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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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27 前代未聞

 豪奢な玉座に座っている男の胸の辺りから、蒼い光が飛び出した。光は明滅しながら、男の周りをふわふわと飛び回る。

「ねぇ、アデル。今、ボクの眷属から報告があったんだけど、救世主と人狼がズートア要塞を越えて逃げたってサ」

 蒼い光から無邪気な子供のような声が響いた。アデルは、穏やかな表情でその光を追っていた。

「そうか、ズートア要塞も突破されたか……。裏にマギアの小娘ガキがいるんだ、仕方ないな。とはいえ、人狼にまで逃げられたのは残念だね。アレならシルフ、君の器になれたかもしれないのに……」

「ホントにネ。あ~あ、ユリウスの身体さえもっとしっかりしてたら、こんな苦労しなくて済んだのになぁ~」

「まさか、ユリウスにいさんの身体でも君の魔力に耐えきれないとはね」

「ネ。せっかくボクの器にしてあげたっていうのに、雑魚を数人殺しただけで壊れるなんて、ホン~~ットシンジランナイ!」

 シルフは、アデルの頭上高くまで飛び上がり、雷のような苛烈な光を放った。アデルは一瞬目を伏せ、ぽつりと呟く。

「ユリウスにいさんだけは、他とは違うって信じていたのに……」

 しかしすぐにシルフに視線を戻した。

「まぁ、僕がにいさんを念入りに殺しすぎたせいもあるかもしれないけど」

「それは関係よ。心臓が無くても器になるんだからサ。王族うんぬんじゃなくて、きっとアデルが特別なんだよ」

「ホントに、そう思うのかい?」

 アデルは、光に向かって手を伸ばした。救いを求めるように。光はその手にふわりと乗った。

「うん! もちろんだよ!」 

「ありがとう。君にそう言われると本当に嬉しいよ」

 アデルの白皙の頬が自然と綻んだ。それは、シルフにしか見せない柔和な笑顔だった。

「だって、半分取り替えっこしただけでボクはこんなに強くなれたんだよ。それなのに、全部貰った召喚の間のあの二体はゼンゼン強くならなかった。二体とも、ボクの眷属の中でも強い方だったのにね」

「ああ、そうだったね。あの二体にはシュザンヌとフリードの魂をあげたんだった。神聖不可侵とされる王族の魂でも門番すらできないんだ。やっぱり人間はどいつもこいつも使えない!」

 アデルは、吐き捨てるように言った。そのとき、玉座の間に来訪者を知らせる音が響いた。

「やっと来たみたい。ふぁ~あ、ボクはもう少し休ませてもらうね」

 そう言うと、光はまたアデルの胸の辺りに戻っていった。アデルは優しく「おやすみ」と呟くと、表情を一変させた。暴君の顔へと。

「入れッ!!」

 静かに大扉が開かれた。老齢の男と若い副官がアデル王の前に歩みより、深々と頭を垂れる。アデル王は脚を組み片ひじを付いて、二人を冷たく見下ろした。そして、冷たい言葉を浴びせかけた。

「侵入者は、捕らえたのか?」 

 それは、答えを知っている問いだった。

「申し訳ございません。まだ捕らえられておりませぬ。依然、部下たちがロクセットを捜索中でございます」

 王の盾隊長のドレスラーが低く陳謝した。予想通りの返答に、アデルは冷笑をもって応えた。

「フッ、いくら探したところで無駄だ。奴らはすでに国境を越えた。そんなことも知らずにいつまでも王都を探し回るとは、王の盾が聞いて呆れるわ!」

 副官はバッと顔を上げ、暴君に反論した。

「お言葉ですが、ロクセットの封鎖を担っていたのは『外』の者たちです」

 通称『外』と呼ばれる彼らの能力は、カレルセ軍人の下限と言われていた。エリート集団である王の盾に入隊するには、その能力も品性も明らかに不足していた。だが彼らは、アデル王に多額の金品を寄贈することでその忠誠心を示し、特別に王の盾に入隊した者たちだった。

