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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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37 お遊びの剣

 翌日の早朝。森に囲まれている獣人キャンプは、昨日の大騒ぎがウソだったように静かだった。

 朝日を浴びて輝く森の中を、鳥たちが歌い、飛び回る。

 シアとヴェルフは、獣人キャンプの訓練場で向き合っていた。観客はサム一人。

「何はともあれ、まずはシアの実力を確かめる。今の俺は『ヒトモード』で強化魔法も使っていない、ほとんど素のエヴァンスと同じ強さだ。この姿の俺と戦ってもらう」

 ヴェルフは上裸マントのヒトの姿だった。シアは、今さっき貰った木刀と牢屋で盗んだ盾を構え、

「ハイッ!」

 と、元気よく叫んだ。

「エンリョはいらねぇ。本気でかかってきな!」

 『ヒトモード』のヴェルフが木刀を肩に乗せ、左手でシアにチョイチョイとした。

「行きます!!」

 シアは叫び、ダッと駆け出した。

「へぇ~、ヒトにしちゃあなかなか速いな」

 ヴェルフが少し驚いたように言った。

(やっぱり、そうだ。身体が軽い……!)

 シア自身も驚いていた。昨日、栄養のある物をお腹一杯食べて、ぐっすりと眠ったからか、今朝目覚めたときから身体の調子が抜群に良かったのだ。足に羽が生えたどころか、背中に翼が生えたのかと思うほどに。

(……これが魔力の力ッ!)

 新たな力を得た実感が、シアに更なる力を与えた。シアは駆けながら、木刀をしかと握り締め、ヴェルフを見た。

 猛スピードで突っ込んでくるシアに対して、ヴェルフは全く動く気配がなかった。その不気味な姿がマイを思い出させる。

『いきなりそれは、不用心じゃないかしら』

 シアは、マイの言葉を思い出した。ついでに蹴り飛ばされたときの痛みも……。

(かといって、ここで止まるわけにはいかないし、他に有用な攻撃は、攻撃は……)

 何も浮かばなかった。シアに他の選択肢はなかった。

(ええい、南無三ッ!!)

 シアは、ヴェルフまで数歩のところでさらに速度を上げた。一気に間合いを詰め、剣を振り抜く。

 ガンッ!! と、二人の木刀が激突し、鈍い音が鳴り響いた。

「オッ、なかなかやるな。思ったよりいい一撃だ」

 ヴェルフが感心したように笑った。

「まだまだぁ!」

 受け止められることを想定していたシアは、間髪入れずに剣を振るった。何万回と振らされて、身体に叩き込まれた救済の剣の太刀筋。今のシアなら救済の剣に操られなくとも、その嵐のような攻めを再現することができた。流石に斬撃が飛ぶことはなかったが。

(救済の剣の動きを、再現できてる!?)

 シアは、またもや驚いた。

 それでもヴェルフには届かなかった。カンカン、カンカンカンと、乾いた木の音を響かせながら、ヴェルフはその場から動くこともなくシアの猛攻を難なく防いでいた。

「太刀筋も見事やし、動きに無駄も少ない。たった数ヵ月でここまで剣振れるようになるとはなぁ~。良くも悪くも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 サムは、感嘆の声を漏らした。

「剣速は今の俺と同じくらいか……。よし、剣の腕は大体わかった。次は防御だ。俺も攻撃するからちゃんと受けろよ!」

 次の瞬間、シアの剣を受け流して、ヴェルフの剣が攻めてきた。シアにはその動きがはっきりと見えた。

 シアは逆にチャンスだと思った。ヴェルフの武器は木刀一本。盾も持っていない。つまり、攻撃と防御を同時に行えない。これを防ぎながら同時に攻撃すれば、ヴェルフには防ぎようがない。

「ここッ!!」

 シアはヴェルフの動きを見切り、完璧な防御と攻撃を同時に行った。しかし、防ぎようがないはずの攻撃を、ヴェルフはヒョイっと簡単にかわした。

「あっ!」

 その手があったか!! シアは目からウロコが落ちた。だが、考えてみれば当たり前だった。今までヴェルフが全ての攻撃を受け止めていたため、『回避』という選択肢を失念していたのだ。

