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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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55 復讐の炎  後編

 一番小さな人影の号令で、成り損ない共は一斉に飛びかかった。すかさず、サムが立ち上がる。

「ヨッシャ! 三人とも三人とも手ェ出す──なッ!?」

 が、それより速くフィラが片手を上げた。

 その瞬間、成り損ない共の動きがピタッと止まった。見えない壁にぶつかった。そんな感じだった。

「な、なんだっ!?」

「う、動けねぇ!?」

 成り損ない共は何が起きているのかわからず、呆然と止まっていた。それらに一瞥をくれてから、サムが口を尖らせて言う。

「えぇ~~、手ェ出さんといてって~たやん、フィラ」

「それを言うなら先に聞かなかったのはアンタだよ、サム。アタシはホコリを立てるなって言ったよね?」

 フィラは、ギロリとサムを睨んだ。返す言葉もなく、サムは黙って立ち尽くした。

「フィラ……そうか! 蜘蛛の糸ッ!?」

 フィラの真後ろにいた成り損ないが叫んだ。よく見ると、フィラたちを囲むように糸が張り巡らされていた。

「今ごろ気付いたのかい? そんなんでよくアタシたちに喧嘩売れたねぇ」

 フィラは振り返ってため息をついた。

「お前らはまんまと蜘蛛の巣に引っ掛かったんや。お前らごときでは到底抜け出されへんアラクネの巣にな。……けどまぁ、全身覆ってるそのけったいなマント脱いだら逃げれるかもなぁ~?」

 サムは挑発するようにニヤニヤと笑いながら言った。

「また余計なことを……」

 フィラは呆れたように首を振った。ここには糸をかけられる物が少なすぎて、網目の粗い不完全な巣しか作れなかった。アラクネの巣といえど、不完全なものでは、露出の少ない彼らを完全に拘束することはできなかったのだ。

 成り損ない共はハッとした。確かに、糸に触れているのはマントと武器だけで身体は触れていない。マントを脱ぎ捨てれば巣から脱出できる。だが、明らかにワナだ……。

「……ええい! 何を狙っているか知らないが、乗ってやる!!」

 焼きクソ気味に叫ぶと、彼らはマントと武器を捨て、蜘蛛の巣から脱した。だが……。

「……こんなけおって、たったの五人だけか」

 一同を見回して、サムが大きなため息をついた。残りの十人超は動かなかった。マントを脱がないことを選択したのだ。

 マントを脱いだ五人は、猿に虎、亀、豹、鹿、と種族はバラバラだったが、全員腕に同じ刺青──黒い炎が彫られていた。

「いや、五人もおんのか……」

 サムは哀しげに首を振ると、一番近くにいた豹に眼を向けた。

「で、どうすんの? たった五人になってもうたけどまだやる気なん?」

「当たり前だ! 例え一人になろうとも我らの復讐の炎は決して消えん!! ヒトを残らず焼き尽くすまではッ!!」

 身構えた彼らの両眼には怒りしかなかった。腕に彫られた刺青と同じ、黒い炎のような怒り。初対面なはずなのに、その怒りの眼差しはシアに向けられていた。

「バカ野郎ッ! 仲間同士で争うんじゃねぇ!!」

 そのとき、地鳴りのような怒号が轟いた。素顔の五人はビクッと動きを止める。シアは慌てて声のした方を見た。

 拘束された成り損ないが邪魔で見えづらいが、炎の向こう側に大きな人影が三つあった。成り損ない共と同じ黒いマントを纏い、こちらに向かって歩いて来ている。シアは思わず固唾を呑んだ。

 が、三人は思ったより遅かった。よく見ると、先頭を行く真ん中の歩き方に違和感があった。ドスン、ドスン、と一歩ごとに大きく体を揺らすように歩いていたのだ。シアは不審に思って真ん中を凝視し、そしてハッと息を呑んだ。

 マントの裾が持ち上がった一瞬、そこに見えたのは不揃いの足──毛むくじゃらの足と木製の義足だったのだ。

(そうか、この世界は戦争中なんだ……)

 誰もが五体満足というわけにはいかない。そんな当然のことに今さらながら気付いて、シアは胸が痛くなった。

 その周りで、拘束された成り損ない共が慌てはじめた。

「おいっウソだろっ!? オルソたちが戻ってるなんて聞いてねぇぞ!!」

「やべぇよ……どうすんだよ、ラークッ!?」

「バカッ、名前を呼ぶな!! と、とにかく逃げるぞ!!」

 成り損ない共は何とか逃げ出そうと、ジタバタもがきはじめた。すると、周りのテーブルとイスがガタガタと動いた。フィラは、周りのテーブルとイスを使って巣を張っていたのである。強かなに酔っている客たちはどんなに揺らされても、「飲み過ぎたみたいだ、地面が揺れてやがるぜ、ガッハッハ!!」と豪快に笑い飛ばしていた。