 そんな『外』の連中に、隊長がロクセットの封鎖を一任したのは、消去法でだった。今の王の盾の人員では、『外』も動員しなければ封鎖と守護と捜索の三つを同時にこなすことはできなかった。王城に入ることを許されていない彼らに王城の守護はできない。広大なロクセット中を捜索する、などという地味で大変な仕事を彼らがやるわけがない。だが封鎖なら、王の威を借りて際限なく権力を振りかざせる封鎖なら、彼らも奮起するだろう、と、ドレスラー隊長は考えた。民には申し訳ないがこれが最善だ、と信じていた。

 しかし、王都正門という一番の要所を任された『外』の一隊が、ヴェルフに恐れをなして一台の馬車を通したのだった。しかも彼らは、そのことを隊長はおろか他の『外』の部隊にも報告せず、辞表と豪奢な鎧を置いてとっとと雲隠れしていたのだ。彼らが走り去る姿を、マント付きのこの副官がたまたま目撃し、すぐに隊長への報告と部隊の再編を行い、事なきを得たと思っていた。それゆえ、王の盾は今も王都中を探し回っている。

 つまり、ロクセットから侵入者を逃がした責任は、『外』のような連中を王の盾に任命したアデル王にもあるのではないか、と、副官は王の任命責任を追求していたのである。

 ドレスラーは片膝をついたまま、身構えた。これ以上部下を殺させてなるものか、と、いざとなれば王の凶刃をこの身で受け止める覚悟だった。健全な民主国家であれば、責任の追求からは逃れ得ない。逃れ得てはいけない。ただこの国は暴君の支配する君主国家。暴君に追求すること、それ自体が罪となり、その場で処断されてもおかしくはないのだ。

 しかし、アデル王は低く笑った。毒のこもった嘲笑。

「それがどうした? 王の盾を任命する正統な権利が余にはある。それに、部下を鍛えるのも隊長の大切な役目なのではないのか?」

 アデルの言葉は全くその通りだった。反論の余地のない正論、この国の現実にさえ目を向けなければ。賄賂で入隊するような連中が、ドレスラー隊長の厳しい訓練など受けるはずがなかったのだ。どれだけ好き勝手に振る舞おうが、王の後ろ楯を持っている彼らは首になる心配がないのだから。

「それは──」

「カルッ! もういい!」

 副官がさらに反論しようとしたのを、ドレスラーは遮った。

「部下が失礼しました。それで、我々を呼んだ理由は叱責のためでしょうか?」

 もう一度深く陳謝し、これ以上王の怒りを買わないためにも、すぐに本題へと移ろうとした。

 アデル王は、ひざまずく老将に冷たく一瞥をくれてから、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「いや、別の理由だ。貴様ら王の盾は、これよりエヴァンス要塞司令官の下についてもらう。そして全軍──『外』を含めた文字通りの全軍で、エヴァンスとともにズートア要塞に赴き、同要塞を守護しろ。詳細はエヴァンスに聞け」

 老いた隊長は、弾かれたように顔を上げた。

「なッ、全軍ッ!? そんなことは前代未聞ですぞ!!」

 カレルセ軍人の最高峰。その名誉と誇りを持って、王と王城と王都を守護してきた王の盾が、要塞司令官などの下につくこと、そして何より王都を空にすることが前代未聞だった。

「フッ、前代未聞か……」

 アデル王は軽く笑うと、ゆっくりと立ち上がった。そして、舞台俳優のように両手を大きく広げ、声を張り上げた。

「このカレルセがマギアに侵略された時点でそうではないか。異世界からの召喚も、王城に獣人の侵入を許したのも、さらにはそれに逃げられたのも! 全てが前代未聞だッ!!」 

