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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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79 リベンジ  前編

 早朝の獣人キャンプ。まだ太陽が顔を出していないというのに、ヴェルフは目を覚ましていた。二度寝しようとしばらくの間横たわっていたが、一向に眠気が来ない。仕方ないな、ヴェルフはため息をつくと、寝床から起き出してクズハの店へと向かった。

 特等席には夜通し飲み続けているサムがいた。テーブルの上に道具を広げて、一人で飲みながら何かを作っている。

「なんや、もう起きてきたんか、ヴェルフ? 明日は昼まで寝るぞ、ってあんなに意気込んでくせに、結局()よ起きるんかいな」

「うるせー。ここんとこずっとシアの訓練に付き合ってたせいで、この時間に目が覚めちまうんだよ」

 ヴェルフは不貞腐れたように言うと、どかっと椅子に座った。

「んで、フィラはまだ起きてないのか?」

「いや。フィラやったらちょっと前にシアんトコ行ったで」

 魔力なくなり草の種の準備ができたからシアに渡しに行ったのだが、サムはあえて理由は言わなかった。

「チッ、やっぱりか……」

 ヴェルフは舌打ちをした。

「おっ、なんや。彼女取られそうで心配なんか~?」

 サムがからかうように言ったが、ヴェルフは意味深に呟いた。

「そっちなら別にいいんだけどな」

「ん? そっちってどっち?」

 ヴェルフは煩わしそうにサムを見ると、ぶっきらぼうに答えた。

「……だから、あの二人なら、付き合おうが結婚しようが別にいいんだよ。シアのことは信頼してるし、そもそもフィラは俺の彼女でもなければ、男に依存して破滅するような女でもないからな。ただ、アイツがシアの中にデールを見てるなら話は別だ。アイツは昔っから、弟のこととなると暴走しがちなんだよ」

「ああ~、せやな。そりゃあ警戒しとくことに越したことないわ。ほんなら、検診も兼ねてシアんとこ様子見に行こか」

 テーブルの上を片付けると、二人はシアのテントに向かった。

「邪魔すんで、シア」

 サムは声をかけると、返事も待たずにテントの中に入っていた。ヴェルフは入らなかった。

「どうや、今日の調子は……って、おらんやん」

 テントの中には、シアもフィラもいなかった。代わりに、ベッドの上には小さな袋と紙切れがあった。その袋は、種を入れる用にサムがフィラに渡した袋だった。

「フィラは来てたみたいやな。そんでこの紙切れは、なんや手紙か……?」

 紙切れには、なにやら文字らしきモノが書かれていたが、サムには読めなかった。紙切れを取ろうと手を伸ばしたとき、ベッドが冷たくなっていることに気づいて、サムはハッとした。慌ててテントの中を見渡し、そして全てを察した。

「シアのカバンがない。マズイぞ、ヴェルフ! シアが一人でカレルセに向かったみたいや」

 外に出ると、ヴェルフが這いつくばって地面の匂いを嗅いでいた。

「もっとマズイぞ、サム。フィラがその後を追ってる」

「なんやて!!」

「俺は二人を追う。サムはこのことをレオンに伝えてくれ」

 言うが早いか、ヴェルフは峡谷へと飛んでいった。

「あ、ちょい待てや、ヴェル──。あーー、もうクソ」

 サムはくるりと背を向けると、レオン王のテントへと急ぐ。

「ほんま、どいつもこいつも好き勝手に動きよって……。三人とも、帰ってきたら覚えとけよ!」

 まさに飛ぶような速度で、峡谷のどん詰まりまで来たヴェルフは、そこで拘束されている獣人たちを発見した。完全にフィラの魔法によるものだった。走りながら、爪で糸を切断する。

