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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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77 魔力異常症

「………………うん、熱もちゃんと下がってるし、どっこも異常ないからもう大丈夫や。あとはご飯ようさん食べて、一晩ゆっくりしてたらそれで元気になるやろう。いや、ごっつい魔力量が増えて、ワイと遜色ないくらいになってるから、元気になりすぎてびっくりするかもな」

 診察を終えたサムが、ニッコリ笑って言った。

「ありがとうございます……」

 シアは、ほっと息を吐いた。初めての獣人の診察もあって、少しドキドキしていたが内容はいたって普通。簡単な問診のあとに、眼と喉と胸部の確認があるだけだった。ヴェルフもホッとした様子だったが、フィラだけが怖い顔をしていた。

「原因はなんだったのさ?」

「せやなぁ~、おそらく一種の魔力異常症とちゃうか」

 診察道具を片付けながら、何気なくサムが言った。

「魔力異常症!?」

 予想外の病名に、フィラは顔を歪めた。ヴェルフも驚いているようだった。ハッとしたサムが慌てて訂正する。

「落ち着け、外因によって引き起こされた一過性の魔力異常症や。ホラ、あん時、峡谷が大岩で塞がれて、ワイらの居ったとこはどん詰まりになっとたやろ。そんなとこでマイはんがアホみたいに強力な魔法使って、新生レオナルの槍の膨大な魔力も放出された。普通やったら大気中に分散する魔力が、あの地形のせいでどん詰まりに(おり)みたいに蓄積して、一時的にあの場所の魔力量がめっちゃ濃くなってたんや。獣人でも気ぃ失うヤツ続出したから、ちょっとした精霊界みたいになってたんとちゃうかな。それでシアの魔力耐性を越えて、熱出て倒れたんや。あと疲れてたんも大きな。まぁとにかく、こんな状況二度もあってたまるか案件やから、心配せんでも大丈夫や」

 サムの説明に、フィラはある程度納得したようにうんうんと頷いた。だが、顔はまだ怖いままで、何かを考えるように黙りこくっている。

「……精霊界って、精霊の住んでる世界ですよね?」

 誰も何も言わないので、シアが聞いた。

「せや」

「どんなとこなんですか?」

「どんなとこ? せやなぁ~、簡単に言うと、世界全体が魔力の海に沈んでる感じのとこや。あまりに魔力が濃すぎて、ワイらが精霊界に入ったらその瞬間に身体が崩壊して死ぬ、って言われてるぐらいや」

「げっ、そんな恐ろしい世界なんですか!?」

 シアは驚いた。

「せやで、魔力は高いエネルギーを持っとるからな、ありすぎると肉体が耐えられへんようになって崩壊するんや。せやから精霊は、物質的な肉体を捨て去って魔力でできた肉体に進化したらしい。その進化のせいで、魔力の薄~いワイらの世界じゃ生きられへんくて器を必要とするんや。何でもせやけど、多すぎるのも少なすぎるのも問題ってことやな」

 それっぽい感じでサムが話を締めくくったとき、フィラが「あっ!」と声を上げた。三人の目がフィラに向く。

「そうだ、魔力だよ! 前から気にはなってたんだけど、初めて会ったときほとんど魔力がなかったのに、たった一ヶ月かそこらで何倍にも魔力を増やして、シアの身体は本当に大丈夫なのかい? 今回のが原因で、死のループに入ったりしないんだろうね?」

 フィラは深刻そうに聞いたが、サムはいつも通りあっけらかんと答える。

「せやなぁ~、まず、シアは全体的に特殊すぎる。魔力量の増加する速度は速すぎるし、魔力耐性も何やめちゃ高いし、あと身体能力はヒトより獣人寄りやし、ってかそもそもこの世界の人間やないし。せやから断言はできひんけど、まぁたぶん大丈夫やろ。発症したとて、今となっては大したことない病気やし。なんやったら、先に特効薬飲んどくか?」

「えっ?」 

 シアは耳を疑った。たぶん大丈夫なのに、薬を飲むのか……?

