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七本槍の道化衆  作者: 熊野文助


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第九話 迷いの森調査団③

 迷いの森には迷信がある。「森深くにある暗闇の森で死ねと魂は永遠に迷いの森を彷徨い続ける。」消えゆく意識の中で、誰に聞いたのか覚えていない言葉が繰り返された。僕の魂は何処へ行くのか?コハル達も迷いの森で死んだことになるのだろか?彷徨い続けるという事はどういう事なのだろうか?


 僕の心は真っ白なだだっ広い原野に取り残されいた。感覚がない虚無感だけが残る世界の中に意識だけがたたずんでいる。何かをする訳でもなく、何かをしたい訳でもない。どうしてここに居るのか、それも分からずに。

 突然の出来事だった。たたずむ僕の意識の中心にマナが激流の如く流れ込んだ。一瞬にして真っ白な世界が色で着色されていく。何か声が聞こえてくる。無音の世界に小さな声?音がする。その微かな音の方向へと足が自然と動き出す。

「起きたぞ。」ライガの声が聞こえる。

「バカだのう。倒れたら矢の的になるというのに」マルマルの声もする。みんな無事の様だ。あれ?このくだり、どこかで聞いた気がする。何が無事なんだろう?弓矢?僕の意識に矢が流れ星の様に天空を流れる。そうだ。雨矢だ。雨矢の攻撃が。

 バチン。

 頬に衝撃が走る。頬を伝わって痛みが全身を駆け巡った。視野が開けた。目の前にストナ嬢がいる。その右にマルマル、左にライガ、奥には8番隊副隊長のセンリが僕を覗き込んでいた。僕もみんなの中央に右頬を右手で抑えながら座っていた。

 マルマルがストナ嬢に向かって言った。

「おい、さっき叩かれたからって、やりすぎたぞ。」

「別にいいでしょ、正気に戻ったのよ、結果オーライよ。」

 ライガが僕を顔を覗き込んで、僕の頭に手を置いて言った。

「大丈夫か?意識はあるか?」

 僕はライガに頷いて返答した。そして次第にはっきりとしてきた意識の中で記憶を手繰り寄せる。確か雨矢の攻撃を避けて、背中に矢が刺さって倒れたが、その後の記憶が曖昧だった。僕は背中を触ってみたが、矢が刺さっている様子は無かった。手にも刺さった記憶があるが、その辺りにも、痛みもなければ、傷も無かった。夢?記憶が飛んだ?そう思って周囲を見回す。僕達のいる周辺には地面に大量の矢が刺さっている。遠方で聖騎隊の集団が仲間を治癒している。雨矢の記憶は本物だ。でも、僕の身体には傷が全く無かった。ストナ嬢が再び僕を覗きこむような視線で見つめて言った。

「本当にあなたは何者なの?」

「僕って矢に刺さりませんでしか?」

「治ったわよ。私が治してあげたわ。「聖回復」のスキルで。」

「聖回復?」聞いたことのないスキル名だった。矢を受けた記憶が間違いでなければ、傷を癒やす力が桁違いなはず、それなのに僕自身知らないのは一般的ではないからか。聖騎士専用スキルなのだろうが、ここまで癒し力があれば有名でもおかしくないのに、不思議なスキルだった。

 座っている僕をライガが手を差し伸べ、立たせてくれた。

「まだ、終わってないぞ。」と、言って、ライガは森の奥の方にいるゾンビ軍団を指差した。ゾンビ軍団は何やら動いている。その動きが徐々に小さくなる、すると、ゾンビ達は上に向けて弓を構えた。矢が放たれる。また、雨矢が来る。