「マジかよ……。こんなにも余裕ねぇのか、フィラのヤツ。こりゃあ急がねぇと、マジでヤバイかもな……」

 ヴェルフはさらに速度をあげた。



 シアは、呆然と大きな建物を見上げていた。

 その建物は、紛れもなくズートア要塞だった。そして要塞から放たれている、この黒い(もや)のような禍々しいオーラ。これは新生レオナルの槍の魔力に違いなかった。だが問題は、なぜ新生レオナルの槍が起動しているのかだった。五日前から暴走しっぱなしなのか、再びハーピーの魔力を感知して起動したのか、はたまた誰が意図的に起動したのか……。

 やがて自分を納得させるよう呟いた。

「考えてみればそうか。こんな要塞、お城まで持ってったら邪魔だし、この先には街があったはずだから、この辺に置くのがちょうどいいのか」

 そう言ってからシアは、「置く」じゃなくて「落とした」の方が正しそうだな、と苦笑いした。ズートア要塞の外壁はバキバキにひび割れていて、周辺の地面はデコボコに隆起し、広範囲に渡って樹が倒れ、枯れていたのだ。

 ふと、シアは疑問を覚えた。

(倒れたからって、こんなに立派な樹がたった数日で枯れるものなのか? それに、倒木を免れている樹もちらほらあるけど、どれも枯れている……!)

 シアは、左右の森を見渡してハッとした。倒れている倒れていないにかかわらず、黒い靄が立ち込めている範囲では樹が枯れていたのだ。それに、靄の中は生き物の気配が全くしなかった。ここまでは生き物の気配で溢れていたというのに、ここから先はまるで森が死んでいるようだった。

「この魔力のせいなのか?」

 濃い魔力は生物に害をなす、とサムは言っていた。ナディエ・ディエから切り離されたというのに、まだこれほどの魔力が残っていたのか。

「ハァー、ここでこうしていても仕方ないな」

 シアは一つ大きく息を吐くと、鞘が付いたままの剣と盾を構えた。そして警戒を最大限まで高めて、慎重に黒い靄の中に入って行く。迂回する方法もあったが、一秒でも早く元の世界に帰るために危険を承知で進むと決めたのだ。

 靄の中は視界が悪いだけで、シアの体調に変化が現れることはなかった。進化した今のシアには、これぐらいの魔力なんて屁でもなかったのだ。しかし、シアは胸の奥がざわめくのを感じていた。何かわからないが嫌な予感がする。

 その予感は、要塞に近づくにつれ、どんどんと強くなっていった。進みながらシアは頭を悩ませる。

 一秒でも早く帰ると決めたのだろう? だったら要塞を無視してロクセットに向かうべきだ。そう理性が訴えかけているが、どうしても嫌な予感が拭いきれなかった。それは、新生レオナルの槍の威力を見ているからだった。あのときはマイさんだったから無傷で済んだけど、ヴェルフたちではおそらく即死する。今、新生レオナルの槍がどういう状況なのかわからないが、このまま放置するとそうなる可能性があった。

 そうこうしている間に、シアはズートア要塞の目の前まで来てしまった。

「…………ッがあーーッ!! だめだ、このまま無視したら絶対後悔する!」

 自分の性格上、何も起こらなかったとしても死ぬまで後悔する、シアはそうわかっていたのだ。起こる起こらないにかかわらず、彼らを見捨てたことに代わりないのだから。そんな思いをするくらいなら、ちゃちゃっと要塞に侵入して安全を確認した方がいい。例え中に敵がいたとしても、簡単に拘束できる自信が今のシアにはあった。

「それに、このまま無視してっても、ずっと気になっちゃって結局遅くなるに決まってる……。そうだよ! だったら、スッキリしてから向かった方がいいに決まってんじゃん!」

 やっと決心がついた。それからは速かった。シアはサッと要塞の前面へと回り込んで、中へと侵入した。

 要塞の中はとても静かだった、だが、黒い靄は外よりも濃く、激しい怒りとどす黒い悪意のようなものが充満しているように感じた。

(中に誰かがいる。それも悪意を持った危険な誰か、おそらくはアイツ……。やっぱり確認して正解だったな)

 シアはそう確信すると、脇目も振らずに最上階を目指して階段を駆け上った。最上階に近づくにつれて、どんどん悪意は強くなっていく。

 最上階は吐き気をもよおすほどの悪意で満ちていた。唯一ある部屋からは、禍々しい光が漏れ出している。

「やっぱり……。前より強くなったんだ、今度は小細工なんかなくたって……」

 シアは意を決すると、部屋の中に入った。そして驚いた。

(レオナルの槍が……無いっ!?) 

