第九話 迷いの森調査団①
その日は朝早く出掛けた。
10時前には迷いの森宿営地に到着した。宿営地は異様な光景となっていた。様々な所に野営の準備がなされているが、誰一人おらず、静けさだけが辺りを呑み込んでいる様だった。
もちろん、僕達七本槍の道化衆のテントも2週間近く放置されたままである。通常の野営地では、放置しておくと、野生の動物やモンスターに荒らされるのが常識だが、ここは結界が張ってあり小動物ですら入れない。その為、神隠しにでもあった様な閑散とした形相を見せていた。いくつかの野営テントには食事の準備をした状態のままの物もあった。
王下聖騎隊は人数も多い為、野営用テントを設置して、その横に荷物を山積みにして置くのが習わしなのか、似た様な設営が2箇所あった。それ以外にも数隊の野営所が置いたままとなっていた。
ふと、来た道を眺めると、別部隊、王下9番隊が宿営地より十数キロ程手前の丘の上に留まっている。
今回の任務は単純明快。死狂の館がこの迷いの森にあるのかを調べる事。
その事実を伝えるだけ。キグナス達に迷いの森の事実を伝える、それだけを最優先に置いて行動する。聖騎隊は何種類かの旗を用意して、その旗の種類で迷いの森の内容を伝える様になっているらしい。
伝達の任務がベン隊長達、聖騎隊8番隊の任務。その後はこの宿営地に残り、迷いの森の状況を適切に聖京都に伝える役目を負う。
迷いの森に死狂の館があっても無くても、ここを動かないそうだ。早ければ、今日中には迷いの森の状況が聖京都側に伝えられる。
僕達七本槍の道化衆と王下聖騎隊8番隊は午前中に野営と食事の準備をして、昼食後に迷いの森へと足を踏み入れる予定になっている。皆がその予定に向けて、準備に取り掛かり始めた。
僕とマルマルは流石に歩き疲れで、少し休憩していた。
「暇なら手伝え。」
突如とストナ嬢が僕とマルマルの前に立った。
「何をするのですか?」と聞くと、「いいから来なさい。」と命令口調で無理やり重い腰を上げさせられた。
ストナ嬢に連れて行かれると、聖騎隊3番隊の野営地に到着した。小さな旗が風になびいている。
聖騎隊3番隊は11番隊の調査に来て連絡が付かなくなった部隊。少し距離をおいて11番隊の野営地もあるので、両部隊がここへ来た事は間違いない。
「ここよ。」
ストナが僕達を3番隊の荷物の山の手前まで来るように指示した。
「この荷物の中から「25841」と書かれた荷物を探しなさい。」
僕達はなぜと聞いたが、暇なら手伝いなさいの一辺倒でこちらの意見を聞く気がない様子だった。仕方ないので手伝う事になった。
僕とマルマルで荷物を1個1個移動させながら、山の位置をずらしていった。番号のある荷物と無い荷物がある。
ストナ嬢は何もしないで僕達の行動を見張っている様だった。僕達は文句を言っても何倍にも言い返されるので諦めてその番号を黙々と探した。
258141とは聖騎隊員の個別番号であり、基本的には武器や荷物などにはその番号を刻印、刺繍するのが習わしとなっているらしい。マルマルがそれを横目に見ながら言った。
「王下聖騎隊は亜空間魔法が使える人はいないのかな?こんなに大きな部隊なのに。」
その言葉にストナ嬢が反応した。
「そこのドワーフ、何が言いたいの?」
「別に、わざわざ大量の荷物を持ち歩かなくても、亜空間魔法があれば一瞬だろ。」
マルマルがそう言うと、ストナ嬢は既に確認済みの荷物に手をかざした。次の瞬間、荷物が消えた。
「亜空間魔法くらい、私でも使用可能よ。けど、実際にこの魔法はまだまだ謎が多いの。亜空間がどこに繋がっていて、どこに通じているのか。誰も分からない。だから、この状態で私がもしモンスターにやられたら、今、亜空間に入れた荷物はどうなると思う?それが消えて、隊はどうする?私達聖騎隊は一人になっても任務を続行しないといけなの。あなたたち一般の隊と一緒にしないで。」
そう言って、亜空間に入れた荷物を元の戻した。
「王下聖騎隊では宿営地で一度必要ない荷物は置いておく事が決まりとなっているの。分かった。くだらない事を言ってないで手を動かしなさい。」
再びストナ嬢が呟く様に僕達に言い放った。
「そうそう、有名な話だけど、亜空間に大量の食料と飲み水を入れた冒険者がある山で遭難して、3日後に餓死したって話もあるわ。マナが無くなり亜空間から取り出せなかったという、手記が残っていた。亜空間魔法も完璧な魔法では無いわ。」
