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第一話 王下Eランク誕生

 『ナギト 以上の者を今年度留年と決定』


 うそだろ。

 掲示板に僕の名前だけが大きく書かれている。

 毎年、3月の最初の金曜日の午後、この掲示板に名前が貼り出された者は今年度の留年決定者である。せめて卒業者の名前を貼り出せと思う今日この頃。自分を留年させた事より、留年者の名前を平気で貼り出すモラルの無い学校のルール自体に怒りを覚えてならない。

「ま、来年があるから。」

 隣からモーレッドが肩を叩いた。

「お前たちは良いよ。今年卒業出来るから、自分はこれで2年目だぞ、来年は留年ではなく退学だよ。きっと。」

 僕は怒りを悲しみを仲間にぶつけた事を言った後で後悔した。

「ナギトは真面目過ぎるのよ。」

「真面目?」

 僕はレイサの言葉に対してとっさに言い返した。

「ナギトは昨年留年が決まって今年何をしてきた。」

 レイサの言葉に何か自分達は合格を決めた上から目線的な表現を感じたが、ひとまず自分の行動を思い返した。


 1年前、僕はここで同じ様に自分の名前が載った掲示板を眺めていた。

「ナギト、モーレッド、レイサ、ホールズ」

 去年は4名の名前が掲示板に貼り出されていた。

 

 

 僕はナギト・オウミ。今年で16歳になる。名前がナギト。セカンドネームがオウミである。生まれは聖京都の隣の農村、セタ村の出身である。聖京都ではセカンドネームは貴族以上が使う為、一般的に普及していない為、普段はナギトで通っている。

 現在、聖京都にある、王下冒険者学院で冒険者になる為、修行中の身である。

 この学院は12歳から入学が出来、基本的に3年で卒業となる。基本的にとは2年で卒業する場合もあり、留年して延長する場合もある。僕は現在4年目を超え、来年5年目へと延長が確定したのであった。

 更に言うと、ある条件下では、2年での卒業も可能である。成績が優秀で、卒業後王下聖騎隊へ入隊する場合に限り、2年で卒業が出来る。僕と真逆の存在の人達である。


 昨年仲良く不合格なった4人組が今僕の周りにいる3名である。聖京都生まれのモーレッドとレイサ。そして、ボルケーノ地方から来たホールズである。

 冒険者学院時代の通常過程では全く話さなかったが、この1年、同期留年組を作って4人で結託して、卒業を目指して頑張ってきた。頑張ってきたんだ。何もしてなかった訳ではない。

 

 僕の資質は「魔法剣士」特別資質に分類される珍しい資質である。父は「戦士資質」、母は「魔法使い」資質である。資質は基本的に遺伝するが、混合することはないらしい。だから、昔の誰かが持っていた資質か特別変異かに当たる。父は農家で何かのスキルは使えるらしいが、畑を耕すことに使っているだけ。母も炎の魔法で家事をするぐらいの一般的な農家出身である。

 僕は生まれつき大きな問題が1つだけあった。生まれつきマナを持っていない。すなわち「スキル」が使えない。オウミ家系では、過去にもマナの無い人が生まれた事はあるらしく、マナが無い事をさほど不思議がられる事なく、僕は幼少期を育った。

 冒険者を目指すか最終的に迷ったが、小さい頃からの夢を捨てきれず、マナの無い僕は登竜門の王下冒険者学院に入学した。

 セタ村からは親友達であるユウ、アイカ、ムードメーカーのグロスと幼馴染のコハルが入学した。5人はいつも一緒だった。目標は「5人で冒険者部隊を作る。そして、世界で活躍する。」

 

 冒険者部隊を作ると言うのは口で言う程、簡単な事ではない。現在「冒険者法」には「部隊長権利を持っていないと部隊を指揮できない。」となっている。部隊長権利はBランク以上の冒険者か、国王(帝国は皇帝)しか授与する事は許されない。基本的にはBランクを超える冒険者となるか、王下聖騎隊でCランク中に大きな功績を残すかどちらかと言われている。

