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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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31 魔法part2

 思い思いの場所に建てられたテントの隙間を縫うように進んだ先に、ぽっかりと空いた広場があった。そこが獣人たちの訓練場だった。

 黄昏色に染まった訓練場では、数人の獣人たちがそれぞれで訓練していた。その中にサムとさっきの子供たちがいた。

「おっ、いたいた。オイ、サム! コイツの魔法を見てやってくれ!」

 ヴェルフが大声でサムを呼んだ。しかし、サムより先に子供たちが反応した。

「ええ~~~サムはおれたちの稽古してくれてるのに~~~!!」

「だったらヴェルフが代わりをしてよ~~~!!」

 不満をあらわに駆け寄ってきた子供たちの頭を、ヴェルフはくしゃくしゃと撫でる。

「悪いな。コイツの面倒を見なくちゃいけないんだ」

 それでも子供らの不満は解消されなかった。

「そのお兄ちゃんばっかりズルい~~~」

「ズルい~~~」

 子供たちは頬を膨らませ、必死に抗議した。そこにサムが遅れてやってきた。

「ホラホラ、ヴェルフをあんまり困らせなや。それにもうすぐ晩御飯なんやから、ヴェルフに稽古見てもらってもすぐ終わるで。な、もったいないやろ? せやから晩御飯まで自分らでさっき教えたことを復習しとき」

 サムに優しく諭されると、子供たちは膨れっ面のまま戻っていた。サムは、その姿を微笑みながら見ていたが、突然クルッと振り返った。 

「……で、『魔法を見る』ってなんや? この子の魔法、ワイと同じタイプなんか?」

「いや、わかんねぇ」

「はぁ?」

「コイツは自分の魔法を知らねぇんだ。だから、お前の怪しい発明品で調べてくれねぇか?」

「怪しいは余計や!! ──じゃなくて、自分の魔法知らんってなんや!? 今日日そんなヤツおらんやろっ!」

 サムは顔をしかめた。

 この世界に魔法を使えない者はいない。物心がつく頃には誰でも自然と魔法が使えるようになっている。それが実用レベルまで成長するどうかは、魔力量や才能など個人の力量に大きく左右されるが。

「コイツ」

 ヴェルフはシアを指した。

「うわっ、おった! ……ってちゃう!! なんで知らんねん!?」

 サムは見事なノリツッコミを炸裂させた。しかしヴェルフの反応は冷たい。

「あん? コイツは特殊で面倒くさい生まれなんだヨ」

「…………えっ!? それで説明終わり!? それで説明責任果たしたつもりなん!?」

 サムは、目を白黒させながらヴェルフの両肩を掴み、力任せにぐらぐらと揺さぶった。流石のヴェルフもこれには面倒くさいなど言ってられなかった。

「あーーーわかったよ。ったく、晩飯のときに説明するからそれでいいだろ?」

 サムはパッとヴェルフを離すと、ニカッと笑った。

「しゃあないな。ほな、ワイのテントまで行こか」

 そう言って歩き出したサムとヴェルフのあとに、シアは続いた。

 ヴェルフは歩きながら、本陣のテントでの出来事を簡単に話した。


「えーーーッ!!」 

 キャンプ内に大絶叫がこだました。獣人たちは血相を変えて、なんだ敵襲か、と辺りを見渡したが、絶叫の主がサムであることを確認すると、何事もなかったかのように日常に戻っていった。

「この子が救世主で、要塞のカギ持ってるから一人で要塞落とすッ!? しかもその前に族長たちに認められな手足もがれんのッ!?」

「まぁ、そんなとこだな」

「はぁ~なんや大変やなぁ~」

 サムは、肩越しにチラリと救世主を顧みた。

 救世主は少し小走りでついてきていた。どうやら獣人の歩行速度はヒトには少し速いらしい。息を弾ませているその顔はまだ子供で、救世主はおろか戦士の顔でもない。そして、どう見ても強そうではなかった。ただ、魔法も使えない若年のヒトのわりには、身体はがっしりとしているし、一人で獣人国に来る度胸もある。それに獣人の森を抜けてきて疲れているはずなのに、遅れないように走る根性もある。

(鍛えれば何とかなる……かもなぁ~)

