見る。
「行くぞ、地獄へ」
僕達は謁見の間に入った。目の前の壇上の玉座にはバーブルが座っていた。
バーブルのマナはライガより遥かに上を行く。マナと言うよりは闇の力と言った方が正しいだろう。しかし、僕達の目線を釘付けにしたのは玉座の上にある不思議な物体だった。玉座を取り囲む様に4杯の盃(グラス?)が並んでいる。透明なガラスの中に黒い物が渦巻いている。そして右奥のグラスは全くの透明であった。3杯の黒い物体の入ったグラスと1杯の透明なグラスが並ぶ。
その上を変な物体が円を描くように飛んでいた。ゴーストの様なよく分からない物体?モンスターである。マナの力がストナ曰く外性4属性「火」「水」「風」「土」のマナを持ったモンスターが浮遊している。エイディが連れていたマナ獣と言うのだろうか?ここからではよく分からなかった。
「いらっしゃい。久しぶりね。待っていたわよ。ナギトくん。」
いきなりバーブルが僕の名を呼び、身構えてしまった。何を企んでいるんだ。
「ようこそ。我が主人のパーティーへ。復活の前祝いよ。」
「何が復活だ。ふざけるな。」
「私弱者には興味ないの。喋らないで。」
バーブルがマーロンに強烈な一言を放った瞬間、マーロンの怒り狂う表情とかなり嬉しそうなストナの表情が同時に見えてしまった。更に、ストナはこっちを見て笑顔を見せる。それを察して、マーロンの殺気がこっちに向く、止めてほしい。戦う前の仲間同士の場外戦は。
「教授が調べてくれたの。あの方を復活させる方法を4つの生贄が必要だと。1つは、最も暗い闇の瘴気。あなた達が光る坑道で見つけてくれたものよ。2つ目は戦士の血100人分。みんな頑張って死んでくれたから助かったわ。3つ目は龍の肉体、これもあなた達が届けてくれたから。最後は……。」
そう言って、バーブルは透明なグラスを指差した。
「あの方が最も憎む者の魂。」
そう言うと、バーブルは僕を指差した。
「エイディの血を色濃く残す者の魂。ようやく現れた。ここ10年、教授が封印の解き方を調べ上げてから。ずーとあなたを待っていたのよ。あなたの魂で、全ての素材は完成するの。」
バーブルは手を上に上げた。その時、謁見の間の扉が閉まった。
カダン。
と大きな音をたてて、上から鉄の扉が落ちてきた。魔王城の扉は全て石化されていて動かない。本物の扉ではない。マナで出来た扉だ。鉄の様に見えるが、闇のマナが凝縮された扉の様だ。どのみち、バーブルを倒さないと逃げる事も、帰る事もできない。
最後の死闘の始まりだ。いや。最後の死闘にするんだ。




