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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無職の伯父を引き取れと言われたが、血のつながらない家族に助けられた話

作者: 山田 勝

この話は体験半分、後、もう半分は、ニートで苦労している人から聞いた話を基に作りました。



 ゴールデンウィークの初日、朝5時に、警察署から電話がかかってきた。


「山田さんの家ですね。勝さんですね。お話があります。土田舎署まで来て下さい」

「どのような用件ですか?」

「来て頂ければ分かります」

「え、貴方のお名前は?」

「田中です」

「フルネームでお願いします」

「田中です」


 怪しい。警察官はありきたりの名字しか名乗らない。

 この土田舎警察署は、『事件性は認められませんね』とか言って突き放す。評判はあまり良くない。


「まあ、行きます」


 警察に呼ばれる理由は思いつかない。身に覚えがない。


 コーヒーで目を覚まし。

 書き置きを残しておく。


 土田舎署に呼ばれました。と書いておいた。



 ☆土田舎署


 警察署に着くと、一階に3人の警察官と、1人のデブ男がいた。

 40代くらいか?ジーパンに、長袖のシャツ。

 首回りに肉がついて、だらしなく見える。


(((ホッ)))


 警察官の顔に、安心した様子が出ている。



「山田さんですね。この方は、貴方の伯父の山田守さんです。身元お引き取りをお願いします」


「はい?!何をしたのですか?」


 ・・・俺の伯父は、何もしてなかった。

 ただ、お腹を減らして、住宅街をウロウロしていただけだ。


「祖母がいるでしょう?」

「詳しくは、伯父さんから、聞いて下さい」


 さあ、さあ、と言わんばかりに、伯父を押しつけられ、車に乗せる。


 デブだからか。大きなバックを抱えて、後部座席に座った。


 伯父とは長いこと会っていない。


 そう言えば、祖父の葬式の時にも会わなかった。

 俺が中3の時だ。


 祖母に義母と共に別室に呼び出された。


「勝を、うちの養子にしたい。もう、畑仕事は疲れたわ。畑仕事をやってもらうわ」

「守さんがいるでしょう?」

「・・・部屋から出てこないのよ。気持ちが弱くてね」


「断ります。勝は、高校が決まっています!」

「夜間、通信に変えればいいわ。働きながら勉強している子、沢山いるって聞いたわ。本家の危機よ」

「絶対に無理!」

「しかし、この子は貴方とは血がつながっていないわね。連れ子の靖子ちゃんと同じ屋根の家にいたら間違いがあったら遅いわ・・・生活も楽になるわよ」

「勝、行くわよ!」


 義母は珍しく俺の意見を聞かずに、手を引っ張って、部屋を出た。

 義母は、洋服のお直し屋さんを経営している。親父の保険金に手をつけないぐらいは繁盛している。

 それから、10年、祖母の家には行っていない。


 ・・・・・


「伯父さん。何が起きたの?」

「・・・・・・・」


 何も答えないと思ったら、


「ゲ〇か、ツタ〇、ある?」

「え、近くにはないかな。車で30分くらい。家族もほとんど行かないよ」

「何か良いDVDあるの?」

「え、今はネトフリとかの動画配信サービスが主流かな」

「・・・・・」


 あ、黙っちゃったよ。もしかし、家に居着いて、レンタルで借りて、映画でも見る気なのか?


 ☆家


 家に着いた。伯父を車の中に入れたまま、家に入る。


 オロオロオロ~


「勝!緊急の時は、私か、靖子を起こしなさい!靖子は、法律事務所に電話をかけようとしていたのよ!」


 あっ、スマホ、鬼電状態だ。


「ごめんなさい。朝早かったから、実は・・・」


 俺は今までの経緯を話した。


 義姉、靖子は


「・・・捨ててらっしゃい。捨ててくるまで、家に入れないから」

「行き先が、決まるまで、庭のプレハブ小屋に入れていい?」


「絶対にダメ。ああゆうのは、一度、居着いたら、離れないのよ。妖怪引きこもりニートよ」


「分かった」


 ・・・犬猫かよ。



 ☆午後


 今、ショッピングモールにいる。

 1万円だ。伯父に午前中だけで、約1万円使った。


 朝ご飯、俺が、500円の朝定食を頼んだのに、伯父は1000円のハンバーグ定食。

 臭いので、安い服を買い。スーパー銭湯へも連れて行った。

 後払い方式だ。


「えっ、足りない?千円渡したよね」


 ・・・・


「刺身定食を頼んだって。また、食べたの?」


 ショップで携帯を充電し、Wi-Fiを無料で使えるこのフードコーナーで、求人を見てもらっている。

「新聞配達とか、パチンコとか、即日入寮可のを探してね」


 あれ、携帯、しかもiPhoneが2つある。

 1つは、ゲーム用?

