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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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92 マギアに向けて

 馬車の準備が終わり次第、シアたち四人は獣人たちに別れを告げて出発した。マギアへは、ヴィルヘルム街道を少し北上し、その後はひたすら東へと進み続ければたどり着く。

 御者席にはスパティフィラムが座り、残りの三人は馬車に乗った。シアとエルが隣り合い、ヴェルフは一人で座っている。シアは最初、ヴェルフの隣に座ろうとしたが、

「俺は大人だからな、サイズ的にもお前ら子供組がそっちに二人で座れ。その方がバランス良いだろ」

 と、席の真ん中にど~んと座っているヴェルフに言われたので、エルの横に座るはめになったのだ。あまり広いとは言えない馬車のシート、子供組とはいえ二人で座れば身体が触れ合ってしまう。そんな状況で女子の隣に座るなど、いわゆるお年頃のシアはどうしても照れて緊張してしまう。だが、エルは気にならないのか、

「じゃあ荷物はそっちに置かせてもらうわよ」

 と、有無を言わさずヴェルフの隣に盾を置き、剣を立て掛けた。

「あっ、テメ!」

「なに? こっちの方がバランス良いでしょ」

 エルはあっけらかんと言うと、馬車の外で立ち尽くしているシアを見上げた。

「どうしたの、シア。乗らないの?」

「し、失礼します!」

 上ずった声で言ってから、シアは必要のない、それも変なことを口走ってしまったと恥ずかしくなった。それを誤魔化すために、シアもヴェルフの隣に荷物を置いた。

「おい、シア! テメェまで……。ちっ、結局()めぇじゃねぇか」

 二人の荷物に(はさ)まれて、ヴェルフは不満げに言った。

「フフン、でもバランス的には一番良い感じよ♪」

 エルは楽しそうに笑った。

 北上を済ませた馬車は、マギアとの国境へ続く街道をガタガタゴトゴト東へと駆け抜ける。

 しばらくして、エルは何かを思い出したように「あっ!」と声をあげた。それから偉ぶるように腕を組んで、整った鼻をツンと上げて言う。

「分かってると思うけど、ムリヤリ付いてきたんだから、あなたたちはわたしの部下よ。ここからはわたしの命令に従ってもらうからね♪」

「……うん。分かってる」

 一瞬の間を置いて、シアが頷いた。即答できなかったのは、エルの命令に従うのが嫌なわけではなく、即答しようと横を向いたときに、思ったより近くにエルの横顔があってドギマギしてしまったからであった。今もシアの心臓はドキドキと高鳴っている。

「ああ、いいゼ」

 ヴェルフは軽く返答した。

 あまりにあっさりした返事に、エルは怪訝そう顔をしたが、ヴェルフは意に介さずグイっと身を乗り出して聞く。

「で、どうやって王のとこまで行くんだ?」

「どうって、もちろん真っ正面からよ」

 エルはお返しと言わんばかりにあっさり答えた。

「はぁ!? いくらオメェが姫だからって、見知らぬ人間が武器持って会えるほど王の警備が緩いワケねぇだろ!」

 ヴェルフは仰け反って言った。それから呆れたように首を振る。

「考えなしの姫サマだってことは知ってたが、まさかここまでだったとはな」

 エルは不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

「勝手に付いてきたクセにずいぶんな言いようね。いいのよ? 気に入らないのならここで降りても。それとも叩き斬ってあげましょうか? わたし、考えなしらしいし」

 そう言ってエルは、ヴェルフ側の席に立て掛けていた剣を足で引き寄せて、その柄に手をかけた。

「ハッ、この狭さで剣を抜けると思ってんのか?」

「なら試してみる?」

 二人は、不敵に笑い合った。が、もう一人は焦った。

「あっ、ちょっと──うぐっ!」

 止めようと慌てて立ち上がったシアは、天井にゴン! と頭をぶつけてしまった。頭を押さえて悶絶しているシアに、灰色と緑色の冷たい視線が突き刺さる。

「何やってんだ」

「冗談に決まってるじゃない」

 言いたいことはあったけど、事を荒立てる必要もないので、シアは頭を押さえたまま黙って座った。

「王位継承戦に挑戦するって宣言すれば、誰でも王と戦えるのよ」

 エルは剣を戻しながら、本題にも戻った。

「王位継承戦だぁ?」

「そ。昨日言ったでしょ、王と戦ってマントを奪い取れば王になれるって。その戦いの正式名称よ。これさえ宣言してしまえば、王の警備がどれだけ厳しかろうと関係ない。挑戦者とその部下は、武器を持ったままでも、誰に邪魔されることなく王に会えるの」