「何呆けてんだ」

 ヴェルフは、木刀でシアの頭をポンっと叩いた。

「イテ」

「さっさと構えろ、どんどん行くぞ!」

「はいッ!!」


 遠目で二人の訓練を見守っていたサムは、後ろから接近する足音に気付いた。振り返り、手を振る。

「おっ、おはようさん、マルコ。毎朝の偵察、ご苦労様ですぅ~」

「おはよう、サム。……こんな朝早くから訓練か。なかなか殊勝だな、お前の入れ知恵だとしても」

 サムの横まで来て、マルコが言った。図星を突かれたサムは、おでこをピシャッと打つ。

「ありゃ、バレたかッ」

 マルコは毎朝、キャンプの周りを見回り、ついでにズートア要塞の様子を偵察している。だからその日課が終わる時間に訓練することで、マルコへのアピールとエヴァンス対策を同時に行う作戦だったのである。

「で、どうでっしゃろ? あの子、剣を握ってまだ数ヵ月らしいんやけど、なかなかちゃいまっか?」

 サムは開き直って、直接シアを売り込んだ。訓練しているフリではなく、訓練する時間をマルコに合わせただけなので、バレても問題はなかったのだ。

 マルコは、激しく打ち合っている二人に目を向けた。

「たしかに、なかなか良い腕をしているな。ヒトの姿とはいえ、ヴェルフと良い勝負をしている」

「ほんまでっか? ほんなら認めて──」

「だが、それは訓練での話だ」

 勢いで押しきろうとしたサムの言葉を、マルコは遮った。そしてバッサリと切り捨てた。

「ハッキリ言う。あれでは話にならん」

(ちぇ、やっぱりムリか……) 

 サムは心の中で舌打ちした。そして、マルコに聞こえるように独りごちる。

「え~、剣握ってたった数ヵ月であそこまで強なったんやから、十分スゴいと思うねんけどなぁ~」

 チラッ、チラッ、とマルコの顔色をうかがいながら。マルコは鼻で笑った。

「ふん、剣を握って一日でも十年でも一緒だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それだけだ。それに、お前もわかっているのだろう? あの者の剣が、どうしようもないお遊びの剣だと」 

「ぐぬぬぬ…、やっぱし気づいてたかぁ~」

 サムは苦い顔をした。

「訓練するのはけっこうだが、それをどうにかしない限り、どれだけ上達しようと無駄だぞ」

 マルコは厳しい口調でそう言うと、踵を返し、去って行った。しかし、数歩進んだところで足を止めた。

「そうだ、昨日の酒の礼がまだだったな」

「おっ、何や認めてくれるんか?」

「私が作戦に私情を挟むとでも?」

 マルコが肩越しにサムをギロリと睨んだ。

「じょ、ジョーダンやんかぁ。そんな恐い顔せんでもぉ~」

 サムは笑いながら手をぺこぺこさせた。

「……一つ助言だ」

 マルコは前を向き、ハットに手をかけ深くかぶった。

「ドブルス用に何か考えているのであれば、それは無駄だ。やめておいた方がいいぞ」

 またしても図星だった。

「えッ、何で?」

 マルコは、サムに囮作戦について話した。それを聞いた途端、ドブルスがシアを認めたことも。

「チッ、ほんまあの牛は……! 腐っても族長やねんから、そんなコロコロ意見変えんなやッ!! ……まぁええか、認めたってんならもうどうでも。いや、あのアホやったらまた意見変えるかもわからんか……」

 サムは盛大に舌打ちしてから、顔をおもいっきりしかめてぶつくさと文句を言った。

「その心配は無用だ。ヤツは我らの前で宣言したのだ、破棄など私が許さぬ」

 ハットから覗くマルコの眼光が鋭い光を放った。

「ホンマでっか! おおきに。せや、お返しってったらなんやけど、シアの素性わかったで」

「興味ない。私が見るのは、あの者の強さだけだ。お前たちが信頼しているならそれでよい」

 そう言うと、マルコはそのまま去って行った。

(よっしゃ。なら、あの牛へのアピールは止めにして……)

 早速、サムはシアの訓練メニューを再考しはじめた。


 シアとヴェルフの激しい打ち合いは、徐々にヴェルフの一方的な攻撃へと変わっていた。

 容赦のない攻撃を放ちながら、ヴェルフが笑う。

「ほらほら、どうしたどうしたぁ? 受けてばかりじゃ俺は倒せねぇぞ!」

「そんな、こと、言われたって!」

 最初の一、二撃だけであれば、シアは防御と同時に攻撃することもできた。だが、だんだんとシアの攻撃頻度は減ってゆき、今は剣と盾の両方を使っても防御するので精一杯だった。

(くそっ、何でだよっ! オレは剣と盾──両手を使っているのに、何で木刀一本のヴェルフに手数で負ける? 剣速は同じはずじゃなかったのかっ!?) 

