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3  井の中の蛙、大海を知らず

 翌日、シアが嫌々ながら闘技場に向かうと、そこはもうトレーニングジムになっていた。シアは深いため息をつき、月曜日の朝のような憂鬱な気分でジムの門をくぐる。すると、すぐさま力強い声が飛んできた。

「来たか! さあ、トレーニングを始めるぞ!!」

 先にトレーニングを始めていたドミニクは、シアを見ると、嬉々としてトレーニングを始めさせようとした。しかし、シアはささやかな抵抗を試みた。昨夜の企みを実行に移すことにしたのだ。

「ちょっと、待ってください。オレより四天王の皆さんの方が強いんだから、皆さんだけで世界を救えるんじゃないんですか?」

「それができるのなら救世主を喚んでいないさ」

 ドミニクはあっさりと答えた。

「た、たしかに……」

 グーの音も出ない正論にシアは言葉が詰まった。だが、あっさりと引き下がるわけにはいかない。なぜなら、質問をやめると休憩なしの地獄トレーニングが始まるからだ。

「……でも、四天王の皆さんより弱いオレが、救世主になんてなれるんですか?」

「たしかに今のシアは弱い。だが俺たちは、シアなら大丈夫、そう信じている」

 はっきりと「弱い」と言われ、シアはムッと顔をしかめた。心なしか言葉にトゲが生える。

「……何を根拠に?」

「シアは昨日あんな目に遭った。それなのに今日ここに来た」

 ドミニクはまたもやあっさりと答えた。だが、その言葉は真剣そのものだった。シアはハッとさせられた。そして、子供騙しの美辞麗句で丸め込もうとしないこの人なら、この人の言葉なら信用できる。そう思えた。ただそう思いたかっただけなのかもしれないが。

「……あのっ、元の世界に帰れる、っていうのは、本当なんですか?」

 シアは意を決して聞いた。やはりそのことを考えないなんて、ムリだった。

「本当だ。ロクセット城にある『異世界の門』をくぐると、シアの世界に行ける」

「本当ですかッ!?」

 シアの顔が希望に輝く。

「……でないと、救世主を喚んだ意味がないからな」

 ドミニクの呟きは、喜んでいるシアの耳には届かなかった。

「さあ、残りの質問は昼食のときだ。救世主になるためのトレーニングを始めるぞ」

「ハイッ!!」

 シアは元気よく返事した。地獄のトレーニングも、元の世界に帰れるのと昼休憩がある、この二つだけで天国気分になれる単純なシアだった。




「シア、ドミニク、お昼持ってきたわよーー」

 ジムの入り口からマイの声がした。マイは白いコックコートに長いコック帽と、本格的なコックの格好をしていたが、足元はやはりサンダルだった。そんな彼女の後ろには、テーブルやら椅子やら鍋やらが浮いていた。

「おっ、もうそんな時間か。なら、休憩にしようか」

「……あり、が、とう、ござい──」

 シアはお礼を言い終わる前に仰向けに倒れた。午前中だけでも、ドミニクのトレーニングはやっぱり地獄だった。

「あら、大丈夫?」

 マイは、倒れているシアの顔を覗き込んだ。しかし返事はなかった。シアは大丈夫ではなかったのだ。汗まみれの泥まみれで、さらにそこら中の筋肉が悲鳴を上げ、ほぼ虫の息だった。

「良く頑張ったな、シア」

 シアが虚ろな目で地面にノビていると、ドミニクは賛辞の言葉と回復魔法をかけた。シアの身体は、淡い光に包まれ蘇る。疲れという疲れが身体中から消えてなくなるようだった。

「ありがとうございます」

 シアはやっと立ち上がり、お礼を言えた。そのとき、グゥ~~! と盛大にシアのお腹が鳴った。疲れが消えて空っぽになった身体が食べ物を求めていたのだ。

「ハハハ、身体作りには食事も大切だ。いっぱい食べろ!」

「フフフ、すぐに準備するわ」

 コック姿のマイが指を指揮棒タクトのように振ると、テーブルと椅子が独りでに設置され、テーブルの上に食器と鍋がふわりと着地する。そして、シアの手元には濡れたタオルが舞い降りた。

