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悪役令嬢が主役の小説の世界の負けヒロインですが原作知識もちなので全力で逆ざまぁに抗いま……ちょ、何言ってんスか王子ィィ⁈

作者: 槙野
掲載日:2022/03/05




「まって、アルデラ? アルデラってあの小説の負けヒロインじゃん……!」


 私に記憶が戻ったのは五歳の誕生日。

 娼婦である母が亡くなり、男爵である父に引き取られてから丁度一年目の春のことだった。

 


 男爵令嬢アルデラ・ガーディアン。

 悪役令嬢ソレイユ・ポートナイトが主人公の小説、「悪役令嬢なんて許しません!」のキャラクター、頭悪い系の負けヒロインだ。

 

子供のいない男爵家に引き取られた私は、愛人の子でありながら幸いなことに男爵にも男爵夫人にも愛され甘やかされ蝶よ花よと溺愛されて生きてきた。そんなアルデラは十六歳の頃に王立スクード学園に入学しこの国の第一王子に一目惚れしてしまう。


 我が儘放題に育ったアルデラはその奔放さを悪い意味で活かし、同じく頭悪い系の王子と共に彼の婚約者であるソレイユ嬢を蔑ろにしこう、いろいろやらかして最終的には逆ざまぁされ王子は王位継承権剥奪、男爵家は不正を暴かれ取り潰し、そしてアルデラは極北の修道院に永久追放されてしまうのだ。

ちなみにソレイユ嬢は幼い頃から惹かれあっていた第二王子とゴールインして王妃になる。

 悪役令嬢ものあるあるである。


 よりによってそんな物語の負けヒロインに転生してしまうなんて、私は前世で何をやらかしたんだ!

 

 前世の記憶が戻り寝込むこと三日。

 知識があるなら回避すればいいじゃないというところに落ち着いた私は、善は急げと飛び起きて、私を溺愛する父と義母の元に向かった。

 

 

 

 

 あれから十年。

 今日は王立スクード学園への入学式の日である。私は入学式開始時間より少し遅れた時間に学園内を走っている。


「やーん、遅刻遅刻ぅ!」


 いや、このセリフはどうなんだ作者。

 そんな本心を隠して原作通りに動き、垣根を越えようとしてすっこけた私は原作通り通りかかった第一王子に助けて貰うことに成功した。ラッキーすけべ的接触に王子の頬は赤い。どの世界にも花の女子高生のパンチラに勝てる男はいないって話だ。


 サラサラの金の髪に深い緑色の瞳。この王子、騙されやすいテンプレなアホの子王子だけれど顔はとびきり良いんだ。

 王子様と無事接触できた私は、原作通り恥じらいつつ王子を振り切って逃げた。

 第一ミッションコンプリートである。

 

 さて、私がなぜ原作通り行動しているかを説明しよう。

 それはソレイユ嬢に私が転生者だと気がつかれないようにする為だ。原作通りに進むと私のゆく道は破滅ルートまっしぐら、なのだが、その辺は頑張っていじらせてもらった。


 今の私は頭の悪い負けヒロインのアルデラ・ガーディアンではない。王家直属の隠密組織を統べるガーディアン家の一人娘、工作員のアルデラである。

 私は王命で頭の悪い男爵令嬢を演じ、ハニトラを仕掛け王子とその側近、そして王子の婚約者であるソレイユ令嬢が正しく動けるかを調査している身なのでのである。


 がんばった、こうなるまで超頑張った。


 両親を説得し、原作知識でいくつか知っていたうちとは別の悪徳貴族の悪事を暴き、産みの母のツテを使い裏ギルドと結託して王の懐に入り込んだ。私自身も産みの母の兄である裏ギルド長に頼み込み、最低限の護身とある程度の暗殺や隠密業が出来るように鍛えてもらった。ここまで来れたのも叔父様と物分かりの良い両親、そして私の努力の賜物だ。

 私頑張った、超頑張った。えらい。ほめて!

 

 そんなこんなで王直属のハニトラ要員として、原作通りに王子を誘惑したりソレイユ嬢に頭の悪い喧嘩をふっかけたりと色々と暗躍していた。

 

 



 

 ハニトラ暗躍二年目の冬、それは訪れた。


「アルデラ、君は一体誰なんだ」


 いつも通り生徒会室で頭悪い女の子を演じ王子に寄り添っていた時のことだ。普段はデレデレとした王子が真剣な目で私を見ている。予想外の王子の目に、私は演技を忘れ反射的に彼と距離をとってしまった。

 しまった、本能でつい。


「その身のこなし、やはり君はただの男爵令嬢ではないな」


「っ、なんのことですぅ?」


「演技はしなくていい、俺の前で演じる必要はないんだ……」


「っ!」


 王子は寂しそうに目を細め私を見た。頭悪い系のテンプレな王子だと思っていたのにまさかの展開だ。


「……なぜ、気がついたのです。私の行動が演技だと」


「ははっ、やはりそうか……。気がつくさ。惚れた女の事だから、な」


 なんだと?


