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七本槍の道化衆  作者: 熊野文助


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第八話 帝国史と見栄①

 広い草原を一人歩いていた。

「忘れないでね。」

 どこからか声がした。聞いた事のある声。コハルの声だ。

「コハルか?」

「約束、忘れないでね。」

 声はすれど姿は見えない。僕は大声でコハルを呼ぶが、声は何かにかき消される様だった。

「お前は上に行く人間かもしれないな。」

 今度はグロスの声だ。

「グロスか?」

 グロスの姿も見えない。こっちの声も届いているのか分からない。僕は大声でグロスとコハルの名を呼ぶ。しかし、広い草原には誰もいないし、何もない。

「ナギトは魔法を弾き返せれば、最強だよ。ナギトなら出来るかもな。」

 この声はアイカ?どこにも姿は見えない。弾いたけど、衝撃が大変なんだよ。変な技を覚えさせて、責任を取れよ。いつもならアイカは必ず言い返してくるのに、その声も帰って来ない。


 暫く草原を歩いていると、今度は辺りが暗くなる。

「その程度ではだめだ。誰も助けられないぞ。お前は俺を越えられるか?グロスは無理だった。お前ならどうする?」

 ユウの声だ。時々僕に対する叱責の声が夜の草原に響き渡った。僕は大声でユウを呼ぶが、返事はない。

 全員の名前を呼ぶ。しかし、誰も返事がない。時より声だけが、一方的に響き渡る。

「コハル、グロス、アイカ、ユウ、返事をしてくれ。どこにいる。答えてくれ。」

 僕はただ、広い草原を何日も何日も歩き続けていた。


 ある時、草原の起伏のある小さな丘を上っていると、突然、激しい頭痛に苛まれ、歩けなくなる。ここで倒れてはダメだ。立たないと、皆を探さないと。頭を押さえながら立ち上がろうとするが、これ以上歩けず、草原の丘の中腹で頭を押さえながら、倒れ込んだ。

「誰か助けてくれ。」


 目が覚めた。夢だった?

 しかし、この頭痛は本物だ。頭を押さえながら、ベットで上半身を起した。日差しが差し込み、心地よい風が窓から吹き込んでくる。目が明るさに負けてあまりの開かない。ゆっくりと部屋の全体が視野に入ってくる。

 ここは?見た事もないベッド、見た事もない部屋。僕が着ているパジャマも見た事が無かった。

 周期的に頭痛の波が襲ってくる。落ち着くまでは歩けそうにない。


 部屋の扉が「ガチャ」と音を立てて開いた。今まで頭に響く不況和音の様な草原の音から、普段の何気ない音に自然と現実に引き戻される気がした。

「お、起きたか。」

 ライガが入って来た。ライガを見た瞬間、何とも言えない安堵感が心に広がった。

 少しずつ、過去との記憶が繋がりを持ち出す。そうだ。僕は光の坑道で幻吸鉱の採掘に向かって、バンパイアのバーブルが現れて……、その後、ドラゴンが?そうだ。ドラゴンにマナ返しをして、その後、記憶がない。

