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七本槍の道化衆  作者: 熊野文助


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第九話 迷いの森調査団4

 迷いの森の中(2番目の結界の中)に邪悪で恐ろしいマナが満ち始めた。

 あの時、結界の封印を解いた際に、溢れ出てきたマナ。ゾンビ達が大勢いた為にこの結界から漏れ出た物だと思っていた。しかし、僕の考えが間違っていた事を思い知らされた。このマナだ。この目の前にいるバンパイア一体のマナが漏れ出ていたのだ。

 バーブルに引けを取らないマナ量。膨大なマナ。あのバーブルのマナを見上げた時の感覚を思い出す。死を覚悟してしまう。しかし、気持ちで負けるわけにはいかない。

 バンパイアは両手を広げて再びマナの塊を放った。水の槍が僕達の上に散らばった。

 さっきのマナより、一層暗黒に満ちたマナだ。核がマナの中に複数ある。10個以上の核が見える。全てを一気に叩かないと槍の餌食だ。

 無理だ。今の僕にはこのマナを処理する力はない。ゴン太に賭けるしかない。

「マルマル、光を。ストナ、聖を。」

 僕の声に、二人が動く、マルマルが幻吸鉱を割り、ストナ嬢は聖波動のマナを放出する。

 僕はそのマナをゴン太に寄せる。

「ゴン太、熱波。」

 熱波がバンパイアのマナとぶつかる。熱波に触れたマナの核が弾けた。やった。効果がある。そのまま全部弾けろ。熱波とマナが互いに揺れる。暫くして熱波が通り過ぎた。まだマナが浮いている。駄目だ、完全に消せなかった。

 水のマナは僕達を敵と判断した様だ。上空に浮かんだマナの槍がこっちに向かった降ってきた。

「ストナ、マルマル逃げて。」

 僕は覚悟を決めた。すると、ストナが隣にきた。

「私の方が歳上よ。」

 と僕の隣で剣を構えた。来る。「マナ寄せ開眼」で再びマナを見ると、核が震えている。爆発する!

 核が弾ける。水の槍が弾け飛ぶ。……。弾け飛ぶ。……。飛ばない。

 僕達の目の前で泡が弾ける様にマナが消えていった。熱波の効果があった。

 良かった。僕は胸を撫で下ろした。

 

 大きな衝突音が響く。ライガとバンパイアが既に戦いを始めていた。お互いに全く引かない戦いだった。バンパイアの水のマナ攻撃をライガが突撃の槍で打ち消す。また、ライガの百段突撃の槍をバンパイアはマナで相殺していた。ほぼ互角の戦いが続く。

 ゴン太の熱波で相手の隙を作ればいいのだが。そうすれば、ライガが仕留めることは可能だろう。しかし、熱波は波状攻撃、少なくとも共にいるライガにも影響はある。

 今、数メートルの距離で、しかも、とてつもないスピードでやりあっているふたりを片方だけ攻撃することはほぼ不可能だ。

 熱波も迂闊に使えない。バンパイアの隙を見定めるしかない。

 

 僕達はまずは状況を伺いながら倒れているセンリの元へ向かった。

 ストナが戦いを見ながら僕に言ってきた。

「あのバンパイア、多分リトダよ。」

「リトダって?資質研究の教授、ライガさんの師匠の?」

 ストナはうなずいた。


 死狂の館の戦いで3番隊隊長兼王下資質研究所教授として部隊を率いた冒険者。その戦いで帰らぬ人となった。彼が聖京都に残した功績は計り知れない。資質とスキルの研究においてはかなりの功績残した。そして、ライガの師匠であり、聖京都建国以来の天才と言われた男。

 

 天才。確かに、あんなスキル見たことも聞いたことすらない。スキルの中にスキルの様なトラップを仕込む。ダブルスキル攻撃。

 天才はバンパイアになっても天才か?ただ、単純な戦いにおいては、ライガはその天才の上を行く。百段撃突で相手を翻弄する。相手が知的な天才なら。ライガは単純な天才。純粋な突の攻撃ならこの世界でトップクラスでは思えるレベルだ。

 ライガの槍がバンパイア、リトダに届き始める。腕や頬を槍がかすめる。ライガが押し始めた。

 リトダのマナ攻撃が弱くなっている?いや、目では追えないけど、ライガの攻撃が強化されている。ここにきて、更に強力になっている。戦いの中で相手に合わせて強くなる。凶戦士とはこの人の事ではと思える。やっぱり強い。

 圧倒的力が小手先のマナ攻撃を凌駕し始めた。

 

