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異世界救世主~憧れていただけのオレがチートで救世主!?~  作者: ヤギリユウキ


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19 新たなる一歩

 扉が破られた瞬間、三人は薄暗い地下室のような所にいた。さっきまでいた召喚の間と雰囲気は似ているが、部屋中に書かれていた魔方陣はなくなっているし、それに狭い。明らかに別の場所だった。

「何が起きた? ここは……」

「助かった、の?」

 ヴェルフとシアは、何が起こったか全くわからなかった。しかし、頭にクエスチョンマークを浮かべている二人を他所に、

「ふぅー、間に合ったわ」

 と、姫は一人で達成感に浸っていた。

「オイ、何をしたんだ? ここはどこなんだ?」

 ヴェルフは、一人訳知り顔の姫を問い詰めた。

「えっ? 転送魔法よ。それでここは……。シアが知っているはずよ」

 そう言って姫は、シアにパスした。

「ええっ、オレ? オレが知っている……」

 シアは困惑しながらも、キョロキョロと辺りをよく観察した。薄暗い地下、壁には頼りない灯り、そして部屋の端にはホコリの被ったドアが落ちている。それは間違いなく自分の家(じぶんち)のドアだった。

「あっ! オレが最初に召喚された場所だ!!」

 ここは、古い方の召喚の間だった。ここから全ての災禍がはじまった。シアにとって忘れがたき場所なのだが、あのときと違いがらんとしているので、忘れられた自宅のドアを見るまでわからなかったのだ。

「やっぱりそうなのね。シアがこっちに召喚されたって言ってたから、もしかして、と思っていたけど、やっぱりシアは一度、新しい方の召喚の間(あっちのへや)に召喚されてから、古い方の召喚の間(こっちのへや)に転送されたのよ。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 姫は、得意顔でとうとうと説明した。しかし、ヴェルフは無表情で姫に問うた。

「で、結局王城のどの辺なんだ?」

「どの辺なんだ?」

 姫は間髪入れず、そっくりそのままシアに丸投げした。

「オイ、なんでお前が──。ああーもういいや。シア、どうなんだ?」

 ヴェルフは、姫に文句を言おうとしたが、諦めてシアの方を見た。

「ここは闘技場の地下です」

「そういやそんなこと言ってたな。で、これからどうすんだ? アデルを脅して門を開けさせるか?」

 ヴェルフが姫の方を向いて、不敵に灰色の瞳を煌めかせた。が、姫は首を横に振った。

「ダメよ、騒ぎが大きくなりすぎた。今からだと全警備兵を相手しないといけないし、流石に時間がかかりすぎるわ。残念だけどこれ以上どうしようもないわね」

「やっぱり帰れない……」

 シアの頭は真っ白になり、顔はどんどん青ざめていった。異世界の門が閉じたときにわかっていたことだが、改めてハッキリと言われると、グサリと心臓を貫かれたような気がした。

「……今回はね」

 シアの表情かおがどんよりと落ち込んでいくのを見て、姫はため息まじりに付け加えた。シアは、バッと顔を上げた。

「今回って、まだ帰れるチャンスがあるの?」

「ええ、半年後にもう一度だけ、ね」

「半年……、もっと早くできないの?」

 再びどんよりと表情かおを曇らせて、シアは姫にすがりついた。しかし姫は、シアを冷たく振り払う。

「イヤよ。これはシアが来る前から決めていたことなの。それにこれが失敗すればわたしにはもうどうすることもできない。だから必勝を期すためにも計画通りにやる。その方がアナタのためにもなるはずよ」