「身体を拭いてから、テーブルに着きなさい」

「ありがとうございます」

 あまりの空腹にシアは身体を拭きながら椅子に座った。

「全く、仕方ない子ね。顔と手くらいはちゃんと拭きなさいよ」

「はい」

 マイに軽く叱られ、シアはなんだか気恥ずかしかった。にやける顔を隠すようにタオルで顔を拭いた。

「私が腕によりをかけて作ったカレーよ、ありがたく食べなさい」

 マイがもう一度指を振ると、鍋の蓋が外れ、そこからスパイスの良い香りが漂う。皿に鍋にお玉が宙に浮き、独りで配膳してくれる。

「ハイッ! いただき──えっ!?」

 目の前に降りてきた皿を見たとき、シアは絶句した。マイがカレーと呼んだそれは、シアの知っているカレーではなかった。いや、それは料理というよりも、ジオラマのようだった。白い砂浜(ごはん)にエメラルドグリーンに輝くルー、砂浜には何故かカエル(?)が寝そべっていた。作ってもらっておいてあれだが、ルーから潮の香りでなくスパイスの香りがすることが不思議なくらいだ。

「ナニ? なんか文句あるの?」

 マイはギロリっとシアを睨んだ。メイド姿のときと違い、凍りつくような視線ではなかったが、それでもシアをビビらせるには十分だった。

「あっ、いや、知ってるカレーと違ったので、ちょっと驚いただけです」

 シアは慌てて言い訳する。 

「安心しろ、シア。オレの知ってるカレーでもない。翻訳魔法の問題じゃない」

 ドミニクは、自分の皿にいるカエルをスプーンでつついていた。動かない。どうやら生きてはいないみたいだ。

「翻訳魔法って──」

 シアが聞こうとしたとき、マイがテーブルをバンっと叩いた。

「ドミニク、黙れ! いいから、喰え!」

「ハイ! いただきます……」

 シアはゴクリっと唾を呑み込み、おそるおそるルーを少しすくい、口元に運ぶ。その様子をマイはじっと睨むように見ていた。

(ええい、南無三ッ!)

 シアは目をつぶってパクッと口に入れた。

「…………おいしい──。すごくおいしいです!」

 シアは目を真ん丸にして言った。見た目はともかく、味は紛れもなくカレーで、さらにめっぽう美味しかった。その言葉で鬼の形相だったマイも破顔一笑する。

「当たり前じゃない。もし、まずいなんてぬかしたら……、ちょっと聞いてるの?」

 シアは聞いていなかった。目の前のカレーに夢中になっていたのだ。身体からの要求に応えるように、必死にカレーをかきこんでいた。

「……まぁ、いいわ。ゆっくり食べなさい。おかわりもあるわよ」

 マイは優しく微笑んだ。

「おかわり!!」

 シアは、「カレーは飲み物」と言わんばかりの勢いで一皿目を空にすると、高々と叫んだ。都合の良い事だけはしっかりと聞いていたのである。

「はいはい、ちょっと待ちなさい」

 マイは少し呆れながら指を振った。一皿目と同じように色々な物が宙に舞い、二皿目がシアの目の前にふわっと舞い降りた。



「……この、カエルみたいなのは、何?」

 シアは聞くつもりではなかった。一皿目のときに食べたそれが美味しかったから、何にか分からなかったが美味しかった。だからそれでいい、そう思っていた。しかし、二皿目のそれが平泳ぎの格好で海に浸かっているのを見たとき、口をついて出ていた。

「カエルはカエルよ」 

カエルはカエルだった。マイが今朝獲ってきた新鮮なカエルを捌き、調理し、もう一度カエルの姿に成形し、さらに様々なポーズをとらせた手の込んだ一品だった。

 料理に手間と見た目は大事だと思うが、カエルそっくりにする必要があったのか、シアにはわからなかった。それでも、

「やっぱり……」

 シアはそう答えるしかなかった。最後に人智を超えた行程が加わっているだけで、九割がた見た目通りだったから。それに元の世界にもカエルの料理はあり、シアは食べたことはなかったが、毛嫌いするようなモノでもなかったから。

