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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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35 救世主万歳  中編

「あーあ、何て顔してンだ。ホラ、今日はお前の歓迎の宴なんだ、もっと主役らしい顔で胸を張れって」

 そう言ってヴェルフは、シアの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「なんだいアンタら、まだそんなとこ乗ってンのかい?」

よ降り、これ置かれへんやん」

 フィラとサムが、両手に酒と料理を持って戻ってきた。

「おっ、旨そうな匂いだな~」

 ヴェルフは、シアを抱えてテーブルから飛び降りると、そのままイスへ座らせた。

「せやろ? クズハはんも大喜びで、色々持たせてくれたんや」

 サムは嬉しそうに言うと、テーブルに酒と大皿を置いた。大皿には、オードブルのように少量の数種類の料理が乗っていた。

「クズハからのお礼だよ」

 フィラは、シアに柳行李やなぎごうりの弁当箱を渡した。

「クズハお手製のお稲荷さん。先にこれ食べて待っててね、だってさ」

「ありがとうございます」

 美味しそうないなり寿司の匂いを嗅いで、シアのお腹がぐぅ~~~! と鳴った。今日一日だけで色々とありすぎて忘れていたが、よくよく考えてみればズートア要塞で朝御飯を食べたきりだった。そんな状態でここまで動き続けていた。それを思い出したとたん、シアは恥ずかしさうんぬんより、空腹で倒れそうになった。

「ほな、食べよか。シアは魔力増やすためにも腹一杯喰わなあかんでぇ~」

「ハイ! いただきます。……うめぇ~」

 クズハのお稲荷さんは絶品だった。油揚げからじゅわ~と染み出す甘さが疲れた身体に染み渡る。シアは心から喜んだが、ヴェルフは口を尖らせた。

「酒のお礼がいなり寿司かよ。こんなん狐しか喜ばねぇだろ」

「あっ、クズハはんにそんな口利いて~、怒られても知らんでぇ」

「先に、って言ったろ? 文句を言わずとも、コック長が腕によりをかけてご馳走を作ってくれてるから、できたらクズハが持って来てくれるよ」

「クック・ドゥーハンのご馳走! そりゃ楽しみだ」

 ヴェルフはそう言うと、シアのグラスをかっさらい、一気に飲み干した。

「こらヴェルフ! それはアンタのじゃないだろ」

「別にいいんだヨ。シアはどうせ酒を飲まねぇ」

 フィラに怒られても、ヴェルフはしれっとしている。空になったグラスをヒュと振り、酒気を払うとシアにグラスを返した。

「そうなのかい?」

 フィラはシアを見た。

「はい。まだ未成年なんで……」

「そんなの守ってんのかい? ヒトってのは律儀だねぇ~。こっちじゃ戦士は、年齢なんかに関係なく一人前として扱われるモンだけどね。まぁ、それも守らず戦場に出る前から飲んでるヤツもいたけどね」

 そう言いながら、フィラをヴェルフを見た。ヴェルフは軽く肩をすくめた。

「………………」

 未成年での飲酒、そんな奴らは元の世界でも一定数いた。そしてそれを誇らしく自慢する者も。シアは『ルールは絶対』と信じる清廉潔白な人間ではない。自慢するようなことではないだろ、とは思いつつ、他人に迷惑をかけないなら自己責任で勝手にすればいい、と思っていた。

「……ムリに飲むことはないけどサ」

 シアの微妙な表情を見て、フィラは付け加えた。

「はい、ありがとうございます」

 シアも、別世界に来てまで元の世界のルールに縛られる必要はないと思っていた。それでもシアは飲まない。どの世界にいようが自分が自分を見ているから、藍と紫苑にとって良き兄であるためにそれはできなかった。二人が気にしないと知っていても。

