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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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83 そして一人になった  前編

 最後の段落を変更しました。  11/16(土)

 刀を真っ直ぐと突き出して、突風のような凄まじい速度で突っ込んでくるシルフを、シアは受け止めようなどとは思わなかった。刀の切っ先が当たる紙一重のところで身を翻す。

「うわっ!?」

 当たる寸前で突然避けられたシルフは、猛スピードでシアが半瞬前にいた空間を突っ切っていった。

 回避と同時に剣を繰り出せば、シルフに致命傷を与えられるはずだった。が、シアはそれをしなかった。まだ決心がついていなかったのだ。

 一人殺すだけで、ヴェルフたち獣人を救うことができる。いや、それどころか、街二、三個分のヒト──何百、もしくは何千人の命を救うことができる。たった一人、シルフに乗っ取られたエヴァンスを殺すだけで……。どっちを取るべきなのかは、少し考えれば理解できることだった。しかし今のシアには、その少しを考える余裕がなかった。

 だが、今回はそれが功を奏した。シアが振り向いたとき、シルフの刃がすでに目の前まで迫っていたのだ。シルフは凄まじい勢いで流れたはずの体を、たった一歩で反転させて、すかさず刀を振るったのだった。

 シアは反射的に盾で身を守った。もし攻撃していたのなら、防御は間に合わなかっただろう。

 シルフの強烈な一撃は、フィラの糸でぐるぐる巻きに固定しているとはいえ、折れた腕では完全に受け止めることはできなかった。鈍い痛みが左腕を襲い、シアは小枝のように吹き飛ばされてしまった。それでもすぐに受け身を取って起き上がり、追撃に備えたが、シルフはその場で自分(エヴァンス)の身体をじろじろと見ていた。

「うわぁ~、今のでもどっこも壊れてない。やっぱりこれは良い器だね♪ これで負けるんだから、やっぱり中身の問題だよ。あっ、でも……」

と、そこで、シルフはシアの方を見た。

「今のでも死ななかったんだから、救世主の方もなかなかだね。あっ、そうだ! せっかくだし、どっちの方が強いのか試してみようか?」

「何を、する気だ?」

「アハハ、ナニって、ちょっとずつ力を上げていくだけだよ。この身体(エヴァンス)が壊れるのが先か、救世主が死ぬのが先か。それでどっちが強いか分かるでしょ?」

 輝く笑顔で恐ろしいことを言うシルフに、シアは顔を歪めた。

「んじゃ、行っくよぉ~~~♪」

 再び、シルフが躍りかかってきた。今度は突っ切らないようにシアの目の前で止まって、連撃を繰り出した。振り下ろす。斬り上げる。薙ぎ払う。突く。全てが一撃必殺のシルフの凶刃を、シアは体捌きだけで回避した。

「ちょこまかちょこまか、うっとうしいなぁ~!」

 シルフはぷくっと頬を膨らませて、刀を加速させた。目に止まらぬ速度で、殺意の閃光がシアに襲いかかる。しかし結果は同じだった。シアにはかすりもしない。

 シルフはさらに頬を膨らませて、怒りを露にする。

「あ~もう! なんで当たんないのっ!!」

 それはひとえに、シルフの剣術の稚拙さゆえだった。シルフの剣術は、スピードだけならばエヴァンスよりも段違いに速かった。が、それはただ速いだけで、刃物を振り回している素人同然の動きだった。たかだか数ヶ月だが本気で戦闘訓練をしてきたシアは、素人が振り回す刃物など目を瞑っていても回避することができたのだ。

「ねぇえええ! 避けないでって言ってるでしょ!!」

 怒りに任せて、シルフはどんどんと加速していく。限界などないようにどこまでも加速していく様は恐ろしいモノがあったが、イライラしているせいでどんどん大振りの直線的な攻撃になり、回避するのはそれほど難しくはなかった。

(よし。このまま避け続けて、反撃のチャンスを……)

 と、隙を狙うシアだったが、不意にガクンと膝が崩れて、倒れそうになった。血を流し過ぎたせいだった。

(しまっ──)

 シアが動きを止めたのは一瞬だったが、シルフはそれを見逃さなかった。キラキラと瞳を輝かせて、すかさず刀を振るう。

「ようやく止まったね!!」

 避けられないと悟ったシアは、盾で受け止めるのではなく、剣で迎え撃った。

 ガーーーン!! と、二人の武器が衝突し、凄まじい衝撃を生んだ。あまりの衝撃にシアの傷口が開き、血が吹き出す。だが、エヴァンスの身体もまた耐えきれなかった。

「ありゃ、やっちった」

 変な方向に曲がった右腕を見ながら、シルフは簡単に言った。それから刀を左手に持ち替えて、

「でもでも、救世主も死にかけだから引き分け──」

 と、シアの方を見たが、そこにシアの姿はなかった。地面には点々と血が落ちていて、森の奥へと続いている。

「ありゃりゃ、いなくなっちった。いまさら逃げ出したってワケじゃないだろうし……、かくれんぼ? でもムダだよ。ボクの風から隠れるなんて不可能だからね♪」

 シルフの足元からブワッと風が吹き出した。それは放射状に広がっていく。

 シルフには、シアを追いかける必要などなかった。むしろ、シアを無視して獣人連合国へと向かえば、それで当初の目的を達成できるはずのに、シルフはわざわざ魔法まで使って、森の中をしらみつぶしに探すつもりだった。逃がしてあげるのは良くても、逃げられるのは許せなかったのだ。