 意味が分からない。


 携帯は止められている。


「5万円貸して、電話が通じなければ・・就職できない」

「無理」

「チィ」


 舌打ちされた。


「じゃあ、荷物の中身、コレクションでしょう。売れば?」

「絶対に嫌だ!娘達は売れない!」


 ・・・うわっ、気持ち悪い。


「とにかく、履歴書を書いておいてね。500円置いておくから、マックでコーヒーでも頼みなよ。昼飯、さっき食べたから大丈夫だよね」


 ・・・


 俺は、事情を調べた。


 スマホで、祖母の住所地をググる。


 あ、売地で出ている。

 サラリーマンが、老後のための住居か、別荘として買える値段だ。

 家はリフォーム可能。


 こりゃ、祖父の遺産を食い潰して、年金だけでは暮らせない祖母が、伯父に嫌気がさして、最後の財産を売りにだして逃げ出したな。

 そして、雲隠れをした。

 親戚か施設だろうな。


「あいつに相談するか」


 俺は、中学、高校の同級生だった女子、佐々木に携帯で、事情を話した。

 地元でも有名な名家だ。

 会社をいくつか持っている。『源頼朝将軍商事』みたいなふざけた名だが、地元では名が通っている。


 パカパカパカ。


 佐々木は、待ち合わせの河原の運動公園の駐車場に、馬に乗ってやって来た。

 彼女の一家は、馬を飼っている。

 佐々木は、国体にもでられる腕前で、そこで、有名企業のご令嬢と仲良くなり、地元の祭りでも、女武者として、行進して、更に、地元の有力者から、覚えがめでたくなっている。


 面倒見も良いが、ひっくり返ると、地域のボスにもなる厄介な存在だ。


「これが、引き取り物件ね」

 佐々木は、下から上までなめるように伯父を見る。

 品定めをする視線を隠さない。


「分かったわ。勝君の頼みなら、引き取ってもいいわ。でも、寮費一月、4万5千円、三ヶ月、13万5千円、日曜日以外は3食ついて、冷暖房完備、電気ガス、共同風呂まで付いているわ。

 先払いでお願いします」


「・・・・・お、お、お」

 伯父が何か言っている。

 興味を示したようだ。

 俺をチラチラ見ている。

 貸せということだな。


 どうするか。13万5千円で厄介払い出来れば、安いのか?


「20万円・・・貸してくれ」


 金を貸してと頼むのに敬語を使えない・・しかも、13万5千円ではない。ダメだな。伯父は、


「ダメよ。自分のお金で払いなさい。その荷物の物を売れば?勝君のお金だったら受け取らないわ」


「ちょっと、佐々木」


 俺は、伯父を車に乗せ。佐々木に真意を聞く。


「本当は雇う気ないでしょう?」

「ううん。チャンスをあげようと思ったよ。バックにお宝入っているでしょう?あのおじさんは何故売らないのかしら。売ったら、足りない分は待ってあげても良いと思っていたわ」


「さあ、一度売ると、もう、手に入らないって言っていたよ」


「うちの仕事は日給月給制よ。仕事に出なければ、給料はもらえない。あの男は、引きこもりニートでしょう?最低、寮費だけは回収しておきたい。でないと、損失が出るわ。勿論、三ヶ月前に辞めたら、寮費は、日割りで返すわね」