「せや、ごめん、シア。約束してた飲み水なんやけど、今ないみたいやねん」

 サムが手を合わせて、シアに頭を下げた。小さくなった大量の酒を元に戻す作業中、シアが酒を飲まないことを聞いたサムは、シアに飲み水を用意する約束をしていたのだった。

「急ぎで要るんやったら今すぐ汲んでくるけど……」

 顔色を窺うようにチラッと顔を上げたサムに、両手と首を激しく振りながらシアは言った。

「そんな、気にしないでください。まだヴェルフから貰った水があるんで、大丈夫です」

「そうか、ならよかったわ~。ほんまごめんな。ある思ってたんやけど、今さっきクズハはんに聞いたら、今日は全部使ったわれてしもた」

 クズハの店にはサム特製の浄水(かめ)があった。普通に水を汲むだけで、中の機構で勝手に濾過され、綺麗な水になるという画期的な甕が。

「へぇ~、あの水、飲むヤツいたんだな」

 ヴェルフが意外そうに言った。それもそのはず、身体が丈夫な獣人たちは皆、キャンプ近くの川から直接水を飲む。ヒトと違って川の水を飲んでも腹を壊す心配がないからだ。だから店に水を飲みに行くということはしない。店としても料理の度にいちいち水を汲みに行くのが面倒で甕に貯めているのであって、浄水効果は要らなかった。浄水効果は、頼んでもないのにサムに思い付きで付けられたのだった。

「なんでも、この前の戦闘の負傷者たちに配ったらしいよ。弱ってるときに変なモン飲んで身体壊さないようにって」

「ああ、そういうことか」 

 フィラの言葉に、ヴェルフは納得した。そのとき、突然声がした。

「なんだ、水が要るのか? だったら俺が汲んできてやる。クズハんとこの甕でいいよな」

見ると、クロコが特等席の近くにいた。クロコはそれだけ言うと、のっしのっしとクズハの店へと歩いていった。

「アイツが雑用を買って出るとは珍しいな。何か裏でもあんじゃねぇか?」

「ちゃうやろ。クロコもシアにお礼したいんやろ。ほら見てみ、他のみんなも色々持ってきてくれたわ」

 サムがアゴをしゃくった方を見ると、さっきまで『救世主万歳ッ!』をしていた獣人たちが、料理やら酒やら思い思いの物を持って、ぞろぞろとやって来ていた。

「ありがとな、ボウズ。おかげでヒトの酒が飲める」

「ホント、ニクい贈り物だよ」

「流石、ヴェルフが連れてきただけはある」

「シア、これ食べてくれよ、私のお気に入りなんだ。まぁ、ヒトの口に合うか知らないけどね」

「お兄ちゃんのおかげで俺たちもジュースもらえた。ありがとー」

 様々な見た目の獣人たちがひっきりなしに特等席を訪れては、感謝の言葉とともに様々なお返しを置いていき、テーブルはあっという間に料理で一杯になった。

 獣人料理は焼いただけの物が多かった。鳥、魚、何かわからない肉の塊に、虫に……。調理法も材料も何一つわからない謎の料理もあったが、シアはその全てに果敢に挑戦した。ヴェルフたちから「それは止めとけ」と忠告された料理以外は。それほどにお腹が空いていた……わけではなく、マイのカエルカレーを食べてから、それが見た目に反して美味しかったから、見た目に騙されないよう一口食べて判断するようにしていたのだ。そして獣人料理はどれも美味しかった。

 ヒトにとってはゲテモノといわれるような料理でも、ためらいなくパクつくシアの姿は、それだけで獣人たちに好評だった。

 獣人たちは皆、会ったばかりのヒトだというのに気さくに話しかけてくれ、これも喰えそれも喰え、と、どんどんと料理が追加してくれた。シアはそれがとても嬉しかった。とはいえ胃袋には限界があるので、貰った料理は一口、二口しか食べられず、残りはサムとヴェルフの胃袋へと消えていった。

 しばらくすると、クロコが戻ってきた。

「店の甕を一杯にしといたから好きなだけ飲むといい」

 と、シアの前に水で満たされたグラスを置いた。

「ありがとうございます」

「これくらい気にすンな。それに、さっきは悪かったな」

 クロコは、少しばつが悪そうに謝った。すかさずヴェルフが皮肉る。

「おっ、見事な手のひら返し! これが噂のデスロールか」

「誰が手のひらデスロールだッ! 言っとくが、俺が文句あったのは初めっからお前の方だ、ヴェルフ! いきなり救世主なんて吹かしやがって!!」

 クロコがヴェルフの頭をパシンと叩いた。

「まぁ、そうだね。これはヴェルフが悪いね」

「そうやな。ワイら獣人は、仲間になりたがってんのんは基本的に誰も拒否せーへん。獣人でも魔人でもヒトでも、害がないならおる分には別にどうでもええもんな。信頼するかどうかは別やけど」

「そうだ、信頼は言葉じゃなくて行動で勝ち取るモノだ」

 フィラとサムにも見放されたヴェルフは、頭をさすりながらボソッと呟いた。

「酒でコロッと落ちたくせに何カッコつけんだ」

「アァン! それはお前経由で、しかもボウズがフィラとサムからも信頼されてるようだったからな! お前もわかってンだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 サムは深く頷くと、静かに言った。