 サムは、さりげなく歩行速度を落とし、

「……ほ~ん、それで魔法か」

 と、納得したように呟いた。それから呆れたように首を振った。

「それにしても、さっきここに来たばっかりやのにもうこんなに問題しょいこむとはなぁ~。何か選ばれてる感あるな、自分。流石は救世主やで」

「しゃーねぇだろ。コイツのファイアウォール、クズハでも突破できねぇんだからヨ」

「えっ!? クズハはんでもムリなん!」

 これ幸いとばかりに、シアは右手に入った炎の紋様を見せながら、テントでは聞けなかったことを聞いた。

「あのっ! ファイアウォールって、コレですよね? 部屋にカギをかける魔法じゃないんですか?」

 するとヴェルフより先に、サムが食いついた。

「それやそれや! モノにカギかけんのはオマケみたいなモンで、それの本質は人間にカギかけることや」

「人間にカギ……?」

 シアは首を傾げた。

「簡単に言やあ、今かけられてる魔法を解除されように守ってくれてンだ」

「へぇ~」

 わかったようなわからなかったような、それでもシアはとりあえず頷いた。

「そっちは知らんのに、オマケの方は使いこなしてんねんな」

 何気なく言うサムに、シアはもう一度首を傾げた。

「えっ?」

「ホラ」

 そう言って、サムはシアのカバンを開けようとゆっくり手を伸ばした。サムの指がチャックに触れようとしたその瞬間、バチッ!! と赤い閃光が迸り、サムの指が弾かれた。

「うわっ! なんで……!?」

 シアは思わず声をあげた。カバンにカギをかけた覚えはなかった、というより、魔法のカギがまだ使えることも、カバンに使えることも知らなかったのだ。

「どっこもカギかけてない状態でカバンを閉めたから、勝手に魔法が発動したんやろ。よお知らんけど……」

「へぇ~便利だな」

 ヴェルフは感心したように言い、シアのカバンに手を伸ばした。なんとなく、弾かれる感触に興味があったのだ。しかし、ヴェルフの手は普通にカバンに届いてしまった。

「お、おい、触れたぞ?」

「ほんまや! なんで?」


 サムが色々と検証した結果、カバンを開けようとする、もしくは悪意を持ってカバンに触れる、これが魔法発動の条件だった。

「はぁ~、何やこのファイアウォール。こんな複雑な条件付けしてるやなんてヘンタイや。クズハはんがムリってうのも納得やわ」

 シアの手をまじまじ見ながら、サムは感嘆の声を漏らした。

 魔法の世界で四天王『魔』の肩書きを持っているドミニクさんって、やっぱりスゴい人だったんだ。と、シアは感心した。それと同時に、そんなスゴい魔法使いのくせにあんなバッキバキに身体鍛えるドミニクさんって、やっぱりヘンタイだったんだ。と、『ヘンタイ』の部分にも合点がいった。

 シアがそのことを二人に言おうか迷っていると、サムが言った。

「やっと着いたで、あれがワイのテントや」

 サムのテントは、キャンプの入り口近く──森との境界にぽつんと建っていた。見た目は、テントというよりも破裂寸前の風船のようだった。おそらく他のテントと同じく三角形のテントなのだろうが、パンパンに詰め込まれている中身のせいでいびつに変形していたのだ。

「何あれ? どうなってるんですか?」

「エエやろ、ワイの魔法や」

 サムは胸をそらせて言った。

「魔法?」

「せや。ヒト的にうと、物質強化魔法や。ワイの魔法は、物を強化して大きさをコントロールできるんや。あと物に他の魔法を閉じ込めることもできんねん。あのテントには伸縮自在の魔法をかけてて、そんで発明品も魔法で小さくしてるからいくらでも詰め込めるんや。ホラ、ヴェルフが今着てる服と同じで……──」

 と、サムとシアは同時にヴェルフを見た。しかし──。

「……って着てないやん!!」 

 ヴェルフは服を着ていなかった。上裸の上からマントを羽織っていたのだ。

「ワイの貸した服はッ!?」

 ヴェルフが『ヒトモード』のときに着ていた緑の服。それはカレルセに潜入するに当たって、サムから借りた服だった。ヴェルフがどの姿に変身しても、ピッタリと身体にフィットするように伸縮自在の魔法がかけられていたサムの発明品。

