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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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97 人狼VS騎士

 ヴェルフは答えなかった。どうやら隣にいるおじさんを見ているらしい。

「こんなとこに一般人のおじさん……?」

 後ろで観戦しているシアも首を傾げた。

 半袖短パン姿の、お腹が出ている中年の男性。腰に剣を差しているが、それでも兵士ではなく、休日の近所のおじさんのようにしか見えなかった。隣に、筋骨隆々で背も高い、豪奢な鎧がお似合いの如何にも騎士な老兵がいるので、よく言えば従者にも見える。しかしおじさんは、こんな状況なのに物怖じせずにどっしりと立っていた。

 如何にもな騎士が、瞳に怒りの炎を宿しながらスラリと剣を抜いた。そのまま大股で歩み寄ると、突然、老人とは思えない俊敏さで、よそ見しているヴェルフに躍りかかった。

「答えろッ! 人狼ォオオオ!!」

 ガッキーン!! 二人の剣がぶつかり、火花が散った。まともに受け止めてしまったヴェルフは、身体の芯まで痺れるような衝撃に襲われた。

「へぇ~、なかなかやるな、じいさん」

 ヴェルフはニヤリと笑った。ドレスラーは怒りを露に叫ぶ。

「これが我らの力だァア!!」

 ドレスラー単体の力だけではなく、我に返った魔法部隊がドレスラーを強化していたのであった。今までは兵士たちに分散していた魔法が、今はドレスラー一人に集約しているのである。ドレスラーの力は何倍にも引き上げられて、獣人にも引けを取らない。

 それだけではなく、エリートを豪語する王の盾の隊長だけあって、ドレスラーは剣技も一流だった。斬り下ろし、斬り払い、突き、また斬り下ろし、そして斬り上げる。目にも止まらぬ剣撃が、一瞬の遅滞もなく流れるように連続する。激怒しているにもかかわらず、その剣に一切の乱れはない。それは何十年の鍛練の賜物で、一分の隙もない教科書通りの剣技だった。魔法で強化されているのもあって、並大抵の獣人であれば、五秒もかからずバラバラにできたであろう。だがしかし、ヴェルフには当たらない。

 ドレスラーの激しい剣撃を、ヴェルフはひらりひらりと踊るように回避していた。幾つもの戦場で猛者たちと武を競い合ってきたヴェルフにしてみれば、きっちりかっきりした教科書通りのドレスラーの剣は、悪くいってしまえば単純で、太刀筋を読みやすかったのだ。教科書から抜け出せていない剣など、剣を使うまでもない。体捌きだけで簡単に避けることができた。

 避けるだけで攻撃してこない人狼に、ドレスラーは一段とヒートアップしてしまう。

「ちょこまかちょこまか、鬱陶しい……! 正々堂々勝負しろッ!!」

 カレルセ貴族らしい、尊大で身勝手な物言い。ヴェルフは鼻で笑った。

「ハッ! 何が正々堂々勝負しろだ、テメェの得意分野に付き合わなきゃ全員卑怯か? 当てられないので力勝負にしてください、だろ?」

「調子に、乗るなァア!!」

 キレたドレスラーは、一気に決めようと大きく踏み込みながら剣を振りかぶった。が、ヴェルフはそれより速く動き、左ストレートをドレスラーの顔面に叩き込んだ。

「テメェらごとき、剣を使うまでもねぇよ」

 ノビているドレスラーに、ヴェルフが涼しい顔で言った。

「終わった……。あんなにいたのに、こんなにあっさりと……」

 やっぱりヴェルフはスゴかったんだ、と、シアは再確認した。そのとき、前からエルの声がした。

「あら、まだ終わってないわよ」

 エルは、いつの間にか馬車から降りて、馬を撫でていた。よく見ると、ヴェルフもまだ剣を収めていない。

(まだ後ろに魔法部隊が残っているけど、彼らは援護専門っぽいし、倒す必要あるの?)

