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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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80 リベンジ  後編

 その瞬間、エヴァンスの両目がカッと吊り上がった。ダッと床を蹴り、シアに躍りかかる。

「この期に及んでまだそんな甘いことをォ!!」

 今さら当たるはずもない、怒り任せの大振り。シアは体捌きだけであっさりとかわす。だが、エヴァンスは構わずどんどん加速した。

「貴様があのとき! 俺の前に現れなければ! あんな悲しみを! 絶望を知らずに済んだものをッ!!」 

 エヴァンスは全身からどす黒い悪意を立ち上らさせて、呪いの言葉とともに殺意に満ちた閃光を放ち続ける。シアは冷静に見極め、剣と盾と体捌きでもってそれを防ぎ続けた。

 シアは、自分でも驚くほど落ち着いていた。この世界に召喚されてから、今まで何度も口にしてきた言葉──『殺さない』。だが、今回は今までとどこか違った。何だかわからないが身体の奥底から力が湧き出し、それでなお、頭はどこまでも澄み切り、これまでにないくらい集中している。どんどん加速しているはずのエヴァンスの攻撃が、逆に遅くなっているような、そんな錯覚にさえ陥っていた。

(今なら、何でも出来る!!)

 そう思うと同時に、シアの身体は動き出していた。エヴァンスの一撃をひょいっとかわし、がら空きになった顔面めがけて剣を振るう。

「ここ!」

 それは完璧な一撃だった。敵の体勢、剣の速度、攻撃のタイミング。どれをとってもこれ以上ない一撃。が、エヴァンスはニヤリと笑った。

「かかったな、バカめ! 貴様の攻撃など効かぬ。そのまま死ねェエエ!!」

 エヴァンスは、シアの攻撃を無視して刀を返した。攻撃をわざと受け、直後の隙を狙った捨て身の一撃。だが──。

 ドゴン! 脳を揺らすような強い衝撃を受け、エヴァンスの体は宙を舞っていた。シアの攻撃で吹き飛ばされていたのだった。

(な、なんだ、この威力は……。奴も演技をしたのか? いや、違う……これはまさか、覚醒ッ!?)

 エヴァンスは空中で身を翻し、音もなく着地すると、ギロリとシアを睨んだ。

「貴様……何をしたッ!!」

 そう叫んだエヴァンスの口から、つぅーと血が流れる。

「さぁな。俺の身体も、ようやくこの新しい力に慣れはじめたのかもな」

「……なるほど。そうだな、人も殺せぬ甘ちゃんに覚醒などできるはずがない」

 エヴァンスは左手で口許の血を拭うと、そのまま鞘を外した。

「……そういえば、俺の剣を見切っていたのだったな、シア。だったら、これはどうだ?」

 エヴァンスは不気味に笑うと、構えを変えた。右手に刀、左手に鞘を持って、両手をだら~んと下げるように構える。シアはハッとした。

「まさか……!」

「ああ、そのまさかだ」

「なんで……お前がマイさんの剣をッ!?」

 驚くシアの顔を見て、エヴァンスはことさら嘲弄するように頬を歪めた。

「フフフ、貴様を倒したいって頼んだら、喜んで教えてくれたよ」

「ウソだッ!!」

 シアは反射的に叫んだ。それが本当ならば、マイが、マギア四天王が敵ということになる。そんなこと信じられなかった。信じたくなかった。彼らを頼ってここまで来たのに、計画の全てがぶち壊しになる。やっぱり、マイさんたちを倒さないと、元の世界に帰れないのか? シアの頭の中はパンク寸前だった。

「ハハハ! 信じたくないならそれでいい。どうせ貴様はここで死ぬのだ」

 そう言うと、エヴァンスは右足を引いてグッと腰を落とし、刀を持った右手も引いた。その構えに、シアの心臓が早さを増す。

「絶望を知らぬまま死んでいけぇ、シアァ!!」

 エヴァンスが跳んだ。放たれた矢のように。そして、突きを繰り出す。

「キツ・ツキィ!!」

 シアにはその動きがハッキリと見えていた。マイと同じ技だが、その速度は比べるまでもなかったのだ。

(カウンターのチャンス……)