 シアは心の中で叫んだ。が、薄々その理由に気づいていた。 

 たしかに、二人の剣速に大した差はない。しかし戦闘経験に歴然たる差があったのである。

 シアは、救済の武具に身体を操られ、その動き方を身体に叩き込んだだけであって、勝手に動かない武具での戦闘経験はゼロに等しい。それでも自発的に行う攻撃であれば、救済の武具と同じように動くことができた。身体に叩き込まれた幾通りかの攻撃パターンから、今できる動きを再現すればいいのだから。さらに次、その次と、先の動きを想定して流れるように剣を振れることもできた。

 しかし防御は──相手の攻撃に合わせて動かなければならない防御は、攻撃と同じようにはいかなかった。特にヴェルフのように初めて戦う相手にはどうしようもなかった。救済の盾を持っているときにヴェルフと戦っていれば、そのときのイメージで動けたかもしれないが、初めて戦うヴェルフに、シアはどう動けば、どう防げばいいのかわからず、とにかく目の前の攻撃をどうにかこうにか防ぐのでいっぱいいっぱいだった。

 しかも下手に防御すると、自分の盾が邪魔でヴェルフの動きが見えず、次の行動が遅れてしまう。身体の動かし方や足捌きなど、剣術の基礎は教えてもらっていたので、何とかヴェルフの剣を当たらずに済んでいる。

 シアは後悔していた。自主連のときに、救済の剣での素振りをすることはあっても、救済の盾で素防御(?)をしなかったことを。

「マルコも帰ったし、次の一撃で最後にして朝飯食いに行くか」

 一方的で苛烈な攻撃を続けながらヴェルフは言ったが、シアはマルコが来てたことすら気付いていなかった。

「えっ……?」

 と、思った瞬間、シアの視界からヴェルフが消えた。

「どこっ!?」

 シアは慌てて盾を退け、視界を広げた。

 ヴェルフは目の前にいた。盾の陰に隠れるように、腰を落とし、木刀を後ろに構えていた。

「行くぞ、ちゃんと防げよ」

 ヴェルフの灰色の瞳が冷たく煌めいた。シアの全身がゾワッと総毛立った。

(ヤバイ──)

 シアはとっさに盾で体を守った。その瞬間、

 ガンッ!! ヴェルフの木刀とシアの盾が激突する。

(よし! 受け止め──)

 しかし、ヴェルフの木刀は止まらなかった。シアは、そのまま盾ごと体を持っていかれ、地面に倒れてしまった。

「うわっ!!」

 ヴェルフは、倒れたシアに切っ先を突きつけた。

「終わりだ!」

「何で? ちゃんと受けたはずなのに……?」

 シアは、何がなんだかわからなかった。ヴェルフはスッと木刀を退くと、左手を差し出した。

「お前は救済の武具に頼りすぎてたんだ。そのせいで、防御にも攻撃にもゼンゼン力が入ってねぇんだ。だからちょっと攻撃に力を入れれば、この通り弾かれる。攻撃も同じだ。いくら剣速が速くても最後まで力を入れて振り切るねぇから、簡単に防がれちまう。一撃目だけは良かったな」

 シアは起こされながら、ハッとした。

 救済の武具──触れるだけで全てを斬り裂く救済の剣と触れるだけで魔力を吸収し攻撃を無力化する救済の盾──は、攻撃にも防御にも全く力を入れなくても良かった。そしてそれしか知らないシアは、知らず知らずのうちに剣と盾を必要な場所へと『運ぶだけ』になっていたのだ。