「ああ、なるほどね。最初はお試し期間で、バイトのように社会保険もいれない。ズル休みをしたら、クビを斬る」


「それで、貴方に貸しを作って、源頼朝商事の工事課長か、総務課長にでも、なってもらおうと思っていたのよ。貴方、ズル休みしないでしょう?職人さんたち言っていたわ」


「ああ、まあ、そうだけど」

 俺は中堅のゼネコンに入社し、佐々木の会社の現場とも面識があった。


 ・・・この土建業界、突発で休むのは嫌われる。信用のある人が、病気で休むと、

『あの人が?大変だ。不幸があったのか?』


 となるが、一月に1回ぐらい突発で休むのが続くと、


『ズル休みしやがって』


 となる。


 共同作業だ。突発で休むと、周りが困る。


 有給を取るときは、前もって、関係者に言っておけば大丈夫だ。


 これは、どこの業界も同じだな。


 ピロピロ~


「悪い。佐々木、義姉さんからだ。取って良い?」

「ええ、いいわよ」


 ・・・・


「すぐに、帰って来なさい。あの男は、庭に入れてはダメよ」

「・・・はい」


「佐々木、ごめんね。義姉に呼ばれた」

「そう、考えておいてね」


 ・・・危うく、人間関係がずっぼし濃い地元企業に転職させられるところだった。



 ☆家


 家に帰ったら、知らない男がいた。義母のお兄さんのようだ。


「よお。初めてだな。君の義母さんの兄だ。叔父さんにあたるのかな」

「初めまして、山田勝です。いつも、義母さんにはお世話になっています」

「ああ、以下省略、君の話は良く聞いているよ。ところで、お荷物、どこよ?!」


 ・・・


「初めまして、佐藤大作です。東京で内装業の社長をしています」

「・・・・・」

「挨拶出来ないってか?」

「・・・・あ、あ、うん」


 バシ!


 ・・・ヒィ、社長、ビンタしやがった。警察を呼ばれたら厄介だぞ。あ、そうか、携帯は止められているのか。


「け、警察、呼ぶ・・・」

「ビンタなら暴行罪だ。そんなしょっぱい罪で、こんな田舎警察が来るか?『事件性はありません。身内で解決して下さい』ってなるのがオチだ。

 それに、誰が証言する。ほら、ほら、警察を呼んでみろ」


 ・・・ビンタは傷害罪でなくて、暴行罪・・本当かよ。


 結局、社長は、財布を出させて、伯父の持っている所持金800円を取り。俺に渡す。

 残り、伯父に使った金額は、借用書を書かせた。


「服まで、甥に買わせたのか?しょうがないな。勝君、残りは勉強代だ。まあ、どうせ、この男、一万円も稼げないよ」


 伯父は社長が乗ってきたバンに乗せ。


 寿司を取ることにした。社長に対する礼だ。



「・・・・なるほど・・警察はその手で来たのね。今日、役所は休み。福祉課がやっていないから、こちらに押しつけたのね」


 義姉さんが、説明してくれた。


「次からは、警察が理由が言わないで、来て下さいと電話があっても無視しなさい」


「はい、身に染みました」

「ところで、どうして、家に入れないのですか?風呂に入れたから、綺麗ですよ。あのプレハブ小屋でも」


「それは、おいおい分かるかもね。その時の行動で、後で面倒なことになることってあるのよ。それに、あの大きな男が立てこもったら、追い出すにも一苦労だわ」


 ・・・


「勝君、タバコ付き合え。外にでようか?少し話がある」

「タバコは吸いませんか・・・分かりました。叔父さん付き合います」


 ・・・


「なあ、靖子ちゃん。どう思う?」

「え、怖いけど、優しい自慢の義姉さんですよ」

「そうか、俺の勘だと勝君、狙われているぜ」


「ええ、それはないですよ。義姉が俺を異性として見ているなんて、あんな美人さんモテるでしょう」

「はあ、分かってないな。あの葬式の後、俺に電話があったぞ。いざとなったら、俺のところで勝君を、雲隠れしてもらおうとな」


 ・・・ああ、そう言えば、あの時、親父の親戚連中も祖母に賛同して、俺に家を継げって、騒ぎになったな。

 名目は、山田家の次期当主だが、祖母と伯父を扶養しろってことだ。


 こんな兼業農家に次期当主なんて、すげえ言い方。


 あっ、山田本家は、これで、途絶えたことになるな。


 姉ちゃんと艶っぽいイベントなんて、無かったな。

 そう言えば、俺がこの家にいていいのか悩んでいたとき。


 ☆


『勝・・・来なさい』


 俺は義母がいないときに、義姉に部屋に連れて行かれた。

 ドアを開けると、義姉さんの部屋には、下着が干されている。

 ピンクと白だ!