 部屋の中に新生レオナルの槍はなく、『槍』があった場所には玉座のような立派な椅子が置かれていたのだ。椅子には何本ものパイプが繋がれており、その椅子が光源のようだった。何者かが足を投げ出して座っているが、禍々しい光のせいで顔はわからない。

 予想外のことに、シアは部屋の入り口から動けなかった。すると、中から声がした。

「シアか。アンドレイは、来ていないのか?」

 放っている悪意のわりに、自信に満ち溢れた爽やかな声だった。それとともに、満ちていた悪意がフッと消え去った。

「……オレ一人で来た。アンタは誰だッ!?」

 恐怖を押し隠すように、シアは正体不明の相手に叫んだ。だが、声はそれを見透かすように笑った。

「ふふふ、そう怖がるな。()()()()()()()()()()()()()()()()。奴を連れてくるなら見逃してやるぞ、シア?」

「断る。オレは…もう二度と戻らない!」

 シアは力強く言うと、剣と盾を構えた。

「そうか……。ならば仕方ない。二番で新しい力を試させてもらおうか」

 パシュッ! と、光の中から何かが外れる音がしたかと思うと、次の瞬間、パッと部屋の灯りがついた。

「えっ……」

 シアは目を見張った。声の主はやはりエヴァンスだったのだが、その姿がいつものエヴァンス──シアが思っていた姿とかけ離れていたのだ。

 エヴァンスは、いつものビシッとした軍服姿ではなく、髪はボサボサで、顎には無精髭が生え、袴のようなものをまとっていた。そして一番の驚きは、彼の左胸から禍々しい光が発せられていたことだった。光源は、椅子ではなくエヴァンス自身だったのだ。

「なんだ……その光はッ!?」

 シアは思わず叫んだ。

「ああ、これか?」

 エヴァンスはニヤリと笑うと、首元をグイっと引き下げて左胸をはだけさせた。エヴァンスの左胸、心臓があるはずの部分には、生々しい傷痕と禍々しい光を球体があった。しかも、その球体は心臓のように鳴動していた。

「いいだろう? アデル様から貰った、俺の新しい心臓だ」

「心臓を、貰った……?」

 シアは大きく顔を歪めた。

「ああ、そうだ。圧縮したズートア要塞の心臓コアと、俺の心臓と取り換えたのだ。前の心臓では貴様にも勝てなかったからなぁ~」

「………………!」

 どうやら肉体改造されたのはシアではなくエヴァンスの方だったらしい。それを嬉々として話すエヴァンスに、シアは言葉もなかった。

「コアに残っていた魔力は少なかったが、これには昔の名残で魂吸収機能まで付いていてな。ナディエ・ディエの魔力がなくても、この通り!」

 エヴァンスの声に応えるように、コアがドクンッと赤黒い光を放った。コアから魔力が吹き出し、渦を巻くように立ち上る。

「ハハハ! どうだ、これが全てを捨てて得た、俺の新しい力だ!!」

 エヴァンスはスラリと刀を抜いた。白い刃がコアの光を映して、ベットリと血が付いているように赤黒く輝く。

「この体になって初めての戦闘だ。すぐに死んでくれるなよ」

 エヴァンスは嬉しそうに言うと、その場でシアに向かって刀を軽く振った。それだけで、赤黒い閃光が迸った。

(ヤバッ──)

 シアはとっさに大きく横っ飛びして、床に伏せた。ズバン! と、入り口の壁が斬り裂かれ、轟音を立てて崩れ落ちた。

「ハハハハ、素振りしただけでこの威力! なんと素晴らしい!!」

 エヴァンスの高笑いが、部屋中に響き渡った。今のうちに、と、シアは素早く体勢を立て直して、エヴァンスを見た。が、エヴァンスはいなかった。

(いない!? てことはッ!)