「ったく、往生際が悪いね」

 フィラが舌打ちして、両手を上げた。

巨大なアタシ(メガラクネ)!」

 上げたフィラの両手から、白い糸がブワッと吹き出し、あっという間に見上げるような巨大なフィラが生まれた。

 驚く間もなく、巨大なフィラから糸が伸びて、成り損ない共に巻き付いていく。成り損ない共はまるでマリオネットのように上から吊られて、身じろぎ一つ出来なくなった。同時に、フィラは周りのテーブルとイスに張っていた糸を切った。

「アタシにこれだけの魔力を使わせたんだ。どうなるか分かってるだろうね?」

 フィラが意味深長に微笑むと、本人ではなく巨大な方がガバリと大きな口を開いた。成り損ない共は恐怖に震え上がる。

「ま、待ってくれ! こ、殺しは許されてないだろっ!?」

「先に仕掛けてきたのはアンタらだ。それにこれは、殺しじゃなくて捕食だから。レオンも何も言わないだろうサ」

 覆面の下から、サァーーと血の気が引く音が聞こえたような気がした。

「う、ウソだろ!? 悪かった! もうお前らには関わらねぇからよ!!」

 ゾッと青ざめた成り損ない共は、まさに必死で命乞いをした。さらに恥ずかしげもなく、近づいてきた三人に助けを求める。

「お、おいオルソ! 見てねぇで助けてくれよ!!」

 いつの間にか、三人はシアたちのすぐ側まで来ていた。

「冗談はそれくらいにして、コイツらの拘束も外してやってくれねぇか、フィラ? 戻って来たとこでよくわかってねぇが、ヴェンデッタが絡んでるなら俺の責任だ。まとめてキツくお灸を据えさせるからさ」

 最初の怒号と同じ地鳴りのように低い声だったが、穏やかな口調だった。どうやら真ん中の人影の声らしい。マントから覗く毛むくじゃらの口元を見て、熊だ、と、シアは思った。

「……仕方ないね。オルソ、アンタに免じて今回は解放してやる。だけど、次は容赦なくバラバラにするからね」

 冷たく言い放つと、フィラは手を下げた。次の瞬間、大きなフィラがフッと消え去り、成り損ない共が糸の切られた操り人形のように地面に倒れた。腐っても獣人。成り損ない共はバッと即座に飛び起きる。

「へっ! ヒトを怨んでいるのは俺たち以外にもいっぱいいるんだ。覚えとけよ!!」

 恥ずかしい捨て台詞を恥ずかしげもなく言うと、成り損ない共は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。が、数歩も行かないうちに全員後ろから引っ張られたようにひっくり返った。

「ハッ! どうせそうくると思って、アンタら同士は繋いだままにしといたよ。同じ方向にだったら逃げれたかもしれないけど、アンタらじゃねぇ」

 倒れた覆面を見下ろして、フィラは冷たく笑った。オルソと呼ばれた熊らしき獣人は、流石だな、と笑うと、左右に控えている人影に命令した。

「ソイツらを連れて先に行っといてくれ、ローランド、ライバック」

 ローランドとライバックと呼ばれた左右の二人は、一歩前に出るとバサッと黒いフードを外した。一人は全身を真っ黒な毛で覆われており、ゴリラのような見た目。もう一人は灰色で鎧のような皮膚と鼻先に二本の角があり、サイのようだった。そして、この二人も五体満足ではなかった。ゴリラの方は左腕の肘から先が無く、サイはより大きいはずの前方の角が根元で折れていた。

「オッケー。じゃあ俺はコイツらを連れてくから、ライバックはそっちの五人を頼んだ」

 ゴリラは右手で倒れた覆面の一人を掴むと、暴れるのも意に介さず、そのまま引きずって行った。芋づるのように残りの覆面も引きずられていく。

「オイ、お前らも行くぞ!」

 ライバックは、炎の刺青の五人を連れてローランドを追った。

「すまねぇな、フィラ。それにボウズも、俺の部下が迷惑をかけた、すまない」

 オルソはフードを外して謝罪した。シアの予想は的中していた。オルソは熊の獣人だった。が、思わずシアは顔を歪ませてしまった。

 オルソの身体は、戦争の一言では説明できないほどキズだらけだったのだ。顔中に生々しい傷痕があり、右目は潰され左耳はなかった。潰れた右目には、先ほどの五人とよく似た黒い炎のマークがあった。だがこちらは刺青というより烙印のようだった。マントで隠しているが、左腕は肩口の部分からスッパリとなく、右足は木製の義足だった。