 だが、フィラは頷いた。

「そうだね、その方が安心だね」

「えぇっ、く、薬飲まなきゃいけないんですか!?」

 シアは思わずフィラの顔を見た。どうやら冗談ではなさそうだった。

「大丈夫大丈夫、薬()~ても漢方みたいなもんやから、ちゃんとしたら副作用はない。それに、主な成分は体内の魔力量を減らすためものやけど、ついでに滋養強壮の成分も入っとるから、今のシアにはちょうどええ。問題があるとしたら、緑色に光ってる上にクソ不味いってことだけや」

「緑色に光ってて、クソ不味い……!」

 シアはハッとした。その特徴は、ドミニクに飲まされていた『魔印の特製プロテイン』と全く同じだった。

「オレ、カレルセにいる間、たぶんそれ毎日飲まされてました」

「どういうだい?」

 フィラが眉をひそめて聞いた。

「一日の訓練の終わりに、回復魔法と『魔印の特製プロテイン』って言う、緑色に光る不味い液体が絶対セットであったんです。そのときは筋肉のためって説明されてたんですけど……、たぶん同じ物ですよね?」

「筋肉のため……?」

 サムが眉間にシワを寄せて呟いた。

「そうか……! シアが特殊すぎる理由はそれやったんか……。いや、待てよ。これってもしかしたらワイらでも……」

 何かに気付いたのか、サムはぶつぶつと一人口ごもる。残りの三人はそれが終わるのを待っていたが、やがて痺れを切らしたヴェルフが声をかけた。

「オイ、サム! 何か分かったんなら一人でぐちぐち言ってないで俺たちにも教えろよ」

「……あ、ああ、すまんすまん」

 サムはハッとして三人の方を見た。それから気付いたことを説明しはじめる。

「えっ…と、うん。せやせや、その飲みもんが特効薬で間違いない。緑色に光ってるモンなんて、この世界でも魔力なくなり(そう)くらいしかないからな」

「魔力なくなり草って、近付いた者の魔力を吸い取って殺すっていう、あの危険な植物ですか?」

「せや。あれ喰うと、体内の魔力を吸収してくれるねん。やけど、その魔力は排出されるわけやのうて体づくりのエネルギーになる。シアみたいにある程度体が完成してる年齢やと、身長とかはそんなに伸びひんやろうから、たぶんほとんど筋肉作るためのエネルギーになったはずや」

「なるほど、それで獣人寄りの身体能力か」

 ヴェルフが納得したように頷いた。

 ヒトと獣人の身体能力の差は、種族の差ではなく体づくりに使用される魔力の量の差によって生まれる。だが、摂取した魔力をどの割合で、体づくりに使用するのか、体内に貯めるのかは、個人の意思ではなく生まれもった特性で決まる。結局のところ、シアのように外部から働きかけない限り、種族の差を埋めるのは不可能とされている。

「せや。んで、魔力ゼロの状態で、手足もくっ付けれるような強力な回復魔法浴びてたんやったら、魔力耐性がめっちゃ高いんのも納得や。回復魔法の魔力やったらどんなに強力でも身体に害はないからな。外部からムリヤリ引き上げたんやろう。こんなやり方があるとはなぁ」

