4. 誘拐されたし、奴隷になる黄金パターンに入ったらしい。
さて、目覚めると馬車だった訳だが。
子供を送迎する車…というわけではないだろう。
車内には椅子が無くそのまま床に座らなければいけないので乗り心地は最悪、
人同士の密度は高く出入り口の近くには武装した男が二人。
目をギョロギョロとさせ、俺らを保護しようなんて気がなさそうな所を見ると、護衛…というわけでもなさそうだ。
これらから予想されることは一つ。
誘拐された。
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誘拐された他の少年少女らを見てみると、どうにもやつれていたり、痣が出来ていたり血が出ていたりする。
俺は途中で目覚めたからよく分からないが、まあ"理解らされた"のだろう。
こういう状況になれば大人ですらパニクるだろうから、子供ともなればその倍は騒ぐ。
大方、黙らせる為に殴られたって所か。
こういう時は圧倒的な力を見せつけ反抗できないようにするのが一番手っ取り早いだろうし、なんだか手慣れている様子だ。
全員解放しよう…とは思うが無理だろう。前世由来の17年分の知恵があっても力が無いし、
万が一この誘拐犯を倒せたとしても道がわからず路頭に迷い魔物のエサ、なんてこともあり得る。
ここは大人しくどこかへ到着するまで待とう。
到着する間、あの出来事について考える。
なぜ俺たち家族の家へ襲撃が来たのか。
特に気になるのは、"なぜ俺の手から銃が出てきたのか。"
襲撃に関しては、ディエゴに恨みを持った盗賊あたりだろう。
あいつはそこそこ地位もあって殺すことが出来ればラッキーだろうし、その子供を誘拐することが出来たならば尚更そうだろう。
まあ、俺含む誘拐された子供は奴隷にされる目的か、それ以外かの子供で、計画的に人攫いをして金でも得ようってところか。
何にせよ、状況を打開する対策を考える必要がある。
個人的に気になるのは、何故銃が出てきたのか。
元から持っていた訳ではあるまいし、あの家に銃が置いてあることが日常茶飯事…という訳ではないはずだ。銃が普及しているとしたら百歩譲っていいだろう。しかしこの世界に前世のディテールをした銃があることはおかしい。
銃を召喚した、あるいは銃を生成した。
そうであれ。
俺は異世界へ転生したのだから、なんかそういう特殊なスキルとかあってもいいはずだ。
銃のイメージを強く持ち、手に出そうと念じる。脳の中でひたすらにイメージし、あの感触を思い出す。
すると、意外にすんなり出てきた。もっと苦戦するつもりだったのだが。
出したのは日本のおまわりさんが持っている事でお馴染みニューナンブ。
撃てるか確認したいが周りに人がいるし、目立つのは得策じゃない。出たということにだけ満足しておくべきか。
それにしても、クソほど重い。
子供の手には余るレベルの重さだし、そもそも筋力も育っておらず反動も受け止められない。あの時照準を合わせても当てられないのも納得出来る。だから銃を使うのは最後の手段にしたいし、もし使うのであれば実用レベルの銃を使いたい。
ニューナンブは手元からいつのまにか消えていた。時間経過で消えるのは便利というべきか不便というべきか…時間をもっと伸ばせないか試してみよう。
とりあえず、自分の記憶の中で最も小さい銃を生成する練習でもして備えておこう。
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馬車が止まった。
と、いうことは。
「おい、早く降りろガキ共!」
盗賊の方々がお呼びなので、早々に馬車から降りる。
「おい待て。そこの保持者はこっち来い」
なんだかよく分からん奴が呼ばれている。助けてやりたいのは山々だが俺も打開策を練らねばならない。
すまないがさらばだ。
「おい!お前のことだぞ!」
いや、俺かい。
というか、保持者って一体なんなんだ?
そんな厨二臭い名前だった覚えは無いんだが…
まあそんなことで駄々を捏ねててもブン殴られるだけだろうからさっさと向かおう。
「そこで跪いて手を後ろに回せ。」
あ、これもしかして乱暴されるやつか…と思ったら手錠をはめられた。
他の奴らは何もされてないのになんで俺だけなんだよ!!…まあ大人しく連行されてやろうじゃないか。
いざとなれば手錠は撃って破壊出来るんだし。
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着いた場所は一面の草原のど真ん中だ。
目の前にぽつんと石レンガ造の平屋が建っている。
結構でかいな…
しかし、苔むしていたり壊れている部分があっていかにも「年代物です!」って感じだ。こんな小さい建物に俺たちを敷き詰めるのか…
中に連れられると、部屋の中には何もなかった。代わりに、地下へと続いている階段がある。あの中だろう。
階段を降りると、そりゃもう沢山の牢屋があった。
上の建物からは想像もつかないような大きさのスペースだ。
どうやら予想はおおよそ当たっていたらしく、奴隷の保管場所らしい。
だからこんな何も無い場所に作っているのだろう。助けが来る望みは薄そうだ。
不思議と絶望感や焦りは無いが、どうしたもんか…
まあ、こうして俺の奴隷生活は始まった。