 心に身を任せたせいで帰れなかったシアは、そう言われると弱かった。カバンを強く握りしめて、引き下がるしかなかった。

 そんなシアの肩をヴェルフがポンっと叩いた。

「俺はこれから獣人連合国に戻るんだが、早く帰りたいのならシアも一緒に来るか?」

「えっ?」

 シアは、驚いてヴェルフの顔を見た。

「俺たちは半年以内に王都ここまで攻め込むつもりだ。シアも一緒に真っ正面から王都ここに来て、アデルに頼めばいい。剣を突きつけてな」

 ヴェルフはそう言って、ニヤリと笑った。シアは、さらに驚いた。

「ええっ!? でも難攻不落のズートア要塞はどうするんですか? あそこを通るしかないんでしょう!?」

 シアの脳内にあのおぞましい戦場の光景がよみがえった。地上をうごめくおびただしい数のゴーレムに守られている、地獄の門のようなズートア要塞。ここカレルセ王国に入るには、この難攻不落のズートア要塞を通るしかない。あの二人にそう教えられ、そしてあの岩壁ナディエ・ディエを実際に見たとき、シアはそれが誇張ではないことを知ったのである。

「落とすさ。力ずくじゃあキビシイだろうが、こっちにも色々仕掛けがあるからな。俺がここにいるのがその証拠サ」

 ヴェルフは、実にあっさりと言った。

「それにズートア要塞から王都ここまでは、何個か街があるだけで砦や関所みたいな軍事施設は一個もなかったからな。ズートア要塞さえ落とせば、あとは簡単に王都も落とせる。……マギアの邪魔さえなければな」

 と、ヴェルフは姫を見た。それに倣ってシアも姫を見た。姫は、プイッと顔を背けた。

「そんな目で見たってムダよ。わたしみたいな小娘に指揮権なんてあるわけないじゃない」

「チッ、やっぱりか」

 姫は、そのままよそを向いたまま、呟いた。

「けど、マギア騎士団が国境を超えてこっちに来ることはないわ。邪魔するとしたら王直属の四天王だけね」

 四天王、その一言にシアは、心臓がギュっと締め付けられるような気がした。

「なぁ、前々から気になっていたんだが、なぜマギア騎士団は攻めてこない? カレルセと魔人帝国をいっぺんに片付けたヤツらなら、……俺たちも簡単に倒せるだろうに」

 ヴェルフは、苦々しく姫に聞いた。

「マギア騎士団は民を守るためにあるのよ。だから、決して侵略行為などしない。先の両国も攻めてきたから倒しただけ。だけど、どうしても異世界から救世主を喚びたかったち…ダイン王は、四天王を引き連れてカレルセを侵略した。そしてアデル王に迫った。カレルセの兵権を残してほしいなら異世界の門を召喚しろって」

 姫は、歴史でも語るように淡々と話した。だが、その拳は固く握られ震えていた。

「侵略した国の王に兵権を残すなんてありえねぇだろ!? なんでそこまでしてシアを呼び出した?」

 姫の顔が一瞬、暗く翳った。そして姫は、冷たく言った。

「それは……アナタたちが信じなかったことよ」

 ヴェルフは目を見張り、呟くように言った。

「……あぁ、そうかい」 

「あっ! それと()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。あまり民に被害を加えたらマギア騎士団が動くかも知れないわよ」

 姫はそう言って、ヴェルフをグッと睨んだ。だが、その顔は無邪気な少女のもので、先程の暗さや冷たさはなかった。

「なるほど、そういうことか。いいだろう、レオンに、獣人王にちゃんと釘を刺しておく」

 そこまで言って、ヴェルフはシアの方を向いた。

「で、シアはどうすんだ? そこまでして喚んだ救世主だ。マギアに行けば丁重にもてなされるだろう。姫の計画が成功すれば半年後に帰れる、らしい。それにもし姫の計画が失敗しても、ダイン王はアデルを殺してないんだ。役目が終わったらお前を元の世界に帰すつもりだろう。それが何時になるか知らんがな。獣人連合国ならうまくすれば数ヵ月で帰れる。が、こっちは常に戦場だ。うまくいく確率も高くなけりゃあ、安全も保証できないぞ」

「オレは……」

 シアは、そこから先を言えずに俯いた。二人は、何も言わずシアを待っていた。

 安全で確実だが時間のかかる道か、危険で不確実だが早い道……。シアの中では、最初から答えは決まっていた。約束を守るための道。だが、そちらを選ぶのには、それを口に出すのには少しの後押しが必要だった。『覚悟』ならとうに決めたはずなのに……。

