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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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29 男は難民とよばれた

「……………………!?」

 シアは恐怖で凍りついていた。少し前までは怖いモノなどない、と思っていたのに。

 それは乗り越えた恐怖とは種類の違う恐怖──『死』に向かう恐怖ではなく『死』が向かってくる恐怖だった。

 そんなシアの鼻先にこん棒を突きつけ、トロールは鬼のような形相で問う。

「キサマハテキカッ!?」

「………………ッ!!」

 シアは尻餅をついたまま、恐怖で固まった顔をぶんぶん振り、必死に敵ではないことをアピールした。

「それはオレの連れだ。気にすんな」

 トロールの背後からヴェルフの声がした。その瞬間、

「なんや、そやったら~て~なぁ」

 トロールは強張った顔をニコッと破顔させて、流暢に話し始めた。

「ほんまごめんなぁ~、怖かったやろぉ~? おっちゃんはサム。見ての通り、トロールや」

 サムはそう言いながら、両手を広げた。苔むした大岩のようにゴツゴツとした緑色の巨体は、縦も横もヴェルフの二倍はあり、その上に卵のようにつるんっとした頭がのっている。そんな厳つい見た目に反して、声はすこぶる軽く、口調は訛っていた。

「………………」

 シアは色々な意味で圧倒され、何も言えなかった。無言で頭を下げるので精一杯だった。

「そんなことよりレオンはどこだ?」

 立ち上がるシアを横目にヴェルフが訊いた。

「王さんやったら、本陣のテントで他の族長たちと会議中や」

「そうか。シア、行くぞ」

 ヴェルフはそう言うと、キャンプの奥へと歩き出した。シアとサムが慌てて追いかける。

「ちょい待ちぃや、ヴェルフ。友達連れてくんねんやったらさき~てって、いつも~てるやんか。こっちも色々と準備せなあかんねんからぁ~」

「アー、ハイハイ」

 ヴェルフは歩きながら、めんどくさそうに答えた。

「はぁーーー、ほん~ま自分冷たいヤッちゃな。そんなあったかそーなふかふかの毛皮着てんのにぃ」

 サムは大げさにため息をつき、肩をすくめた。それからシアを指差して、軽く訊く。

「で、この子はなんや? 非常食か?」

 シアは、目をクワッと見開いた。

(非常食!?)

ちげーよ、連れって言っただろ。コイツは……難民だ」

 ヴェルフはあっさりと答えた。サムのそれが獣人ジョークだったのか、シアにはわからないが、それでもホッとした。

「なんやそれ? 変な間ぁ合ったけど」

「あ~、色々とワケアリでヒトの国にいられなくなったってんで、こっちに逃げてきたんだ」

 ヴェルフは、シアが異世界から来たことを説明する気はなかった。サムが信じるか不安、とかではなく、ただただ面倒くさかったのだ。

「ほぉ~ん。まぁええわ」

 サムは、意味深に口を尖らせた。それからぐるんとシアの方を向いた。

「え~と、シア~たな。ここが獣人連合国のキャンプや。どやっ! エエとこやろ!」

 サムに促されて、シアはキャンプの中を見渡した。

 ちょっとした小屋のような巨大なテントが所狭しと立ち並び、そして当たり前だが多くの獣人たちがいた。牛人間ミノタウロス馬人間ケンタウロスのような獣のベースの獣人から、頭に大きな花を咲かせた花人間アルラウネや二足歩行をしているトカゲの蜥蜴人間リザードマンのようなベースが獣ではない獣人(?)など、シアがゲーム等で見たことのある種族から名前もわからない種族まで、多種多様な獣人たちがいた。彼らは農作業をしたり武具の手入れをしたり、当たり前に暮らしていた。

 ヴェルフの言った通り、そのほとんどがヴェルフより大きかった。たまにヴェルフより小さい獣人もいたが、それは妖精やドワーフのような小人で、シアと同じくらいの大きさの獣人はほとんどいなかった。それでも、

