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7. 一人でも文殊の知恵は出るが定かでは無いらしい。

足音が段々近づいてきた。コツ、コツという規則正しい音から、一人であることがわかる。


 「ん?なんでこんなとこにいるんだ?もしや生きてたか…おい!起きろ!」


 そういって腹を蹴られ乱暴に起こされた。


 「ぐっ!」


 突然の痛みに嗚咽が漏れる。

 酷くないか?いくら無下に扱っていいからってそれは無いだろ…こんな汚い床に突っ伏しながら結構待ったのに。

 

 

 なんにせよ作戦成功だ。喜ばしいことに。


 ただ、死体として認識された人間が自分から動いていることに何かしら警戒されたのか、手枷に加えさらに鉄のお守りがついた足枷をつけられた。


 とはいっても、これも外そうと思えば外せるので無いのと同じだろう。


 重い足枷を引きずりながら元居た牢屋へと戻る。

 歩くたびに鈍い音が鳴り、その重さで金具が足に食い込み、鋭い痛みを感じる。

 

 その痛みから解放される代わりに牢屋に放り込まれた。

 そうすると、先程謝罪した金髪の少女が話しかけてきた。


 「あれ、キミ死んでいなかったのかい?血を吹き出していたからてっきり死んでいたと思っていたのだが。」


 血が出たこめかみの部分を触られた。

 少しズキっとした痛みを感じ、まだ完全には治っていないのだとわかった。


 「痛っ!」


「おっと、すまない。」


 それにしても、この少女は同じ年齢に見えない。目下の人間に話しかけるような口調だったり、こんな状況下でも冷静であったり…

 

 人が目の前で死んだというのにさも当然かというような反応。さらに死んだはずの人間がまた戻ってきたことにも何の疑念も持っていなそうだ。

 

 実際、周りの人間は訝しげに俺を見ている。


 この不自然さにうんうんと唸る俺に彼女は興味を持ったのか、さらに自己紹介を続けた。


 「私の名前はクラリス。キミは?」


「ダニール。ていうか俺はさっき倒れたのになんでそんなに平気そうなんだよ」


「まあ確かに多少驚きはしたが、驚くことに脈はあったからね。キミが何をしたかは全くわからなかったが、死ななかったのは奇跡だね。」


 精々4、5歳の子供が脈とかいう単語を知っていることに驚く。その存在を知っているならもっとオーバーにびっくりしても良いはずなのだが…


でも、これで不死であることはほぼ確定した。頭を撃ち抜いたにも関わらず脈は止まらずそのまま動いていたらしい。


 そうやってクラリスと話していると、訝しげに俺を見ていた人間の一人がこちらへ来た。


 目を輝かせていて好奇心の強そうな、クラリスに対しこの年の子どもらしい子ども、という印象だ。

 

 「お前アレなにしたんだよ!どんな恩恵(ギフト)なんだ?俺はシグ。よろしくな!」


 少年が活発な声で話しかけてきた。黒髪でツンツンしていて、ザ・わんぱく少年みたいな感じだ。それにしても、


恩恵(ギフト)ってなんだ?」


「お前保持者(ホルダー)なのにそんなのも知らないのか?お前が手からなんか出して枷壊したりしたじゃねぇか!アレだよアレ!」


どうやら保持者の能力のことを恩恵(ギフト)と言うらしい。この世界の宗教観なのだろうか。神からの授かり物として看做されるらしい。


 もっとも俺は恩恵など受け取っておらず、罰を満喫している真っ最中なのだが。


 「おいガキ!うるせぇぞ!」


 見張りが牢屋の格子を蹴った。こえぇ〜…

 突然の忠告が暴力的であったためか、クラリスを除いた子どもはビクッと体を震わせ、俺たちが会話していたことで少しだけ開いていた心が閉ざされる音が聞こえるようだった。


 もちろんシグ俺も例外に漏れなかったが、シグはすぐに大人しくなったかと思うと小声で自分に話しかけてきた。 


 「保持者(ホルダー)であるお前に頼みがあるんだけどさ、俺と一緒に脱出しないか?」


絶句である。いやまあ、抜け出したいという考え自体は自然だとは思うがまさか脱出とは…


 「バカ、絶対やめた方がいいぞ。失敗したら殺される」


「大丈夫だ。俺は強いしお前の恩恵も見たところ強い。物を手から出して触れるだけで倒せるんだからな。」


この世界にはやはりというか、銃というものは無いらしい。

 さっきは銃をゼロ距離で使ったから触れるだけで殺せるというように見えたのだろうか。


 「少なくとも作戦は考えた方がいい。考え無しに行動して失敗したんじゃ一巻の終わりだ。」


シグは口に手を当て考える人のポーズで熟考している。

 まさか考えていなかったのか。策も無しで大人相手に立ち向かうのは無理だろう。

 

 俺の前の世界では、最初に殴られた時抵抗しようとした。だが、それは数の暴力によって鎮圧されてしまった。

 力なき者が策を講じなければ力を持つものに勝てるはずがない。


 もっとも、あの時は大人vs子供ではなく同い年相手だったのでこんな講釈をしてもただ俺が無様なだけなのだが。


 シグが唸っていると、クラリスがニヤリと笑いこう言った。


 「大丈夫。私たちは救出されるからね。」


 「は?何を言ってるんだ?」


 現実逃避なのだろうか?子供だからこの現実を受け入れられないのはしょうがない…


と普通の子供に対しては思ったところだが。


 目の前で倒れた人間を見てもケロっとしていたり誘拐されよくわからんところに閉じ込められても冷静な子供が普通であるはずがない。


 頭がイカれてしまったといえばそれまでだが、もっと明確な、何かの"根拠"を持っている。


 そういう目をしていた。


「なんで助けに来ると思うんだ?」


「んー、それはだね〜…ナイショさ」


俺と同じ年齢(中身の年齢は違うが)なのに、妙に理知的な感じだ。

 全てを見透かすような…少しヒヤッとする。


 「…!そろそろみたいだよ、ダニール、シグ」


 シグはうんうんと唸っていたが、その言葉を聞くとすぐに顔を上げた。

 牢屋の目の前には、見張りがいた。


 シグの顔が引き攣る。

 

 「おい、俺らこれから何されるんだよ…」


 こちらに近寄ってくる見張りは明らかにこちらになんらかのアクションを起こそうとしている。


 「これから外に出て移動する!ついて来い!」


 一々怒鳴るなよ、と思う。

 前世の記憶が蘇る。暴力を受けることも辛かったが、言葉の暴力もまた精神的にくるものだ。


 はっきり言って、トラウマだ。フラッシュバックして足がすくんだ。


 それにだ。


 本当に助けは来るのか?

 よくあるパターンならば今の時点でバッタバッタと薙ぎ倒し光り輝く救世主が来るものなのだが。


 一抹の不安を抱きながら、どこへ行くかもわからない馬車に乗せられた。


 

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