45 マギア四天王
下記の三ヶ所を修正しました。 8/5
①たかだが一ヶ月ほどしか経っていないのに、シアは懐かしさを感じていた。
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あれからまだ半年も経っていないのに、シアは懐かしさを感じていた。
②一ヶ月以上前に一回会っただけなのに、シアはすらすらと答えた。
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数ヵ月前に一回会っただけなのに、シアはすらすらと答えた。
③「……もうないです。すみません、一ヶ月も一緒にいたのにこんな情報しか知らなくて……」
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「……もうないです。すみません、何ヶ月も一緒にいたのにこんな情報しか知らなくて……」
「疲れたぁ~~~~~!!」
シアは、テーブルに突っ伏した。それに沿って、サムが次々と料理を並べていく。焼き魚に、ワニ肉、キノコと葉っぱのサラダ、焼きたてのパン、果物。そして大人たちにはお酒。
「だいぶお疲れみたいやねぇ~。けど、魔法ってそないに身体まで疲れるもんやったけ?」
「フフッ、魔法は力でやるもんじゃない、もっと力を抜きな、ってさんざ言ってるのに、この子ったら全身にガチガチに力入れて。それでこのザマなのよ」
フィラが笑って言った。シアは顔だけ上げて答える。
「わかってるんですけど、集中するとどうしても身体に力が入っちゃって、もう全身バキバキです」
だが、全身バキバキになるまで糸と睨み合っていた甲斐あって、シアはグルグル巻きからは逃れることができた。日が落ちる間際に、なんとか糸を操るコツを掴むことができたのだ。それでもまだ、全神経を集中してようやく円を作れるレベルだった。戦いながら自由自在に操るなど、夢のまた夢のように思えた。
「なんだ、シア。カレルセにいたときゃあ、一日中訓練してたんじゃなかったのか?」
ヴェルフはグラスを傾けながら、テキトーによそった料理をシアに差し出した。シアは、筋肉を軋ませてゆっくりと起き上がった。
「それはそうですけど、あの頃はすぐにドミニクさんが魔法で回復してくれてたんで。そのおかげで一日中筋トレしても全然疲れがなくって、逆に寝れないくらいでした」
カレルセを飛び出したことに後悔はないが、ドミニクの回復魔法だけは恋しかった。あの緑色の不味い液体だけは二度とごめんだが。
「ハァ!? 疲れ取るためだけに回復魔法使ってたん? それとも疲れを取る魔法? いや、どっちにしたってそのドミニクさんって一体何者なん!?」
サムたちはすごく驚いているようだった。シアはきっちりと座り直し、姿勢を正して答える。
「……ドミニクさんは、四天王の『魔』です。疲れを取るためだけに回復魔法を使ってくれてて、バラバラになっても死ぬ前なら完璧に治せるって言ってました」
「マ!? それ実質死人以外やったら完全回復させられるってことやん!!」
「四天王が化け物揃いってのは知ってたけど……これは予想以上だね」
フィラは顔を歪ませて、呟いた。ヴェルフが静かに聞く。
「もう一つの魔法はなんだ?」
「もう一つ?」
シアは首を傾げた。
「そんな規格外の魔法を使えんなら、覚醒はもちろん第二魔法も使えんだろ?」
眉間にシワを寄せて、ヴェルフが言った。だが、覚醒も第二魔法もシアにはさっぱりだった。
「えっと……オレにはどれが第二魔法なのかわかんないです、ごめんなさい」
「ほな、そのドミニクさんは他にどんな魔法使てた?」
問い詰めるようなヴェルフに代わって、サムが優しく訊いた。それならシアにも答えることができた。シアは目を瞑り、記憶を辿りながら答える。
