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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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53 紛い物

 獣人キャンプは、今、のほほ~んとしていた。先ほどの敵襲がウソのように。ぽかぽかとした暖かなお日様の下で、のどかで穏やかな空気に包まれていた。獣人たちも各々好き勝手に過ごしている。黙々とご飯を食べている者、どてんと転がって昼寝している者に、特にすることなくうろうろしている者……、と、まるで昼下がりの動物園のようだった。そんな中を、シアとヴェルフは鍛冶場へ向かって歩いた。

「お~~い、ゴン爺ぃ~~! いるかぁ~~?」

 鍛冶場の大きなテントをくぐりながら、ヴェルフが大声で呼び掛けた。返事はなかった。

「お邪魔しま~す」

 と、シアも後に続いてテントに入る。炉は轟々と焔を吐き、大きな金床には剣やら道具やらが残されていおり、何やら作業中にも見えるが誰の姿もなかった。

「おっ、あった、俺の!」

 ヴェルフは嬉しそうに、武具が置かれている棚に駆け寄った。そして一振りの剣を手に取り、抜く。ボッロボロに刃こぼれしていたはずの刀身が、磨きあげられた鏡面のような銀色の光を放った。

「流石、ゴン爺だ」

 ヴェルフは満足気に頷き、鞘に収めた。そのとき。

「次はないと思って大切に扱うのじゃぞ」

 奥からゴンザレスが現れた。その手には何の変哲もない剣と盾があった。どこにでもある大量生産品のようなそれを見て、シアは思わず叫んだ。

「救済の武具ッ!?」

「の、レプリカじゃ」

 ゴン爺が優しく訂正した。シアはハッとする。

「そう……でした」

 救済の武具がここにあるはずはなく、そして救済の武具を模した武具を貰えるとあらかじめ聞いていたのに、シアは叫んでしまっていた。それくらいにそっくりだった。

「じゃが、救世主殿に間違えられるとは、見た目だけは同じように造れたということかの」

 ゴン爺はそう言いながら、シアにレプリカの武具を差し出した。シアはドキドキしながら、剣から受け取った。

「あっ、軽い……!」

 レプリカは、本物の救済の剣より軽いように感じた。ただ、最後に救済の武具を持ったのは一ヶ月も前なので、気のせいか、もしくはあのときより筋力が向上したのか……。とりあえず盾も受け取る。

「! こっちは重い……」

 逆に盾の方は本物より重い気がした。それでも今使っている盗品の盾よりかは軽かった。

「そうじゃ。救済の武具の肝とも言える自動戦闘と魔力吸収。この二つは、ワシの腕では再現できなんだ。じゃから剣の方は軽量化し取り回し易く、盾は重くして防御力を高めたんじゃ」

「ちょっと見せてくれ」

 と、ヴェルフが横からレプリカの剣を取った。

「たしかに、こんなけ軽けれりゃあ木刀と同じように扱えるな。だが、こんなに軽くて大丈夫なのか?」

「当たり前じゃ!」

 ゴン爺は、ヴェルフからレプリカの剣をひったくり、シアに返す。

「ワシを舐めとんのか。軽くなっても切れ味は抜群じゃ!」

「へぇ~流石は伝説の名工。おい、シア。ちょっと抜いてみろよ」

 言われるがまま、シアはレプリカの剣を引き抜いた。その瞬間、眠気を誘う穏やかな陽射しさえも斬り裂いてしまうような、冷たい光が放たれた。その冷たい光は剣からシアの身体へと伝わり、シアは全身に鳥肌が立った。同時に、全身に力がみなぎるのを感じた。

「これは……」

 シアはレプリカの剣をかざしてみた。轟々と燃え盛る炉の焔を映してなお、刀身は冷たく、鋭く光っていた。それは見惚れるほどに美しかった。伝説の名工の最高傑作は、その名に恥じぬ、美術品のような美しさだった。だが、恐ろしかった。どれほど美しくても、これは殺しの道具なんだ、と、命を奪うためだけに生まれてきたのだ、と、思い知らされるような冷たさがあった。

「どうじゃ? ワシの最高傑作じゃ」

 ゴン爺は鼻高々と言った。ヴェルフも感嘆の声を上げる。

「ハァ~、見事な剣だな。伝説が渋滞していただけある」

 だが、シアは慌てて剣を鞘に収めた。それを見たゴン爺は一瞬目を見開いたが、すぐに項垂れてしまった。

「やはりワシのは所詮紛い物。本物の救済の武具には及ばんか……」

 シアは慌てて首を振る。

「や、違うんです! むしろ本物よりスゴいと思います!!」

 ゴン爺はバッと顔を上げると、鬼のような形相でシアにすがりついた。

「どこがじゃ? どういう風にじゃ!?」 

「えっ、あの……──。オレ、剣に詳しくなくて、上手く説明出来ないんですけど……、とにかくスゴいと思いました」

 自分で言っておきながら、下手くそなお世辞にしか聞こえなかった。だが、これが今のシアの精一杯だった。それでも、本物よりスゴい、はシアの本心だった。

 ゴン爺の打ったレプリカには、本物の救済の剣では感じたことのない冷たさがあった。斬ることだけを追究して一切の無駄を削ぎ落としたような、救済ではなく剣の存在意義である殺すことに特化しているような、そんな冷たさが。ただ抜いただけなのに、シアは身体の芯まで凍えている気さえしていた。