 シアは、顔を上げた。二人の顔を見れば力が湧いてくるような気がして。しかし、二人はいなかった。

「えっ!?」

 シアは、一瞬ギョッとしたが、二人はすぐに見つかった。部屋の両端にいたのだ。姫は忘れられたドアを興味深そうに見ており、ヴェルフは灯りの下で何処からか持ってきた大きな袋の中をがさごそと探っていた。

 シアは、何だか可笑しくなった。悩んでいるのは自分だけで、選択肢を提示した二人とってはどちらを選ぼうがさほど興味もないただの選択肢。だからこそ、そこには期待も重圧もなかった。シアは、フッと肩が軽くなるのを感じた。それが彼らなりの優しさなのか、本当に興味がないのかわからないが、それでも、救われた気がした。

「オレも一緒に連れて行ってください」

 シアは、ヴェルフに向かって頭を下げていた。ヴェルフは袋から顔を上げると、真剣な顔つきで聞いた。

「言うまでもないが獣人連合にヒトはいないぞ。本当にいいのか?」

 言われて初めて、シアはそのことに気がついた。だが、何の問題もなかった。シアにとってはカレルセもマギアも獣人連合国も、異国以前に等しく異世界。そこに人がいようがいまいが大した問題ではなかった。

「はい。もちろん構いません」

 シアは、キッパリと言い切った。ヴェルフは、ニッと笑った。

「そうか、ならさっさとこの国から逃げるぞ」

「ありがとうございます」

 と、ヴェルフにお礼を言ってシアは振り返った。姫が近づいてくるのが背中でわかったから。

「そうね、その方がいいかもね。そっちが失敗しても、わたしは半年後に計画を遂行するわ。それと他に方法がないかも探してみるわね」

 姫には最初から最後まで世話になりっぱなしだ。いや、それよりも姫だけは最初から最後まで味方でいてくれた。それが何よりも嬉しかった、心強かった。

「姫様」

「うん?」

 姫は、軽く首をかしげ、シアを見た。

「何から何まで、本当にありが──」

 お礼を言おうとしたシアの口を、姫はぎゅむっと掴み、キッと睨んだ。

「だ、か、ら、君がわたしにお礼を言う必要はないの!」

「………………」

 シアは、驚きのあまり固まってしまった。目を真ん丸にして姫を見る。姫は、パッと手を放すと、軽く目を伏せた。

「それに、お礼をしなきゃいけないのはわたしの方よ……。さっきは助けてくれてありがと」

 彼女は顔を上げ、頬を赤らめ気恥ずかしそうに笑った。その笑顔に、シアは思わず息を呑んだ。頬が上気し、鼓動が早くなるのを感じた。

 

 一緒にはいられない。

 そう分かっているのに、それでも目を離せなかった。


「イチャイチャしてるとこ悪いが、そろそろ行くぞ」

 見つめ合う二人に、ヴェルフはからかうように言った。

「そんなじゃないですよ!!」

「そんなじゃないわ!!」

 二人は同時に叫んだ。にもかかわらず互いの言葉がちくりと胸に刺さった。

「いいねぇ~、その必死に否定する感じ。まさに青春だな」

「だから──」

 シアは、さらに否定しようと振り返り、ヴェルフを見て再び固まった。

「えっ……?」

 ヴェルフは人の悪い笑みを浮かべ、喉の奥でクククっと笑っていた。が、その顔は、その姿は人だった。いつの間にか、ヴェルフが牢屋で会ったときと同じ、『人』の姿になっていたのだ。

「あ? どうした? ああ、これか。『ヒトモード』じゃねぇと追いかけ回されるからな」

 シアがあんぐりと口を開けていると、ヴェルフは、大きな袋から白い無地のシャツブーツを取り出しながら、事も無げに言った。

 それはそれだろうが、そんなに簡単に姿を変えられるのか、と、シアは驚いていた。この世界の獣人は皆そうなのか、人狼だけなのか、ヴェルフさんだけなのか……、シアは問うべき言葉が見つからず、呆然としていた。すると、シアの背後から凛とした声が響いた。