「え~っと、最初に見たのが回復魔法で……」
そうだ! 初めて会ったとき、武老師にボコボコにされてボロボロになった身体を治してくれたんだった。あれからまだ半年も経っていないのに、シアは懐かしさを感じていた。
「うんうん、それでそれで?」
サムは身を乗り出した。
「それで次に筋トレ器具の出して、そんで仕舞って……」
そのあとすぐ、ドミニクさんはトレーニングの時間だ、って闘技場をトレーニングジムに早変わりさせたんだ。それから日が落ちるまで筋トレさせられて、最後にトレーニングジムをまた闘技場へと戻していたっけ。
「ウソやん!! よりによって空間系の魔法ッ!? 瞬間移動できる回復魔法の使い手って、そんなんズルすぎやッ!!」
サムは絶叫した。敵に文句を言うなど愚かなことだ、と分かっていながらも叫ばずにはいられなかったのだ。
ゲーム好きのシアには、サムの気持ちが痛いほど理解できた。どこにでも一瞬で移動してどんなキズでも治すヒーラー、ハッキリ言ってチートだ。しかしそれでもシアは続けた。ドミニクがヒーラーだけに留まらないことを伝えるために。
「それだけじゃなくって、闘技場を一瞬で火の海にしたり……」
筋トレのご褒美に見せてもらった魔法。最初はろうそくのような火だったが、最終的には闘技場を一瞬で火の海にした。あのときの悪魔の顔を、シアは今でもハッキリと覚えていた。
「は? まだあんの?」
「はい。ウンディーネの召喚とそのために水を出して、同時に精霊の器を百体分。それから泥々になった闘技場を元に戻したり土壁を造ったり、土系の魔法も使ってたな。あっ、あとファイアウォールもドミニクさんの魔法です。……うん、オレが見たのはそれくらいです」
シアがそう締め括っても、三人からの返答はなかった。三人とも絶句していたのだった。すると突然、サムが笑い出した。狂ったように。
「イヤイヤイヤ、ナイナイナイ! 一人の人間がそんっなぎょーさん魔法使える訳がないやん。一瞬信じてもうたけど、それはやりすぎや」
「けど、オレは本当に見たんです!!」
シアは必死になって言った。信じてもらえなかったショックもあったが、それよりもドミニクを過小評価して返り討ちに遭うのが恐ろしかったのだ。
「いやごめんごめん、シアの話を疑ってる訳やないんや」
サムは涙を拭って、謝った。
「ただ、基本的にこの世界の人間が使える魔法は二種類なんや。両親のどっちかからの遺伝で、生まれ持って身体に刻まれてる第一魔法と、もう片方の親からの遺伝、もしくは覚醒したときに己が欲っして魂に刻まれる第二魔法。それだけや。何事にも異常ってのは付き物やけど、いきなり六つも七つもってなってくると現実的やない。せやから、何か魔法道具使てるんとちゃうかと思うんや。身に着けてんのか、体に埋め込んでんのか知らんけど、何か思い当たる物ないか?」
シアは、あっと声を上げた。
「ドミニクさんはいつも本を持ってました!」
魔法を使うとき、ドミニクの手にはいつも辞典のように分厚い本があった。
「ならそれや!」
サムは指をパチンと鳴らした。だが、シアは確信が持てなかった。
「……けど、この本は魔力をコントロールするためのものだ、って」
本について聞いたとき、ドミニクが喰い気味でそう言ったのだった。
「魔力をコントロール……ってことは、その本が魔力を魔法に変換してるクサいな」
サムは、うんうんと頷いた。
「だったらその本を奪えばいい。いくらスゴい魔法が使えたって所詮ヒトだ。肉弾戦に持ち込めば俺たち獣人なら楽勝だろ」
ヴェルフはあっさりと言った。が、シアはどんよりと言う。
「あのぉ~そのことなんですけど、ドミニクさんはたぶん肉弾戦も強いです」
「どういうことや?」