「……この世界ではカエルって普通に食べるんですか?」 

 シアはドミニクの方を向いて聞いた。しかし、先に口を開いたのはマイだった。

「なんで、ドミニクに聞くのよ」

 たった数日の付き合いでも、どちらの情報の方が信用できるかは判断できた。マイが信用できないわけではないが。

「いや、俺はマイに会うまで食べたことがなかったし、普通に食べる物ではないな」

 ドミニクの回答に、マイは少し驚いたように言う。

「えっ、そうなの? 私の村ではよく食べてたわよ。……まぁ、普通であろうとなかろうと、結局は自分次第よ。それでどうなの、シア、カエルは美味しい?」

「ハイ! 美味しいです」

 シアは平泳ぎカエルをパクッと一口で食べた。それを見て、マイはニカッと笑う。

「ヨシッ!」

 食欲をいくぶんか満たしたシアは、二皿目をゆっくりと味わうことにした。二人との会話を楽しみながら。さしあたって、先程マイさんに邪魔されて聞けなかった疑問を聞こうと思った。

「ドミニクさん、さっき言ってた、『翻訳魔法』ってなんですか?」

「ああ、その名の通り、翻訳する魔法だ。シアが俺達の言葉を理解し、俺達がシアの言葉を理解できているのは、この魔法のおかげだ。召喚の門をくぐった者には、自動的にかけられるんだ」

「へぇ~。そうだったんだ」

 シアは、この世界に召喚されたときから普通に会話してきた。だから、特に気にしていなかった。「言語が違う」ということも、今初めて知ったのである。

「それで、翻訳魔法の問題って?」

「人名も料理名も地名も、大抵の名前には『意味』がこめられている。しかし、日常会話では『音』でしかない。それに同じモノでもアダ名に別称、様々な呼び方がある。それで正確に翻訳できないことがあるんだ。それから、片方の世界にしか無い言葉は翻訳できない」

「それでも、勝手に翻訳してくれる便利な魔法よ」

 勝手に……、マイのその一言で、シアの頭が真っ白になった。

「……えっと、もしかして、今、オレが文字を書いても、この世界の言葉……?」

 シアの顔は青ざめていた。

「安心しろ、話す必要のある簡易的なテレパシーみたいなもので、読みと書きは対象外だ。でも、なんでそんなことを心配するんだ?」

 シアはホッと息を吐いた。

「日記を書いてるんです。弟たちへの言い……、お土産になるかなと思って」

 シアは「言い訳」と本音を漏らしそうになり、訂正した。お土産、というのもまるっきりウソではない。

「へぇ~。素敵なお兄ちゃんね」

「そうだ、この世界の名前ってなんて言うんですか? 日記に、書こう……と──。あれ、聞いちゃいけないこと、でした?」

 ドミニクとマイが顔を見合わせて難しい表情をしていることに、シアは途中で気が付いた。

「そんなことはないが、世界の名前ってなんだ? シアの世界には名前があったのか?」

「えっ!? そういえば……」

 改めて考えてみると、シアは自分の世界の名前なんて知らなかった。唯一無二と思っている『世界』に、他と区別するための固有名詞は必要ないのだ。もしかしたら、知らないだけで、どっかの誰かが勝手に決めている可能性はあるが。

「……ないです」 

 シアがそう小声で答えたとき、難しい顔をしていたマイが叫んだ。

「あーー! シアの世界が『い世界』なら、私たちの世界は『あ世界』で、どう?」

「…………」

 どう? って聞かれても……。シアとドミニクの心の声は完全に一致した。

「何とか言いなさいよ!」

 二人とも何も言えずにいると、マイは机を叩いた。

「……シア、他に質問はないのか?」

 ドミニクは話題を変えた。マイがドミニクを睨む。

「えっと、あの、魔王ってどんなのですか?」

 とっさに出た質問がそれだった。なぜ今まで聞かなかったのだろう。シアは自分でも不思議に思った。いくらこの世界のことを知るつもりがなくても、敵のことは知っておくべきだった。

