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6. 生々しい人の感触だし、罪と罰の比率はどうやら等しいらしい。

 

 意識がある。


 失敗…か。


 今は目を閉じて、ただ横になっている。


 横たえている地面の感触や、匂いである程度場所がわかってしまうのが悔しいし、なんというか非常に動揺している。


 俺が歩いた硬い乾いた土とは違う、若干の柔らかさを持った地面。手でまさぐってみると、俺が体全体で感じている柔らかさや、あるいは硬い棒や球体のようなものや、手を突っ込むと「ヌチャ」といった音が鳴り手に微かな温もりの感触。


 嗅いでみた。腐ったモノの臭いだと思う。生理的に無理な臭いだ。


 というより、この腐ったモノの臭いが絶え間なく俺の鼻を襲っている。


 もうわかっているが、目を開けたくない。ショッキングすぎて後悔するからだ。


 

 なぜなら、人体らしきものの上に自分がいるからである。


 

 自分が置かれた場所に憂鬱になりながらも、わかったことが一つある。


 どうやら俺は死なないようだ。1回目と同じようにこめかみを撃ち抜いた。本来は死ぬはずだが、一旦意識は無くすものの死ぬ前はおぼろげながら残っており、そこから消失していくようだ。


 だが正直、罰としか言いようがない。


 俺はさっさと死んでどこかへ行きたいのだ。


 もしや、前の世界で死んで逃げた罪に対する罰なのだろうか。死ぬことを規制することで、苦しみを与えようとしているのか。

 

 

 そもそも、仮に不死だとしたら。

 これは、いわゆるチート能力として判定されるのかもしれない。

 だが、俺はそう思わない理由がある。死にたいのに死ねないというのは先述した。

 

 

 突然だが、前世では不死についてネットでよく議論されていたのを覚えている。


 特に印象的だったのは、「不死だからといって永遠に快適に生きられるわけではない」という論である。


 死なないということはマグマに落とされても死なないし、内臓をぐちゃぐちゃに掻き回されても死ぬことは出来ない。


 そういった激しい損傷で味わうのは死ではなく痛みである。


 目がなくても意識はあるし、指だけでも生き続けるかもしれない。


 火葬されても骨の状態で意識があるかもしれないし、自分の体の部分が一つとして無かろうと意識だけはある。


 不死を望む人間、たとえば某サイヤ人はそんな願いを龍に叶えさせようとしたが、ああいう議論を見てから、恵まれたチート能力ではなく罰なのだと俺は思っている。


 そういった惨い状態すらも受け入れるのが不死であると考えると、今の状況はかなり不味いのではないか、と思ったが。


 こめかみを触ってみると、どうやら治っているようだ。

 治癒能力が異常に高いのだろうか。とりあえず自分の恐れた事態は免れているようだ。


 死ぬ前に希望していた別の世界へ行くということは無かったことになる。

 だがしかし、俺は意識を失った。と思われる。

 あの時の自分は頭から血が出ているし恐らく脈もなかっただろうからきっと死体として認識されたはずだ。

 だからこんな場所に送られたのだ。おそらく…死体安置所。──といえば聞こえはいいが、死体ゴミ箱だ。


 ここに誘拐されてきた子供は何人といるだろうが、必ずしも全員健康体とはいかないだろう。


 病気にかかったり、騒ぎすぎて殺されてしまったり。 

 

 そういう人間が行く場所はもちろん墓などではない。丁重に葬るだけ邪魔だから適当に置いておけということだ。そこには死者の尊厳などはなく、ペットボトルが空になったから捨てるだけ、死んだから捨てるだけなのだ。


 

 こんなに冷静に語ってはいるが、腐臭がマジでやばい。今にもここから抜け出したいが、俺は死体なんかみたくない。

 轢き殺された猫ですらかなりグロッキーになるのに死体が何個もあるとなるとそれを見ただけで死んでしまうかもしれない。


 いや、死なないのだが。

 まあ特定の条件下でのみ蘇るとか、某マ○オみたく残機制であるという可能性も捨て切れないが、死ねればラッキー程度に思おう。


 

 …なんかいつ死んでもいいってなると気が楽になってきた。無敵の人の気持ちってこんな感じなんだろうな…


まあ往生してても始まらない。意を決して目を開いてみた。すると…


 子供の死体が山積みで、俺はその頂点にいた。


 まだ新しそうなものから、鼠や蝿に食われたのか一部白骨化したものまで様々だった。

 自分の手を見てみると、酸化して茶色になった血液と、小さい肉片が爪の中に詰まっていた。


 吐いた。



---


 

  とりあえずこの先どうするか。

 

 考えられる手は2つだ。

 

 一つ。このまま脱出、つまり強行突破だ。しかし、この方法は得策ではない。

 奴隷を管理する為に何人かは見張りがいるだろうし、隠れながら脱出するということは出来ない。

 だからといって、人をそのまま俺の能力を持って葬るのも無理だ。今の体で銃を扱い殺すことは不可能だし、人を殺すという行為は慣れない。

 

 殺したことあるのは今のところ自分しか無いというのは皮肉だが、そういったことに縁の無い人生を送ってきていて人殺しに免疫など1mmも無いからしょうがない。

 よってこの案は最終手段。


 もう一つは実は生きてました作戦。

 死体を安置している場所は牢屋と同じフロアらしい。耳を澄ますと見張りの声が聞こえる。牢屋密集したエリアの先にあるのだろうか。牢屋に入る前にチラッと見た。

 

 というか地下に死体を置くなんて衛生的にアウトだと思うのだが、それをセーフにするものがありそうだ。部屋に目立つ大きい物体がある。

 恐らく死体焼却用の炉だろう。起きる時間が少し遅ければ自分はこの中に入れられていたのかと思うとゾッとする。

 

 そしてこの部屋、見張りのいる位置からめちゃくちゃ近いというわけでは無いが、決して遠い訳ではない。

 

 部屋の扉を少しだけ開け外を覗くと、右手は行き止まり。左手は廊下で、その先のスペースには牢屋が見えた。

 

 この廊下にはここ以外の部屋がなく、見張りの部屋は牢屋のあるスペースの奥の廊下。

 俺たちが地下に入った階段あたりに見張りの部屋があることが予想される。


 そこでこの実は生きてました作戦。


 今から静かに廊下に出て、横たわる。見張りが気づいたら俺は起き上がればいい。


 「ああ、俺らが間違ってこっちに入れちゃったんだな。実は生きてたのか。」


こう思わせれば俺の勝ちだ。おかしいとは思うだろうが、息のある奴もいるっちゃいるだろう。おかしい点については気づかないでくれ。


 俺は廊下に静かに出て、汚い床に伏せた。


 でも普通に嫌だから早く気づいてくれ。




 

 

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