24 国境越え 前編
ズートア要塞の一室、一人の男が机に向かい筆を走らせていた。淀みなく動いていた彼の筆が、突然ピタリと止まる。その直後、コンコンとノックの音が響いた。
「入れ」
茶色の髪と同じ茶色の瞳の部下が部屋に入ってくると、男に敬礼をした。
「失礼します。先程到着した親方たちの話によると、要塞の修復作業は一ヶ月もあれば終わるそうです」
男は顔を上げ、部下を見やった。部下の名前はマイヤー。部下と言っても男と同じくらいの年齢で、さらに貴族である。貴族らしく洗練された容姿の爽やかな男。だが性格は、領地も持たない下級貴族だと言うこともあり、貴族よりも平民寄りのさっぱりとした性格だった。その性格もあり、れっきとした貴族でありながらヴェスパトーレ伯爵側ではなく、司令官であるエヴァンスの命令に従う稀有な人物でもある。司令官が孤児院育ちの平民と知っていても。
「そうか、ありがとう」
男は手で下がれと合図すると、再び視線を机に落とした。しかし、マイヤーはその場から動こうとはしなかった。
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「はい。マギア王の使者を名乗る二人組が来ているそうなのですが……」
マイヤーには珍しく歯切れが悪かった。
「二人?」
男は、顔を上げた。それから口元に手を当てて少し考える。
「そうか……。とりあえずここへ連れてきてくれないか」
「よろしいのですか? どうも使者には見えない、怪しい風体らしいのですが……」
「ああ、私が確認する。よろしく頼むよ」
「ハッ、失礼します」
マイヤーが出ていくのを確認してから、男は書きかけの書類と向き合った。
貴国の協力のおかげで、ズートア要塞の補修工事を約一ヶ月で終えれそうです。要塞司令官エヴァンスに代わり、感謝を申し上げます。
そして最後に『副官アンドレイ・ディクソン』と署名し、手紙に封蝋とカレルセ軍の刻印を施した。
ディクソンは机の引き出しを開け、中に入っていたもう一通の手紙と今書き終えた感謝状を見比べた。もう一通の方にはカレルセ軍の刻印がない。それからすぐに感謝状を引き出しに仕舞うと、彼は思案気な顔で南側の窓から外を見つめた。
月明かりが何もない荒野と遠くにある森を照らしている。何の変哲もない大地と森、だがそこは獣人連合国の領土だった。
「シア、起きろ、要塞に着いたぞ」
シアは、身体を揺さぶられたような気がした。ただそれはシアを覚醒させるには不十分だった。すかさず追撃が飛んだ。先程より強力な二撃目が。
「オイ、起きろ! シア!!」
「……うっ、ううん……」
二撃目の衝撃で目を覚ましたシアだったが、まだ半分以上眠っていた。眼も半分しか開いていない。
「……あっ、おはよう、ございますぅ。ヴェル……──」
シアは逃亡中とは思えないほどとろけた声で言った。
「ようやく起きたか……。ホラ、行くぞ!」
ヴェルフは、ため息まじりに呟き、馬車から飛び降りた。シアは座ったまま、大きく伸びをした。そのまま寝ぼけまなこで馬車の中を見渡す。誰もいなかった。それどころか大量に積まれていた荷物もキレイになくなっていた。
「……あれ? 他の人たちは?」
シアは、少し考えればわかることを何も考えずに聞いた。
「親方たちならとっくに降りた。寝る前に要塞の状態を見ときたいんだとよ」
「親方?」
シアは寝ていて聞いていなかったが、乗客のおじさんたちは、ロクセットの大工たちを束ねる親方四人衆と呼ばれる人物であった。
「なんだお前、そんなに早く寝てたのか」
ヴェルフは、呆れたように言った。それからシアのマントを引っ張った。
「とりあえず降りろ! 要塞司令官に会いに行くぞ」
ヴェルフに引きずり降ろされながら、シアの眼がクアッと開いた。
「司令官はダメです! 早く逃げましょう」
「どうやって?」
「どうやって……?」