「せやな。()()()()()()()()()()()()()()()()

 サムらしからぬ言い方に、シアは少し違和感を覚えた。

「じゃあな、ボウズ。酒、ありがとうな」

 そう言って、クロコは去っていった。


「それにしても、どうやってこんなに大量の酒を盗んできたんだい、ヴェルフ?」

 クロコたちが去って、また四人だけに戻った特等席でフィラが聞いた。

「そうですよ。いつの間にこんな大量の……」

「要塞でお前が寝てる間に、だ」

 ヴェルフは、酒を手に入れた経緯について話しはじめた。

「俺たちは昨日、ズートア要塞に泊まったんだが……」


 今日になって数時間後、シアより先に起きたヴェルフは、早速ズートア要塞から逃げ出すための準備をはじめた。必要だったのは、出来るだけ長~いロープとそれを結ぶための剣。とりあえず泊まっていた部屋を物色したが、ろくな物は見つからなかった。そこでヴェルフは、サムの特製超圧縮袋を持って、部屋の外──ズートア要塞内の探索を開始した。

 姫から貰った命令書があるとはいえ、こんな時間に衛兵に見つかるのは面倒だ、と考え、ヴェルフは薄い廊下を慎重に進んだ。ヒトの気配のない部屋を見つけては、中に入り、物色する。

 剣はすぐに見つかった。ここは腐っても要塞、兵士たちの武器庫があったのだ。それに剣の方はロープを結べれば何でも良かった。だが、ロープはなかなか見つからなかった。工事中ということもあってロープ自体は至るところにあったのだが、一番長いロープとなると難しかった。

(どうせ最終的には飛び降りるんだ、これくらい長けりゃいいか……)

 その辺にあった一番長いロープを持って、ヴェルフがそう思ったとき、突然、背後から声をかけられた。

「使者様、まだ夜も明けていないというのにどうされました?」

 バッと振り返ると、部屋の入り口にディクソンが立っていた。武器も持たず、一人。警戒しているのか、ヴェルフから距離を取り、部屋の中に入ろうとはしない。

「いや、任務のために色々と準備をな」

 ヴェルフは平静を装って答えた。そのとき、ふと閃いた。

「あっ、そうだ! この要塞にある一番長くて丈夫なロープを持ってきてくれねぇか?」

「ロープ、ですか?」

 ディクソンは怪訝な顔をした。ヴェルフは笑う。

「そうだ、一番長いヤツだ。侵入者を確実に護送するために必要なんだ」

「わかりました」

 ディクソンはあっさりと了承した。それから一歩下がり、金色の瞳を意味深に光らせてヴェルフに尋ねる。

「……ご用意には少し時間がかかると思いますので、その間、ヴェスパトーレ伯爵の酒蔵をご覧になりますか? 気になるものがあれば、お持ちいただいても構いません」

「おっ、いいのか」

「ええ、もちろんです。お好きなだけお持ちください」


「ちょっと待って、ヴェルフ。もしかして、それで全部持ってきたのかい?」

 フィラが確認するように聞いた。

「ああ、お好きなだけって言ったからな」

 ヴェルフは悪びれもせず言った。

「いやいや、それにしても限度ってモンがあるやろ。なんや、要塞のヒトらに悪い気ぃしてきたで」

「流石に俺も、全部はやり過ぎかな、とは思ったンだがよ、もう袋に入れて圧縮してたから戻すに戻せなくてサ。……そんな目で見ンな、ちゃんと埋め合わせはしてきたぞ」


 ヴェルフは、空になった酒蔵でゴミと化した目録から一頁破り取り、そこに手紙をしたためた。詳細は任務上の成り行きと誤魔化し、もっと大量の酒が必要となった、安酒でいいからとにかく大量に、そして迅速にズートア要塞に送るよう求む、と、マギアの姫様宛の手紙を。

 ヴェルフが手紙を書き終えたちょうどそのとき、酒蔵の扉が開いた。ディクソンが戻ってきたのだ。

「お待たせし──」

 しかしディクソンの言葉はそこで止まった。空になった酒蔵を見て言葉を失ったのだ。ディクソンは愕然とし、用意してきた袋を落とした。ころころとリンゴが転がる。冷静沈着を信条としてきた彼にはあり得べかざることだった。