 シアは眉をひそめた。

「オイ、オッサン! アンタはどうすんだ?」

 要塞入り口で腕を組んで静観している謎のおじさんに、ヴェルフが剣を向けて聞いた。

「えっ! おじさんの方!?」

 シアは驚いた。しかしおじさんは、

「どうする? そうだな……」

 と、腕を組んだまま悩んでいるように言った。すると、エルが叫んだ。

「ケガさせちゃダメだからね~~!」

 エルの声にしては、いつもより半音ほど高いように思えた。『姫モード』ともどこか違う。

「そうこなくっちゃなぁ~」

 ヴェルフが嬉しそうに言った。

「いいだろう」

 おじさんも軽く笑うと、動き出した。ゆっくりとヴェルフに近づきながら、剣を抜く。

 その姿に、シアは嫌な予感を覚えた。おじさんの纏っている雰囲気が、ヴェルフやエル、そしてマイたち四天王と同じ、強者の雰囲気に思えたからである。

 強者の雰囲気。おそらくそれは、自分自身に対する絶対的な自信が溢れ出しているのだろうと、シアは考えていた。何が起きたとしても自分なら対処できる。そう信じているからこそいつ何時でも冷静でいられるし、冷静だからこそ何事にも対処できる。そして、その超然とした態度に周りは勝手に畏縮してしまう。

「ウィンストン殿、我々も援護致します」

 おじさんが隣を通ったとき、魔法部隊の面々が膝を折って声をかけた。

「いや、人狼は私一人で相手をする。君たちは、倒れている仲間の手当てをするといい」

 おじさんがにこやかに言った。魔法部隊の面々は一瞬顔を見合わせたが、すぐに頭を下げた。

「……ありがとうございます」

 そう言うと、魔法部隊はすぐに立ち上がり、仲間の元へ急いで行った。人狼を避けるように、大きく迂回して。その背中に向かって、おじさんは思い出したように声をかけた。

「馬車には手を出してはいけないよ!」

 それから、魔法部隊が二人の間から去るのを待って、

「待たせたね。では、我々もはじめようか」

 と、おじさんはにこやかに剣を構えた。ヴェルフも笑う。

「んじゃ、行くゼ!!」

 ヴェルフはダッと地面を蹴って、おじさんに向かって突進した。おじさんは泰然と待ち構える。

「はじまった……!」

 シアは思わず息を呑む。

 ヴェルフは一気に間合いを詰めると、勢いそのままに剣を振り下ろした。おじさんは、それを振り払うように剣を振る。

 ガッーキンッ!! 二人の剣が十字に交わり、鋭い金属音が鳴り響いた。そして、ヴェルフが吹き飛ばされた。

「うおっ!」

 ヴェルフは空中でくるんと身体を捻り、何事もなかったかのように着地する。

「ウソッ!? ヴェルフが打ち負けた!?」

 驚きのあまり、シアは御者席から落ちそうになった。だが、エルはあっけらかんと言う。

「でも、おかげで見やすくなったわね」

 横方向にヴェルフが弾き飛ばされたので、確かにシアたちの位置からだと二人の戦いが見やすくなったのだが、そんな暢気なことを言ってる場合なのか? と、シアは思った。 

「流石は人狼、見事な身体能力だね」

 おじさんが余裕の笑みで言った。

「アンタこそ、ヒトにしてはすげぇ力だ、な」

 言うと同時に、ヴェルフは懲りずに突っ込んでいった。

「また!?」

 同じてつを踏むようなヴェルフではない。あえて同じ行動を取ることで、おじさんの油断を誘う作戦だった。しかし、おじさんには微塵の油断すらなかった。

(まぁ、引っかかるわけないよな……)

 ヴェルフは心の中で呟くと、すぐさま作戦を変更し、圧倒的なリーチ差を生かして戦うことにした。おじさんの手前、自分の剣は届くがおじさんは一歩踏み込まないと届かない絶妙な距離で止まり、一方的に攻め立てる。