シアは、当たり前の質問に答えられなかった。
「………………ヴェルフは、どうやって逃げるつもりだったんですか?」
困った末に、シアは質問に質問で返した。ヴェルフはそれを気にする風でもなく、さらりと言う。
「俺一人なら『ヒトモード』を解けばどうとでも逃げれる。シアは要塞越えられるか?」
「無理です……」
考えるまでもなく無理だった。なんせ闘技場の壁すら越えられなかったのだ。無理に決まっている。俯いたシアの頭をポンっと叩いて、ヴェルフが優しく笑う。
「だろ。それに情報収集もしたいしな」
「でもエヴァンスさんとブラウンさんは、オレが救世主だと知ってるんです」
「そうか、それはマズイな」
ヴェルフは実にあっさりとそう言い、腕を組んで何かを考えはじめた。シアは、エヴァンスとブラウンが居はしまいか、と辺りをキョロキョロ見回した。
辺りは真っ暗だった。ほとんど満月と言える月でも、スパーダストラーダ峡谷の底まで照らすには力不足だったのだ。月がまだ南中していないのもあるのだろうが。
それにもかかわらず、多くの兵士が備え付けの頼りない灯りを頼りに、シアたちが運んできたと思われる物資の数々を働きアリのようにズートア要塞へと運んでいる。
(こんなに暗いならよっぽど接近されない限り、バレなそう……それに何か忙しそうだし)
シアはホッと一息ついた。それから何の気なしにアリの行列を目で辿り、要塞にぶつかった所で視線を上へと向けた。上に行けば行くほど、月光に照らされている面積が増えていく。
「あっ……!」
シアは、半分ほど視線を上げた所で目を奪われた。
煌々たる月光を浴びて白く輝くズートア要塞。その中央やや下にポッカリと大穴が空いていたのだ。獣人連合国の夜空が見えるほどにポッカリと。それでもなお、ズートア要塞には以前と変わらず圧倒的な存在感があった。それが逆にこの要塞の頑健さを示しているように思えた。
「何やってンだ。早く来い!」
馬車の前方へと歩きながら、ヴェルフが後ろ手で手招きしていた。シアは慌てて駆け出す。
「あっ、ハイ!」
ヴェルフは、御者席の横で止まった。少し遅れて追いついたシアが、御者席を見て目をパチクリさせた。
「えっ!?」
麦わら帽子が空中に浮かんでいたのだ。
シアは眼をこすって、もう一度よく見る。すると、麦わら帽子の下にうっすらと人の姿があった。顔はわからないが、黒っぽい服を着ている……ように見える。暗い色の服が完全に闇と同化していて、ハッキリと見えるのは明るい色の麦わら帽子だけだった。
「なぁアンタ! その麦わら、譲ってくれないか?」
ヴェルフは、御者にそう言った。御者は前を見たまま、麦わら帽子に手を当てて、さりげなく顔を隠した。
「申し訳ありませんが、これはお譲りするわけにはいきません。私には帰りがありますので」
御者は、丁重に断った。それがとても上品で嫌みのない断り方だったので、シアは、なんか御者っぽくないな、と失礼な感想を抱いた。それにその声にどこか聞き覚えがあるような気がした。
「まぁ、そう言うな。ここにいる何人かがシアの正体を知ってんだ。だから正体を隠すためにそれが要るんだ、スパティフィラム」
そう言って、ヴェルフがニヤリと笑った。
シアは驚いた。
「えっ!? 真夜中の君の執事さん!?」
シアは言ってから、しまった、と後悔した。だが、スパティフィラムは『真夜中の君』には触れず、シアたちの方へと顔を向けた。
「やはり気づいておいででしたか。そういうことなら仕方がありませんね。どうぞ、これをお持ちになってください」
スパティフィラムは馬車から降りて、シアに麦わら帽子を手渡した。確かにその顔はスパティフィラムだった。服装もいつもと同じ黒いスーツ。だが、手が届くほど間近にいるのに眼を凝らさないとよく見えない。シアは、影が薄いのを通り越して影が無いんじゃ……と、これまた失礼な感想を抱いていたが、それは言わなかった。代わりに、