「戦争中でもいけんのか?」

「ええ、もちろん。王が拒否できるのは厄災の年だけだから」

「厄災、ね……」

 ヴェルフは苦い顔でぼそっと呟いた。それから気を取り直したように聞く。

「で、王位継承戦って具体的に何すんだ? 王と挑戦者の一騎討ちか?」

「いいえ、違うわ。一騎討ちのときもあるだろうけど、基本的には集団戦──王と四天王対、挑戦者とその部下の戦いになるわ。王の方は最大でも四天王の四人だけだけど、挑戦者の方は特に制限がなくて、どこの誰を何人連れてきてもいいから」

「えっ、じゃあ百人で挑んでもいいの?」

 シアは驚いた。

「いいわよ、集められるなら千人でも。人を集められるってことは挑戦者に王の資質があるってことだし、数だけ集めても王には三種の神器があるから返り討ちにされるだろうし、何より暴君を誕生させないための制度だから」

「ちょっと待てよ。そんな不公平な戦いだけで一国の王を決めンのか? 獣人おれたちでも基本的には話し合いで決めるぞ!?」

 ヴェルフが驚いたように声を荒げて言った。

「マギアにとって、王様は力の象徴なの。だから、どんな不利な状況でも負けない、圧倒的な力を見せなきゃいけないのよ。それに、挑戦者側にもリスクはある。もし挑戦に失敗したら、玉座の簒奪(さんだつ)に失敗したってことになるから、挑戦者はもちろん、その部下たちも一人残らず、国賊として打ち首は免れないでしょうね」

 エルが脅すように言っても、ヴェルフは動じない。

「まぁそれは別にいいとして、そんな挑戦者に有利なルールで勝ったところで、国民はソイツを王として認めんのか? 王は強さの象徴なんだろ?」

 ヴェルフの質問は、王の何たるかを知らないシアにも当然の質問に思えた。もし千人の大軍勢で王に勝ったとして、その挑戦者は強さの象徴であるマギアの王に成り得るのだろうか。

 しかし、エルはあっさりと首を振った。

「そんなの知らないわ」 

「ハァ!?」

 ヴェルフとシアは絶句した。

「だって、わたしが生まれてからは一度も王位継承戦が行われてないんだもの。それにわたしはまだ未成年だから詳しく知る権利がないのよ。詳しいことが知りたいなら、わたしがいないとこでスパティフィラムにでも聞いてちょうだい」

 エルは、子供じみた言い訳でヴェルフの質問をばっさりと切り捨てると、シアの方をバッと見た。

「……それで、何? シアが父に聞きたいことって」

 突然間近で見つめられて、シアはドキッとした。あまりの近さに、このままでは自分の心臓の高鳴りがエルに聴こえてしまいそうな気がして、慌てて口を開く。

「えっと! その、オレを選んだ理由、を……」

 慌てて言ったわりに、シアの言葉は尻切れトンボになった。ダイン王に聞きたいことがあるなんて、エルに付いていくための口実として言っただけで、「やりたいこと」を見つけた今となってはどうでも良くなっていたからだ。だが、そんなことを知る由もないエルは少し目を伏せた。

「厄災を倒すための戦力だって聞いたわ」

 思ってもみなかったエルの反応に、シアは余計に慌てた。ただの口実だった、と本当の事を打ち明ければいいのに、どうにか取り繕いそうと突き進む。

「それは知ってる。魔王を完全に倒せるのは救済の武具だけだって。だから救世主を呼んだって。だけどそれだったら──」 

「ちょっと待って! 一体何のこと言ってるの?」

「何って……」

 エルの言葉に遮られて、シアは止まった。が、それは一瞬だけだった。

「……あっそっか、魔王じゃなくて厄災の王だったか」

 と、一人で勝手に納得して、続きをまくし立てる。

「とにかく、何度倒しても復活する敵の親玉を完全に倒すために、伝説の救済の武具を使える人間が必要だったって言うけど、それだったら何の取り柄もないオレより適任な人間が居たはずだ」