 芝居がかったような大袈裟な動きとその言葉。だが、二人は圧倒されていた。その血に流れる、脈々と続く王家の血には逆らいがたい力があったのだ。

 固まっている二人に、アデルは青い瞳を煌めかせて、予言者めいた宣言をした。

「世界が動きはじめたのだ。変化はこれからどんどん加速し、因習などに縛られている貴様らには想像もできない世界が訪れるであろう」

「動かしたのは、貴方ではないのか……アデル王!?」

 思わず副官が声を漏らした。一連の前代未聞の根源には、アデル王の存在があったのだ。約二十年前、当時の王と王子たちが直接殺し合う、という凄惨な事件からたった一人生き残り、十代という若さで至尊の冠を戴いた暴君の存在が。

 これまで、数え切れないほどの王子たちが王の座をめぐる殺し合いを演じてきた、血塗られたカレルセ王家といえど、一夜にして王が変わるのは前代未聞の大事件だった。この事件の真相──アデルが父王を含む他の王子たちを皆殺しにした──は、箝口令かんこうれいのせいで人々の口の端にのぼることはなかったが、まともな思考能力を持つ大人ならわかることだった。当時はまだ子供で、アデル王の支配が終わった今もカレルセ軍に所属している、この副官やエヴァンスなどはそのことを知る由もなかった。

 それでも副官がこの発言をしたのは、尊敬するドレスラー隊長の弁明と、暴君アデル王に対する不信感からであった。

 無礼極まる副官の言葉に、隊長は凍りついた。だが、アデルは高く笑った。

「フッ、ハハハハ! たしかにそうだ。この世界を動かしたのは余だ。やはり余こそが………………」

 アデルは一瞬沈黙し、再び大笑した。何かを確信したような笑い声。アデル王のことをよく知っている二人にとっては、寒気すら感じる笑い声だった。王は笑いながら、手だけで二人に退室を命じた。二人は命ぜられるまま、玉座の間から退いた。

 遠ざかる悪魔のような笑い声を聞きながら、副官は隊長に声をかけた。

「隊長! いくら王の命令とはいえあんな命令を聞くのですかッ!?」

 激情にかられた本音を、隊長は静かに受け止めた。

「ああ。ズートア要塞が落とされれば、民に被害が出る。兵士として、それは看過できん。それに王の言葉にも一理ある」

 ドレスラーは右手を強く握りしめ、苦々しく呟いた。

「わしも、因習なぞにとらわれず、もっと早く動くべきだった」 

「は? それはどういう……──」

「カル! 全軍に通達せよ。これより王の盾は、ズートア要塞エヴァンス司令官の下につき、同要塞の守護に赴く。これは王の勅命だ。何者も背反は許されん。従いたくない者は即刻王の盾を辞めろ。それともう一つ、王は世界が変化したとおっしゃった。わしは、この国の変化にはついていけない。よってこの作戦が、わしが王の盾隊長として指揮を執る最後の作戦になる。作戦如何にかかわらず、わしはロクセットに戻るつもりはない。最後までわしに付き合う気がある者は家族に別れを告げてこい」

ドレスラーは、常の威厳ある隊長の姿で力強く命令した。その瞳には常ならざる決意の炎が宿っている。ともすれば、国のために玉砕を覚悟した兵士の瞳にも見えたのだが、隊長にそんな軍事的ロマンチズムの趣味がないことを知っている副官は目を輝かせた。

「それは、もしかして……!!」

「カル、王の盾全軍にこの通り伝えてくれ。分かる者だけに分かればいい」

 私の部下であれば分かってくれる。隊長にはその自信があった。そして、そこに『外』の連中は含まれていない。

「御意!!」

 そう言って今にも走り出しそうな副官を、ドレスラー隊長は呼び止めた。

「副官だからと言って無理に付き合う必要はない。お前も、故郷に帰ってもいいのだぞ?」

「はい、わかっております。ですが、私は最後まで隊長に付き合います」

「本当にいいのか?」

「もちろんです。帰ったところで、アデル王側についた私を待つ者などいませんから」

「ありがとう。では行こうか」


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