「そうですわね。それに関しては本当に申しわけないですわ」

 シアは振り返り、またもや驚いた。

「え………………?」

 今度は姫が、ボロボロな甲冑姿から艶やかなドレス姿に変わっていたのだ。しかもその姿は、戦闘直後だと言うのに、絵本から飛び出したお姫様のように綺麗そのものだった。

「あら、どうかしました? ええ、兵士の格好で自室には帰れませんもの」

 姫は、静かに艶然と微笑んだ。服装が変わっただけのはずなのに、口調も雰囲気もガラリと変わり十は大人びて見える。

「オイ、アレ、オレより変わってんじゃねぇか。ホントに同一人物か?」

 ヴェルフは、戸惑っていた。初めて見る姫の『姫モード』に。

「……たぶん、オレもまだ自信ないです」

 姫は、二人の失礼な会話を無視して、ヴェルフに一枚の紙を差し出した。

「これをお持ちになって。ズートア要塞まで安全に行けますわ」

 くるくると筒状に丸められた紙。シアは、どこから出したのだろう、とぼんやり思ったが口には出さなかった。

 ヴェルフは、受け取った紙を早速広げ、目を落とした。

「これは……命令書? しかもダイン王の署名まで!?」

 それは命令書だった。ダイン王の署名の入った正式な命令書。

「ええ、侵入者二名を捕縛せよ、という緊急の命令書ですわ。署名はニセモノですけ──」

「侵入者って、オレたちじゃねぇのか!?」

 姫の説明を遮って、ヴェルフが叫んだ。しかし姫は、微笑をたたえてあっさりと認めた。

「ええ、そうですわ。それさえあれば、疑われずにズートア要塞行きの馬車に乗れますわ。まさか侵入者本人が捕縛命令書を持っているとは誰も思いませんもの。では、ご武運を」

 姫はそれだけ言うと、優雅にお辞儀してさっさと去って行ってしまった。

「………………」

 取り残された二人は、顔を見合わせた。

「俺たちも行くか」

 と、ヴェルフは大きな袋を担いだ。シアもカバンをしっかりと持った。

「とりあえず上に出るか」

「はい、上ならこっちです」



「うっ、眩しいぃ」

 二人が地上に出たときにはすでに夜が明けていた。どこまでも広がる真っ青な空に、どこまでも眩しい朝陽が燦々と降り注いでいる。当たり前だが、いつもと変わらない爽やかな朝。ただ夜通し動いていた二人にとっては、それが憎らしくもあった。

 シアは心も身体もボロボロだったが、それでも朝陽を浴びるとホッと一息つけた。ヴェルフは目を細め、空を見上げていた。すると、王城の方から兵士たちの怒鳴り声が聞こえてきた。

「絶対に逃がすな! 王城守護隊の威信にかけて見つけろ!!」

「広く探せ! 侵入者は人狼だ、パッと見でわかるはずだ!!」

 どうやら躍起になってヴェルフを探しているらしい。シアは、すぐに隠れる場所を探した。しかし、闘技場にそんな場所はなかった。

「へぇ~、ここが闘技場か。で、馬車はどっちだ?」

 当の本人は、探されていることなど全く気にしていなかった。闘技場の真ん中まで行き、ぐるりと囲む高い石壁を眺めていた。シアは、ヴェルフのそばに駆け寄り、小声で叫んだ。

