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3. 人どころか神に嫌われているし、幸せになれないらしい。

 目が覚めると、馬車の中だった。

 中には自分と同じか、あるいは年上くらいの少年少女がたくさんいる。


 

 どうしてこうなったか?事の顛末を説明しよう。



---


 

 異世界で幸せなスローライフが送れると思ったあの日、簡潔に言えば…


 

 盗賊の襲撃があった。


 

 なぜ襲撃されたのか?


 ディエゴが所属するノヴァク騎士団は、主に国土の守護が任務である。

 ディエゴはノヴァク王国でも一番小さいが貿易が盛んなエルデガルト領の守護隊長で、貿易品を狙おうと増加する盗賊の撃退にあたっていた。


 盗賊の撃退自体は順調に進んだが、業を煮やした盗賊側が上位の指揮系統を壊そうと画策。

 結果どうなったか。というのが事の顛末だ。


 

 馬車に乗っているとき、盗賊のやつらがデカイ声で会話していた。

 こいつら、子供だからって油断しすぎだろ。だからしょっぴかれるんだよ、と意味のない悪態を心の中でついてみる。



---


 

 さあ幸せは確定した事だし寝るか!と思っていたら、何やら外から物音が聞こえる。


 猫や犬ならまだ良いのだが…まあ明らかに違うだろう。


 

 テンポの早い、それでいてある程度の重さを持った足音。



 人だ。明らかにこちらを狙っている。

 音が近くなったり遠くなったりしているのを聞くところ、家の周りを、グルグルと回っているらしい。

 


 これはまずい。


 2人が寝ている寝室へ入り、二人を起こした。


 「お父様、お母様、大変です!誰か外にいます!」


 2人は寝ぼけ目を擦りながら起きたが、


「何いってるんだダニール、外に人くらいいるだろう。別に襲われやしないんだから安心して寝なさい。」


「いや、家の周りをうろついてます!」


「ダニール、外から何か音が聞こえるのが怖いの?しょうかないわね…こっちに来なさい。一緒に寝ましょう。」


「お父様!お母様!」

 

 クソッ。寝ぼけてるからか平和ボケしてるからかわかってねえのかこいつら。


 そんな会話をしている内に、下のドアが開いた音がした。


 「…!アシュレイ、ダニール!他の部屋に隠れろ!」


 さすがに気づいたか。

 

 割と冷静に報告できたものの、かなりドキドキしている。


 

 安全な国日本では、在宅中に空き巣に入られる事は基本無いし、寝込みを襲う輩だってそうそういない。


 

 しかし俺たちは今、明確な悪意を持った奴らと対峙している。


 日本のぬるま湯に浸かっていた俺は、異世界のハードさとのキャップに冷や汗が止まらない。

 


 ディエゴは剣を持って廊下へ出て、俺とアシュレイは俺の部屋へ隠れ息を潜める。


 するとアシュレイが、


 「いい?ダニール。絶対にここから出てはダメよ。」


俺は無言でぶんぶんと頷いた。死にたくはないし、ディエゴは実力者だから何とかするだろう。だが。


 足音からするに、輩は複数いる。2人か、3人か。一対複数、そして狭い戦闘スペース。

 いくら騎士であるディエゴでも厳しいだろう。


 

 戦闘慣れしている人間が相手なら尚更だ。

 

 

 しかし、魔術を使えるアシュレイが後方で支援した方が積極的に動かず敵を倒せるので、相対的にリスクは下がる。


 そう俺が結論づけた時には、もうアシュレイは部屋を出ていた。


 やはり昔冒険者をしていた頃の勘からか、俺よりも早くその結論に達していた様だ。


 

 俺はまだ剣術もできなければ魔術もできない。ならば引っ込んでいるのが得策だろう。


 少しすると、激しい戦いの音が聞こえてきた。


 剣で撃ち合っている音や、何やら言い合ったりしている音。


 と、思ったら一人が大きな叫び声を上げた。おそらく輩の一人がやられたのか。


 と思うと、女の声。


 アシュレイの魔術詠唱だろうか。また少しすると断末魔が上がった。


 こんな冷静に実況しているが、足が死ぬほど震えている。


 思えば、こんなに近くで真剣な命のやり取りをしている所に遭遇した事はない。


 生きるか死ぬか。その瀬戸際に両親が立っていることに戦慄する。


 「ダニール!出てきていいぞ!」


 ディエゴの声だ。さすが守護隊長。


 「お父様!お母様!」


 ドアを開けた次の瞬間。


「---え?」


ディエゴに斬られたであろう人間が、ディエゴを棍棒の様な物で殴り倒したらしい。


 ディエゴは、倒れていた。


「あなた!」


「へへ…もう俺は助からねぇ…だけどな、せめてお前らだけでも道連れにしてやるよ!」


 そいつの傍には、小瓶が落ちていた。その瓶は既に空だった。

 扉の向こうから音が聞こえるほどの斬撃を受け、その斬撃を致命傷であるところに受けてなお立っているのをみると、あれはおそらく痛覚を紛らわせる危ないおくすり系の物なのだろう、と予測される。



 ああ、俺は幸せには生きられないらしい。


 

 頼みの綱であったアシュレイも、夫がやられて油断したのか殴りつけられ呆気なく床へ伏せた。


 不味い。


 まずい。


 このままだと殺される。


 何か、何か…


その時、記憶が流れてきた時のような衝撃がまた走った。


 ああ、もう一回死ぬのか。


 まあ、どうせ碌な人生にならないだろうしここら辺で死んどくか。

 

ただ、人に殺されるんじゃなくて自分で死にたいなぁ…

楽に死ねた、痛みを感じずに死ねた「銃」はえあれば…


 「おいガキ…それは手品かなんかか?手から何か出しやがって…ずいぶん余裕なことだな!」



は?何を言ってるんだコイツは…殺すならさっさとしろよ。


 

 とりあえず言われた通り手を見てみると、見覚えのある物が握られていた。


 重厚感、質感、どれをとっても素晴らしかった。


 あの音や、火薬の匂い、そして最後に見た親の顔さえ鮮明に思い出せた…


 

 銃だった。


 

 もう立っていられなかった。


 自分で自分を殺した道具が何故か握られていて、訳がわからない。


 見ただけで吐き気がするし動悸もすごい。


 トラウマになっている。


 

 だが、


 これは自分を殺せる。だが、俺の異世界スローライフはこいつがいなければ始まる。

 

 前世で自分を殺してこの世界でも自分を殺す。


 

 でも、冷静に考えてみればなぜ俺がずっと割りを食う必要があるのか。



 俺を殺せるんだから、人間なんて簡単に殺せる。


 そう考えが至ると、自然と照準は頭に向いた。


 汚れた顔面の、クズ人間に。


 


 思っていたより簡単に引き金を引けた。


 クズの頭を飛ばしてやろうと、しっかりと狙った。


 

 だが、


 当たらなかった。


 さらに言うなら、腕が痺れるし肩も痛い。


 耳はキーンとして…


「このガキ!」


そんな諸々の痛みと、憎い顔を最後に



 俺は意識を失った。





 

 


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