「……ありがとうございます」
と、色々な意味でお礼を言った。
「お気になさらず。ところで、どうして私だとお気づきに? 気づかれないように注意してたのですが……」
スパティフィラムがヴェルフに訊ねる。
「だからさ。この距離でもほとんど匂いがしないんだ。ただ者じゃないってすぐにわかったぜ」
ヴェルフは最初──王都で見たときから、御者の匂いと気配が感じられないことで、姫サマの手の者か、と当たりを付けていた。だがそのときは、魔力が切れているせいか、とも思えた。しかし、たらふく飲み食いして魔力が回復した今でも、一切の匂いも気配も感じられなかった。ヴェルフの鼻が反応しなかった人物は、これまでに二人しかいなかった。そのうちの一人がまさに姫サマの手の者だった。
「なるほど、完璧というのも考えものですね」
スパティフィラムは、一人納得したように呟いた。そのとき、シアたちの背後から声が飛んで来た。
「マギア王の使者の方々ですか?」
シアは、サッと麦わら帽子を被った。それを横目に見ながらヴェルフが振り返り、応える。
「使者なんてそんな立派なモンじゃねぇよ。アンタは?」
「私はマイヤーです。お二人をお迎えに上がりました」
マイヤーは、人懐っこい笑みを浮かべて、二人に敬礼した。
「ほぅ~、流石は名高きエヴァンス司令官。耳が早いな」
「いえ、あいにくエヴァンス司令官は所用でロクセットへ行ってまして……」
(エヴァンスさんがいない!!)
シアは、心の中でガッツポーズをした。しかしそれも一瞬だった。
「……ですから、ディクソン様のご命令でお二人をお迎えに」
(ディクソン……? 副官の!?)
シアは、曖昧な記憶を必死に掘り起こした。
(たしか、要塞で一度会った黒ずくめの金色の瞳の人……だったよな。あのときは自己紹介をしなかったけど、エヴァンスさんの副官ならたぶん救世主だと聞いているはず……)
シアは、さりげなく麦わら帽子で青ざめた顔を隠そうとしたが、ぎこちない動きにしかならなかった。それでも、マイヤーは気づいていないようだった。
「どうぞ、こちらへ。ディクソン様がお待ちしております」
マイヤーは踵を返して、要塞に向かって歩き出した。
「じゃあな、色々助かったよ」
ヴェルフはあっさりとスパティフィラムに別れを告げ、マイヤーの後に続いた。スパティフィラムは、うやうやしくお辞儀する。
「ではお二人とも、また会う日までどうぞ壮健で」
シアはペコリと頭を下げると、急いでヴェルフの後を追いかけた。そのとき、スパティフィラムが思い出したかのように言った。
「あっ、先ほどの素敵な呼び名は、お嬢様には伝えない方がよろしいですか?」
その瞬間、シアは片足を上げたまま凍りついた。このような不安定な体勢でも凍りつけるのは、ドミニクの筋トレの成果だった。
「………………」
シアは、そのままの体勢でクルッと振り返った。前にいる二人の視線より、影の薄いスパティフィラムの視線の方がマシだと思ったからだ。ヴェルフが笑っているのを背中で感じる。
「……ハイ、オネガイシマス。ダマッテテ、クダサイ」
「そうですか、お嬢様なら十中八九気に入ると思うのですが……」
ややあって、シアは片足を下ろし頭を下げた。
「……それでも言わないでください。むしろ今すぐ忘れてください」
シアはそれだけ言うと、逃げるようにもう一度振り返った。やはりヴェルフは、喉の奥で楽しそうに笑っていた。マイヤーは不思議そうな顔をしていた。
「さぁ、行きましょう!」
シアは、恥ずかしさを打ち消すように、勢い良く言った。しかしそれは何も打ち消さずに、各々の感情をより強めただけだった。それでもマイヤーは、使者の言葉に素直に従い、ハテナを頭の上に浮かべながら二人をディクソンの元へと案内した。