 一般的な冒険者で10年という指標が出ている。

 ユウとアイカはその指標を遥かに超えて、王下聖騎隊入隊1年目で王下Cランクの付与と部隊長権が授与された。

 彼らは冒険者学院を2年で卒業して、王下聖騎隊に入隊した同期の中でも優秀組に属した。そして、入隊後にその事件は起こった。

 

 ウブキ山系、光の鉱山、ゴブリン軍団襲撃事件。

 今から1年半前、ユウとアイカがまだ入隊して半年、鉱山周辺の見守りの任務にあった時、突如ゴブリンの集団が光の鉱山へと流入してきた。

 鉱山周辺には3部隊とユウ達見習い部隊が任務に当たっていたが、不運が重なり、他の部隊が光の鉱山周辺におらず、見習い部隊だけでゴブリンと戦う事になった。元々部隊として戦闘訓練を積んでいなかった為、戦闘開始直後逃げ出すメンバーが続出。部隊は戦闘途中でほぼ空中分解したと言われている。それでもその場に留まり続け、ユウ達数人が夜明けまでゴブリンを鉱山外で防ぎ留め、後から駆け付けた応援部隊と一緒にゴブリン集団を壊滅させた。

 この功績を称えられ、ユウ達見習い部隊で最後まで戦ったメンバーに王下Cランクが付与された。そして、その部隊を実質的に指揮したとして、ユウとアイカに部隊長権利が授与された。

 その年度末、二人は聖騎隊を除隊。部隊長権利を行使して、冒険者部隊を立ち上げた。

 

 その名は「七本槍の道化衆」である。


 今、グロスとコハルが合流して4人で活躍場を広げている。卒業と同時に僕も入る予定だったんだ。卒業と同時に。

 


 話は少し戻るが、僕にはマナがない。ただ、剣士系のスキルにはマナを使わないものが多く存在する。簡単に言うと、僕はそこを目指した。

 冒険者学院を卒業する事自体は、実際にはそこまで難しくない。2年間の必要履修科目の習得(3年目は主に実技と訓練)と、スキルを覚えて実戦に使う事である。戦闘系でなくても、補助系でも何でも良い。ただ、スキルが使えって戦闘に出られる事である。

 しかし、僕はまだスキルを覚えていない。

 僕の目標はマナが無くても使えるスキルで戦える剣士だ。確かにそれだけだと、他の仲間に大きく引き離される。しかし、僕にはマナが無い代わりか、不思議な力がある。それが、この目である。「開眼」と名付けているこの特殊な力は、集中すると一瞬だけ、数秒先の動きが読める。

 冒険者学院の先生達にこの力をスキルとして登録してくれと言って、資質研究所のスキル研究室で詳しく調べてもらったが、スキルの類ではないと判定された。スキルを使うと体の中心にある何かからマナが伝達してスキルを発動させる。その何かが資質だと言われている。マナを使わないスキルにもその傾向があるが、僕の「開眼」には全くそれがない。

 スキル研究室の結論は、目の錯覚と断定された。断定するな。せめて推定くらいしろよ。

 

 それでも、僕にしか分からないけど、僕の目には「開眼」の力がある。

 その力と剣士として資質を高める為に、入学から毎日剣の稽古を打ち込んだ。剣士の元に通って、マナを使わないスキルの型だけでも覚えて、何万回と素振りをした。

 その甲斐あって、昨年末に開かれた、王下剣術大会、スキル不使用部門で見事に優勝もした。校外学習ではこの剣術だけで、ゴブリンやキラーアントを何十匹打ち取った。先生の前でこの力を見せつけた。これならスキルを覚えなくても、冒険者資格をくれるだろうと、ひそかに期待して、今日、ここに来たのに。僕の名前だけが高らかに掲げられていた。留年として。