 だが当然、そんな言葉で引き下がるゴン爺ではなかった。そうでないと、伝説の名工にはなれない。

「ハ? もっと具体的に教えてくれい!!」 

 さらに問い詰めるゴン爺を、ヴェルフが力ずくで引き剥がす。

「ちょっと落ち着けよ、ゴン爺! シアは剣の素人なんだぞ」

「ぬ、ぬぅ。そうじゃな、すまなかった」

 それからヴェルフがシアに問う。

「やっぱり怖いのか?」

 シアは静かに頷いた。

「うん。ヴェルフに訓練してもらって、戦うことには慣れたと思ってたんだけど、真剣を持つとまだ怖くて……」

 シアは、ヴェルフにだけは正直に話してた。真剣で戦うのが、人間を殺すのが怖い、と。ヴェルフは理由を聞かず、

「そうか。木刀で戦う訓練をしてたらそのうち慣れんだろ。慣れなかったら、まぁそれはそんときまた考えればいい」

 と、あっさり言ってくれた。そのお陰で、シアは深く考えずに木刀での訓練に打ち込むことができた。しかし、どれだけ木刀に慣れても、真剣の恐怖には慣れなかった。

「やっぱり、オレは真剣を使いたくないです」

 シアの目を真っ直ぐ見て、ヴェルフは静かに言った。

「いいか、シア? エヴァンスに勝てるってのは、あくまで五分の条件での話だ。言うまでもなくエヴァンスは殺す気でかかってくる。別にエヴァンスを殺せとは言わないが、お前も同じ気迫で戦わないとあっという間に殺されるぞ」

「…………」

 ヴェルフのそれが怒りや呆れなどではなく、心配してくれているのがわかった。だからこそ、シアは何も言えなかった。それでも俯かず、まっすぐとヴェルフの視線を受け止める。

「それに、殺す気のない剣で殺せるほど、エヴァンスは弱くねぇぞ。ゴン爺の剣がどれだけスゴかろうが、な」

 いくら言葉を並べられても、シアに頷くことは出来なかった。ヴェルフの言うことが正しいのはわかっている。実力だけで要塞司令官まで成り上がった一流の軍人が、二ヶ月ばかり剣術を習っただけのただの一般人に、しかも殺す気を持てないような腰抜けに殺されるようなことはない、とわかっている。それでも、真剣を使えば殺してしまう可能性がある。可能性がある以上、シアに真剣は使えなかった。例えそれが小数点以下だとしても怖かった。『殺し』が最大の禁忌とされる世界で生まれ育ったシアには、心の奥底に拭いきれない恐怖があったのだ。

 シアは、殺すくらいなら殺された方がマシ、と思っていた。それが、殺されかけたことがないから言える、甘えた子供の戯れ言なのだと理解していた。だからこそ口には出さない。だがそれでも、それが自分の本音なのだから仕方がない、とも思っていた。

「……ったく、わかったよ」

 やがて、ヴェルフの方が先に視線を外した。降参と言わんばかりに、目を瞑って首を振る。それが喜んでいいことなのか、シアにはわからなかった。

 そして目を開けたとき、ヴェルフの灰色の瞳はいやに真剣だった。

「大事な瞬間に迷って振れねぇなら、真剣なんて持たない方がマシだ。だが、木刀だけは絶対にダメだ」

「なら、前みたいに鞘? オレのテントに今も転がってるけど……?」

「バカか? 鞘なんて握りもないのに、木刀より使いづらいだろ」

「ですよねー」

 ヴェルフの手厳しい言葉に、シアは苦笑いするしかなかった。

「ゴン爺、前に頼んだヤツは出来てるか?」

「……ついさっき完成したところじゃわい」

 ゴン爺は金床に置いてある剣を取って、シアに渡す。シアはレプリカの剣と交換に受け取った。鈍く光る、ずっしりと重い剣だった。

「ワシの打った模造刀じゃ。まだ刃は入れておらん。少し重めじゃが、本気で殴打しても殺すことはないじゃろ。お前さんの筋力じゃ気絶させるもの難しいやもしれん」

「ありがとうございます」

 シアは深々と頭を下げて、お礼を言った。そしてそのまま謝る。

「それと、ごめんなさい。せっかく打ち直してくれたのに……」

「いいんじゃよ、ワシはとうに戦うことを止めた身。誰かにとやかく言う権利は持ち合わせておらんのじゃよ」

 ゴン爺は優しくそう言って、模造刀の鞘を渡した。シアは何気なく刀身を掴んで鞘に収める。

「オイ、シア。一応警告しておくが、刃が入ってないことをバレないようにしろよ。殺傷能力がないとわかったら、エヴァンスは捨て身の作戦に出る。今のシアの実力じゃ止めようがねぇぞ。その肉も斬れない模造刀じゃなおさらだ」

 シアは、言われて初めて刀身を掴んでいたことに気付いた。たしかに、それは出来る限り隠しておくべきだった。だが、隠しながら戦えるものなのだろうか?

「ムリだろうな。普通ならパッと見で気付く」

 顔に出ていたのだろうか、聞いてもいないのにヴェルフはあっけらかんと答えた。

「えっ、だったら……」

「そうだな。模造刀だと気付かれないように戦って、模造刀でエヴァンスを倒す。ハッキリ言って無謀だ。サムに頼めば良い作戦を考えてくれるだろうが、勝ち目は薄いだろうな……。まぁ、今すぐ答えを出さなくてもいいと思うぞ。武具はもう出来てんだ、持ち替えるだけなら数秒で事足りるからな。じゃ、作戦はあとでサムに考えてもらうとして、これからお前には昼メシ抜きで本気の俺と戦ってもらう」

「えっ、本気!?」

「心配すんな、何も本気の俺に一撃入れろなんて言わねぇからサ。これはエヴァンスを倒す訓練じゃなくて、シアが死なないための訓練だ。お前は防御だけに集中して、一秒でも長く立っていればいい」

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