マイヤーの案内で、二人はズートア要塞の長い階段をひたすら上り、ようやく目的の部屋にたどり着いた。マイヤーがノックし扉を開ける。ヴェルフは、ズカズカと部屋に入った。シアも後に続くが、心臓は早鐘のように高鳴っていた。口を開ければ飛び出すのではないか、と思うほどに。
部屋にいた男が立ち上がり、二人に敬礼した。
「私はアンドレイ・ディクソンと申します。この要塞の留守を預かっている者です」
その声は、あのとき聞いた冷たい声ではなく、穏やかで優しそうな声だった。シアは、もしかしたら同じ名前の別人かも、と甘い期待をして、帽子の影から慎重にディクソンを覗いた。
ディクソンは、黒ずくめの格好ではなく緑色の軍服姿だった。手袋もロングコートも着ていない。室内だから当たり前か、と、シアは気を付けながら視線を上げる。
後ろで一つに束ねた明るい金髪に、白皙の良く整った顔立ち。エヴァンスさんと幼なじみだと聞いていたが、ディクソンさんの方が若く見える。そしてその瞳は満月のような金色だった。
その瞳を見たとき、シアは瞬時に悟った。あのときと同じディクソンさんだ、と。それと同時に、絵本に出てくる王子様みたいだ、と少し見惚れてしまった。
「はいこれ、命令書。王城に侵入した人狼を捕まえに来た」
ヴェルフが、姫から貰った偽物の命令書をディクソンに渡した。ディクソンは、平然と命令書に目を通す。代わりに傍らにいたマイヤーが驚いた。
「えっ!? ロクセット城に人狼が侵入したんですか!?」
「そうだ。で、今も逃走中。人狼が獣人連合に戻るにはこの要塞を通るはず。だから、俺たちが探りに来たんだ」
「わかりました。我々も出来うる限りの協力をさせてもらいます」
ディクソンはあっさりと了承した。それから机の引き出しを開け、カレルセ軍の刻印の入った手紙を取りだし、
「この手紙をお二方の王に渡して貰えますか」
と、命令書とともにヴェルフに渡した。
「わかった。うちの王に渡せばいいんだな」
ヴェルフもあっさりと受け取った。シアは、麦わら帽子の下で目を見張っていた。
「ええ、頼みましたよ。ではマイヤー、お二人を貴族のゲストルームにお連れなさい」
「はい。では、お二人ともこちらに……」
マイヤーが動き出したとき、ヴェルフはそれを遮るように言った。
「ちょい待ち! その前にもう一つ報告」
いの一番に部屋を飛び出そうとしていたシアは、ドアノブに手をかけた状態で止まっていた。ディクソンは、そんなシアの背に一瞥くれてから、言った。
「何ですか?」
「ここへ来るまでに補給物資の酒を全部呑んじまった」
わざわざ報告した割りに、ヴェルフは悪びれることもなくあっけらかんとしていた。
「えっ、全部!? かなりの量があったんじゃ……」
マイヤーは驚いていたが、ディクソンはこれにもあっさりとしていた。
「そうですか。ちょうど、この前戦死した貴族たちの遺品を整理していたところ、大量の隠し酒を見つけたので、それを兵士たちに支給します。お酒がお好きならばどうです? 一、二本お持ちになりますか?」
「おっ! いいねぇ。アンタは話がわかるねぇ~」
ヴェルフはニヤリと笑った。
「用意しておきます。では、マイヤー」
その言葉でシアは部屋を飛び出し、ホッと胸をなでおろした。最後に部屋を出たマイヤーが、扉を閉めて言う。
「お部屋は最上階の北東なのですが、東階段は今使えないので、遠回りになりますが西階段から向かいます」
再びマイヤーの案内で、二人は再び長い階段を上りはじめた。シアは、さりげなくマイヤーと距離を取って、ヴェルフに小声で話しかけた。
「王様への手紙なんて大事な物、受け取って大丈夫なんですか?」
「王に渡せばいいんだから王に渡すさ」
ヴェルフは、灰色の瞳を意味深にキラリと煌めかせた。
「……え? それって、違う王様なんじゃ……?」
「ああん? そりゃあ『王』としか言わなかったアイツのミスだ。……心配すんな。どうせなるようにしかならねぇよ」