「ゲームの中に入ちゃった……」

 と、シアは少々浮かれていた。初日からゲームみたいだ、とは思っていたが、その後に待っていた、筋トレや戦争や逃走劇など過酷な現実のせいで、そんな浮かれた気持ちはとうに忘れていたのだった。

 行き交う獣人たちは皆、ヴェルフを見ると親しそうに挨拶をした。ヴェルフも親しげに挨拶を交わす。そこに種族の垣根はなかった。そして彼らは誰一人、『ヒト(シア)』に敵意を示さなかった。物珍しそうにじろじろと好奇の目を向ける者はいたが。

「あっこがこのキャンプの中心、唯一のちゃんとした食堂のクズハはんのお店や」

 サムの指差した先には、立派な木造の建物があった。建物の外にもテーブルがいくつも並べられており、キャンプファイヤー用の組み木もあった。

 キャンプ唯一のちゃんとした飲食店だけあって、大繁盛していた。まだ陽が傾きはじめたところだというのに、店先では酒盛りをしている。様々な種族の獣人たちが、楽しそうに酒を酌み交わし、大声で笑いあっている。人狼と豚人間オークなど、どう見ても捕食関係にある種族同士も仲良く同じ鍋をつついていた。

 その光景に、シアはあるべき世界の姿──理想の世界を見たような気がした。そしてその思いが口からポロっと溢れた。

「やっぱり、獣人だって同じ『人』なんだ……」

 その瞬間、ヴェルフもサムも、そして周りにいた獣人たちも一瞬動きを止め、シーンと静まり返った。

「──えっ!?」

 シアは焦った。焦りまくった。何かこの世界の禁忌タブーに触れてしまったのか、と身体中から嫌な汗が吹き出す。

「オイ、ヴェルフ。この子に説明せーへんかったんか?」

「わざわざ言う必要もない、と思ってたんだが……」

 サムとヴェルフが深刻そうに意味深な会話をした。周りの獣人たちは、何事もなかったかのようにわいわいと酒盛りを再開していた。

「あのっ、オレ何かやっちゃいました!?」

 シアは、今にも泣き出しそうな顔で訊いた。サムは、力強く首を横に振った。

「いや、シアは悪ない。悪いのはちゃんと言わんかった、ヴェルフや!」

 と、ビシッとヴェルフを指した。

「いや、違うだろ! 悪いのはただの言葉に血相変えるヤツらだろっ!」

 ヴェルフの正論に、サムは行き場を失った右手で頭をかいた。

「ああ~、まぁそうやけど……」

 多くの獣人にとって、言葉は言葉でしかなかった。弱いヤツから何を言われようが負け犬の遠吠え、うっとしいだけで怒りすら感じない。あまりしつこいと力強く黙らせることもあるが。ただ、対等もしくは一目置いている者からの言葉にはヒトよりも過敏に反応してしまい、ケンカに発展することも多々あった。

「?????」

 シアの頭の上ではクエスチョンマークがタンゴを踊っていた。それを見て、ヴェルフは苦々しく言う。

「獣人の中にはな、ヒトと一緒にされただけでキレるヤツらがいるんだヨ」

「えっ、なんで?」

「こんなこと、うのも恥ずかしいんやけどな、獣人の中にも差別主義者がおんねん。ソイツら曰く、獣人はけものとヒトを足した存在やからヒト単体より崇高な存在らしいねん。で、どんな世界でも得てして、自分を崇高な存在と勘違いしているヤツらに限って、無駄に声と主語が大きくて暴力的やんか。だからソイツらのおるところで獣人とヒトを一緒くたにったら襲ってくんねん。ほんま、一人で勝手に心ン中で優越感にでも浸ってりゃあエエのに……」

 サムは顔をしかめ、吐き捨てるように言った。

(ああ……やっぱり獣人も人なんだな……)

 シアはそう思い、悲しい気持ちになった。

「ワイらやったら襲われても返り討ちにできるけど、自分はそうはいかんやろ? ワイらが近くにおったら守れるけど、たぶんほとんどの獣人はこんなしょーもない争いに関わろうとはせんからな」