「あー、アレはカレルセのゴタゴタで破れたんだ。すまんな」

 ヴェルフは頭をかきながら謝った。だが正確には自分で破ったのだった。

「そうか、敵国に一人で潜入してたんやし、しゃあないか……。でもズボンは破れてみたいやし、魔法はちゃんと機能してたやろ?」

「ああ、()()()()()()()()。どの姿に変身しても完璧に身体に合ったゼ」

 ヴェルフは、サムズアップで答えた。しかし見た目が、真緑で真ん中にでかでかとサムの顔が描かれたそのデザインがヴェルフの趣味にフィットしなかった。

「なんや? 含みのある言い方やけど……まぁいいわ。ほんなら、二人ともちょっとここで待ってて」

 二人をテントから少し離れたところに待たせ、サムはドスンドスンと小走りで自分のテントに向かっていた。そしてテントの前に着くと、サムが叫んだ。

「ほないくでーーー!」

 どこへ? とシアが思った瞬間、サムがテントを開けた。すると、どんがらがっしゃーん!! と、中から大量の発明品が雪崩のように崩れ出てきた。

「うわっ!?」

 思わずシアは飛び退いた。が、それらは計算されたかのようにヴェルフの足元で止まっていた。

「……ビックリしたぁ」

 恥ずかしそうに呟き、シアはヴェルフの横に戻った。そして、足元に転がっている雑多な発明品を興味津々で眺める。サムの発明品はほとんどが緑色で、サインのようにサムの似顔絵が描かれていた。よくわからないモノに混じって、シアの世界にあったモノ──双眼鏡や懐中電灯、それからオモチャの車などなど──に似ているモノもあった。魔法で小さくしたと、言っていたからミニチュアサイズかと思っていたが、意外と大きく、ヒトが使うにはちょうど良い大きさだった。

「あれぇ~、どこやったけなぁ~」

 サムは足元に転がった山を、これちゃうわ、あれちゃうわ、と掘り返してた。やがて崩れた山を見終わると、次はテントの中に上半身を突っ込んだ。

 グニョグニョと形を変えるテントを呆然と眺めながら、本当に伸縮自在なんだぁ~、とシアは思った。そのとき、

「あった! これこれや!」

 と、サムが嬉しそうに飛び出してきた。

「見たまえ、これがサム特製の魔法判別水晶や! デデーン!!」

 サムは、効果音付きで右手を高々と掲げた。シアは、緊張の面持ちでサムの手を見た。しかし、

「……見えないッ!!」

 シアは、思わず突っ込んだ。巨人の高々はシアにとっては高過ぎたのだ。

「おっ、良いツッコミやな! 最近誰も突っ込んでくれへんから、おっちゃんさみしかったんや~」

 涙を拭くまねをしながら、サムはしみじみと言った。

「いいから早く出せ!」

 ヴェルフが冷たく言った。サムは口をへの字に曲げて、手を下ろした。

「はいはい、これや」

 サムの手には無色透明の六角柱の水晶が乗っていた。大きさは、ちょうどシアの両手で包み込めるくらい。

「うん、シアやったら小さいままでいいやろ。両手で持って力入れてみ。水晶の変化でどんな魔法かわかるわ」

「はい……」

 シアはゴクンっと唾を飲み込み、恐る恐る水晶へと手を伸ばした。あまりの緊張っぷりにサムは苦笑いした。

「そんな固ならんでも……。ワイみたいな強化魔法のタイプやと水晶の形が変わって、火とか水とか自然魔法のタイプやと水晶ん中にそれが生まれる。それだけや、何も怖ないよ、もっと気楽にやりぃ」

 サムの言葉はシアの耳には入らなかった。念願の魔法を前に、シアの緊張はピークだったのだ。

(これを取って、もし何も起こらなかったら──)

 そう思うと、水晶を取るのが怖かった。手も脚も震えるし、お腹は痛い。口からは心臓が飛び出しそうだった。

「あかんわ、ゼンゼン聞こえてないわ。ヴェルフ、何かって落ち着かせたげ」

「シア! 落ち着け」

 その声は、要塞から落とされたときと同じで、いつものヴェルフの声とは少し違う響きがあった。その声を聞いただけで不思議とシアの震えは止まった。

 シアは、ふぅーーーと大きく息を吐くと、両手で水晶を包んだ。そして、お願い! 何か起こって!! という願いとともに力を入れた。すると、ポワァ~とやわらかな光が、手の間から漏れ出した。