心配そうなシアの顔を見て、ヴェルフは無責任極まる言葉をあっけらかんと言い放った。それで心配しない方が無理である。シアは、余計に心配になってきた。
「普段なら魔力式のリフトを使えるのですが、今は資材を運ぶのに使っていまして……」
上からマイヤーが申し訳なさそうに言った。徐々に遅れていく二人を見て、疲れていると思ったのだろう。
「ですが、もう着きました。ここが最上階です」
最上階は明らかに他の階層とは違っていた。これまでの階層は、階段から真っ直ぐと長い廊下が伸び、その両側に等間隔で扉があった。だが、最上階だけは真っ正面にいきなり壁があった。廊下は壁に沿って、北側に迂回する形で伸びていた。シアは、壁の向こうから圧迫感のようなものを感じた。
「あとはこの部屋をぐるっと回って、向こう側にある東階段の手前がお二人の部屋です」
マイヤーは、そう言って廊下を進んでいった。
しばらく歩くと、大きな扉があった。ヴェルフがマイヤーを呼び止める。
「ちょっと待て、この部屋はなんだ?」
「そこはこの要塞の心臓部です。申し訳ありませんが、関係者以外立ち入り禁止なので……」
マイヤーはそう言って、頭を下げた。しかし、ヴェルフは意に介さなかった。
「へぇ~、立ち入り禁止ね。侵入者の人狼が気になりそうな場所だな。よし、中を確認するぞ」
ヴェルフが言うのだから間違いはない。だが、マイヤーは当然のように断った。
「カギがかかっているので、いくら人狼といえども入れませんよ」
「念のためだ。それに、出来うる限りの協力をする、ってアンタの上官も言ってただろ?」
「そう、ですね。わかりました。ですが確認するだけですよ。中のモノには触れないでください。下手に触れると、要塞ごと大爆発する危険性もあるので」
マイヤーはしぶしぶ了承し、懐から一本のカギを出した。二人に念を押しながら解錠し、扉を押した。ギィィっと雰囲気たっぷりの音を立てて開く。
「おお…………!」
「すげぇ…………!」
二人は思わず声を漏らした。
中は思いの外広かった。天井も高く、二、三階層をぶち抜いて作られているようで、要塞の一室とは思えない広さがあった。そしてがらんとした室内の中央には、眩く輝く巨大な物体があった。石造りの台座の上に白く輝く球体が載せられている。それはどくんどくんと鳴動していて、まるで本物の心臓みたいだった。
「あれがこの要塞、ズートア要塞の心臓です」
マイヤーは、輝く球体を指差した。
「ナディエ・ディエから吸収した大量の魔力を、あの装置に貯めて要塞全体に供給しているんです。要塞のインフラから門の開閉、さらには迎撃用ゴーレムの召喚まで、この要塞の全ての動力源をあれが担っているんです」
「ゴーレムの召喚まで?」
「そうです。あの中には魂持ちの精霊が何百といまして、彼らが制御してくれているのです」
「へぇ~。で、あっこに積まれた木箱は?」
ヴェルフが指した先には、大量の木箱が積まれていた。
「先日ロクセットから派遣された技術者の物です」
「あっ、ブラウンさんの」
はたと気づき、シアは思わず口に出していた。あれを運んでからまだ一週間も経っていないというのに、遠い遠い昔のように思えた。あのときと比べると、自分の境遇はなんと大きく変わったことだろう。
「そうです、ブラウンです。よくご存知ですね。なんでもアデル王からの直接指令で、何かの実験をするらしいのですが、私は詳細を聞かされていないのです」
「へぇ~、アデル王が直接ね。誰に聞けばわかるんだ?」
「そうですね。まずはブラウンですが、彼は故郷から知り合いが訪ねてきたとかで、今どこにいるのか……。それとエヴァンス指令官も聞いているはずですが、今はロクセットです。あとは、エヴァンス司令官が知っているのであれば、副官のディクソン様に話しているはずです」
「エヴァンス司令官にディクソン様、ね。わかった、ありがとう。今日はもう遅いから明日にするか」
「わかりました。では、お部屋まで案内しますね」




