表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

四つ子姉妹の愛が重すぎる

作者: 笹 塔五郎

 私――百合越愛衣ゆりこしあいには四人の姉がいる。

 それも、私より二つ上の四つ子だ。

 私だけ二つ下というのは少し、疎外感――があるかと思ったのだけれど、残念ながら、私にはそれはない。理由は実に、単純だ。


「改めて入学、おめでとうございます。制服似合っていますよ」

「ありがと、美春お姉ちゃん」


 晴れて高校に入学してから数日、高校三年になる姉の美春みはるに廊下で遭遇した。

 長い黒髪を後ろに束ねて、眼鏡をかけている。

 姉は全員同じく高三のはずなのに、少し大人びて見えるのは長女だからなのか、それとも見た目の雰囲気からなのか。

 美春は高校で風紀委員長を務めているらしい。確かに、彼女にはピッタリの役職だ。


「いいですか。身なりというのは、その人の性格を体現するものです。常日頃から、制服の乱れもないようにするのですよ」

「うん、気を付けるよっ」


 妹の私に対しても敬語だけれど、しっかりと私のことを心配してくれているのが伝わってくる――頼れる姉だ。


「ですが――私と二人きりの時なら、制服を着崩してもいいのですよ?」

「いや、しっかり真面目に着るよ……?」

「……そう、ですか」


 ちらりと、鋭い視線が私に対して向けられる。

 ――そう、長女の美春は、風紀委員を務めているというのに、私に対しては風紀を乱すような発言をしてくる。そこが唯一の欠点だった。


「よう、愛衣。学校には慣れたか?」


 美春と別れたあと、今度は次女の小夏こなつに出会った。

 ドンッ、と壁際に手を当てて、私のことを追い詰めるようにしながら尋ねてくるのは彼女らしい――そう、いわゆるヤンキーという奴だ。

 唯一、髪を金色に染めている彼女は、口調も荒く喧嘩っ早い。

 小学校の頃には、他校の生徒と喧嘩をして、一人最後まで立っていた――そんな話があるほどだった。

 さすがに、高校になると喧嘩は停学の対象になるから、と自重しているらしい。

 私も、その方がいいと思っている。


「うん、まだ通って数日だけどね」

「そうだったな。でも、困ったことがあったらいつでもあたしに相談しろよ?」

「もちろん、小夏お姉ちゃんのことは頼りにしてるよ!」

「……へへっ、そうか。他の奴らは頼りないからな。もし、お前をいじめるような奴がいたら――あたしがぶち殺してやるから安心しな」

「いや、それはさすがに物騒だよ……?」


 やっぱり口は悪いし、どうにも過保護なところが欠点だった。

 小夏と別れたあと、私は窓から三女――秋音あきねが中庭のベンチで眠っているのを確認して、そちらへ向かった。


「秋音お姉ちゃん! こんなところでも寝てるの?」

「んー? あ、愛衣だ。こっちきてー」


 目を覚ますと早々に、秋音は身体を起こして手招きをした。

 だが、私は警戒するようにして、距離を取る。


「どうして来ないの?」

「いや、もしかして学校内でも私のこと、抱き枕にするつもりなんじゃ……?」

「ええ、何で分かったの?」

「いや、さすがに学校内では恥ずかしいって……」


 秋音はいわゆるサボり魔で、家でも学校でもそれは変わらないようだった。

 しかも、彼女は家で私のことをよく、抱き枕にしている。

 私を抱いていると、落ち着いて眠ることができる、とか。

 まあ、私もお昼寝は嫌いじゃないけれど、毎日抱き枕にされるのはちょっとつらい。


「授業はサボらないでよ?」

「んー、考えとく」

「全く……」


 他の姉二人に比べると、彼女はどうにも心配だ。

 やる気が感じられないし、実際にやる気を出しているところは見たことがない。

 見た目的には、真面目な風紀委員の美春と同じなのに。態度や髪型だけでこうも変わってくるものなのか。

 ――心配と言えば、私にはもう一人、姉がいる。四女の冬香とうかだ。

 彼女は家でも無口だし、学校ではどんな感じなのか……正直、気になっていた。

 よく図書室にいると聞いていたので、顔を出してみる。


「――それでね、一年生にボクの妹がいるの。見た目はまあ、ボクを少し幼くした感じかな? あ、別に自分が好きとかじゃないんだよ。他の姉妹は普通だけど、とにかく妹が可愛くて仕方ないんだ。写真見る? あ、見ないとかはなしね。ほら、この寝顔とか……あ、でも寝顔はやっぱり他人に見せたくはないから、やめとこう。うーん、どれにしよう……ちょっと妹フォルダがいっぱいあるから時間がかかるんだよね」

「冬香って、妹の話になるとめっちゃ饒舌だよね……? ここ、図書室だし少し静かにした方がいいって」

「一理ある。でも、僕は図書委員だから、ここにいるだけ。それよりもこの前、妹が――」


 ソッと、私は図書室の扉を閉じた。


「冬香お姉ちゃん、コンビニ行くけど何かいる?」

「別に、大丈夫」

「そっか。じゃあ、行ってくるね」

「……」


 普段の冬香は、こんな感じだ。

 明らかに、私と話す時とは違う熱量で、思わず「嫌われてる……?」って勘違いしそうになったけど、さっきの話を思い返すと、私の話を物凄く饒舌に話していた。

 正直、かなり恥ずかしい。家に帰ったら、ちょっと注意しよう。


 ――というわけで、これが私の四つ子の姉達だ。

 それぞれが私のことをしっかり見てくれていて、気にかけてくれている。

 だから、私は幸せ者なのだ。一人だけ歳が離れていても、全然気になることなんてない。

 でも、実は心配なことがもう一つだけあって……。


「小夏、学校でのあの態度はなんですか。愛衣の教育に悪いでしょう?」

「ああ? 愛衣のこと、色目使って見てる奴がいたから、ちょっと威嚇しただけだろうが」

「! それはいけませんね……。私以外、色目を使っていいはずがないです」

「お前のこと言ってるんだよ、あたしは。てか、秋音は学校で愛衣に抱き着くの、やめろよ。お前毎日、一時間は愛衣のこと抱っこしてるだろ」

「抱っこじゃなくて、抱き枕にしてるの。とても気持ちがいいから……」

「うらやま――じゃなくて、愛衣が迷惑するだろうがっ!」

「そんなことないよー。それを言ったら、冬香の方が愛衣の話を学校で広めて、迷惑だと思う」

「……」

「なんか喋れよ!」

「愛衣が可愛いから、ボクはそれを広めているだけだよ」

「それは同意します」

「まあ、そうだな。世界で一番可愛い妹だからな」

「うん、ずっと抱っこしたい」

「愛衣の話だけして生きていたい……」

「――いや、全員ちょっと離れてくれない……?」


 家の中だと、四人がそれぞれ私の話しかしないし、今日に限ってはめちゃくちゃ距離感が近い。高校に入ってからはこんな感じだ。

 ――四つ子の姉の愛が重すぎる。

四つ子の姉が全員、妹のことが好きすぎる百合ハーレムのお話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