「魔王……? ああ、厄災ね」

 マイの顔は、ハテナを挟んでから普通に戻った。

「厄災?」

「厄災は~、あれよ、あれ。世界の破滅を目論む謎のモンスター軍団」

 マイはしたり顔で答えた。しかし、シアにはピンとこなかった。救いを求めるようにドミニクを見る。

 ドミニクは、少し困った顔をしながら、語りはじめた。

「マイの言った通り、謎のモンスターの大群なんだが、う~ん、そうだな。奴らはある日突然、この世界に現れたんだ。そして、全てを破壊しはじめた。いくつもの町や村が破壊され、数え切れないほどの人間が殺された。その目的も理由もわからないが、俺たちも黙ってやられるわけにはいかない。だから立ち向かった。が、奴らは強かった。一つの国では対抗できないくらいに……。そこで俺たちヒトは、国の垣根を越えて一つになったんだ。そして、今も戦っている。まぁ、簡単に言えば、災害みたいなモノだ」

 ドミニクは、シアの不安を和らげようと、最後の一言を付け加えたのだが、それは逆効果だった。

「災害……。そんなの人間が敵うわけないじゃん!!」

 予想外の魔王の正体にシアは声を荒げた。モンスター軍団と聞いたとき、ゲームみたいだ! とやる気にもなったが、災害と言われれば話は別だった。例え、『みたいなモノ』だとしても。

 シアの世界にも災害はあった。そして、それはどんなに発達した科学をもってしても完全に防ぐことはできなかった。ましてや、『倒す』なんて夢のまた夢だった。

「災害といっても、奴らはモンスター。形も弱点もあるから倒せるわ」

 マイは、ドミニクを一瞥してから、そう言った。

「弱点?」

「厄災の中には、一体だけ特別な個体、『王』がいるの。その厄災の王を倒せば、モンスター軍団は統制を失って弱体化するわ。四天王の私たちが、今ここでシアの訓練を見れているのも、前の戦闘で王を倒したからなの」

 マイの説明に、シアは眉をひそめた。

「でも、魔王を倒せないから救世主を喚んだんじゃ……?」

 シアは、アデル王からそう聞かされていた。

「そうよ。奴らは何度倒しても、また現れる。さらに強くなって……。だから、私たちは厄災の王が現れたときに、全兵力でもって攻勢をかけて奴を倒し、後は防御に徹しているの」

「だから、シアには救世主として、この負の連鎖から救ってほしいんだ」

 マイとドミニクは、真剣な眼差しでシアを見つめた。シアは二人の視線に耐えられなかった。目を逸らし、俯いた。そのとき、脳裏にアデルの言葉がよみがえる。

『魔王を完全に倒せるのは救済の武具だけ』

 シアは無意識のうちに、傍らに置いてある救済の武具に手を伸ばしていた。盾から力が流れ込む。

「…………魔王は、次、いつ現れるんですか?」

 救済の武具の力を借りて、シアはようやく絞り出した。

「それはこちらで調整する。長年の研究のおかげで、奴の出現を早めることはできる。だから、シアは自分のことだけに専念してくれ」

「……その戦いには、四天王も参加するんですよね?」 

「ええ、モチロン。それに、王も参戦するわよ」

「その厄災の王を倒せば、妹の病気を治せる『国宝』をくれるんですよね?」

「『国宝』には、俺の回復魔法よりも遥かに強力な魔法が入っている。そしてその魔法は全ての病気を治す、とされているが、あくまでこの世界の、だ。それでもよければ喜んで渡そう。他にも、この国にある物なら金銀財宝なんでも好きなだけ持って帰ってくれ」

