第四話
「シュウヤ、シュウヤ。見てください、調査の甲斐あって人間の身体に変わる事が出来るようになりました!」
「んぇ……誰だテメエ、露骨にあざとい見た目した女だな」
「私ですよ。セラです、セラ! スェイルァです!」
「そうか。寝させろ」
「ちょッ!? 少しくらい感想くれても良いじゃないですか!」
「だから言ったろ。『露骨にあざとい見た目した女だな』って」
熟睡しているところを揺れ動かされたからだろうか、すっごい鬱陶しい。
俺は男女平等拳の使い手だからなんの躊躇もなく殴れるが、今は殴る気が失せる。
だからといってこれ以上騒がれたら殴る気の消失以上の速度で溜まるストレスによって殴るが。
「……あと五分、それで意識覚醒させるからその間静かに待ってろ」
「了解ですっ」
散々五月蠅くされたせいで寝る気もなくなり、かといって今すぐ動く気力がないからあとで感想を言うことを確約してセラを離れさせる。
根本的には徹夜をした自分が悪いことは理解しているが、肉体が失った睡眠時間を取り戻そうと全力で眠っているところだったから理性よりも本能が勝り、俺にはどうしようもない。
快楽主義だから理性を優先させなくてはならない時以外は基本的に本能を優先させたいのだ。
「ふああああ。…………で? 感想言う前に聞くが、なんだその姿」
セラの今の姿は人間。
容姿を表すなら『色白』『短髪』『蒼髪』『蒼目』の『元気っ子系』であり、胸は巨乳ではないがそれなりに豊かといった感じだ。
しかも微妙に露出度が高く、煩悩の強い現代人の前に出せばかなりの確率で目を惹く。
「あれ? 嫌いでしたか?」
「いや、ぶっちゃけ言えば『露骨にあざとい見た目』って言ったようにかなり好みではある」
「ですよね! 勘違いだったらどうしようかとビックリしましたよぉ……」
セラは安心したように肩の力を抜いた。
表情もホッとした様子で緩んでいる。
「……ん? ちょっと待て。今『勘違いだったら』って言ったよな。俺はお前と出会ってから一切外部の人間と接触していないしテレビもロクに見ていない。その状態でどうやって俺の好みを知った!?」
宇宙人の技術は寝ている人間の思考を読み取れるのだろうか。
だとしたら中々どうして凄い技術だが、セラといる間はずっと気を抜けなそうだ。
確かにそれなりに信用しているが、まだ少し疑っている。
そんな状態で思考を読まれたら腹の探り合いもなにもあったもんじゃない。
「はいッ、シュウヤに借りたノートパソコンにデータが入ってました! そのデータを解析し、パターン化したのちに仲間の助言によって最終的にはこの姿になったんです!」
「おい待て、流石に性癖記したテキストファイルなんて作ってない……ぞ……。もしかしてあれか? エロ画像フォルダの中身見たな、セラお前」
「そうです! それを参考に私の容姿パラメータと組み合わせた結果がこの姿です!」
別にエロ画像を見られたことは気にしていない。
生存本能から生まれた性欲。
それは生物であるなら当然のモノ。
それを変に純粋ぶって否定する方が俺はおかしいと思っているまである。
だからそこは構わない。
ただ、小動物としか認識していなかったセラが俺のストライクゾーンに剛速球を投げ込んできたことが無性に腹立たしいのだ。
さらにはセラたちの種族での美醜感覚を俺たち感覚に当てはめるとこうなり、そうした結果が『コレ』だというのが、こう……無性に……筆舌に尽くしがたい感覚を与えてくる。
「マジフザケンナ……」
俺は基本的に『知的な女』が好みだ。
単に『勉強が出来る』、ではなく『話が出来る』という知性の高い女が好きである。
だから逆に言えば基本的にはクラスに必ず一人二人はいる『無意味に五月蠅い女』というのが本能的に受け入れられない。
けれど、かといって『よく喋る女』が嫌いかと言われればそうではない。
幼女、というと誤解される可能性が高いが、幼子のように純粋で元気な奴は嫌いじゃない。
むしろ大人に近づいてもそういう無邪気さを保っていられるというのは斜に構えた見方をしてしまう俺にとってはとても眩しく、一種の憧憬すら覚えてしまうモノだ。
それゆえに『天真爛漫な女』も好きである。
……結局俺がどうして素直に受け入れられないのかというと、会話をしていて楽しいと感じるような『知性を持った女』でありながら穢れを知らないような『天真爛漫な女』だからだ。
これまでどちらか一方だけ、と。
二兎追う者は一兎も得ず、そう思って生きて来たから、その両方を持った俺にとっての『最高』を喜ぶよりも先に疑ってしまうのだ。
「いや~、同僚の助言を聞いて良かったです! ほらほら、素直に喜んでくださいよお」
「……ヤダ。……偽物の容姿にぬか喜びしたくないやい」
そう、所詮は姿形を変えた偽りの肉体。
繁殖出来ない以上はどんなに容姿性格が好みでも本能が受け入れない。
だから俺のこの拒否感は間違っていない。……はず!
「二種族での感じ方を同じにしているとはいえ、確かに作った肉体に精神を封入した状態です。けど……偽物かと言われれば違いますよ? ちゃんとこの星の人間と子を成せる仕様ですし」
「………………………ホワッ!? ご、ごごご、御冗談を。見た目を似せて作った機械ならともかく容姿すら自由な人工体がそんな技術をだなんて。まっさかあ? ね?」
「ちゃんとプニプニの肉体ですよ。寿命もある程度自由に調節出来ますがこのままこの肉体を使い続ければ寿命はおおよそ普通の地球人と同じくらいですよ」
そういってセラは俺の手を掴んで自分の頬に触れさせた。
セラの頬は確かに柔らかく、ほんのちょっぴり温かい。
サラサラしていて、絹のように滑らかだ。
……絹触ったことないけど。
「ゲームのネタバレくらい知りたくなかった驚愕の事実。どうしてくれんだよコンチクショウ」
「嫌なら元の身体に戻りましょうか?」
「元の身体に戻るなんてとんでもない。……さっきも言ったが正直言えばがっつり好みだッ。けど同時にどうすれば良いのか分からないというか? 認識がペットみたいな感じだったからいきなりそう言う対象に変わって対応しきれないといいますか? 容姿で相手を差別も区別もしないことを信条に生きて来たから自分が情けなくなっていると表現すれば良いのか? ともかく容姿性格共に好みの異性が目の前にいて興奮する一方で自己嫌悪真っ只中なわけ」
まだ世間一般でいうブサイク、とかのレベルだったら普通に接する事が出来たが、小動物から同種に切り替わるのは流石の俺のメンタルでも結構一度には受け入れられない。
普通の奴ならそんなことはないのかもしれないが、容姿を出来る限り気にしないと決めていた分俺の場合は精神的な影響が強いのだ。
「なるほど、人間はそういう風に感じるモノなのですね。一般解ではないとは思いますが貴重なサンプルとして憶えておきます!」
「……うん、もういいや。しばらく反応が面倒な感じになるかもしれないけど許してくれ」
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