 予想外の言葉に私は唖然と王子を見る。どうやら王子はマジで私に惚れてしまったらしい。まぁね、ソレイユ嬢割と王子のこと蔑ろで見捨ててる感あるもんね。第二王子と距離ちっかいし。王子も頑張ってたんだよ! でもね、第二王子は頭脳派で、ソレイユ嬢とめちゃくちゃ馬があって……まぁ、さもありなんって話。

 そんな感じでいじけていたところに私という魔性の女が現れてしまった訳だ。そりゃ惚れるよねーって、そこまではわかる! わかるけど、ハニトラ演技を見抜いたのはなぜなんだって話。


「君のことが好きだから、君のことを見ていた。だから気がついた。君は俺を見ているようで見ていない。俺を超えた先を、もっと大きな何かを見て動いていた。違うか?」


 違わない。なるほど、本能か。彼の真っ直ぐな本能が私の目が見る先を見破ってしまったんだ。こいつは予想外だぜ。


 そしてやはりこの王子は真っ直ぐでいい男なんだと思った。熱の籠った一途な目に何度やられそうになったか。まぁ学生なので一線は越えませんけどね。腕組んだり事故ハグはしたけど。

 おバカなんじゃないんだよね、この子は単に脳筋で真っ直ぐ前しか見れないんだ。王向きの策士系じゃないの。そこが可愛いんだけど!


「……王子、私は」


「アルデラ」


「はっ!」


 って、反射的に王様にするみたいに家臣よろしく跪いてしまった! その動きで流石に察したらしい王子は、「父上か」とため息を吐いて寂しそうに微笑んだ。いやー! 私のためにそんな悲しそうな顔しないでほしい。笑って、笑っておくれ脳筋王子! 私は君の悪ガキ大将って感じの曇りのない笑顔が好きなんだ!


 私が動揺しつつ見上げると、目があった王子は自嘲気味に微笑んで、己の両頬を思いっきり叩いた。


「何やってるんですか王子ィ⁈」


 セルフ両頬ビンタに慌てて飛び上がり、仕込んでいた医療用冷湿布を王子の頬に貼り付ける。暗殺とか闇討ちしてるとね、打ち身とかよくあるから常備してあるのよ。腫れてくれるなよ顔のいい男の頬!


「気合いを入れた!」


「気、気合い?」


「そうだ! 決めたぞアルデラ、私は決めた!」


「いや決めたって何を」


「はははっ! 決めた決めた!」


「いやだから何を決めたんですがちょっと、ねぇ、王子⁈王子⁈」


「ふははっ! ふははははははっ!」


「いや王子目がこわ、って、周りにこんな奇行見られたらどうすんですかちょっと!」


「はははははは!」


 あわてる私とは対称的に、王子は吹っ切れたように笑い続けた。クッソ、王族はこれだから分けわらわかん!

 


 その日からも王子は変わることなく頭の悪い王子であり続けた。

 

 けれど、その視線が少しだけ、少しだけ緩んでいたことに私は見て見ぬ振りをすることしかできなかった。

 

 

 



 そして三年目の冬の終わり、今日は卒業式だ。


 原作通りならば婚約破棄を突きつけた王子と共に負けヒロインである私が逆ざまぁされる日でもある。実際ソレイユ嬢と第二王子はうちの男爵家の不正(仕込み)と王子と私の不貞(一部演技)を備えて構えている。


 そんな中、私は王子の腕に身体を預けて王様と王妃様の前に立つ。



「父上、この場を持って宣言させて貰いたい事がある!」


 相変わらず元気な王子だけれど、入学した時の初心でガキ大将な王子様ではなく美しい一人の青年だ。真っ直ぐで曇りのない彼が追放されてしまうのはかなしすぎるので、できるだけフォローしなければ。ソワソワしつつ王と王子の様子を伺う。


「言ってみよ」


 流石王、この茶番の中でも役者だ。


「今この場を持って、俺とソレイユ・ポートナイトの婚約を破棄させてもらう。そして──」


 王子は深く息を吸い込むと、原作通りの言葉を堂々と宣言する。


「そして、私、ラインハルト・スクードは王位継承権を返上させて頂く。今この時より、私は王太子ラインハルト・スクードではなく、ただ一人のラインハルトとなることを宣言する!」


「ちょ、何言ってんスか王子ィィイ!」


 思わず我を忘れて叫んでしまったのはしょうがないと思う。だって王位継承権放棄って、自ら平民になるって宣言するって、何言ってんのこの王子は! 原作と流れが違うんだけど?!