 なんで?僕が何をした。


「ナギトって、ここ数年、剣しかふってないでしょ。」

「剣士が剣を振って何が悪い。レイサだって見てただろ。僕があのゴブリン集団を十体なぎ倒したのを。」

「そりゃ、見てたわよ。あそこまで出来るのは、学院内ではナギトだけよ。」

「だったら、どうして。」

 僕はお門違いにレイサを責めてしまった。

「だからよ。剣しか振らないからよ。私達、全員が特殊資質の持ち主だから。どんな行動をするとスキルが手に入るかなんて前例が全くないのよ。」

「そうそう、俺なんて、空を見上げていたら、スキルをひらめいたからな。こんな簡単ならもっと早く空を見上げておけば良かった思ったよ。」

「俺達は全員、資質という名称に騙さていたのかもしれない。」

 僕は3人の顔を見た。

「もう少しやってみるよ。」

 僕の顔が少し落ち着いたのを見て取ったのか、モーレッドが僕の肩に手を回してきた。

「よし、今日は卒業と留年記念に食事へ行こうぜ。」

 な、なんかとげが無いか?


 その後、僕は3人の卒業を見送った。

 


 新学期を迎えた5月、王下冒険者学院の年間行事のひとつ。ヒラエイ山ハイキング。聖京都から西には大きな古代湖、ビワの湖が広がっている。更に西には巨大な東ラーフィン山脈がテイルランド地方と大陸中央のエントレイルス地方を隔てている。このラーフィン山脈とビワの湖の間にヒラエイ山という独立峰が低くそびえている。低くと言っても1500メートルもあるが、東ラーフィン山脈が4000メートル以上の巨大な屋根なので、ヒラエイ山が小さく見えてしまう。

 この時期ヒラエイ山に登る理由は主に3つ。ちなみにこの話は幼馴染のコハルの受け売りである。今年入学してきた新入生との親睦を深める事。ハイキングに非常に適した時期である事。そして、最後は「火の孤」が舞い降りという事である。

「火の弧」?と思う人の方が多いと思うけど、東ラーフィン山脈のどこかに火の鉱山があり、そこから毎年この時期、東風にのってテイルランドに舞い降りるマナの粉の様なもの。地上に落ちる頃にはほとんど消滅していて見られないが、ヒラエイ山の山頂ではその火のマナが降り注ぐ様子を目で見る事が出来、そのマナを「火の弧」と呼んでいる。ハイキングの参加は自由。毎年、コハル達に、昨年はモーレッド達に誘われたが、剣の修行を優先して行かなかった。

 今年も行く予定はなかったが、わざわざ卒業したモーレットがチラシを持ってきて、「見聞広めろよ。」と手渡して来たので、行く事にした。行ったところで何も変わらないと思うが……。


 その考えが間違っていた事を改めて訂正したい。

 全くもって想像と違っていた。天から降り注ぐ、火のマナは幻想的な世界を見せてくれた。炎の雪の中にいるようだった。決して熱くないが、マナの力は感じ取れる。ここまで4時間近く掛かった道のりの疲れが一気に吹き飛んだ。

 僕はただ、その天からの炎の射光を浴び立ち尽くした。

 手の平を前に差し出すと、手の上に「火の弧」が乗り、ゆっくりとはじけ飛ぶ様に消えていく。その繰り返しをただ、ただ、眺めていた。

 ふと、思った。このマナを剣に移行出来たら、炎の剣になる。炎の剣スキルが使えるのに。そう考えると同時に護身用に持ってきた短刀を取り出して片手に持っていた。

 その考えが頭の中をよぎり終える瞬間、身体の中心から何か力の様なものを感じた。全身にその力が巡る。その次の瞬間「マナ寄せ」その言葉が全身全霊に響き渡った。

「マナ寄せ」

 僕がその言葉を唱えると同時に、左手上に浮かんでいる「火の弧」が左手に吸い込まれるように消えていき、右手に持つ短刀から炎が噴き出した。

「スキル」を覚えた。瞬間だった。

 誰もが言う。スキルをひらめいた瞬間ってどうなの?という質問に。言葉には言い表せないけど、確実にひらめいた事が手に取るように分かると。まさにその瞬間だった。

 

 僕の最初のスキル。それは「マナ寄せ」。片方のマナをもう片方へと移動するスキル。符術師の魔法付与に似ている。違う所は符術師達のスキルは自分のマナを符術するが、僕の場合は他のマナを移動させる。欠点はマナが無ければ使えない。