 僕達は倒れているセンリの元にたどり着いた。

「センリさん!」

「副隊長!」

 僕とストナ嬢が駆け寄る。

 リトダも完全にライガだけに集中しており、他が見えていない。センリを回復させるチャンスである。

「どう?ですか?」

 ストナがセンリの胸に耳を当てる。

「大丈夫。なんとかなりそう。」

 そう言うと、ストナは「聖回復」のスキルを使った。聖のマナが上から降ってくる様に何かマナが身体に入った。傷が癒えていく。水の槍でズタボロだった身体に少しずつ生命力が浮き上がってくる様だった。その後、センリにゆっくり意識が戻り始めた。

「良かった。」

「なんとかなった。」

「ストナさんの「聖回復」は最強ですね。」

 その言葉にストナ嬢は少し顔を暗くした。もう少し、喜ぶと思ったのに予想と違った顔を見せた。

「私の「聖回復」は最強ではないよ。副隊長が回復したのは、彼が「聖」の属性持ちだから。」

「「聖」の属性?聖王家の事?」

「ちょっと違うかな。資質研究において重要要素となっている。人が持つ外性4属性と内性4属性があるのは知ってる?外性4属性「火」「水」「風」「土」、内性4属性は「光」「聖」「闇」「邪」。人は生まれた時にこの属性を各1個から2個持っているの。この属性と資質が集まり、スキルを生むと言われている。私の「聖回復」は人の中にある「聖」の属性の割合に応じて回復する事ができる回復魔法。だから「聖」の属性を持たない人は回復すら出来ない。唯一例外はあなただけよ。」

「僕?」

「属性は内属性と外属性を最低1個持って生まれてくる。だから普通「聖」属性は多くても5割、受けた傷の50%が最大回復量だと思っていたわ。でも、あなたは100%回復した。全快なんて見たことない。マナの戦士資質はマナを持たないって言う仮説は本当ね。」

「マナの戦士ってライガや、マルマルも言っていたけど。」


 ドガンっと大きな衝撃音が響いた。

 ライガが吹き飛ばされていた。形勢が不利になってきた。ライガの体力が落ちてきたのか?

 相手はバンパイア、こっちは生身の人間、長期戦は不利になる。どうする?加戦するしかない。しかし、どうやって、あの戦いの中に入っていく事は出来ない。下手に入ればこっちが殺される。

 ライガが体勢を取り戻し、再び戦いが始まった。広範囲にわたって戦いが繰り広げられている。リトダが左右、前後、上下に動く為、それに合わせてライガがリトダとの距離を詰める様に戦っている。隙を付くしかない。

「ストナさん、マルマルさん、力を貸してください。」

 そう言うと、ストナが僕の真横に立って言った。

「ストナで良いわよ。戦いで指揮するなら、敬語はやめなさい。で、どうするの?」

 マルマルも近寄ってきた。「俺も」と敬語はいらないとストナの真似をした。

 僕の考えた作戦を2人とゴン太に伝える。戦いは至って単純。僕のマナ寄せ開眼でリトダのマナの動きを読み、この付近に来るタイミングを伺う。リトダがこっちへ方向展開をする一瞬の隙に僕がリトダの到着地点に剣を構えて向かう。どこかでリトダも気がつき、こっちに攻撃を仕掛けてくる。リトダのマナ攻撃をゴン太の熱波で相殺する。それだけだ。今の僕達に出来る、唯一の戦い。

 勝てないくていい。

 倒すのではない。一瞬だけ、リトダの意識とマナ攻撃をこっちに向ける。

 そうすれば、必ず、ライガがトドメを刺してくれる。

 全体的な自信がある。今までの戦いであの人が隙を見逃すわけがない。

「面白い作戦。私も出るわよ。」

「ストナさん、危険だ。」

「ストナでしょ。戦地ではさん付けはしない。言ったでしょ。」

 そう言って、僕を軽く睨みつけた。またか……。この人睨むのが好きだな。でも、今回は少し笑顔が顔に残っていた。不謹慎だけど、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 「その作戦私も乗るわよ、攻撃力のあった方が向こうの気を引ける。それなら、私の聖流剣の方が向こうの意識を引ける可能性が高い。」

「でも、マナ攻撃を無効化出来る保証はないから。」

「だから?ここは戦場よ。保証が必要?負ける訳にはいかないんでしょ。私が回り込むから、ナギトは正面からから行きなさい。そうすれば、より向こうの意識を引けるわ。」

 僕は腹をくくり、開眼に集中する。


 リトダは移動の際にマナの力を使う。特殊な動きだ。移動位置にマナを起き、そのマナに向かって身体が引っ張られる様に動いている。まるで移動地点に磁石を起き、そこに引き連れられる鉄の様に。