「ちょ、王子? 王子何言ってんスか? ちが、あの、違うんです王様! あの、王子今ちょっとテンパってて」


 王子の襟首を掴んで揺さぶった後、我にかえりなんとかフォローしようと王に向き直るが頭が真っ白で何も出てこない。人生でここまで動揺したのは初めてだ。


「なるほど、それが君の素か! 普段の演技も愛らしかったが、そちらの方がアルデラらしいな!」


「いやちょっと黙って王子! おち、落ち着いて、まだあわてる時間じゃない……いや、あの王様、あの、これには訳が……どんな訳があるんですかラインハルト王子!」


「やっと名前で呼んでくれたな」


「今そういうラブコメ的空気いらねーんで! ちょっと! 王位継承権放棄って何寝言言ってんスか! ねぇ、ちょ、くっそ手ぇ離して下さいよ! ちょ、跪くな手の甲にキスすんなやめろここでプロポーズすんなアンタはこの国の第一王子でこっちは汚れ役の男爵令嬢だぞコラァ!」


 淑女の礼とか気にしてられない。半分裏ギルドで育ったので演技モードじゃないと口悪いんだよ私は!


「という訳で父上、私はアルデラのところに嫁ごうと思う」


「いやアンタが嫁かよ! せめて娶れ!」


「良いのか?」


「いや良くないですけど!?」


 半ギレの私をしっかりと掴んだ王子、ことラインハルト様はとってもいい悪大将の笑顔で王に向き合った。


「この通り、俺はソレイユ嬢という婚約者のいる身でありながらこの国を守る影、アルデラに惚れてしまいました。その為王位継承権を放棄し、夫として彼女の家門に下ろうと思います」


「マジで何言ってんだアンタ」


「ちなみにお前の父上と母上、そして叔父上も了承済みだ」


「四面楚歌ァ!」


 呆気に取られる悪役令嬢とその周りの人々、小説のヒロインとその協力者に王が笑って事情を説明する。私がハニトラ要員として学園内の秩序を探っていたこと、彼女達が正しく動けるか観察していたこと、そして、そんな学園生活の中でラインハルト様が私に惚れ込み密かに王位継承権放棄だなんだの手続きを終えていたことを。


「くっそ! 王までグルだなんて……このアルデラ一生の不覚っ!」


 ギギギ、と手袋を噛んで唸る私にラインハルト様が笑う。


「諦めろ。お前も私に惚れているんだろ?」


「なっ、何を根拠に」


「惚れた女のことだ、目を見ればわかる」


 悪大将の笑みではなく、王子様のように優しく微笑んだラインハルトにキスをされ、私は反射で思いっきり頭突きをしてしまった。


 昏倒した王子の足を持って引き摺りながら退散する私を、ヒロインとその取り巻きが宇宙猫顔で見送るのを見ないふりして全力で逃げる。

 

 知らない知らない、もう知らない! なんなんだこれ、なんなんだこれ! 訳わかんない! わけわかんないくけどくそ、やっぱり好きだ。


「ラインハルト様のバーカ! 大好き!」


 こうして三年、いや、十数年にわたる私の暗躍は、悲しい悲しい負け犬の遠吠えを背に幕を閉じたのだった。







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[気になる点] 婚約者の王子を蔑ろしていた、第二王子に擦り寄っていたソレイユ嬢に対しての罰はないのかな? [一言] 面白かったです。
[気になる点] 悪役令嬢モノの「ざまぁされるヒロイン」は負けヒロインとは違いますよ。 負けヒロインっていうのは「主人公に真剣に想いを寄せる複数の女性のうち、主人公に選ばれなかった方」を指しますから 悪…
[良い点] アルデラよ、隠密の者だと暴露された以上、 もうハニトラ要員としては使い物にならん 観念してこれからは… ラインハルトと思う存分イチャついて可愛い孫を しこたまこさえて、ワシらに猫可愛がり…
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