「戦ってるところは見てないんで推測なんですけど、ドミニクさんは何と言うか、ヒトの上限値と言うかヒト版のサムと言うか、とにかくデカイんです。背丈もそうなんですけど身体も筋骨隆々で、見た目は完全に格闘家なんです」
「だったらアタシの出番だね。ヴェルフたちが数人がかりで肉弾戦を仕掛けて、一瞬でも隙を生んでくれたらアタシが糸で本を奪ってみせるよ」
「あ? 俺だけじゃムリだってのか?」
反射的に牙を剥くヴェルフに、フィラはピシャリと言った。
「当たり前じゃないか。相手は一人で村を壊滅させるようなヤツらなんだよ」
ヴェルフは、グッと喉を詰まらせた。それでも何か言い返そうと口を開いたとき、
「まぁ、その辺の作戦はあとで考えるとして、他の四天王について教えてくれへんか、シア」
と、サムが険しい顔で言った。
「はい。オレが知っているのはあと二人、武道家の武老師っていうおじいさんと、双剣を使うマイっていう女性です」
「『魔』の大男に、『武』のおじいちゃんと『剣』らしきの女性か……、で、もう一人は全くわからんねんな?」
「ごめんなさい」
「そんな謝らんでもええよ、確認しただけやねんからぁ~」
伏し目がちに謝るシアに、サムは手を振って軽く笑った。
「ほんなら、おじいちゃんの方から教えてくれるか?」
「はい。武老師とは一回しか会ったことないんで詳しくは知らないんですけど、白髪に白い髭の小柄な老人で、そのときは徒手空拳って言うんですか? 武器を持たず、素手でボコボコにされました。魔法はたぶん使ってないと思うんですけど、詳しくはわかんないです」
数ヶ月前に一回会っただけなのに、シアはすらすらと答えた。実際に会ったのはこの一回だけだが、夢の中では何度も会っていたからだ。今もまだ悪夢として。
「…………」
三人は顔を見合わせた。代表してヴェルフが訊く。
「なぁ、そんときお前は、救済の武具を使ってなかったのか?」
「使ってましたよ」
シアはあっさりと答えた。
「って言うか、使われてた、の方が正しいかな。この世界に来た次の日で、オレは救済の武具の扱い方を知らなかったんで、完全に操り人形になってたんです。それで身体がボロボロになるまで力を引き出されて戦ったんですけど……」
「魔法も使わず素手でボコボコ……か」
シアは、静かに頷く。
「はい。ちょうど今朝のオレとヴェルフみたいな感じで、手も足も出ませんでした」
「……う、うん、そうか。とりあえずもう一人も教えてくれるか?」
「はい。マイさんは黒髪で……──」
シアはそこで止まった。背の高い天真爛漫な絶世の美女、それがシアの中のマイ像だったのだが、獣人とヒトでは背が高いの基準も美人の基準も違うような気がしたから。それとマイ像にはもう一面──恐いくらいに冷たい一面もあった。戦いのときは、天真爛漫よりこっちの面の方が大きいような気がした。シアはさらに頭を捻った。一目でマイだとわかるような特徴はなかったか、と。服装は……ダメだ。メイドだったりコックだったり、ころころ変わってた。それにマントはこの世界では珍しくないし、サンダル履きと片方だけの赤いイヤリングは特徴的だが、それよりは双剣の方が目立つし、………………。
「……えっと、とにかく黒髪の女性です。双剣使いでオレに剣術を教えてくれてて、あと風魔法も使います。自身や周りの物を浮かして自在に空を飛んだり、剣に纏わせて切れ味を上げたり下げたり、あとドミニクさんが火の海にした闘技場を突風で吹き消したり、色々してました。それで、マイさんにも一度だけ実戦形式の稽古してもらったんですけど、やっぱりボコボコにされました」
「そんときもやっぱり救済の武具?」
「はい。そんときは一応、救済の武具を使いこなせるようになっていたんですけど、それでもマイさんの双剣は風のように速くて、踊るように変幻自在で、全く手も足も出ませんでした。マイさんは救済の盾ごとオレを吹き飛ばすような、強烈な足を出してきたんですけどね」
