第九話 迷いの森調査団②
一息つく前に再び火炎球が僕達を襲ってきた。
僕達七本槍の道化衆と王下聖騎隊8番隊を割くように放たれた。地面に生えている草どころか、土壌全体を焼き尽くす様に地表の形を変えた。焼け跡から焦げ臭い匂いが漂っている。アイカの火炎球もそれなりに強力だと思っていたけど、このゾンビの火炎球はそんなレベルではなかった。魔法カーテン系防御魔法が掛かっているのに、あの火炎球は全く威力が落ちていない。もし正面から直撃を受ければ、この身は原型を留めないだろう。背筋が凍るような死が目の前にあるような感覚へと襲われる。この感覚、久方振りである。あのバーブルと対峙した時以来である。仲間が多いからと言って、油断が出来ない状態である。少し離れて立っていたライガが駆け寄ってきた。
「無事か?ナギト、俺の槍にマナ寄せを頼む。」
僕はライガが差し出してきた槍に幻吸鉱の光のマナを出来る限り寄せた。ライガの槍に炎が灯る様に光のマナが灯っていく。どんな敵でもこの人の近くにいると不思議な安息感を覚える。僕はもう一度幻吸鉱を取り出し自分の剣にもマナを寄せておいた。今回は敵が多い。場合によってはライガとは分かれて戦う事もあり得る。剣を握る右腕に力をかける。
「ナギト、あの女ゾンビには気をつけろ。あれが3番隊隊長、火炎魔法使い資質のクロナだ。俺は早めにあの女を仕留める。ゴン太、援護しろ。」
そう言うと、ライガは槍を構え、一気に駆け上がって行った。そのライガの後ろに小さな黒い影が進んでいった。光の坑道以来僕達七本槍の道化衆のメンバー化しているドラゴンのゴン太だ。(命名はライガ)ゴン太は自然とライガに懐き、ここまでの道中ライガと共にしている。
ゴン太はドラゴン族ではあるが、ブレス系の攻撃は出来ない。単純なひっかきと微妙な尾撃、噛みつき、体当たり系の攻撃、それと、最大のマナ系攻撃は熱波だ。高熱を帯びた熱波動は受けた相手を熱ダメージと衝撃波による簡易的な身体麻痺牽制効果がある。補助型支援系として、新しいライガの相棒としてぴったりな役目を担っている。
「マルマルさん、暫く鉱石サーチをお願いします。」
「言われなくても分かっとる、戦闘中は常にサーチ魔法を使っておいてやる。」
僕は再度、マナ寄せ開眼を行った。目の前にゾンビが6体いるが、ライガが言ったあの女性ゾンビ、グロナのマナが飛びぬけて高い、火炎魔法使い資質とは魔法使い資質の火炎系特化型、アイカも順調に力を付けていけばここまでなっていただろう資質だ。他にいる5体のゾンビはアイカと同じか少し上くらいのマナの量だ。この相手なら、ライガとゴン太でもなんとかなりそうだ。
突然、身体全身がマナの震動に襲われた。この感覚、何かマナ攻撃が来る。入り口全体にマナ攻撃の震動で地面が揺れている。
「みんな、前に進め、止まるな、何か来る。逃げろ。」
僕は大声で叫んで、前方に全力で走った。その時、少し前で足を止めている人がいた。ストナ嬢だった。僕はストナの腕を握って前に出る様に促した。
僕達が前へ進んだと同時に、後方が燃え上がる炎に包まれた。見覚えのある魔法だ。炎の壁だ。地獄の業火の様に後方で燃え続けている。身を守る魔法だと思っていたが、攻撃や退路を断つなど、使い勝手が良い魔法の様だ。そして、僕達は見事に退路を断たれた。グロナを倒さないと出られそうにない。
僕達は逃げる様に前進したが、炎の壁から逃れて最初に立ち止まったのはストナ嬢だった。ストナ嬢は僕の腕を振りほどいた。
「ありがとう。」
小さな声で僕に礼を言った。言ったように聞こえた。
迷いの森の結界の中に全員が入る形となった。前方には6体のゾンビが道を塞いでおり、ライガとゴン太と、8番隊副隊長が応戦している。眼前にいるゾンビはその6体だけだと思っていたが、結界の見えない部分に隠れていた集団がいた。左に7体、右に8体ゾンビが待ち構えていた。完全に周囲を取り囲まれていた。後ろには炎の壁。背水の陣ならぬ、背炎の陣だ。