 マルマルがストナ嬢に注文した。

「お嬢さん、亜空間魔法使えるなら、矢を全て亜空間に移動できんのか?」

「無理よ。やったことないわよ。」

「くるぞ、構えろ。矢から目を離すな。」

 矢が飛んで来るのが肉眼で見える。いや、矢と言うより、黒い空を覆う波だ。僕は剣を構えた。飛ぶ交う矢一本一本にはマナは入っていない。マナのない武器ではマナ寄せ開眼をしても飛んでくる矢の方向は分からない。開眼だけで矢を打ち払わなければならい。出来るだろうか。もはや、やるしかない。

 矢に集中していると、突然、僕達の足元からいきなりゴン太が飛び出した。マナを全身に集めると、そのマナを放出するかの様に「熱波」を使った。物凄い風圧が矢の波とぶつかる。

 轟音がこだましたかと思うと、矢が一気に勢いを失い、一本、また一本と落下し始め、最終的には僕達のところまで届く前に全て墜落していった。それを見てゴン太は嬉しそう跳ねている。

「すごい。」

 矢の雨と戦う事を覚悟していた全員から安堵と驚嘆の声が漏れた。

 

 待てよ。ふと僕の脳裏に機略が巡る。ゴン太に光と聖のマナを寄せて、熱波を発射するとどうなるか?弓使いゾンビの集団に正直ライガも手を焼いている。突撃すれば、通常攻撃の矢餌食となる可能性がある。このまま居ても、雨矢に苦しむ。

 11番隊は矢の名手が揃っている。その中でも一閃射手資質隊長のアーチェと副隊長のボウアローは聖京都でトップの弓使いと言われている。彼らのスキルであるアーチェの「心臓の弓」とボウアローの「撃波」は相手を確実に殺す事で有名である。ライガも「個での戦いなら戦略も立てられるが、2体同時は勝てる見込みがない。」と言うほどである。だからこそ、この作戦が重要となる。現在戦えるは僕達だけ、ライガ、マルマル、ストナ嬢、副隊長のセンリ、僕、そして、ゴン太の5人と1匹。左方に隊長のベンを含む8番隊の隊員もいるが、さっきの雨矢で何人かがダメージを負った様で怪我の手当ての真っ最中、戦闘への参加はあまり期待できない。今いるメンバーで戦うしかない。

 作戦は簡単に言うとこうなる。雨矢の攻撃をゴン太の熱波で打ち落としつつ、徐々に距離を詰める。相手の弓の通常攻撃範囲手前でゴン太に光と聖のマナを寄せた熱波を放ってもらう、その時の向こうの陣形の立て直し時間を計算して、再度打った際に一気に距離を詰めて叩く。ライガが隊長のアーチェを、センリが副隊長のボウアローと戦い、僕とストナ嬢とゴン太で残りを仕留める。前進中にベン隊長側の応援があれば、勝利への可能性を高められるが、最低限のメンバーで戦う事も覚悟の上。僕がこの作戦を伝えると、全員が首を縦に振った。ライガが僕を見て頷いた。僕は各自を見た。皆覚悟は出来ているようだ、後は行動あるのみ。お互いに目で合図を送って、ゆっくりと前進を開始した。

 3回目の雨矢を凌いだ後、当初目的とした位置付近へと近づいた。この位置は通常攻撃の範囲外だが、あまり油断出来ない。遠射系スキルを持っている相手には、逆に餌食になる位置である。姿勢を低くして、最前列にいるライガが右手を横に上げて、止まれの合図があった。

「センリ、どこにアーチェとボウアローがいるか分かるか?」

「分からないな。ただ、中央に強いマナを感じるから、あの2人ではないかと思う。」

 センリは中央の2体のゾンビを指差した。ここからでは相手の顔を認識するのは難しい。敵の大将は中央にいる。ゴン太の熱波の後、3方向へ一気に散って倒すしかない。幸いにもベン隊長側にいた3名の隊員も合流してくれ、現8名と1匹でこの戦いに挑む。中央をライガとセンリ、左方を3名の隊員、右方をストナ嬢と僕(一応マルマルも)。