と、シアは苦く笑った。
「もしかして、救済の武具って評判倒れで案外大したことないんじゃないかい?」
「せやな。剣聖の魂が封印してる言うても、太古の剣聖やもんな。今の時代じゃそんなに強ない可能性も大いにあるで」
フィラとサムの言葉に、そんなことないです! 救済の武具を使ってたオレは今のオレよりもっと強かったです!! と、言おうとシアは口を開いたが、今のオレは弱すぎるから、それより強いのは当たり前なのでは、と思い直し、静かに口をつぐんだ。
「……いや、俺たちにとっちゃ十分脅威だ」
シアが口を閉じたのを見て、ヴェルフが言った。
「なんや、知っとんかいな?」
「ああ、戦ってはないんだが、俺はこの前の戦闘で救済の武具を持ったシアと会ってんだ。そんときのコイツは初戦場でビビり散らかしててな、屋上の隅で腰抜かしてたんだ」
ヴェルフは、シアを指差して笑った。それからスッと真剣な表情に変える。
「それでもあの場にいた誰よりも強いニオイを感じた。俺でも勝てると言い切れないほどの強者のニオイをな」
シアは驚いた。あのとき『恐怖』でしかなかったヴェルフが、そんなことを思っていたなんて、と。だが、フィラとサムの驚きはそれ以上だった。
「アンタにそれを言わせるとは、救済の武具は評判通りなんだね」
「そんで四天王はそれすら圧倒する……」
サムは眉間にシワを寄せて、頭の中で四天王対策を考えはじめた。
(……なら四天王一人に対して、最低でも族長級二人は欲しい。せやけど族長級は、王さん入れても六人……。あかん、足らん! 残りの一人は……何とか頼み込んでクズハはんに戦ってもらうしかないな。最強のクズハはんには、やっぱり四天王最強と戦ってもらうべきか……)
皿を見つめて、ぶつぶつと独りごちていたサムだったが、突然シアの方を向いた。
「シアは四天王の三人に訓練されて、そんでその内二人とは実際に戦ったこともある。だからこそ聞きたいんやけど、三人の中やったら誰が一番強いと思う?」
シアにとっては、オリオン座の三ツ星やったらどの星が一番遠い、と聞かれているのと同じだった。三つとも遥か遠くにあることは分かるが、遠すぎてどれがどのくらい離れているかなど全然分からない。それでもシアは、
「マイさんです」
と、キッパリ断言した。
「へぇ~『魔』の大男より『剣』の女性の方かいな。それは戦ったときの感触か?」
シアは首を振った。
「違います。オレの感触では武老師もマイさんも強すぎて、雲の上の存在としかわかんないです。ただ、マイさんは自分で四天王最強の剣士って言ってたんです」
「自分で? そんなの信じていいのかい?」
フィラは眉をひそめた。
「マイさんは、そんな見栄を張るウソをつく性格じゃないんです」
シアは力強く言った。
「ウソじゃなくても、剣士としては最強なのかもしれないぞ?」
「もしそうなら一緒にいたドミニクさんが訂正したはずなんです」
シアの脳内では、『そりゃあ、剣士に限定するなら最強だな』と、嫌みっぽく言うドミニクの声を再生することができた。
「よし、わかった。最強は『剣』やな」
サムは、うんと頷いた。それからシアに聞く。
「他に何かあるか?」
「……もうないです。すみません、何ヶ月も一緒にいたのにこんな情報しか知らなくて……」
「いやいや、そんなことないよ、ごっつい助かったわ。聞いたからって勝てるかはわからんけど、聞いてなかったら絶対勝たれへんかったからな。ほんまおおきに」
サムは、にこやかな笑顔でそう言った。
「そうだよ、相手の戦い方ってのは貴重な情報なんだから。アンタは胸を張っていいんだよ」
フィラもシアに笑いかけた。
「せやな、何とか残り一人の戦い方も知りたいな……」
ボソッと呟いたサムに、ヴェルフがあっけらかんと言った。
「残り一人なら俺が知ってるぞ」