「フンッ、コロシアムの英雄と呼ばれたアンタが、あんな跳ねっ返りどもすら御せねぇとはな」 

 ヴェルフがニヤリと笑った。オルソも笑い返す。

「ウルセェ、小僧。コロシアムの英雄も時間ときの流れって残酷な敵には勝てねぇのさ」

 立ち呆けていたサムが、オルソにイスを渡す。

「シア、紹介するわ。この熊さんが本物のヴェンデッタのリーダー、オルソや」

「ヴェンデッタ!?」

 シアは、ビクリと身を縮めた。オルソは苦く笑う。

「そう恐がるな、俺たちの復讐の相手はアデル王と貴族だけだ。それに復讐って言ったって、別に殺すわけじゃない。ただヤられたことをきっちりヤり返すだけで、それ以上をするつもりはねぇ。俺たちはヒトじゃねぇからヨ」

「オルソ、その言い方はどうなんだい?」

「うん? ああ、そうか。ボウズもヒトだったな、すまねぇ。ボウズに含むところはないんだが、カレルセの闘技場じゃヒトのイヤな所ばかり見てたからヨ」

 オルソは、もう一度シアに謝罪した。どうやら成り損ないと違って、本物はヒトを差別していないらしい。

「いえ、いいんです。俺もヒトだから、少なからずそういうのも見てきたし……。そんなことより、カレルセにいたんですか?」

 シアは、聞いてからしまったと思った。どう考えても楽しい思い出であるはずがなかった。しかし、オルソはあっさりと答えてくれた。

「俺たちはカレルセに捕まっててな。それでマギアが侵略するまでずっと、カレルセの闘技場でヒトや精霊、同じ奴隷の魔人たちと戦わさせられてたんだ」

「だから復讐……」

「それはちょっと違う。何がどうであれ、戦いで負ったキズなら俺たちは復讐しようとは思わねぇ。だがな、キズの大半はそうじゃねぇ。手も足も、この目だって」

 オルソはそう言って、潰れた右目に手をやった。

「闘技場は見世物で娯楽だ。一方的な試合だと面白くねぇからって、勝ちすぎると拷問された。もちろん、血が流れないようなぬるい試合も面白くねぇからって拷問。しまいにゃあただ暇だからって拷問。そうやって何かと難癖を付けられて何度も何度も拷問された。俺だけじゃねぇ、ローランドもライバックも、俺たちヴェンデッタは全員。中には、試合じゃなくて拷問で死んじまったヤツもいる」

 シアは、胸が潰れる思いだった。復讐が正しいことなのかは分からない。だけども、彼らの怒りは正当なモノで、彼らの復讐は正しいように思えた。

「だから、さっきの彼らはあんなにも怒ってたんだ……」

 成り損ないたちがああなってしまったのも仕方がない、シアにはそう思えた。

「アイツらは、俺たちよりも怒ってる」

 オルソは苦い顔で頷いた。

「腕に炎の刺青を入れたアイツらは、ヴェンデッタの遺族たちだ。俺たちと違って直接拷問を受けたわけじゃねぇ。だから何をされたのか、どんな痛みだったのか、どんなにヒトを怨んで死んでいったのか、全部想像するしかねぇんだ」

 そして、悪い想像というのは往々にして、当事者よりその周りの方が悪い方向へと進んでしまうものだった。

「ケッ、死者のために復讐なんて馬鹿げてるぜ。死んだヤツがあの世で喜ぶとでも思ってんのかねぇ。てか、死んだヤツがあの世で喜んだところで一体何になんだよ」

 ヴェルフは鼻を鳴らして、不満げに言った。

「まぁな。それでもこの前まではここまで酷くなかったんだがな。俺たちがいない間に何かあったのか?」

 と、オルソはサムの方を向いた。

「どうやら獣人至上主義のヤツらに唆されたっぽいな」

 獣人至上主義とはその名通り、ありとあらゆる生物の中で獣人が最上だと信じている、厄介な差別集団だった。

「さっきの中にリーダーのラークも居るみたいやから、本人たちに聞くのが一番早いんちゃう?」

 サムはあっさり言うと、さっさと話題を変える。

「それにしても、ようこのベストタイミングで帰って来てくれた。作戦の前日なんて超ベストタイミングやで」

 オルソたちヴェンデッタは、死んでいった仲間たちの遺品を故郷に帰す旅に出ていたのだった。彼らにとって、それはアデルへの復讐の次に大切なことだった。

「連絡を受けたからな。急いで戻ってきた」

「連絡?」

「レオン王からの手紙を、ハーピーのシグナスが寄越してくれてたんだ」

「そうか! ハーピーやったら空飛べるから何処へでもすぐ手紙届けられるんか!」

 サムがポンっと手を打った。しかし、オルソは逆に怪訝な顔になる。

「知らなかったのか? じゃあなんで俺たちが現れても驚かなかったんだ?」

「先にルーとアレクに会ったからね」

「ああ、そうか。それでそのルーたちがどこにいるか知ってるか? 理由はどうあれ、医者として旅に同行してくれたからお礼が言いたくてな」

「あの二人なら、魔力使い過ぎたから腐る前に寝るって言ってたから、もう寝てると思うよ」

「だったら礼は後日にするとして、俺もローランドたちに合流するか」

 オルソは立ち上がると、不揃いな足音を響かせて去っていった。


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