 そのとき、シアの後ろで声が響いた。

「スピードも申し分──」

 その瞬間、ドンッ!! 鞘付きの剣がエヴァンスの顔面に直撃した。エヴァンスが背後に回ることを予想したシアは、振り向きながら鞘付きの剣を力一杯振り抜いていたのだった。

「やっぱり後ろだったな!」

 シアは勝ち誇ったが、エヴァンスの顔は少し横を向いただけだった。そのままの状態で、エヴァンスは目だけを動かしてギロリとシアをねめつける。

「痛く……はない。が、腹立たしいぃ」

 シアはゾッと背筋まで寒くなり、思わず飛び退いてしまった。それを見て、エヴァンスは意地の悪いを浮かべた。

「あーすまん。ビビらせてしまったようだな。今の一撃はなかなか良かった。そんなふざけた剣でなければ、俺を殺せていたかもしれんぞ?」

「……オレは、人間は殺さない!」

 その言葉に、エヴァンスの顔色が変わった。

「殺す覚悟もないくせに、なぜ戦場に……俺の前に現れたのだァ!!」

 突然、エヴァンスが激昂した。左胸のコアが強い光を放ち、今まで鳴りを潜めていた悪意が再び吹き出す。

「………………」

 シアは何も答えなかった。答えられなかった。口を開くと悪意が体内に侵入し、内側から蝕まれるような、そんな気がしたのだ。

「もういい……」

 エヴァンスは残念そうに呟くと、刀を構えた。シアもしっかりと腰を落として、剣と盾を構え、悪意をはねのけるように緊張感で全身を包む。永遠にも似た一瞬の後、エヴァンスが先に動いた。

「答えぬのなら死ねぇ!!」

 目にも止まらない速度で突進すると、刀を振り下ろす。

 ドゴン!! エヴァンスの刀が床石を砕いた。シアは間一髪でそれを避け、すぐさま反撃した。

「そこッ!」

 シアは前と同じように、体勢を崩したエヴァンスの顔面めがけて剣を振りかぶった。しかし、エヴァンスはそれを左手で掴んで止めた。そのまま左手で剣を引っ張り、シアを引き寄せると同時に右手で刀を振るう。

「甘いわッ!!」

 ガキッーーン!! 金属がぶつかる鋭い音が鳴り響いた。シアはなんとか盾で直撃は防いだのだが、あまりの威力に吹き飛ばされてしまった。

 これ幸いと、シアは一度距離を取って作戦を考えようとしたが、エヴァンスはそれを許さない。間髪入れずにダッと一気に距離を詰めると、嵐のように攻め立てた。

「貴様も獣人並みの身体を手に入れたようだが、今の俺は獣人を越えた!! 次はどうする、小賢しい魔法か? すでに知っている俺には通用せんぞ! さぁ、剣を抜かぬと貴様に勝ち目はないぞ、シアァァーー!!」

 シアは、エヴァンスの猛攻を見切り、全て受け流してた。ヴェルフとの特訓のおかげで、エヴァンスの太刀筋なら見切ることができたのだ。しかし、エヴァンスの言う通り、シアに勝ち目はなかった。剣による全力の殴打も効かなかったし、今はサム特製のシャツも着ていない。糸魔法も、警戒しているエヴァンスには通用しないだろう。

(もう、剣を抜くしか……)

 そう思ったとき、シアの脳裏に藍と紫苑の顔が浮かんだ。

「……イヤだ!オレは、殺さない!!」

 シアは叫んだ。それは魂の叫びだった。

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