七本槍の道化衆も亜空間魔法使いを探していたけど、言われてみると、完全に頼るのは危険な気がした。
僕達はやる気はないが、彼女の要望を聞き入れないと解放されそうにないので、荷物探しの手伝いに集中した。マルマルは基本的に番号を見ていない。山から荷物を渡す係だ。僕がその荷物を確認して、確認済みの所に置き直す。そんな作業が暫く続いた。
「25841」あった。
僕がその番号を口にすると、ストナ嬢は奪い取る様にその荷物を確認した。そして、その荷物を抱きしめた。
「シールト」と言って暫く動かなかった。
「誰ですか?」
僕が聞くと、ストナは少し潤んだ瞳に手の甲を当て、暫くして、僕の方を向いた。
「シールトは私の弟。今年、入隊した新人よ。」
ストナ嬢はその荷物を置くと僕の方を再び見た。
「ここに個人の荷物を置いて置くのには、もう1つ理由があるの。全員が行方不明になっても誰がここまで来たか分かる為よ。聖騎隊は大人数だから、時々、死んだと思った人が別の部隊に応援で入っていたって事もあるからよ。でもシールトはここに来ている。」
そう言って彼女は迷いの森を見上げた。
「弟さんを探しに行くんですか?」
ストナ嬢は首を横に振る。
「今は任務が優先、王下聖騎隊としての勤めを果たす。」
彼女はゆっくりと僕とマルマルの方を向いた。そして、亜空間から大量の飴玉を取り出して、僕とマルマルの手の上に置いた。
「お礼よ。ありがとう。」
そう言って、去って行った。
僕達は彼女の後ろ姿を見送った。任務を優先する。彼女の強さと弟を思う女性特有のはかなさを感じた。
「惚れるなよ、ありゃ、魔性の女だ。尻に敷かれるぞ。うん、この飴は美味い。」
もらった飴を大量に口に放り込み、じゃりじゃりと噛み砕きながらマルマルが言った。
「そう言えば、マルマルさんは結婚しているですか?」
マルマルは飴を砕きながら答えた。
「俺は一生独身と決めている。」
そうなんだ。昔何かあったのか?聞きたい様で聞きたくないマルマルの過去だ。
ライガが遠くから僕達を呼んだ。どうやら昼食の準備が出来たようだった。
昼食後、僕達は迷いの森へ入って行った。
8番隊はモーレッドともう一人の新人隊員。あとゴアの3名が宿営地に残る事となった。
僕が先頭を進み、全員が後に着いてくる形で迷いの森を進んでいった。この辺りは初めて来た時にはゴーストが結構うろついていたけど、今は生物がいない様に静まり返っていた。
僕は2個目の封印の場所まで来た。
この木の封印を解けば、館が見える、もしここに館があれば。でも、ひとつ疑問が残った。2回目にライガと来た時にはこの2個目の封印はされていなかった。どうして、また封印がされたのか?時間軸?良く分からないが、再びこの封印を解く必要がある。
「マルマルさん、サーチを。」
一瞬間が空いたか、すぐにマルマルが返事をした。
「いいぞ、ナギト。」
マルマルの言葉を合図に僕はマナ寄せ開眼を使った。
「マナ寄せ開眼」
やはり前回同様に目の前にある木がマナで出来た木である。封印結界の影響か、中に何があるのかは開眼では分からなかった。
前回はユウにこの封印を切ってもらったが、今なら分かる、この封印にも核がある、この核を軽く切れば封印は解ける。
僕は封印の核を光のマナを寄せた剣で斬った。簡単に封印を解けた。
マナの木が消えていく。すると、ものすごいマナがこちらに流れ出してきた。
「なんだ。このマナは。」
竜巻の様なマナの僕達襲った。そのマナがゆっくりと静かになっていく。全員が封印の先に注目する。
ゆっくりと封印の中が見え始めた。そこには死狂の館は存在しなかった。あの時とは全く違った姿が現れた。その死狂の館の無くなった場所には大量の人の姿があった。
その人達は全員黒くマナが汚れていた。このマナの感覚は、アイカやグロスで感じたマナだった。
ゾンビだ。
大量のゾンビに溢れた空間だった。姿を消した王下聖騎隊の11番隊と3番隊だろうか。
「気を付けて、ゾンビです。」
僕が声を発すると、一体のゾンビと目があった。ゾンビがこちらに火炎球を飛ばしてきた。
8番隊の隊員が魔法防御を張ったが、火炎球はその防御を貫いて後ろの木を一瞬にて灰にした。幸いにも誰も怪我をしなかったが、魔法防御を貫いてこの威力はかなりやばい敵である。
ゾンビ軍団との戦いの火ぶたが落とされたのであった。