 『国宝』は、あらゆる病気も怪我も全て治すとされる魔法を封じ込めたビンである。だが、異世界の未知の病に対して、ドミニクは治せると言いきれなかったのだ。

 それでも、シアは力強く頷いた。最初なら迷ったかも知れないが、ドミニクの回復魔法を体験した今なら、紫苑の病気も治せる。そう確信できた。

「相手がいいって言うなら、ヒトも連れて帰っていいわよ」

 マイが冗談っぽく言う。

「……わかりました。やります! オレにできるか分からないけどやれるだけ」

 シアは笑ってそう宣言した。そうだ、紫苑を救うと決めたんだ。救世主になると決めたんだ。今さら帰るわけにはいかない。それによくよく考えてみると、こんなにも強い四天王が一緒に戦ってくれるというのは、好条件のように思えた。人を連れて帰りたいとは思わないが……。

「よし! なら、食い終わったことだし、早速軽いトレーニングから再開するぞ!!」

 ドミニクの言葉が天国に終わりを告げた。それは当然のことだったが、シアは地獄に突き落とされる気分だった。『やる』と宣言した手前、シアに選択肢はない。

「待って! せめて、今のオレのレベルと目標レベルを教えてください」

 シアは、やる気を上げるために具体的なゴールを求めた。しかし、 

「レベルってなんだ?」

「レベルってなに?」

 『あ世界』の二人は、声を揃えてそう言った。

「えーー!?」

 シアは驚きのあまり叫んだ。まさかレベルを、知らない……?

「実力を分かりやすく数値化したモノ、なんですけど……。もしかしてこの世界にはない?」

 二人の顔を見れば答えはわかったが、シアは一応聞いてみた。

「ないな」

「ないわ」

 予想通りの二人の返事。だが、シアの計画にとっては予想外だった。計画の根本に亀裂が生じる。それでも、シアは食い下がった。

「じゃ、じゃあ、ステータスは? スキルは?」

 必死の形相で聞くシアに対して、ドミニクとマイはあっけらかんと答えた。

「シアのステータスは、救世主だ」

「習得できるスキルは……、筋トレのインストラクターかしら?」

 シアはがっくりと項垂れた。たしかに、社会的地位ステータス技能スキルだった。だが、シアの知りたかったこととは違った。

「……ステータスは諦めます。せめて戦闘に役に立つような技とか魔法は?」

 シアは一縷の望みをかけ、祈るように聞いた。

「シアが短期間で修得できるようなものはない」

「…………」

 無慈悲な言葉が、シアの魔王討伐計画を木っ端微塵に打ち砕いた。装備は最強なんだから、レベルを上げて強いスキルさえ覚えれば、魔王も倒せるはずだ。最悪、魔王よりレベルを上げれば倒せるだろう、とシアはゲームのように考えていたのだった。

「……レベルもスキルも無しでどうやって魔王を倒せば──」

 やる気を上げるために聞いたはずなのに、シアのやる気は風前の灯火だった。それは表情に如実に現れていたらしく、ドミニクが励まそうとする。

「救済の武具さえ使いこなせれば倒せる。そのためにもトレーニングを──」

 バンッ! とシアは机を叩き、勢い良く立ち上がった。

「そんなこと言われたって、ゴールがあんな超人的な動きじゃあ、やる気になんてなれないですよ!!」

 初めて見るシアの剣幕に、ドミニクもマイも気圧された。

「ちょ、一旦落ち着け」

 ドミニクが制止するものお構いなしに、シアは滔々と語りだした。

「いいですか! 努力のコツは、実現可能なゴールとそこまでの小さな目標です! いくつもの小さな目標を一つずつ達成していくことが──」

「ドミニク! ファイト!!」

 シアに説教されているドミニクをよそに、マイはそそくさと立ち去った。

「──あとはご褒美。それによってモチベーションを──」

「わかった、わかった! 次までに目標を考えるから! 今日は……ご褒美だ。何か欲しい物あるか?」

 流石の四天王もこれには降参した。

「…………なら、魔法を教えてください」

 自慢の努力論を止められたシアは少し不機嫌そうに答えた。

「よし! トレーニングの後に魔法を実演しよう。それでいいか?」

「ハイ!!」

 シアは元気よく返事し、地獄のトレーニングを再開した。


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