「ここは?」

「光の鉱山近くのシオツ村だ。昔の冒険者仲間がやっている宿だ。もう暫くは休め。」

 頭を押さえながら、辺りを見渡す。僕の荷物が整理されておいてある。

「あれから何日経ちました。」

「3日だ。りんご食べるか?」

 3日?僕は指でここまでの日程を数えた。指は6で止まった。聖京都を出てから、6日が経っている。

「明日には会議が開かれるのでは?」

「そうだな。」

 ライガはリンゴを切りながら適当に返事をした。そして、切り終わったリンゴを皿に乗せ僕の横に置いた。

「食え。まずは体力の回復だ。どうした、腹減ってないか?ゆっくりと噛んで食べろよ。」

 僕はライガの顔を見た。

「ライガさん、いつ出発するのですか?」

「そうだな。お前が回復してからだから、あと、3日後かな。」

「そんな、3日後って、遅すぎます。討伐隊が出てしまいます。」

 ライガは僕の肩に手を置く。

「まずは落ち着け。今回は軍も動くらしい。」

「軍?」

「国王軍がまず、先発で死狂の館を攻撃して、その後に、先鋭部隊が再度館に突入して中のモンスターを殲滅する。国王軍の中には、魔法封印に特化した部隊がいる。その部隊が死狂の館に掛けられている魔法封印を封じる。そして、中にいるモンスターを引き釣り出す。最後に王下聖騎隊の先鋭チームが中に入る。だから、俺たちはその先鋭チームに合流出来れば問題はない。」

 ライガは僕の肩を再度強く握り。

「だから、まずはゆっくりと休め。」

 僕はそれを聞くと安心して、リンゴを食べ始めた。


「ナギト、お前の魔法剣士資質の有名人って知っているか?」

 僕と同じ資質?考えた事もなかった。

「誰かいますか?」

「4英雄だ。」

 僕は首を捻った。

「4英雄?3英雄の間違いですよ。」

 ライガは椅子をくるりと反対にして背板側を正面に向けて両手を背板に乗せて話し出した。

「お前の知っている通り、3英雄とは聖の英雄ウリエル(聖京都を建てた人物)火炎の英雄マリーナ、大地の英雄ウルロール。これが帝国史で習う3英雄だ。しかし、実際には魔王退治に出向いた英雄一行は百人以上いる。そして、最終の魔王城への戦いに向かったのは8名。4英雄と4人の従者だ。4人目の英雄がなぜ英雄として記録されていないか。それは、戻ってこなかったからだ。」

 ライガは話を続ける。

「マナの英雄と呼ばれるエイディ。彼は自分自身の命と引き換えに魔王を封印した。その恩恵によって、3英雄と4人の従者は無事に戻ってきた。この事を帝国の皇帝に報告したが、皇帝はエイディを英雄とは認定せず、3英雄が一般的な称号となった。しかし、各地に戻った3英雄と4人の従者はエイディを称え、マナの英雄と呼び、魔王封印の功績を称えた。」

 ライガは上を向いて、暫く黙ってから、再び話を続けた。

「昔は聖京都では4英雄として歴史を学んだが、最近は帝国の学校出の連中が、帝国史を押し始め、エイディの存在が消えてしまった。」

 その歴史は知らなかった。むしろ、本当かと疑問にさえ思う。

「そうなんですか?」

 ライガはこちらの疑問に回答もせずに話を続けた。

「そのエイディが魔法戦士資質だったと言われている。どうだ。自分の資質に興味を持ったか?これは聖京都に残る資料の中にあった聖の英雄ウリエルの言葉だか、『マナの英雄がいなければ、未だにこの地は魔王の支配下にあっただろう。』」

 ライガは僕の方をはっきりと見た。

 「俺もそう思う。お前の「マナ寄せ」はバンパイアを倒す切り札だ。だから、ゆっくりと休んで戦いに備えろ。」

 そこまで言うとライガは部屋から出て行った。

 マナの英雄か。いったいどんな人物だったのだろう。僕はマナの英雄の事を思いながら、もう少し休む事にした。


 更に2日が経った。ようやく僕も起き上がれる事が出来る様になった。下に降りていくと、宿屋のおばさんが迎えてくれた。何度か食事を運んでくれた人だ。

「おや、元気になったね。仲間は庭に居るよ。」

 そう言われたので僕は庭の方へ行った。食堂を通とそこに大きな庭があり、犬が飛び跳ねていた。手前にマルマルがいた。マルマルは僕に気づいて近づいてきた。

「ナギト見ろ。今回の収穫だ。」

 そう言って袋を開いて見せて来た。中には光輝く鉱石が入っている。数にして10個は越えていた。


「幻吸鉱だ。ま、一年後にはただの光の鉱石だがな。」

「え、5個まででは?」

 マルマルは知らん顔で、庭に出て行って、犬と戯れだした。僕は話を聞こうにもいなくなってしまった。

 おーい、5個以上は没収だぞ。

「心配するな。俺が許可した。」

 僕の裏から声がした。ゴアだった。

「ゴアさん、良いんですか?ルールは5個では?」

「心配するな。お前が使うんだろ。あのバンパイアは強敵だ。なら、多少多めに持って行っても問題ない。それに、あそこをつるはしで突っついた時に12個出て来た。不可応力だ。」