 袋から転がったリンゴを拾い上げ、ヴェルフは何気ない顔で言った。

「おっ、朝食も用意してくれたのか?」

「…………あっ、はい。約束のモノと朝食と、あと水を……」

 ディクソンはまだ状況が飲み込めていない様子だったが、それでも袋を拾い上げた。中を見て、問題がないか確認する。それから担いでいたロープをヴェルフに差し出した。

「こちらがこの要塞で一番長いロープです。数日お時間を頂けるのであれば、もっと長いロープを用意することも可能ですが……」

 ヴェルフはロープを受け取り、満足そうに頷いた。重さ的にも見た目的にも、おそらく一番長いような気がした。

「これで十分だ、ありがとな」

「では、こちらもどうぞ」

 ヴェルフはディクソンから袋を受け取り、代わりに手紙を渡した。

「コレは、何ですか?」

「酒の注文書だ。マギアの姫か……、いや、執事のスパティフィラムに渡してくれ。いい感じに取り計らってくれるはずだ」


「こうして、死んだヴェスパトーレ伯爵の酒蔵はすっからかんとなり、哀れな要塞の民にはマギアの姫から大量の酒がおそらく届き、一方俺は、非力な『ヒトモード』のままで大量の酒を部屋まで持ち帰り、汗だくになりましたとさ。チャンチャン」

 と、ヴェルフは話を終わらせた。

(へぇ~、俺が寝てる間にそんなことがあったんだ……。あっ、シャワー浴びたんだ)

 と、シアは一人納得してた。

「あのいけ好かないの伯爵の酒だったのかい。……でもそれにしては、あんまり高い酒じゃないようだけど?」

「本邸の酒蔵じゃないんだ、しょうがないだろ。それに……」

 ヴェルフはニヤリと笑って、超圧縮袋を掲げた。

「こっちが本命サ!」

「流石ヴェルフ~、言わんでも気づいとったか!」

 サムが笑いながら、ヴェルフの前を片付ける。 ヴェルフも笑いながら、袋の中をガサゴソ探る。

「フ、フ、フ、お前があんな有象無象とこの銘酒たちを一緒にするはずないからなぁ~。あったあった、まずはコレだ。受け取れ、フィラ!」

 ヴェルフは、袋から取り出した酒瓶をフィラに向かって放り投げた。フィラはパシッとキャッチし、ラベルを見て仰天した。

「『蜘蛛の糸』!? い、いいのかい、ホントにコレを貰っちまっても!?」

「ああ、モチロン。約束の極上の一本だ」

「やったーーーッ!! 愛してるよ、ヴェルフーーー!」

 フィラは子供のように大喜びした。酒瓶を持って……。

 シアは、その喜びように面を食らった。落ち着いた大人の女性だと思っていた彼女が、お酒でこれほど喜ぶとは……。いや、大人だからこそお酒で喜ぶ、のか?

「やっぱ、それがフィラ用かぁ~」

 うんうん、と、サムが頷く。

「サムは戻してるときに見たと思うが、モチロンこれだよな」

 と、ヴェルフが袋から酒瓶を取り出した。ラベルにはトロールの絵とドクロマークが描かれていた。

「せやせやせやーー! バカを滅ぼした伝説の銘酒、『トロール殺し』!! ワイも愛してるでーーー、ヴェルフ!」

 サムも子供のように大はしゃぎだった。

「トロールなのに???」

 シアは、サムの喜びようには驚かなかったが、お酒の名前には驚いた。トロールに『トロール殺し』を贈るのは、嫌がらせの域を大幅に越えて、もやはイジメなのでは……? だが、本人は大いに喜んでいる。

「せや! ワイが『トロール殺し』に打ち勝って、バカな先祖の無念を晴らすんやッ!!」

 サムは立ち上がり、『トロール殺し』を天高く掲げ、吠えた。

 オォーーー!! っと周りから拍手喝采が起こった。

「ほなさっそく……っていきたいとこやけど、今日はやめとくわ。大事な話の前に酔っ払ったらアカンし」

 と、サムはすんなりと敵討ちを後日に回し、地べたに座った。当然、一気飲みを期待していた周りからブーイングが起こる。が、サムはいっかな気にしない。

「ほなそろそろ、この子について説明して貰いまひょか?」

 これ以上ないほど話しにくい雰囲気の中、サムが切り出した。だが、ヴェルフはあっさりと答えた。

「ああ、シアは異世界から来たんだ」

 ブーイングの嵐を切り裂いて、フィラとサムの絶叫が響き渡った。

「ハァーーーーッ!?」


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