第五話
「シュウヤ、シュウヤ。外が見たいです」
「ベランダ」
「違いますよっ。『お出かけ』というモノをしたいって言ってるんです。『観光』と言い換えても良いです」
「中々図々しいな。開き直って要求してくるあたりはホンット俺好みだが」
今日は晴天。
出かけるには良い天気だ。
俺自身久々に外を歩こうと思っていたから出かけるのは構わない。
むしろ渡りに船である。
ただ一つ、大きな問題があって――
「女物の服がない。流石にその格好で出歩かせる気はさらさらないぞ」
「参考資料のせいで露出が多いですもんね。けど服のデータが少ないのでこれ以外の服も似たり寄ったりなんですよね……」
女物はロクに持っていない。
ただ体格的に俺の服を与えても余裕が出すぎる。
「……とりあえず、コレどうだ?」
「おや、シュウヤの服にしては少し小さいですね。昔のですか?」
「ああ、一人暮らし最初期の服だ。とりあえずそれで我慢しろ」
今着るには少し小さいが着れなくはないから、と取っておいていたジーンズとシャツ。
それを受け取ったセラは何の躊躇もなく俺の目の前で着替えた。
そう、突然服を脱ぎ始――めることなく、宇宙パッワーで服を置換したのである。
「すげー。エフェクトがないせいで幻覚見てる気分だ」
魔法少女系のアニメや特撮ヒーロー系の変身シーンであるようなエフェクトがないから、目の前でパッと服が切り替わる様子は見ていて一種の気持ち悪さすら感じてしまう。
ただひたすらに脳が突発的な変化についていかない。
「初めて見るとそうですよね。私も経験があります。数度経験すれば平気ですけどね」
「脳の慣れか」
異常をきたすほどじゃないが、嫌悪感が半端ではない。
「それはともかく、これで外を出歩いても良いんですね?」
「最初に行く所は決まってるけどな」
服のデータを与える目的も含めてちゃんとした服を買いに行く。
出歩けるがイコール正しい服装とは限らない。
セラは下手な格好をさせると悪目立ちをしてしまう。
査証を持っていない以上は職質をされたら間違いなく詰み、だ。
それでなくてもセラは容姿が整っているから変態に狙われる可能性が普通の奴よりも高いし、モデルとしての勧誘をしつこくされてしまうかもしれない。
「ところで、一つ聞いても良いですかね?」
「……何ぞ?」
「これってこの星でいう『デート』でしょうか」
「当日いきなり出かけようって言われるのは『日付や場所を定めて男女が会うこと』の定義からズレてるから違うだろ」
噎せそうになった。
非モテの男にいきなりそういうことを言うのは止めて欲しい。
そもそも明確に『好き』の定義すら分かっていないのだ、その手の話は苦手だ。
「なら『逢い引き』ですか?」
「んえッ……。逢い引きは『相愛の男女が人目を避けて会うこと』だ。前提として相愛じゃない、それに人目を避けて会うって言ったってそもそも同棲してるようなもんだろ」
「あっ、確かに! 好きですけど人目は避けてません!」
そもそも『好き』という感情を恥ずべきモノだと思っている人間の感覚とは相容れないのだ。
どちらかといえば俺はオタク気質。
つまり好きを正々堂々『好き』と言えるタイプの人種。
好きなら人目を避ける必要ないだろ、と考えているからその定義は恐らく一生当てはまらない。
「……ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、なにか凄いことを言われた気が……」
「特に重要なことは言ってませんよ?」
「なら大丈夫だなっ」
引っかかるものはあるが、重要な事ではないなら平気だろう。
きっと気にしたら負けな類のヤツだ。
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