 ストナ嬢に聖回復のマナを放出してもらい、マルマルが鉱石割りで幻吸鉱の光のマナを一気に取り出す。そのマナを僕は全員の武器とゴン太に寄せた。

「ゴン太、熱波。」

 ゴン太が熱波を発する。

「場合によっては1回目で倒す。構えろ。」

 ライガの声が響く。

 熱波がゾンビの集団に届く。熱波の衝撃がゾンビを襲い、動きが鈍くなった。一部のゾンビが弓を落とした。倒れるゾンビもいる。確実に熱波が効いている。

「ゴン太、熱波。熱波を出したら行動開始だ。共にいくぞ。」

 ライガの声にゴン太が2回目の熱波に放つ。熱波がゾンビに向かっていく様子が周りの風景が蜃気楼の様に揺れていくことで目でも確認出来る。僕たちは当初の予定通り、一気にゾンビに向かって突進した。僕はストナ嬢の後に付く形でゾンビに突撃した、と言うより、彼女の足が速いから付いていくのが精一杯だけど。走り出して十数秒後、2派目の熱波がゾンビを直撃する。ゾンビが炎に焼かれるようにもがき狂っている。やれる。一気に叩く。この作戦はうまく行であろう感触が剣を握る右手に伝わってきた。

 ゾンビまで数メートルに近づいた時、思いもよらない効果を確認する。こちらが切る前に熱波の威力に負けてゾンビの軍団は消えていった。

 僕の足がゆっくりと止まる。同じ様にストナ嬢、マルマルも止まった。倒した。ストナ嬢が僕の方に近寄り、両手を握って子供みたいに飛び跳ねた。

「すごい、君はすごい。」

 僕も喜びのあまりストナ嬢と一緒に飛び跳ねてしまった。

 クールなマルマルも大はしゃぎで喜んでいる。少し呆気ない終幕となったが、これで終わりではない。この迷いの森に死狂の館がないのであれば、アタゴ山直下のアリス川に出没した館こそ、僕が入った死狂の館である。本当の戦いはこれからだ。

 僕はライガ達の方を見た。その歓喜は一瞬で凍りついた。

 

 戦いはまだ終わっていなかった。ライガとセンリの前に一体のゾンビが残っていた。いや、違う。この感覚バンパイアだ。マナ寄せ開眼で見ると、明らかに心臓部分に核がある。バーブルでもない。男のバンパイア。既にライガとセンリは戦闘態勢に入っている。僕達もライガに駆け寄る。

 ライガ達との距離が数メートルのところでライガが叫んだ。

「来るな。気をつけろ。強敵だ。」

 僕は足を止めた。

 咄嗟に少し前を行くストナ嬢の腕を握って彼女がこれ以上進まないように目で合図した。ライガの声ではなく、マナの波動を感じたからだ。何か来る。僕は剣先をバンパイアに向けて威嚇する。

 バンパイアはゆっくりと地上から浮かび上がった。そして、僕達全体を見回すと、手を前方に向けて伸ばした。ゆっくりと声を出した。

 「水の槍・波」

 水系のスキル名だ。

 その瞬間、全員に水で出来た槍?いや矢の様な物体が飛んできた。

 スピードは速くない。簡単に撃ち落とせそうな水の槍がゆっくりと飛んでくる。

 見た目は単純な水のマナ攻撃。でも、なんだ、この嫌な予感は?

 心臓が痛い。

 何かが違う。


 「マナ寄せ開眼」

 水のマナが揺れている。見たこともないマナの波動。

 この水のマナ、核がある。

 

 生きているのか?