 ようやく、最低ラインに立ったんだ。僕も冒険者として歩みだせるんだ。



 6月、僕は七本槍の道化衆のメンバーと久しぶりに再会した。

 戦士資質のユウ 男性 Cランク、部隊長権利持ち。使用武器は大剣と言われる両手持ちの剣を使用。親友であり剣のライバルだ。剣の腕前はかなり上だ。スキル無しの試合なら、僕が負けた事は無いが、スキルを覚えてからのユウにはなかなか勝てない。スキルの使うタイミングが絶妙である。ただし、ちょっとした事で、苛立つ性格の為、そこを突けば僕にもまだ勝機は残っている。スキルは3つ。疾風切り、瞬撃、鎌鼬切り。全く隙のないスキルをひらめいている。

 魔法使い資質のアイカ 女性 Cランク、部隊長権利持ち。使用武器はロッド。基本は炎系統の魔法が得意。火力も高く、このまま成長を続ければ、「火炎魔法使い」へ資質が変化するのではとも言われている。スキルは3つ。炎演舞、火炎球、火の壁。こちらもお見事なスキルを備える。

 武道家資質のグロス 男性 Dランク。武器は素手。メンバーの中で一番おしゃべりなムードメーカー。ユウの機嫌に関係なく、話を弾ませる事が出来る人物。メンバーの中和剤的な役割を担う。スキルは土の盾、砂煙。防御系を備えており、タンク的な役割を果たしている武道家である。

 最後は水質士のコハル 女性 Dランク。武器はスポイト。スキルは2つ。水滴とさざ波の唄である。家が隣の幼馴染。水滴はサーチ系のスキル。そのスキルで半径数百メートルに何があるのか調べる事が出来る。支援系としてはかなりの実力持ちだと思っている。実際に冒険者学院へ行く前、もっと言うなら、幼少期から水滴を使いこなしていた。マナの量も多分アイカより上の様に思える。ただ、使用する場所がないけど。臆病で怖がりだけど、判断力は誰よりも優っていると思っている。

 

 ちなみに昨年末に僕が剣術大会で剣を振るっている頃。七本槍の道化衆、彼らはウブキ山系、光の鉱山のひとつの洞窟。光る坑道の坑道調査を行っていた。簡単に言うと地図作りである。通常何か月も要する地図作りにもコハルの水滴のスキルなら数日で終える事が出来る。そこで、大きな発見をした。水脈の発見である。それまで、水の無い鉱山と言われていた坑道に飲み水を確保できた事が大きく貢献度を上げた。その結果、ユウとアイカが王下CランクからCランクへとランクアップし、グロスとコハルもEランクからDランクへとランクアップした。


 4人は僕の顔を見るなり、テーブルの上に地図を広げた。

「何の地図?」

 コハルが僕に近づき、「冒険に行かない?」と耳打ちした。


 ユウ達は僕がスキル覚えた事を聞きつけ、冒険者学院と冒険者連合に話をつけて僕を冒険者として認めてくれるように交渉してくれたらいしい。

 実際にこのまま学院にいても来年度まで剣を振るくらいしかやることはない。

 冒険者連合は王下冒険者学院の許可に基づき、僕に王下Eラインを付与してくれた。そして、七本槍の道化衆としてメンバー登録をする事が出来た。

 これで僕の冒険者としての準備は整ったのである。


 ちなみに、王下Eランクという最下位の最下位のランクを付与されたのは僕が初めてだそうだ。本来、冒険者にはそのランクに応じてバッジが与えられるが、僕のバッジにはEの上に手書きで王下と書かれている。記念に特別バッジを作ろうか?と言われたが、結構ですと断った。来年に卒業と同時にEランクになる。その前に貢献度によっては上だって狙える。こんな不名誉なバッジはいつまでも付けていられない。僕は冒険者として、七本槍の道化衆として第一歩を踏み出すんだ。

 


 これが「七本槍の道化衆」の伝説が幕を開けた瞬間だった。

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