 だが、身体が思うように動かない。シアは必死に避けようとしたが、盾を動かすのが精一杯だった。

 キンッ! 鋭い金属音が響いた。エヴァンスの技は、本物の半分にも満たない威力だった。シアはまともに受けてしまったのに、少しよろめくだけで済んだ。

「ハッハ! まだまだぁ!!」

 エヴァンスは即席の双剣で、踊るようにシアを攻め立てた。それはマイの剣と言うには、速度も威力もキレも、全てが一段階も二段階も劣っていた。ただただ動きをなぞっているだけの、モノマネの域を出ない付け焼き刃のマイの剣。だが、シアには効果絶大だった。

 本物と打ち合ったシアには、モノマネの動きなど簡単に読むことができた。しかし、身体が言うことを聞かなかったのだ。動揺が見えざる鎖となり全身に絡みつき、動きを鈍らせる。そして、疑心暗鬼がエヴァンスの背後にいる見えざる敵を映し出し、集中力を鈍らせた。それでもシアは、どうにかこうにか直撃だけは避けていた。代わりにマントがビリビリと裂かれていく。

「クハハハハ! 新しい力はどうした? 動きが悪くなっているぞ」

 エヴァンスは、目的をそっちのけで遊んでいた。敵をいたぶる趣味などなかったはずなのに、むしろ貴族たちのそれを嫌悪していたというのに、今は愉悦さえ感じていた。忌々しいクソガキが足掻き苦しむ姿のなんと甘美なことか。エヴァンスは高笑いしながらさらに攻め立てる。

(クソっ、こんな付け焼き刃にヴェルフのマントが──)

 とそのとき、シアのマントが大きく裂かれて、下に隠していたカバンが露になりそうになった。シアはとっさに盾で隠す。だが。

「何を隠している!」

 エヴァンスの眼が鋭く光ったかと思うと、ブン!! と横一閃、エヴァンスの刀がうねりを上げた。シアは慌てて飛び退いたが、かわしきれなかった。切っ先が胸の辺りをかすめ、鋭い痛みが走る。それと同時に、背後でドスンっと何かが落ちた音がした。

「まさか──!?」

 シアは、思わず振り返ってしまった。その隙を、エヴァンスは見逃さなかった。一歩踏み込んで、強烈な蹴りをお見舞いする。

「戦闘中によそ見をするな! 教わらなかったのか?」

「ぐわっ!!」

 シアは呻き声を上げて吹き飛んだが、痛みを気にする余裕などなかった。受け身を取って起き上がると、すぐにカバンの有無を確かめる。

「無いッ……!?」

 シアは目を剥いた。エヴァンスの冷たい声が響く。

「探し物はこれか?」

 満面の笑みを浮かべたエヴァンスが、刀の切っ先にシアのカバンを提げていた。

 カバンを盗られたことを悟った瞬間、シアは必死の形相でエヴァンスに向かって駆け出していた。

「返せぇえええーーッ!!」

 それを見たエヴァンスの顔から、スッと表情が消えた。

「まだ剣を抜かないか……。だったらもういい」

 エヴァンスは刀を振ってカバンを投げ捨てると、左手をシアに向けた。シアは、カバンに釣られるように方向転換する。そのとき、エヴァンスの掌が激しい輝きに包まれた。

(ヤバい!) 

 それは必死になっていたシアが、一瞬で理性を取り戻すほどの輝きだった。

「レオナルの槍ッ!!」

 エヴァンスが叫んだ。と同時に、シアは床を蹴って大きく前に跳んだ。

 次の瞬間、目を開けていられないほどの激しい光が炸裂し、エヴァンスの左手から光の槍が放たれた。光の槍は、要塞の壁を貫いて、輝く朝陽の中に消えていった。

 ガラガラと崩れる音が響く中、エヴァンスの嬉しそうな声が聞こえた。

「少し魔力を解放しただけでこの威力ッ!! なんと素晴らしい! ……しかし、避けられたか」

 シアはすぐさま起き上がり、カバンを探した。

 カバンは、変わらずに壁際に転がっていた。次にエヴァンスの方を見る。しかし、エヴァンスはいなかった。

(いないッ!? また後ろ!)