 核以外を切るのは危険だ。そう僕の心に何かが訴えかけている。

 

「ストナ、マルマル、手を出すな。」

 咄嗟に声が出た。

 僕は剣を力強く握り、こっちに向かってくる3つの水の槍のマナを開眼で確認する。

 水のマナは各槍にひとつづつ。僕、ストナ、マルマルの心臓を確実に狙い打ちにしている様に取り付いている。核だけを切るんだ。

 一番手前のストナに向かって来る水のマナの核を攻撃する。斬ると言うよりは剣先を当てに行く。光と聖のマナ攻撃でこの核を壊せられるかどうか自信は無かった。でも、バンパイアが放つ攻撃だ。このマナ寄せが一番効果があると直感で感じ取った。

 槍のマナは剣先が当たると自然と崩れる様に消えた。

 当然水の槍も蒸発する様に消えていく。

 僕は残りの僕に向けられたマナとマルマルのマナの軌道に剣先を置いた。

 核を全て破壊され、水のマナは一瞬で消えていった。


 良かった。いや、良くない?

 ストナ嬢がバンパイアに剣先を向けながら、一瞬こっちをガン見した。

「だから、何?あなたの剣技を見せたいの?」

 何か怒っていた。そういえば僕は彼女の名前を呼び捨てした様な……。それで?

「いや、その、ストナ様……。」

 どう答えて良いか分からなかった。気まずい。

 

「ぎゃー」

 森全体に悲鳴が響く。僕はその奇声の方へ目を追った。3人の応援にきた隊員の内2名が水の槍で串刺しになっていた。

 立ったまま動かない。

 対象物を突き刺すと、しばらく状態を留めていた水のマナはゆっくりと消えていく。

 マナが消えると串刺し状態だった人が荷が崩れる様に倒れていった。

 隊員の体から血が溢れるのを、肉眼で確認できた。多分絶命しているだろう。やっぱりあのマナは危険だった。核を潰さないと暴発する様な構造になっていたんだろう。

 

 バンパイアとライガが緊張状態にある。どちらもお互いに仕掛けられる位置だ。タイミングをうかがっている様だ。その緊張感の中でバンパイアの声が響いた。

「老けたなライガ。」

 バンパイアがライガに話し掛けた。知り合い?誰なんだ。

「師匠こそ、老けましたか?心が。いや、もう死んでいるか。」

「言う様になったな。若造が。」

 そういうと、バンパイアは大きな水のマナの塊を手の上に出した。そして、それをライガに向けて放った。巨大なマナの塊はライガ目掛けて向かっていく。ライガが構える。突撃の槍の構えだ。一気にマナを崩壊させるつもりだ。

 ライガさんは誰よりも感がするどい。多分この水の槍の要所を理解しているだろう。ライガさんなら、核が見えなくても百段激突で消滅させられる。

 

 しかし、水のマナはライガの上を飛んでいた。激標的が違う。ライガではない。

 標的はセンリだ。

 僕はセンリに大声で伝えようとしたが、声が出なかった。

 センリは水の槍に対抗できず、水のマナを全身で受けてしまった。そして、センリが倒れた。

「ストナさん、動かないで。」

 僕はストナが援護に行くのを止めた。

 さっきの瞬間、水の槍のマナが妙な動きをした。

 自動標的攻撃だ。動いた者に攻撃が向く。だから、攻撃を溜めていたライガではなく、動きたセンリに向かった。しかも、動きに合わせてスピードが上がるように見えた。

 とにかく、下手に動くのは危険だ。

 しかし、センリさんが倒れている。先ほどの隊員とは違いまだ息がある様に見える。助けにはいかなと間に合わない。

 相手を刺激しないようにゆっくりとセンリ側に近づくしかない。

 その時、足元に何が動いた。ゴン太が僕の足元に来ていた。

 ふと、あることに気が付いた。

 ゴン太のマナ寄せ熱波なら、水の槍を破壊できる。しかも、バンパイアの動きを弱らせる事も可能だ。

 相手の動きを鈍らせ、その瞬間にセンリの元に行って手当をする。それしか手はない。どのタイミングで打つか。僕は開眼でバンパイアを凝視し、隙をうかがった。

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