 まるで線香花火のように、二人の間に無数の火花が飛び散った。

「なんて戦いなんだ……」

 本当に殺す気ないの? と、聞きたくなるほどヴェルフの剣撃は激しかった。しかし、おじさんは微笑みながら全てを受け流す。あまりの速さに、シアは目で追うので精一杯だった。

「ふむ、流石に人狼の身体能力は凄まじいな。しかし、それにかまけているせいか、剣術の方はイマイチだな」

 一見、激しい剣撃でヴェルフの方が攻めているように見えるが、実際はヴェルフの方がじりじりと後ろに下がっていた。おじさんは一歩も退かずにヴェルフの剣を受け流し、要所要所で踏み込んで鋭いカウンターを放っていたのだ。ヴェルフはそれを身体能力でなんとか紙一重で回避、いや、髪の先を斬られながら回避していた。

 人狼は、獣人の中では非力な種族だった。そのため、ミノタウロスやトロールのような力任せの戦闘スタイルではなく、速さと手数の多さで敵を撹乱し、一瞬の隙を突く戦闘スタイルだった。しかし、どれだけ速く攻め立てようと、おじさんにはまるで隙が生まれない。脚を使って撹乱したいが、無駄な動きをすればたちまち鋭いカウンターの餌食になる。ヴェルフの本能がそう告げていた。せめて森の中であれば、樹などの障害物を盾に撹乱できたかもしれないが。

(まいったな、ここまで強いとは……)

 ヴェルフは、内心苦笑いだった。それでも負けを認めるつもりなど毛頭ない。

「あのヴェルフが、押されてる……。あのおじさん、一体何者……!?」

 シアは呆然と呟いた。

「彼はウィンストン。マギア騎士団の元団員です」

 質問ではなかったのだが、隣にいるスパティフィラムが教えてくれた。

「マギアの騎士!!」

「そうよ、元であの強さ。現役の四天王はもっともっと、比べ物にならないくらい強いわよ。それでも、まだ一緒に来るつもり?」

 振り返ったエルが脅すように言った。だが、シアは即答する。

「もちろん」

「……バカ」

 エルは、ぷいっとそっぽを向いた。

「ほらほら、そんなに動き回るから、息が上がってきてるじゃないか。身体能力に頼りすぎるのは、あまりよくないぞぉ~?」

 嵐のようなヴェルフの剣撃を受け流しながら、ウィンストンが笑った。

「はぁはぁ……、うるせー……。……そう言うアンタは、もう少し、動いた方が、いいんじゃないか?」

「ぐっ……」

 ずっと余裕の笑みだったウィンストンの顔が、初めて嫌そうに歪んだ。だからといって、隙が生まれることはない。

「そんな嫌味を言ったところで私は倒せんぞ。口を閉じて手を動かせ」

 ぶすっと言うウィンストンに、ヴェルフはニヤリと笑った。

「イヤだね」

 何か感じ取ったのか、ウィンストンは、ヴェルフから距離を取ろうとした。が、遅かった。

 次の瞬間、ヴェルフが吠えた。

「ワッ!!!!」

 ヴェルフの咆哮は、まるで近くに雷が落ちたような耳をつんざく轟音だった。森中の鳥が一斉に飛び立つ。

 それは、人狼の奥の手の一つだった。大声で吠えるだけの単純な攻撃。だが、いくら強くなろうとも、突然の轟音の対処方法は限られる。ウィンストンはその中でもっとも速効性があり、かつ簡単な方法を反射的に取った。つまり、両手で耳を塞ごうとしたのだ。