「そんなことより隠れないと! 兵士たちが血眼でヴェルフさんを探してるんですから!!」

 シアは、一刻も早く逃げたいし、でも見つからないように隠れないとで、一人あたふたしていた。 

「大丈夫。ヤツらが探しているのは人狼で、俺たちはヒトだ。堂々としてないと逆に怪しまれるぞ」

 ヴェルフの言う通り、兵士たちは、『人狼』を探していて、『ヒト』は探していないようだった。

「うっ、たしかに……。でも、朝の闘技場なんかに人がいたら、どっちみち怪しくないですか?」

「まぁ……そうだな。さっさとここから出るか。出口はどっちだ?」

 ヴェルフは、ポリポリと頭をかいた。シアは、闘技場には詳しかった。自信満々で出口を指差した。

「闘技場の出口はあそこです。けど、出ると王城の目の前なんです!」

「そうか……。なら城の門はどっちだ?」

「え? それなら……」

 シアは、脳内で王城の地図を広げた。闘技場と城の庭と正門の位置を確認する。正門は庭の先だから……。そのまま指をスライドさせ、闘技場の石壁を指差した。

「だいたいあっちの方です」

「おお、そうか。じっとしとけよ、シア」

 ヴェルフはシアを小脇に抱えると、その場でグッと腰を落とし、バンっと飛び上がった。そして、シアが指差した高い石壁の縁に着地した。

「おお……! 流石は人狼!!」

 シアは目を見張った。

「これくらい『ヒトモード』でも朝飯前サ!」

 ヴェルフはニヤリと笑い、一気に観客席を飛び越え、闘技場の向こう側──王城の外へと飛び降りた。

「よし、王城から脱出したぞ。で、馬車乗り場はどっちだ?」

 ヴェルフは、シアを下ろしながら聞いた。シアはそこでハッとした。

「えっと、オレが馬車に乗ったの、城の正門のとこ、だったんですけど……」 

 シアは、ばつが悪そうに呟いた。

「俺たちは追われてんだぜ? 流石の姫サマも城の近くに馬車を用意しないだろ?」

「そう、ですよね」

 シアもすぐに同意する。だが、二人の脳内では、

「姫なんだから馬車は城で乗るに決まってるじゃない」

 と、当然のように言う姫の姿が容易に想像できた。

「……仕方ねぇ、誰かに聞くか」

 ヴェルフは、脳内の姫を見なかったことにして、一抹の不安も一緒にかき消していた。シアも、ヴェルフがそうしたことを正確に洞察し、脳内姫と別れた。

「……でも、こんな朝早くに人いますか?」

「ロクセットの有名な中央市場なら何時いつでも誰かいるだろ」

 ヴェルフはそう言って、シアを見た。その目は明らかに、「あの有名な中央市場の場所ならシアも知っているよな?」と言っていた。シアは、中央市場のことなら知っていた。初めての外へ出たとき、ブラウンの観光案内を受けながら馬車から眺めたのだから。しかし、

「…………わかんないです」

 シアは、申し訳なさそうに呟いた。あのときの衝撃を覚えているし、何なら中央市場の光景も目に焼き付いている。だが、そこまでの道となれば話は別だった。初めての異世界観光に興奮していたあのときのシアに、道順を覚えるなんて無理だった。

「は?」 

 ヴェルフは、怪訝な顔をした。一瞬『何がわかんない』のかわからなかったのだ。『誰かいるだろ』の返しにしてはおかしいし……。

「シアはこの世界に召喚されてからけっこう経つんだろ?」

「だいたい三ヶ月くらいだと思います……」

 ヴェルフは、驚愕した。

「それなのに中央市場も知らねぇのか!? お前くらいの年頃なら毎日街中遊び回って、三日もありゃ大通りから裏通りまで網羅するだろ!? したいだろ!?」

 今時そんなアグレッシブな子供はいない! と思ったが、自分がより稀有な子供だと自覚していたシアは、言えなかった。とりあえず、言い訳することにした。

「だってオレ、ずっと剣の訓練で、自分の部屋と闘技場の往復しかしてなかったんです」

「三ヶ月間ずっとか?」

「はい」

 ハッキリ答えたシアに、ヴェルフはあからさまに引いていた。

「え~。お前、変わってるなぁ~。まぁとにかく、ズートア要塞の方に行ってみるか」 

 二人は、とりあえずズートア要塞の方角──南へと歩き出した。

「すいません、ヴェルフさん。役に立たなくて」

 シアは、肩を落として、ヴェルフの後ろをとぼとぼと歩いた。

「オイ、シア、いい加減その『さん』、やめろ」

「え? でも……」

「でも、じゃねぇ。一緒に戦ったんだからもう仲間だ。次呼んだら、置いてくぞ」

「ハイ」

 シアは、嬉しそうに返事をした。初めて自分を認めてもらえた気がしていた。

 シアは、落とした肩を拾い上げ、ヴェルフの横に並んだ。


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