「つまらん事をいうとるの。」とマルマルに突っ込まれた。どうやら、声が漏れていたようだ。
現陣形から右の8体は僕とマルマル、そしてストナ嬢で相手をしないといけない。けど、肝心なストナ嬢の足が止まっている。
「ストナさん、しっかりして、来ますよ。」
僕がストナ嬢に大声で叫ぶ、ストナ嬢は少し目を覚ましたかの様にこっちを向いた。しかし、焦点が定まっていない。
「ごめんなさい。シールト。」
シールト、ストナ嬢の弟、彼女の視線の先には8体のゾンビがおり、その1体がシールト、彼女の弟の様だ。それで、彼女の足が止まったのか。でもこのままでは戦えない。マルマルは元々戦いに向いていない。ここは僕とストナ嬢で戦うしかないぬ。8体共強さはアイカに比べると少し劣るくらいのマナ量だ。それでも8体は油断出来ない。
「ストナさん、左側を頼む、僕が右側…………。」
ストナ嬢は聞いてない。また、マナの振動が、誰かが何か攻撃仕掛けてくる。
「ストナさん。」
駄目だ。完全に意識が別方向にいる。僕は意を決して彼女の頬を平手で叩いた。ちょっと強く叩き過ぎたか、ストナ嬢はそのまま下を向いて黙っていた。が、間を開けず、ストナ嬢は意識を取り戻した様に、僕を睨らんだ。考えてみると、貴族を庶民が叩くのは犯罪かな?殺すと言わんばかりの眼力、怖い。モンスターではなく、人に殺されるという感情はこういうことなと感じた時だった。
マナの振動がストナ嬢を襲う。何か来る。僕は彼女の前に壁となるよう立ちふさがった。背中に衝撃があった。風刃矢だ。その場に倒れたが、軽く背中を切られたたけで、なんとかなりそうだ。
「大丈夫?」
少し状況を理解したようにストナが僕の背中の傷をおさえる。
「僕は大丈夫です。ストナさん、彼はもう人ではない。僕の仲間もゾンビ化して亡くなりました。こうなったからには倒すしかないんです。」
ストナ嬢はゾンビ達の方を見た。そして、僕の手差し伸べて、言った。
「力を貸して、二人で倒しましょう。」
僕は彼女の手を取り、頷いた。
僕は彼女の剣に触れ、マナ寄せで幻吸鉱のマナを寄せた。彼女は何をされたのか分からない様子ではあったが、弟のゾンビに向かって走り出した。
「聖流剣」
流れる様な剣さばきで最初に弟を切った。彼女な身体が、弟のゾンビを通り過ぎた。鮮やかで美しい剣技だった。弟ゾンビは胴体を胸から上下に真っ二つにされた。そのまま、煙の様に消えていった。
強い。スピード、剣技、力。ライガと比べてしまうと見劣りするが、聖流剣の剣技がすごいのか?流れるような剣技には見る人を魅了する美しさを備えている。
彼女のそこ力か?ゾンビをいとも簡単に切り倒す、聖流剣がゾンビに適しているのか?2体、3体と一気な切り倒した。彼女の武器は大剣という類の武器。通常の大剣よりはやや小ぶりではあるが、女性が扱うにはかなりの技量が必要だ。通常力でゴリ押しで斬るイメージだか、彼女はスキルを使って剣を左右に振っている。更にゾンビ3体を真っ二つ、しかも3体をとも一撃。僕もゾンビと戦う為に前進していたけど、あまりの強さに足が止まって、魅入ってしまった。彼女も一瞬足を止めたが、向きを変えて、僕が相手をする予定だったゾンビの方に向きをかえた。
「聖流剣」
再び流れる剣技がゾンビを襲った。4体、5体、6体、次々に真っ二つにしていく。7体目を倒した後に、8体目には剣を「遠投」のスキルで投げて突き刺した。眼の前にいた8匹が一瞬でなぎ倒された。その後、彼女は剣が突き刺さっているゾンビに近づいて、剣を抜き、そのまま鞘に納めて、こっちに歩いてきた。
ものの数分の出来事だった。ほとんどが剣士系のゾンビだったからなのか?一瞬にして彼女の剣技の餌食となった。とにかく恐ろしく美しい人だった。彼女はゆっくりと僕の前まで歩いてきた来た。そして、僕をまじまじを見回した。
「あなた何者?」
唐突な話出しだった。それはこっちのセリフと言いたい気分だった。
「私に何をしたの?」
何をした?僕は脳裏にストナ嬢を叩いた事が思い出された。なんと答えればいいの?