 その瞬間、ヴェルフが待望していた隙が生まれた。

「俺のッ!」

 ヴェルフは、ウィンストンの剣を弾き飛ばし、両耳を塞いでいるウィンストンの首元に剣を突き付けた。

「……勝ちだァ!!」

 ヴェルフは肩で息をしながら嬉しそうに言い、

「まいったよ、口で私を倒すとはね」

 と、ウィンストンは耳を塞いだまま素直に称えた。

 そこへ、シアたちが馬車に乗って近づいてきた。三人とも御者席に座っている。

「おお~エルちゃん、お帰り~~」

 御者席から降りてくるエルに、ウィンストンがにこやかに言った。やはり、どこからどう見ても普通のおじさんにしか見えない。

「ただいま、おじさん」

 エルもにこやかに言った。やはり、半音ほど高いように聞こえる。いわゆる、よそ行きの声なのだろうと、シアは思った。

 「このオッサン、やっぱりマギア関係者だったか」

 ヴェルフが剣を仕舞いながら言った。耳が良いヴェルフでも、戦闘中では聞き取れなかったらしい。

「ああ、私はウィンストン。これでもマギアの元騎士だ」

 ウィンストンは、立派なお腹をポンと叩いて言った。

「分かっているのなら、少しは痩せたらどうだ、ウィンストン? 明らかに動きが鈍くなっているぞ」

 スパティフィラムが呆れ気味に言った。鈍ってアレ? と、シアは一人で驚いていた。

「ははは、相変わらず手厳しいな、スパティ。娘にも煩く言われて、ここの警備と彼らの訓練を引き受けたんだが、いかんせんここにはマギアにない珍しい酒が多くてなぁ」

 ウィンストンは頭をかいて苦笑いした。それから、

「そんなことより、彼らは誰なんだい?」

 と、分かりやすく話題を逸らした。

「今戦った人狼がヴェルフで、こっちのはシア」

 エルが簡単に説明した。ウィンストンは、少し目を見張ってシアを見た。

「おぉ~、彼がシア君か。なかなか精悍な面構えだ」

「オレのこと知ってるんですか?」

 シアは驚いた。

「あっいや~、四天王から聞いたんだよ。亡命者の訓練のためにここに来てたからね。そうそう、ついさっきまでドミニクと一緒に亡命者の訓練をしていてね。それで──」

「ドミニクが来ているのか、ここに?」

 話をぶった切ってスパティフィラムが聞いた。少し間をあけて、ウィンストンは質問の意図を理解したようにポンと手を打った。

「残念だが、ドミニクはもう帰ったよ。でも大丈夫。転送魔法なら、私が本国に要請するから。今から要請すれば、明日の朝には使えるはずだ。部屋を用意するから、今日は泊まっていくといい」

 ウィンストンのありがたい提案に、エルは嫌そうな顔をした。

「明日の朝? それなら馬車で行っても大差ないし、馬車で行くわ。おじさんの手を煩わせるのもあれだし……」

「ちょっと待てよ、姫サマ。大差ないなら、普通魔法一択だろ? あんな狭いとこで寝れるガキはどっちでも良いだろうけど、俺たち大人は疲れんだよ。それに、ここまで走りっぱなしで、馬たちだって疲れてるだろうしさ」

「それは……」

 エルは、愛馬の方を見た。ヴェルフが疲れるのは別に構わないし、スパティフィラムはそれくらいでは疲れないと思う。だけど、馬のことを言われると弱かった。

「……わかったわ、転送魔法の方にしましょう。おじさん、お願いします」

「ああ、いいよ。それで、今日は何の用で帰ってきたんだい? あぁ~いや、帰って来るのに理由なんて要らないんだが……」

「王位継承戦に挑戦するの」

 何気なく聞いた質問に、あっさりととんでもない答えが返ってきて、ウィンストンはひっくり返りそうなくらい驚いた。

「ええっ!? エルちゃんはまだ成人してないだろ? 誕生日だってもう少し先じゃなかったかい??」

「うん。そうだけど、色々あって挑戦することにしたの」

 エルは、またあっさりと答えた。

「……そうかい。まさか、二連続で未成年の王位継承戦になるとはね……」

 ウィンストンは、エルを見つめてしみじみと呟いた。それからハッとする。

「おっと、こんなことしている場合じゃなかった。じゃあ、私は本国に連絡を入れてくるから、後は頼んだよ、スパティ」

 そう言うと、ウィンストンは慌てて要塞へと駆けていった。弾かれた剣を拾うのも忘れて。

 その姿を見て、ヴェルフは少しイラッとした。あのオッサン、俺との戦いより本気じゃねぇか……。


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