「……それ、誰に聞いたの? どうせアデルでしょ?」

「……う、うん。そうだけど」

 確かにアデル王から言われたことだった。この世界に召喚された日に、アデル王がそう言って懇願してきたのだ。

「残念だけどそれは真っ赤なウソよ。救済の武具でも、厄災を完全に倒すことはできないわ」

「え……?」

 衝撃の事実に、一瞬にしてシアの頭の中は真っ白になった。

「だって、マギアの王族なら救済の武具を使えるんだもの。今までに何度も救済の武具でトドメを刺してるはずよ。でも、今もまだ厄災は現れてる。……って言うか、そもそも厄災は復活してるんじゃなくて、毎回別の個体が現れてるはずだし」

「は……? えっ、でも、だって……──」

 シアは、必死に口から言葉を押し出そうとしたが、何と言えばいいのかわからなかった。見かねたエルが、優しく訊ねる。

「四天王には何て聞かされたの? 彼らは、アデルと違ってウソはつかないから」

「え~っとたしか……救世主として負の連鎖を止めてくれって」

「負の連鎖を止める……? それ、ホントに一言一句間違いない?」

「ううん、多分間違ってると思う」

 シアは首を振った。なにぶん、それを言われたのはこの世界に来てすぐのことだ、一言一句など言われるとまるっきり自信がなかった。

「シオンちゃんたちへの日記には書いてないの?」

「あっ、書いたかも……!」

 シアは慌ててカバンから日記を取り出すと、パラパラと捲ってあの日のドミニクの言葉を探す。

 それを見て、黙っていたヴェルフが口を開いた。

「なぁ、その前に、厄災なんてホントにいんのか?」

「ええ、もちろん」

 エルはあっさりと答えた。

「まぁアンタはそう言うだろうな。じゃあいるとしてだ。一体何なんだ?」

「十年に一度現れる、この世界の破滅を目論む謎のモンスター軍団よ」

 またもやあっさりと言うエルを、ヴェルフはギロリと睨み付けた。

「テメェんとこの王の手紙にもそう書いてあったが、そんな説明でどうやって信じろってぇんだ?」

「それは……確かにそうね」

 エルはぼそっと呟いてから、何か考えるように口元に手をやった。シアは、すでにあの日のドミニクの言葉を見つけていたが、それを言わずにエルたちの話に耳を傾けていた。

「だけど、わたしたちも知ってることは少ないの。特にわたしはまだ未成年だから、大人たちがどこまで知ってるのかもわかんない。それでもいいなら説明できるけど?」

「ああ、それで問題ねぇ。何せ俺は何にも知らねぇんだ、どんな情報でも大歓迎だ。信じるかどうかは、聞いてみなくちゃわかんねぇがな」

 エルは、「わかったわ」と頷いてから、説明をはじめた。

「まずはそうね……これは繰り返しになるけど、厄災は十年に一度この世界に現れて、破壊の限りを尽くすモンスターの軍団のことなの。モンスターって呼んでるのは、毎回姿形が違うからで、ケロベロスだったりグリフォンだったり、大体いつも伝説上の生き物をしていているから。ちなみに前回はドラゴンだったらしいわ」

「ド、ドラゴンッ!?」

 シアは驚いた。憧れのドラゴンだが、流石に喜ぶ気分になれなかった。

「そう、火を吹いて空を飛ぶアレ」

「見た目なんてどうでもいい。重要なのは強さと数だ」

 ヴェルフが聞くと、エルは窓の外に視線を向けた。

「厄災は、現れる度に強くなるの。前回の厄災は特に強かったらしいわ。マギアの総力を挙げて何とか撃退できたけど、こっちの被害も大きかった…………」

 どこか哀しそうに言うと、エルは二人の方を向き、静かに言った。

「あの日を境に、父は変わってしまった。どこまでも強くなる厄災に、もうこれ以上マギアだけで対抗するのは不可能だと悟り、手段を選ばず戦力を集めはじめたの。それが武力による世界征服と異世界からの召喚」

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