「さっき、私の剣に何かしたわよね、それを聞いているの?」
「マナ寄せの事?」
「マナ寄せ?」
僕はポケットから幻吸鉱を取り出し、この鉱石のマナをその剣に寄せた事を伝えた。
「それだけなの?」
僕は頷いた。
「どうして?あんなに簡単にゾンビが切れるの?私はそれが知りたいの。」
お互いに話が噛み合わない。
「あれはストナさんのスキルの力で切ったのでは?」
「そんな訳ない!スライムと違うのよ、ゾンビよ。それもいとも簡単に。しかも切った感触がないの。剣に触れる瞬間に蒸発したようなの。」
「それはストナさんの力では聖流剣のスキルの能力?」
ストナは首を横に振る。
「以前、帝国近くでゾンビと戦った事はあるけど、こんな感じではなかったわ。」
僕はストナ嬢を見た後で、ライガの方を見た。ライガも前方の6体との戦いを終えるようだった。足元にはゾンビが横たわっている。ストナが倒したゾンビだけがきれいに消えている。
「ゾンビやバンパイアの弱点は聖と光の混合したマナ?」
僕とストナはお互いに目を合わせた。何か光が見えた様だった。もしこの仮説が正しければ、バーブルを倒す事が出来る。
バーブルにとどめを刺せなかったのは、光のマナが足りなかったのではなく、聖のマナが無かったから。
ライガ達も決着が付いた様だ。左側のゾンビもなんとか終局しそうだった。3番隊隊長のグロナに苦戦していたようだが、片付きそうだった。全体を眺めようとした、その時、全身に悪寒が走る様なマナの振動!何か来る。どこだ。どこを狙っている?開眼に集中する。
全体だ。何が来る?その時、僕の脳裏にある文字が走った「天の矢尻」。それは聖騎隊11番隊の別名称。
聖騎隊、10、11、12番隊は特殊チームと呼ばれており、特殊技能、資質の隊員を集めた部隊。11番隊は弓に特化しており、「雨矢」と言われる種類の弓系スキルを隊員全員が保持し、一斉に矢を天高く射て、それが地上に豪雨の様に降り注ぐ、別名「死の矢」とも言われる集団技。
「「雨矢」が来ます。みんな避けて。」
とっさに避けて言ったが避けられるものなのか?とにかく、避けるしかない。しかし、ここは何もない平地の様な空間、どこに逃げる。雨矢が来る。
僕は咄嗟にストナ嬢を覆いかぶさる様に倒れた。彼女を守りたいと言う気持ちがあったかどうかは分からない。ただ、身体が動いた。次の瞬間、背中から足にかけて矢が突き刺さるのが分かった。ものすごい痛みに襲われる。
ドサ、ドサ。
矢が地面に突き刺さる音が聞こえる。それと一緒に身体の何処かに痛みが走る。自分の身体が矢の的になっている様だった。暫くすると、矢の音が止んた。雨矢の攻撃の恐ろしさは連続攻撃が可能である。また来る。雨矢が来る。身体が動かない。そう言えばみんなは無事か?雨矢で怪我はしていないのか?
「ナギト!大丈夫か?回復士はいないのか?」
ライガさんの声がする。ライガさんは無事のようだ。
「これで、直せないか?」
「鉱石なんかじゃ駄目だ。本人が死にかけてる。直接回復魔法がいる。」
マルマルさんの声も聞こえる、みんな無事のようだ。あとは僕が立ち上がれば良いのに。全く身体が動かない。僕が死にかけてる?ライガさん僕は無事です。少し身体が痛むくらいで、あれ?身体の痛みも感じなくなった。
少し眠たくなってきた。少しだけ、少しだけ休ませて欲しい。意識が別次元に行くような気がして世界全体から、色が消えていった。