「剣ってのは踊りじゃねぇだ、動きだけ完璧に真似たって意味はねえ。まぁ雑魚にはあれでも十分だろうが、流石にエヴァンスには通用しない」

 シアを起こすと、ヴェルフはクズハの店へ向かって歩き出した。シアもとぼとぼと後を追った。

「いいか。実戦てのはポイント制じゃねぇんだ。何百発殴ろうが相手が倒れなかったら勝てねぇし、今みたいに一発も喰らわなくても倒れればそれで負けだ。だから、最後まで力を入れて剣を振り切る、最後まで力を入れて攻撃を受け切る。まずはこれを意識しろ」

「そうそう、じゃないといつまでもお遊びの剣やー、ってバカにされんで。ちなみにワイのオススメは声を出すことや」

 二人に合流したサムが明るく言った。

「声、ですか?」

「せや、声や声。声出すと、自然と体に力入るやんか。だから攻撃に合わせて技名を叫ぶんや。バーン! 技名叫んで、ドーン! 決まったら、こう…やったった感出るからな、まぁ実際()ってんねんけど」

 サムは一人でガッハッハと豪快に笑ってから、少し間を置いて首を捻った。

「……てか自分、カッコいい技名の叫び方習ったんとちゃうん?」

「あ! えっ、あれってそういう意味だったんですか!?」

「せやで、声出すってのは戦闘の基本なんやでぇ! 物理攻撃以外でも、魔法の呪文とか詠唱。あれも声に出すことで自然界そこらへんにある魔力に働きかけて、魔法の威力を上げてんねん。あっ、魔方陣は声じゃなくて書いておんなじことしてんねん」

「へぇ~、そうなんですねぇ~」

 と、シアは納得した。が、すぐに首を傾げた。

「あれっ、でもヴェルフって……?」

 ヴェルフが戦っているところは何度も見たけど、一度たりとも叫んでいなかった。

「ああ、ヴェルフは恥ずかしがり屋さんやからな」

「何さらっとウソ教えてんだ」

 ヴェルフは、木刀でゴンっとサムの頭を叩いた。

「えっ、ウソなんですか?」

 ヴェルフは、シアも睨み付けた。

「当たり前だ。命がけの戦いで恥ずかしいもクソもあるかっ。カレルセの敵が雑魚だったから声を出してないだけで、俺も強敵が相手だったらちゃんと──ってぇのもおかしいが、声を出す」

 頭を殴られて思い出したのか、サムは突然手を打った。

「せや! そんなことよりヴェルフ、もう元に戻ってもええで。ハイこれ着替え」

「あぁ? 飯のあとでドブルスのとこ行くんじゃなかったのか?」

「計画変更や。ドブルスにアピールせんでようなったから飯のあとは食料探しや。昨日あんなけ大騒ぎやったからな、今日はめっちゃ効率ええはずやでぇ~」

 サムは、ニヤリと悪い顔で笑った。

「ああ~、マルコと話してたのはそれか。『ヒトモード』だと疲れる上にいつもの半分くらいしか聴こえんからなぁ」

 話しながらも、ヴェルフは見る見る人狼へと戻ってゆく。シアはそんなヴェルフを指差し、聞いた。

「あの~、これって皆さんできるんですか?」

「うん? 変身のことか? ムリムリ、これは人狼だけ──やないけど、特殊な魔法で、ほとんどの獣人は変身なんてできひん」

「変身魔法、ですか?」

 人狼姿へと戻ったヴェルフは、マントをバッと広げ、羽織り直した。どうやらマントを折り畳んで、長さを調節しているようだ。

「違う。俺の魔法は肉体強化魔法だ。普通に肉体を強化して身体能力を上げたり、爪を強化して伸ばしたり……、そういう魔法だ。人狼の中にあるヒトの部分を強化して、ヒトに変身してるんだ。あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう言って、ヴェルフはニヤリと笑った。その声と言葉に、シアはハッとした。

「あのときの変な声!!」

 妙に自信を感じる不思議な響きを持った声。シアが不安に陥ったとき、落ち着かせてくれたのはこの魔法の力だったのだ。

「プッ! 変な声やって」

 サムが吹き出した。シアは慌てて取り繕う。

「あ、いや、変ってそっちじゃなくて不思議って意味で……」

 その必死な様子に、ヴェルフも吹き出した。

「クッ、ハハハ! 誰もそんなことで怒らねぇヨ」

 シアもホッとし、自然と笑顔になった。

 三人は笑いながら、クズハの店へと向かった。

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