 だから、弱点もある。移動する瞬間と移動後に動きが一瞬止まる。一瞬だけ。多分、ライガも気づいている。その瞬間を狙って攻撃を仕掛けている。

 通常の人は一瞬に移動したように目では捉えられない世界。ライガは僕とは異なるけど、マナを読み取れる野生の感、感覚が鋭い。だから、この戦い、リトダに引けを取っていない。

 開眼に集中する。2秒前までは分かる、攻撃を避けるには十分だが、攻め込むには時間が足りない。もっともっと集中して、マナの動く瞬間を。

 見えた!いや、見えた?かすかに歪む空間にマナが現れる。5秒。しかし、当たらない事もある。でも、やるしかない。ライガにこれ以上負担は掛けられない。

「ストナ、マルマル準備」僕は再びマナ寄せをする。後は5秒で行ける範囲に来た時が勝負!


 来た!

「右斜め前4メートル。」

 その声と同時にストナが聖流剣を使い一気に前にでる。右を大きく曲がって左から攻め込む。僕も正面へ一気に駆け寄った。

 マナが現れる。リトダが来る。次の瞬間にリトダが移動してきた。更に、ライガも来た。3方向から、リトダを追い詰めた。リトダは僕達に気がついた。どうでる。ゴン太も熱波を使った。こっちに水のマナ攻撃が来ても、熱波で弱化してやる。

 リトダは一瞬、こっちとストナの方を向いたが、次の瞬間、ライガに向きを変えた。僕達は眼中にないか。それなら、この剣でお前の核を貫いてやる。

 リトダはライガに向かって、水のマナ攻撃、「水の槍」を使う。ライガは百段突撃を使う。その隙にこっちが奴の核を破壊。

 しかし、ライガのマナがいつもと違う。

「亜空間閃破」

 聞いた事のないスキル名だった。ライガがそのスキルを使った瞬間。ライガの槍の先からマナが消えた。

 マナがリトダの身体直線で現れ、身体をすべて吹き飛した。

 完全にリトダのマナを破壊した瞬間だった。


 しかし、この攻撃、防御を放棄した攻撃だった。百段突撃なら、相手の攻撃を破壊しながら攻撃出来るが、この「亜空間閃破」は目の前に来る攻撃を無視して、標的だけを狙う技。その為、水の槍を全身で受けて、吹き飛ばされる様にライガは倒れた。

「ライガさん」

 僕は吹き飛ばされライガめがけて駆け寄った。

 僕はライガを抱き抱えた。心臓が動いてない。ライガのマナがない。やばい。

「ストナ、「聖回復」を」

 ストナが首を横に振る。

「無理なの。」

「なんで?お願いだ。ライガさんを助けてくれ。」

 僕は彼女に哀れみを乞うように視線を送った。

「言ったでしょ。「聖回復」は「聖」属性にしか効かない。私には分かる。この人は「聖」属性を持っていない。」

 なんで?誰か?ライガを助けてくれ。僕はマルマルを見た。マルマルも首を横に振る。なんで、誰かヒール系のスキルは使えないのか?

 ライガの身体が少しずつ冷たくなっていく。残ったマナがゆっくりと身体から地面へと流れていく。やめてくれ。マナを去らせないでくれ。ライガに残ってくれ。僕はマナ寄せで少しでもマナの流出を防ごうとした。

 ん?マナ寄せ?

 僕はもう一度ストナを見た。

「ストナ。「聖の波動」でマナを出来るだけ放出して。」

「え?」

「早く!」

 ストナが大量のマナを放出する。僕はそのマナを全て集める様にライガの身体にマナ寄せした。

「ストナ、今、ライガさんに聖回復を。」

 ストナがライガの身体に手を置いて「聖回復」を使った。聖のマナが上から降ってきた。ライガの傷が癒えていく。表層からの身体のただれが元の肉体に戻っていく。マナがライガの全身を覆い、身体に生命力が戻ってきた。息を吹き返す。暫くすると、意識を取り戻した。

「ライガさん!」

 僕はライガに抱きついた。

「良かった、良かった。」

 ライガの手のひらが僕の頬に当たる。その後、思いっきり手のひらが僕の頬を押し出し始めた。

「暑苦しい、乗るな。」

 感動の再会は一瞬にして幕を閉じた。

 この森(封印部)に漂っていた邪悪なマナはゆっくりと消え去っていった。ようやく戦いは終結した。


 この戦いで死傷したのは2名だった。最初にリトダの攻撃を喰らった2名は既に生き絶えており、回復は出来なかった。

 僕のマナ寄せとストナの聖回復でも負傷者の完全回復はする事ができず、部隊全体が再起するには暫く時間がかかりそうだった。

 隊長と副隊長がその2名の死者を背負い、僕達は迷いの森を後にした。

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