 ゴアさんって結構アバウトな性格なのか?でも、こっちも幻吸鉱は貴重な戦力、多く持てる事に越した事はない。その時、ふとあの後の事が気になった。

「そういえば、ドランゴンはどうなりました?」

「聞いてないのか?」

 ゴアは庭を指さした。庭にはマルマルが犬と戯れている。

「マルマルさんが倒した?」

 ゴアは首を横に振る。何?僕はもう一度庭を見た。ふと、犬の背中に羽が生えている。まさか?僕はゴアを見た。

「あの犬がドラゴン?」


 ゴアが簡単に説明してくれた。

 僕はマルマルの鉱石から1個抜き取り、その鉱石をマナ寄せして、ドラゴンのブレスに合せてマナ返しをした。そこまでは覚えている。マナ返しで、ドラゴンは入り口付近に弾き飛ばされた。その衝撃で入り口付近の岩が崩れ始めた。入り口が崩れると帰れない。しかし、ここまで来て、幻吸鉱を諦める事が出来なかったライガはつるはし持った。そして、先程掘った箇所を思いっきり掘り起こした。何度かつるはしを当てて掘り進めると、幻吸鉱が12個落ちて来た。

 マルマルがその幻吸鉱を拾い集めると、ライガが僕を背負って、地下7階から出ようとした。その時、入り口で闇のマナを失って小さくなっているドラゴンを見つけた。

 ゴアは構っている暇はない、逃げると言うと、ライガはゴアに僕を預けた。そして、ドラゴンの上の岩をどけて、ドラゴンを連れて脱出した。


 僕があの時、ドラゴンに「マナ返し」に使った鉱石は「聖の鉱石」であった。マナ返しでドラゴンの中に充満している闇と邪のマナを吐き出させた為、マナが無くなり、その分、身体が縮むんだ様だ。その上、邪のマナが無くなり、すっかり無邪気になって、庭で戯れている。

 その後、ドラゴンはどこかへ行くかと思っていたが、ライガに慣れて洞窟からずうっと後を着いてきて、あの通り、全員に懐いたという事らしい。

 ドラゴンって大丈夫なのか?すると、マルマルと一緒にドラゴンがやって来た。僕は一瞬ためらった。お前を倒そうとした人間だぞ。恐る恐るドラゴンを見ると、ドラゴンはしっぽを振って、無邪気に僕の足に頬ずりをしてきた。

「か、可愛い。」マルマルが棒切れを僕に渡して、頷く。

 僕は棒切れを投げると、しっぽを振って取りに行き、棒切れを咥えて戻って来た。

 まんま犬だ。

 僕が棒切れを受け取ると、そのまま僕の手をなめた。これ、背中に羽の飾りを付けた犬だろと思える。ドラゴンを飼っているなんて聞いた事がない。

 どうやら、ブレスは使えないらしい。尾撃は小さくなり過ぎて、攻撃には不向き。ただ、熱波だけは普通に使えるという。そこまで調教したのか?不思議に思ったが、ツッコミはやめておいた。


 夕方、出掛けていたライガが帰宅した。

「電報が来た。明日、先発隊が出発する。ナギト体調はどうだ?」

 僕は頷いた。

「よし、明日、出発する。準備をしておけ。」

 いよいよ、バンパイアとの戦いが始まる。マナの英雄エイディまでは無理だけど、僕なりにがんばるしかない。僕は荷物を整理しながら、戦いに向けて気合を入れた。

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