 シアは振り向き様に剣を振るった。が、剣は虚しく空を切る。

「毎回背後な訳無いだろ!」

 上からエヴァンスの声が聞こえた。まさかと思いながらも、シアは天井を見上げる。するとシアの頭上、この部屋の高い天井に、エヴァンスが刀を突き刺して立っていた。

「マジかよ!?」

 シアは呆気にとられた。エヴァンスは、やはりそれを見逃さなかった。刀を抜くと、ダッ!! と天井を蹴って、落下の勢いそのままにシアに襲いかかる。

「トビ・ギリィイイイ!!」

 ガッキーン!! エヴァンスの上からの強烈な一撃を、シアは盾でまともに受け止めてしまった。あまりの衝撃に耐えきれず、シアは後ろに倒れた。すかさず起き上がろうとしたが、左腕に鈍く重い痛みが走る。

「痛ッ!!」

 エヴァンスは愉快そうにのどの奥で笑いながら、立ち上がれないシアを見下した。

「ククク、腕が折れたのか? 痛いだろう? すぐに楽にしてやるぞ」

 壁の穴から射し込んだ朝陽が、二人の間に光の川を創っていた。まるで三途の川のように。

「心配するな、シア。お仲間のケモノどもも、すぐにそっちに送ってやる。だから……」

 ゆっくりと刀を振り上げながら、エヴァンスが冷たく言った。そして──。

「……安心して死ねッ!」

 シアめがけて一気に振り下ろした。

(ヤられる……)

 シアは恐怖でグッと目をつぶった。フッと、光の川が消えた。

 直後、ドンっと衝撃がシアを襲った。


 シアは、死んだと思った。しかし痛みはなかった。それどころか、優しい温もりに包まれているような気がした。さっきまでの不安が全て消え去るような、心の底から安心できる温もりだった。が、すぐに苦しくなって、シアはハッとした。この温もり、そしてこの息苦しさは──。

「フィラ!?」

 シアは、フィラに抱き締められていたのだ。

 エヴァンスの刀がシアに当たる直前、間一髪のところでフィラが二人の間に割って入り、シアを抱き抱えて飛び退いていたのである。同時に放った糸で、エヴァンスはグルグルに拘束されている。

「クソッ! 邪魔するなァアア!!」

 拘束されたエヴァンスが、ジタバタもがきながら叫んだ。だが、シアにはフィラしか見えていなかった。

「なんで……なんでフィラが……」

 シアの目から大粒の涙がこぼれた。フィラは、そっとシアの頭をなでる。

「いいから逃げな。アタシがヤツを止めて──」

 言い終わる前に、フィラはぐらっと崩れた。

「フィラッ!!」

 とっさにシアが左腕でフィラを受け止めた。その腕に、ドロッとした生暖かい嫌な感触が伝わる。シアは青ざめた。

「どうやら、避けきれなかったみたい。エヴァンスなんかにヤられちまうなんて、アタシも焼きが回ったね。……でも、シアを守れた、それで十分ね」

「なんで……? オレは、逃げたのに……オレなんか守る義理なんてないだろ!?」

「義務じゃなくて、アタシがシアを守りたかったんだよ」

 フィラは、青白くなった顔で優しく笑った。シアは声もなく、今にも死にそうな顔でただ震えていた。そうしている間にも、血は止めどなく流れ、フィラの周りに血の海が作られていく。

「いいから、早く逃げな」

「でもフィラは……!」

「アタシはもう助からない……。だから、アタシの魔法がとける前に早く……」

「イヤだ! そんなの絶対に……」

 何か……フィラを救う方法は……。シアは藁にもすがる思いで辺りを見渡した。すると、壁際のカバンが目に入った。

 「そうだ……! カレルセの『国宝』ならどんなキズでも治せる!!」

 パッとシアの顔が輝いた。そして何の迷いもなく、カバンに向かって手を伸ばす。

「ちょっと待ってて、フィラ。今すぐ──」

 しかし、その手をフィラが止めた。

「もう、いいんだよ、シア。あのときデールを守れなかったけど、今度はシアを守れた。アタシはそれで満足なんだよ。ありがとね、シア。だからそれは、妹につかってやり、な……」

 フィラは、満足そうに微笑んだ。その微笑みが消えたとき、シアのすぐ隣でカランっと乾いた音が響いた。シアは思わず横を見た。見たくはなかったのに。

 鞘が、転がっていた。フィラの魔法でしっかりと留められていたはずの鞘が。それを見た瞬間、シアはどうしようもない絶望に襲われた。


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