「おっ、もういいぞ。ホラ、見せてみ」

 シアは、恐る恐る手を開いた。しかし水晶は相変わらず無色透明で、何の変化も無いように見えた。

「やっぱり……」

 自分に魔法は使えない。それはわかっていたはずだった。ドミニクさんにハッキリキッパリとそう宣言されたのだから。そのときに諦めたはずだった。それでもシアはガックリと肩を落としていた。希望と絶望、それはコインの裏と表のようなものだった。

 サムは、絶望しているシアの手の平から水晶をつまみ上げて、じっくりと観察しながら慰めの言葉をかけた。

「まぁ、そんな気ぃ落としなや。魔力と違って魔法は無くてもし……──いや、ちょお待ち! なんかあるで!!」

 サムの声に、シアはガバッと顔を上げた。

「ウソッ!?」

 しかし、やはり位置が高くて何も見えない。シアはサムにすがりついた。

「なに!? どれ!? どうゆうことっ!?」

「アカン! ワイには小さすぎてよお見えん。ヴェルフ代わって」

 サムからヴェルフへと手渡される水晶を、シアは血の気の失った顔で見つめていた。シアの中では希望と絶望がせめぎ合っていた。

「お、おう。……これかっ。確かに何かあるが……」

 水晶の中には小さな何かがあった。小さくて白い何かが。

「…………ゴミか?」

 ヴェルフのその一言で、絶望が一気に優勢になった。シアは今にも泣き出しそうな顔でヴェルフを見上げた。

「ゴミってヒドッ! そんな魔法あるかいな」

 サムは大笑いしたが、シアのうるうるしている目を見て、慌てて取り繕った。

「ちょ、ちょお泣きなや。何の魔法かはわからんけど、とりあえず魔法使えるってわかったんやから。な!」

「……はい」

「せやっ、シアのご両親はどんな魔法使わはったん?」

「えっ、うちの、両親……ですか?」

 それ以外に誰がおんねん、そんな冷たい言葉をグッと呑み込んで、サムは優しく説明をはじめた。

「せや。魔法ちゅうのはほとんど遺伝なんや。まぁ簡単にーと、血液型みたいなもんやな。遺伝子ン中に、『あれ』が多くて『これ』が少なくて『それ』が中途半端やから『あれ』タイプの魔法、みたいな。せやから国とか種族とか、地域によって魔法のタイプが偏ってんねん。だから両親の魔法がわかれば、本人の魔法にも当たりがつくって寸法や」

 説明の間に、シアは落ち着きを取り戻していた。だからと言ってサムの質問には答えられなかった。

「二人とも魔法、使えないです」

 魔法のない世界に生きている両親は、当然魔法が使えない。

「大人も魔法使えへんなんて、どんな辺鄙な場所に住んどったんや……」

「だから──」

「説明は晩御飯のとき、やろ? はいはい、わかってるがな」

 サムはヴェルフの言葉を遮った。

「そうやなぁ~。ほんなら職業は? ずっと同じことしてたんやったら、それが知らず知らずのうちに魔法になってるかもしれへんし」

「あっ! うちの父は老舗の呉服屋をやってます。それで母は──」

 その瞬間、ヴェルフとサムが同時に言った。

「クモ魔法や!」

「クモ魔法かぁ~」

 スッキリして嬉しそうなサムの声とは対照的に、ヴェルフの声は沈んでいた。

「ホント!」

 シアの顔がパッと輝いた。魔法の名称が判別した。それだけで一瞬にして希望が勝ったのだ。クモ魔法のクモが『雲』なのか『蜘蛛』なのか……シアにはわからなかったが、それでも天にも昇る心地だった。

「ああ、間違いない。しかも超珍しい魔法やで」

「ホントですかッ?」

 魔法を使えるならどんな魔法でも良い、そう思っていたシアだったが、珍しいと言われればやはり喜んでしまう。

「ああ、ほんまや。ワイも長い間ヒトと(たたこ)うてるけど、この魔法を使えるヒトなんて見たことも聞いたこともないで! なぁヴェルフ?」

「そうだな。()()()()()()()()()()()()()()()()。フィラを、呼ぶしかねぇか……。あ~~~気が乗ンねぇが呼んでくる。サム、シアを頼んだ」

 ヴェルフは大きなため息をついて、キャンプの方へとぼとぼと歩いていった。


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