 種族によって多少の違いはあるが、獣人の考え方は基本的に弱肉強食である。崇高かどうかは人種ではなく力によって決まる。それゆえ、こんな主張するヤツらもそれに負けるようなヤツも、どっちもくだらない、と冷たく見放す傾向にあった。特に、仲間でもない『ヒト(シア)』を助けるような獣人はいない。

「だからヒトやのうて、もっと意味の広い『人間』ってった方が安全やで」

「そう言うことだ。だから、ここに慣れるまではあまり俺たちから離れるなよ。ヒトってだけで殺すようなヤツは少ないだろうが、弱そうって理由で喰おうとするヤツは少なからずいるだろうしな」

 ヴェルフは恐ろしいことをさらっと言った。

「………………え? 喰おうとする!?」

 あまりにさらっとしていたので、シアは聞き流しそうになった。

「ああ。爬虫類系と昆虫系の獣人は、隙あらば同族すら喰おうとするからな。要注意だ」

「えっ!? ここって国なんですよね? 殺しって許されるんですか!?」

「許されてはないな。けど、丸呑みにされたら証拠残らんし、丸呑みされるほど弱いヤツもたいがいやなぁ~、って感じで暗黙の了解になってんねん」

 サムは、笑いながら恐ろしいことを言った。

 シアはゾォ~っとしながら、心の中で前言撤回した。ここは丸っきり理想の世界などではなく、むしろもっと歪な世界に思えた。それとシアの頭の中に一つの疑問が浮かんでいた。

「獣じゃなくて、爬虫類や昆虫も獣人なんですか?」

 と、シアが聞こうとしたとき、

「あっ、ヴェルフ~~~! 稽古つけてぇ~~~!!」

 子供が二人、嬉しそうにかけよってきた。狼っぽいのと猿っぽいのの二人組。二人ともまだあどけなさが残っている。

「今は忙しい。また今度な」

 冷たくあしらうヴェルフに、二人は不満げにほっぺを膨らませた。

「えー」

「ほな、おっちゃんが相手したるわ」

「えー」

「えー、やない、行くで!」

 サムと子供たちは、やいやい言いながら駆け出していった。その様子を、シアは微笑ましそうに見ていた。


 ヴェルフに連れられて、シアはキャンプの最奥まで来た。そこには二階建ての一軒家がすっぽり入るのでは、と思ってしまうほど大きいテントが建っていた。それが本陣のテントだった。そしてその先にはまた鬱蒼とした森が広がっていた。

 テントに近づくと、中から怒号混じりの言い合いが聞こえてきた。

「我々は優秀な若者を二人も失ったんだ。それでもまだ待てと言うのか?」

 冷静で、決して語気は強くないが、威厳のある声だった。

「そうだッ!! 要塞補修中の今が好機だ! 全軍で一気に攻め滅ぼすべきだッ!!」

 今度は荒々しくて力強い、雷鳴のような声。

「アンタらは馬鹿かい? あの要塞をどうやって落とすつもりさ? よしんば落とせたとしても、仲間を人質にされたらどうするのさ! 見捨てるのかい!? アタシらはそれができないから苦労してるんじゃないかッ!!」

 女性と思われる声、凛としているがどこか芯のある声だった。

「オイ、レオン、入るぞ」

 中の怒号など気にせずに、ヴェルフはテントを開けた。

「ああ」

 と、腹の底まで響くようなドスの効いた低い声が聞こえてきた。シアは、声だけで押し潰されそうになった。ヴェルフの陰に隠れ、恐る恐るテントの中を覗く。

 テントの中は薄暗く狭かった。真ん中にシアよりも大きなテーブルがあり、それを囲むように五人の獣人がいた。右側にミノタウロスとケンタウロス、正面奥に獅子人間、左側に蜘蛛人間アラクネと、黒い毛布を頭まですっぽり被りクッションにもたれて寝ている者。テントそれ自体が狭いのではなく、中にいるモノのせいで狭く感じたのだ。特に、右側の二人はサムと同じくらい大きく、その迫力と圧迫感は凄まじいものがあった。