 信じられへんわ、と言わんばかりに、サムは首を振って言った。

「そんで最後に魔力量の増加速度やけど、これは単純に魔力なくなり草を飲むん止めたから、摂取した魔力が体内に貯まるようになったんやろう」

「そうか、もう十二分に魔力耐性が高くなってるから、あとは思う存分増えるだけなんだね」

「そういうこっちゃ。その上、毎日魔力空になるまで頑張ってたし。と、今、言えるのはそれくらいかな……」

「ふ~ん」

 と、意味深に鼻を鳴らすと、ヴェルフはテントから出ていってしまった。シアとフィラは顔を見合わせる。

「……せやせや!」

 テントに流れる微妙な空気をかき消すように、サムがパンっと手を打った。

「薬飲まんでも魔力異常症にはならへんやろうけど、念のために一ヶ月くらいは突然の高熱に注意しときな、シア」

「突然の、高熱……?」

 その言葉に、シアは真っ青になった。冷たい刃を突き付けられたように心臓がキュッと縮み上がり、背中に嫌な汗が流れる。

「それが、魔力異常症の一番のサインなんや」

「ち、因みに、魔力異常症って、どんな病気なんですか?」

 シアはごくりと唾を飲み込むと、微かに震える声で聞いた。

「体内の魔力量と魔力耐性のバランスが崩れたときに発症する病気や。体内の魔力量が魔力耐性を超えると、そのエネルギーに耐えきられへんなって体は発熱する。発熱することで魔力は排出されるんやけど、それには数日かかってまうから体は衰弱する。今度は早く元気になるために、体は大量の魔力を吸収する。そんでまた発熱。このループが死ぬまで繰り返される。最初の頃は一ヶ月間隔とかやけど、だんだん間隔が短くなってって、それに伴ってどんどん衰弱してって、一年ほどで死に至る」

「それ、治るんだよなッ!?」

 突然、シアが血相を変えてサムに掴みかかった。サムとフィラはギョッとした。シアの顔が、今まで見たこともないほどに必死だったのだ。

「お、落ち着きぃ、シアは大丈夫やって! 今起きたとこやのに、あんまり暴れたら体に悪いで!」

 サムは、シアを振り払えなかった。力加減を少しでも間違えると、シアにケガをさせてしまうからだ。だが、必死なシアにはそんな気遣いは届かない。

「薬! 特効薬はどこッ!?」

「ちょっと落ち着きな、シアは大丈夫だって、アンタのは一過性だよ!」

 フィラは羽交い締めにして、シアを力ずくで引き剥がす。それでもシアは暴れるのを止めなかった。

「オレじゃないッ! 紫苑の──妹の病状にそっくりなんだッ!!」

 もがきながらシアが叫んだ。

「ウソ……」

 その衝撃の内容に、フィラは思わず腕の力をゆるめてしまった。

「だって、シアの世界には魔力がないんだろ?」

 いきなり力が抜かれ、シアはベッドから転げ落ちた。立ち上がろうともせず、呻くように呟く。

「そんなの、知らない……。でも、紫苑は突然の高熱で半年前くらい倒れて、それから発熱を繰り返してて、だんだん弱ってきてて、原因も治療法も何にもわからなくて、さっきは生命維持装置みたいなのに繋がれてた……。だけど、薬……あるんだよね? それで紫苑は治るんだよね?」

 フィラは、ニッコリと笑って力強く頷いた。

「大丈夫だよ、シア。今は、魔力なくなり草を使った特効薬が簡単に手に入るからね。それさえ飲み続ければちゃんと治るよ」

「ホント!?」

 シアの顔がパッと輝いた。しかし、サムは小さく首を横に振る。

「いや、あかん。魔力なくなり草は魔法に干渉しよる。薬にしたからってそれは変わらん。そんなモン持って、異世界の門なんて超高度な魔法使ったらどうなるかわからん。魔法が発動せーへんだけやったらまだしも、最悪全然違う世界に飛ばされるかもしらん」

「……他に、他に何か治す方法は……?」

 すがるように呟くシアに、サムは険しい顔で言った。

「種を持って帰って栽培する方法もあるけど、アルラウネの魔法で成長速度を上げたとしても何ヵ月もかかってまう。発症して半年、今すぐ帰れたとしても、時間が足りるかどうか……」

「時間……」

 サムの一言に、シアは一つの約束を思い出した。ダメ元で訊ねてみる。

「この世界に来たとき、アデルに呼び出した時間に戻す、って言われたんですけど、それって可能なんですか……?」

「残念やけど、それは不可能や」

 サムは、またしても首を横に振った。

「時間は一定の速度で流れ続ける。その流れを変えんのは、この世界を創った女神様でできひんかったって言われてる。それをたかが人間にできるはずない」

「そんな……」

 シアの頭は真っ白になった。アデルの言葉がウソだと言うことは前々から分かっていたはずなのに、改めて突き付けられるとショックが大きかった。

「………………他に方法は?」

 シアは、助けを求めるように二人を見た。だが、二人とも何も言わなかった。言えなかった。そのとき、病室の片隅に置かれたカバンがシアの目に止まった。弟妹へのプレゼント──どんな病でも治す『国宝』とシアの日記──が入った、命より大事なカバン。