「ずいぶん遠くまで逃げてるようだけど、ボクの風はこの森くらい余裕で──」

 瞳をキラキラと輝かせてシアを探していたシルフだったが、突然バッと獣人連合国の方を見た。しばらく呆然と道の向こうを見やると、ニヤリと笑った。それから、ゆっくりと前を向いて叫ぶ。

「見~つけた♪ 次の遊び相手が来てるみたいだから、こっからは本気でいくよ、救世主!」

 シルフはふわりと宙に浮かぶと、猛スピードで森の中へと突入した。

 シアは森の中を走っていた。逃げるためでも隠れるためでもなく、ワナを仕掛けるために。シアは、糸を創り出しながら木々の間を走り回り、糸のワナを張り巡らせていたのだ。それはまさに、巨大な蜘蛛の巣のようだった。

(オレの糸じゃ、束にしたってシルフを捕らえることはできない。だけど、一瞬動きを止めるくらいなら……)

 そのとき、突風が吹いた。森全体を揺らすような暴風が吹き荒れ、大量の木の葉を吹き飛ばし、シアの背中も突き飛ばす。

「来たか……!」

 シアは覚悟を決めるようにポツリと呟くと、振り返った。

 木立の間に、猛スピードで飛んでくるシルフが見えた。

(ワナまであと少し。勝負は一瞬だ。シルフがワナにかかって、動きを止めたその一瞬……)

 シアは、剣を構えて集中する。その一瞬を逃さないように。

「え……?」

 しかし、シルフは突然止まった。慣性を無視したように、ワナの目の前でピタリと。

「な~んだ。逃げたと思ってたけど、こんな小細工を仕掛けてたんだね」

「バレた! なんで!?」

 シアが叫んだ。シルフはけらけら笑う。

「アハハ! 言ったじゃん、ボクの風から隠れるのは不可能だって。目に見えないくらい細くたって、そこに在る以上、ボクの風は感知することができるんだ。それにしても、よくもまぁこんなに大量に仕掛けたね、辺り一面糸だらけじゃん。だけど、残念……」

 シルフは、スッと手を前に出すと、そっと宙を撫でた。それだけでプチプチと糸が千切れていく。

「……本気のボクを捕まえたきゃ、アラクネの糸くらい強くないとね♪ こんな弱い糸だとエヴァンスでも捕まらないよ!」

 シルフはそう言うと、糸のワナを無視して真っ直ぐ突っ込んできた。風が巻き起こり、落ち葉が舞い上がる。大量に張った糸が、シルフの身体に触れただけで吹き飛んでいく。シアが仕掛けたワナはまるっきり意味をなさなかった。それでもシアは諦めていなかった。

 ここで諦めてしまえば、ヴェルフたちが死んでしまう。藍と紫苑を救うこともできない。そして何より、フィラの死が無駄になってしまう。そんなこと、できるはずがなかった。万策が尽きようと、精根が尽きようと、この血が、この命が尽きるまで諦めるなんてできない。例え勝ち目がなかったとしても、生きて戦っている限り、何が起きるかなんて分からない。

 シアは、そう信じていた。剣と盾をしっかりと構え、飛んでくるシルフを見据える。

「あんまり時間が残ってないから、一気に決めちゃうよ♪」

 シルフはそう言うと、変な方向に曲がった右腕を振るった。二人の間の落ち葉が舞い上がり、落ち葉のカーテンがシルフの姿を隠した。

「ヤバ──!!」

 シアは、迷わず前に跳んだ。わざわざ目隠ししたのに、そのまま真っ直ぐ来るはずがないと予想したのだ。一瞬遅れて、シアの背後でドン! と、地面を叩く音が響く。落ち葉のカーテンを突き破って向こう側に着地すると、シアはすぐに振り返った。

(どこから来る?)

 そう思った瞬間、カーテンが横一文字に斬り裂かれた。シアはしゃがんでそれを回避した。間に合わなかった毛先がパラパラと散る。すかさず下から突き刺そうと剣を構えたが、すでにシルフが刀を振り下ろしていた。

(速ッ!?)

 シアは咄嗟に魔法を使った。近くにある切られた糸を総動員し、自分の身体を後ろに引っ張った。シルフの凶刃が、高くもないシアの鼻先をかすめる。

 引っ張った勢いを利用し、地面で後転して跳ね起きた。一旦距離を取ろうとしたのだが、無駄だった。シルフは一瞬で間合いを詰め、無造作に刀を振るう。

 シアは、それを剣で受け流す。しかし、受け流したはずの刀は、そのまま一回転し、間髪入れず同じ方向から襲いかかってきた。

「なッ!?」

 シアは目を見張りながらも、何とか盾で受け流した。殺し損ねた衝撃が全身を駆け抜け、痛みに顔が歪む。だがしかし、やはり刀は止まらない。まばたきする間もなく、同じ方向から三度目が来た。

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