 シアは、ヴェルフのマントの裾を引っ張り、

「あのぉオレ、外で待ってます」

 と囁いた。ヴェルフはフッと軽く笑う。

「コイツらにそんな気を使う必要はないぞ」

 もちろん気を使ったわけではない。魔窟のようなこのテントにただただ入りたくなかったのだ。しかしヴェルフは、シアをテントの中へと押し込んだ。

 シアがテントに入ると、四人の鋭い視線が一斉にそそがれた。シアは、視線に射殺いころされるような気がした。続いてヴェルフがテントに入ると、四人の視線は上へと移動した。

「ヴェルフ、無事に戻ったか。で、成果はあったか?」

 野太い声が響いた。声の主は、テントの一番奥に座っている獅子の獣人だった。立派なたてがみに、金茶色の瞳、開いた口には立派すぎるキバが生えている。座ったままでもシアよりも大きかった。

「捕虜は無事みたいだが、カレルセにはいないらしい。詳しいことは後にするとして、レオン、手紙だ」

 ヴェルフは手紙を二通、獅子に投げ渡した。一通は、ディクソンから王へ渡してくれと預かった手紙。もう一通は、シアも知らない手紙だった。

「そうか、カレルセいないのであればマギアだな……。ご苦労だった。ところで、その子供はなんだ?」

「ああ、コイツは難民──」

「そんなことはどうでもよい! 捕虜がいないのであれば、今こそカレルセを攻めるべきではないか」

 威厳のある声がヴェルフの声を遮った。それは右奥に立っているケンタウロスのモノだった。真っ白の馬体に、仕立ての良い黒い洋服スーツと黒いハットのモノクロカラー、手には槍を持っている。下半身が白馬であることを除けば、杖の代わりに槍を持った洒落た紳士のようだった。

「そうだッ! 卑怯なヤツらに捕虜を盾にされることもない! 今こそカレルセを滅ぼすべきだッ!!」

 雷鳴が轟いた。右手前に座っているミノタウロスが吠えたのだ。真っ黒でビシッとした艶のある被毛に、筋骨隆々の巨大な身体、顔は牛で、頭からは二本の巨大な角が生えている。そして背中には巨大な斧を背負っていた。シアが今まで見たことのあるヒトの中で、ダントツにマッチョだったドミニクが、子供に思えるほどのマッチョ。上下ともに簡素な格好なのに、まるで鋼鉄の鎧を身に纏っているようにさえ思えた。

「だ・か・ら、要塞はどうすんのさ!?」

 凛とした女性の声が響いた。左奥のアラクネだった。化粧っ気のない気の強そうな顔に、黒髪を後ろで一つに束ね逆立てている。そして下半身は、巨大で毒々しい蜘蛛の姿をしていた。蜘蛛を昆虫類だと勘違いしているシアは、二重の意味でビクッと身を縮めた。

「それならぁ~、そこの難民君を使えばいいんじゃない?」

 突然、欠伸まじりの妖艶な声が響いた。左手前で寝ていた女性だった。彼女は毛布から赤い紅を引いた艶やかな目元だけ覗かせ、尻尾の先でシアを指していた。シアがクッションだと思っていたのは、彼女の尻尾だった。

「どういうことだ?」

 得心している者は誰一人いなかった。シアも意味がわからず戦々恐々としていた。

「だから~、ちょっとゴメンね」

 女性の尻尾がスルスルと伸びてきて、シアの左手を取った。手首に巻き付いた尻尾はもふもふしていて気持ちよかった。

「これ、要塞の転送魔法陣のカギでしょ。これがあれば要塞に入れるわよ。でも、入れるのは所有者一人だけだから、解析して誰かに移すか、手ごと斬り落とすか、しなきゃいけないわ」

 女性は、眠たそうに説明した。

(手を……斬り落とす!?)

 シアは戦慄して、言葉も出なかった。手を引っ込めようとするが、尻尾は力強く巻き付いていてビクともしない。

「そうか! いくら鉄壁の要塞といえど内と外とを同時に攻めれば落とせる!」

「ならばッ! 貴様には何の恨みもないが、これも戦争に勝つためだッ!!」

 ミノタウロスは、早くもシアの手を斬り落とす気だった。背負った斧を抜き、今にも振りかぶろうとしている。

(ウソだろ!! マジで切り落とす気かよぉ!?)