「ドミニクさんみたいな回復魔法は……?」

 虚ろなまま、シアが呟いた。サムは複雑な表情で答える。

「そんな強力な回復魔法やったら一発で治せるやろうけど、今からシアが使えるようになるとは思われへん」

 シアは言葉もなく、大きく目を見開いた。

「魔力異常症は、魔力が薄いとこでは進行が遅いとされてる。シアの世界では、この世界より進行速度も遅いはずや。シアが帰るまでに、なんとか新しい治療法を探してみる。せやから、元気出しぃ」

「サムはこんな見た目だけど、獣人一賢いから何か見つけてくれる。念のために、アタシは魔力なくなり草の種も準備しとくからサ」

 シアの様子を心配した二人は、何とか励まそうとしたが、シアは全く聞いていなかった。『国宝』で紫苑を治せる確証を得た喜びで、シアの目にはカバンしか映っていなかったのだ。

(ドミニクさんの魔法より、強力な回復魔法が入っている『国宝』なら治せる! これを持って帰れば紫苑を助けることができる!! あとは半年以内に……)

 そのとき、シアの脳裏にさっき見た悪夢──生命維持装置らしきモノに繋がれた紫苑の姿がよみがえった。

(……本当に? 本当に半年も時間があるのか……!?)

 もう、あまり時間が残されていないように見えた。

 あれは夢のはずなのに、病室も装置も紫苑も藍も、あまりにリアルだったから、嫌な予感が拭いきれなかった。希望の光が、少しずつ翳っていく。

(もし、あれが現実だったなら……、どれだけ急いでも、もう……)

 不意に沸き上がった絶望に支配されかけたそのとき、ヴェルフの声がそれをかき消した。

「何はともあれ、今シアがやるべきことは回復することだ」

 見ると、ヴェルフがテントに入ってくるところだった。その手には鍋を持っている。

「ホラ、イイモン持ってきてやったから、これ喰って、少し寝な」

 それは怪我人用に振る舞われている、魚とキノコがたっぷり入った薬膳粥だった。香草の香りがテント中に広がり、その美味しそうな香りに五日間眠っていたシアの胃袋も目を覚まし、ぐぅ~と大きい音を鳴らした。

 空腹の前では、希望も絶望も霞んでしまった。シアは一旦全てを忘れて、食事に夢中になった。

 それを見て、「あとはゆっくり休み」と、三人はテントをあとにした。

 外は、もう日が暮れはじめていた。

「それじゃ、俺たちもクズハんとこでメシにするか」

 テントから出たとこで、ヴェルフが二人に言った。

「アタシはパス。先に魔力なくなり草の種を集めてくるよ」

「おっ、ほんならついでに花の方も採って来てくれる?」

「了解。あっ、そうだ、頼まれた糸が出来たから、忘れないうちに渡しておく」

「おお! ありがとう、これで四天王対策の発明品作れるわ」

 サムに糸を渡すと、フィラは森の方へと消えていった。その背中を見送りながら、ヴェルフがサムに聞いた。

「なぁ、アデルが自力で魔力異常症を治したって聞いたんだが、可能なのか?」

 突然の質問に、サムは驚いた。

「アデルが子供ん頃言ーたら、二十年くらい前やろ? 原因もまだわかってなかった頃に、自力でってそんなん不可の──」

 不可能に決まってる! と言おうとして、サムは固まった。

「いや、アデルやったら、大精霊を召喚できるアデルやったら一個だけ可能性があるかも……」

「どういうことだ?」

 バッとこちらを見たヴェルフに、サムは大きく顔を歪めて答える。

「大精霊と、魂を交換するんや」

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