『ヒィ、義姉さん。これは?』

『いいこと。勝は気を使って、洗濯機、私と母さんの洗濯物があると、自分で取り出さないでしょう?男の兄弟がいる家庭は、女は下着を夜に洗って、部屋で干す物よ。だから、遠慮無く洗濯物を取り込んでいい・・・あら』


『見せなくていいよ!』


 俺は、すぐに、目を覆って、部屋から逃げ出した。


 このことか?いや、それから、義姉と気まずくなって話さなくなったな。

 しかし、俺が義母と義姉と一緒に生活をしていいかなんて、悩みは吹っ飛んだな。

 義姉さんなりの励まし?



「伯父は、社長のところで雇うのですか?」


「いや、放流する。この業界には、人を放流する場所があるよ」


 怖い。意味深だな。


「勝君は知らなくてもいい。彼は働く気のないホームレスになるんだよ。ていうか、今も働く気のないホームレスだから相応しい場所に行ってもらうだけだ」


「ホームレス・・まあ、そうですね」


「ああ、昔はボランティアでホームレスを引き取ったが、自分を助ける気のあるホームレスは、このご時世の人手不足で、とっくに更生しているのよ。残っている若いホームレスは、カ〇ばっかりだよ。

 何故、引きこもりになったか知らんけど、こればかりは、自力で這い上がるほかはないな」


 と言って、伯父を連れて、去って行った。


 ☆その後


「はあ、警察ですか?理由は?答えなければ行きませんよ」


 と電話を切ったら、今度はパトカーで来やがった。


 義姉が対応してくれた。


「この男は、一度も家にあげたことありません。保護責任は生じていませんし、勝は、一度もその男から、援助をされたこともありません。

 逆に、今、お金を貸している状態です。

 どうしても、勝に扶養せよと言うのなら、家庭裁判所に申し出て、扶養する何か特別の事情があると、立証してからにして下さい」


「扶養だなんて、大げさだ。就職決まるまで、親戚なんだから、面倒を・・」


 キッ!


「分かりました・・・他を探します」


 パトカーに乗っている伯父をチラと見た。

 あれ、バックを持っているが、中はスカスカだ。

 コレクションを売ったか?

 あんなに、売らないと言っていたのに、


 警察は義姉のニラミで帰って行った。


 民事不介入じゃなかったのかよ。


「多分、どこか施設に入れようとしたけど、手続きで時間がかかると役所に言われて、うちに来たのでしょうね」


「まあ、だから警察が来たのか」


 伯父は、社長に〇野のホームレス収容所に、ホームレスですと、連れて行かれたらしい。


 まあ、確かにホームレスだ。


 そこは過酷な環境で逃げて来た。


 ホームレス同士でも、マウント取り合戦がすごいらしい。


「だろ、勝君。人間は収まる場所があるよ。収容所に連れて行ったけど、平日に来て下さいと言われたよ。面白いね。ホームレスがいても役所はカレンダー通りなんだよ」


 と社長は後日、言った。


 伯父はやっと、働く気になったらしい。

 伝え聞くに、工場派遣に辛うじて入ったとも、南房総のどこかの道の駅で、農作物の店員をやっているとも聞く。

 まあ、自分でも驚くほど、興味ない。



 ☆動物公園


「さあ、今から、ハイエナのガオ君が、骨をまるごと、パクパクしちゃいます!危険ですので、オリに近づかないで下さい!」


 動物公園で、義姉とハイエナショーを見ている。

 迷惑を掛けたお礼に何かしようかと言ったら、ここに一緒に来て欲しいと言われた。

 男除けだ。義姉は1人でいると、ナンパされやすい。



 人はまばらだ。演者のお兄さんが、どこかの動物のデカい骨をハイエナに見せている。


 ハア、ハア、ハア


「スタート!」


 パクパクパク!


 ・・・うわ、すげ、骨を食べている。


「いい。勝。世の中弱肉強食と言うけども、弱い立場の者が、弱者と言う強者の衣を着て、あのハイエナ君のように、バクバクするものなのよ。ニートを生涯養う予算。老後の資金を食い尽くし、家から活力を無くして、資産をパクパクしていくのよ。ハイエナ君と違って、時間をかけて、ゆっくりだけどね」


「分かったよ。靖子さん」


 義姉は法律事務所に勤めている。きっと、家族内の争いを見て来たのだな。


 軽い気持ちで、伯父を家にあげていたら、死ぬまで、脛をかじる。いや、ハイエナのように、骨まで食べられただろうな。





最後までお読み頂き有難うございました。

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[一言] 義母、義姉がしっかりしていて良かった。
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