 シアは必死になって、尻尾から手を引き抜こうと奮闘していた。が、引き抜ける気配すらなかった。

「待て! キサマが力任せに斬り落とせば、この者は死ぬだろう……──」

 ケンタウロスが中央のテーブルにひらりと飛び乗り、ミノタウロスを止めた。

(よかった、助かった……)

 シアがホッとしたのもつかの間、ケンタウロスの言葉には続きがあった。

「──だが、私の槍ならば痛みすら感じさせない」

「は……?」

 その不吉な言葉の意味を理解し、「ヤバイ」と思った瞬間、

「御免ッ!!」

 ビュンッ!! と、ケンタウロスが槍を繰り出していた。まさに神速、目にも留まらぬ速さで精確にシアの手首目掛けて。


 シアは左手を失う覚悟をする暇もなく、反射的に目を閉じていた。だが、不思議と左手には何の違和感もなかった。

(……あれ、痛く、ない……?)

 シアは、恐る恐る目を開けた。目の前にヴェルフがいた。ケンタウロスの槍は、シアの手首に当たるすんでのところでヴェルフに掴まれ、止まっていた。

 終始冷静だったケンタウロスが声を荒げた。

「何故止めた、ヴェルフ!! 返答次第ではキサマもッ!!」

 ケンタウロスは槍を引き抜き、威嚇するようにその柄でテーブルを突いた。

「戦争を言い訳に無関係なコイツを犠牲にするのか? それならアデルと一緒じゃねぇのか!!」

 ヴェルフが吠えた。その瞬間、ピーンっとテント内に緊張が走った。

「私がアデルと一緒だと!!」

「俺がアデルと一緒だとォ!!」

 ケンタウロスとミノタウロスが同時に吠えた。二人ともヴェルフに向かって武器を構える。その両目には怒りの雷光が迸っていた。

「おもしれー、相手になってやるよ」

 ヴェルフも剣を構えた。刀身はボロボロなのに、全身から凄まじい気迫が立ち上る。

(あっ……死んだ……)

 シアはそう思った。テント内に渦巻く三人の殺気がシアに生を諦めさせたのだ。

「なんでこう血の気の多い野郎ばかりなんだい」 

 アラクネは、ため息をついて呆れていた。尻尾の生えた女性は、こんな状況にもかかわらず、またうとうと船を漕ぎはじめていた。

「マルコ、邪魔をするなァ! コイツは俺がヤる!!」

「それはこちらのセリフだ、ドブリス。キサマが退け!」

 ミノタウロスとケンタウロスは互いに言い争いながらも、ヴェルフから視線を外さなかった。

「ヘッ、面倒だ。二人まとめてかかってこいよ」

 ヴェルフがさらに挑発する。ブチィ! と二人の血管が切れる音が聞こえた気がした。

 まさに戦いが起こりそうになった瞬間、ガンッ!! とレオンが大剣を地面に突き刺し、吼えた。

「やめろッ!! 仲間同士で争うな!!」

 ライオンさながらの獣人王の咆哮に、三人は動くのを止めた。が、三人とも構えは解かなかった。

「クズハ殿、まだカギは使えるのだな? それと解析はどのくらいかかる?」

 レオンは野郎どもを威嚇したまま、眠たそうな女性に聞いた。

「ええ、使えるわよぉ。要塞のカギは一種だから、転送魔方陣を封印されてなければね。それと、解析はムリみたい。この子、ファイアウォールがかかってるわ」

 知らないうちに、シアの右手にも尻尾が巻き付いていた。

「だ、そうだ。ヴェルフ、どうやって要塞を落とすつもりだ? 何か案があるのか?」

 レオンは、静かに訊いた。

 ヴェルフは少し考えてから、ニヤリと笑い剣をしまった。そして、シアの肩を叩いた。

「ああ、コイツを使う」


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