第二話
この作品の名前は初め
『円周率から始まる宇宙人との異文化交流』
的な感じになる予定でした
「……マジか?」
あまりにも衝撃的な出来事に俺は思わずそう呟いてしまった。
こんな状況で一切動じずにいられる人間がいるなら俺の前に連れて来て欲しい、そいつとは是非ともお友達になりたい。
「あ~……スマン。逆さまにして……」
あまりにも可哀想な状況に、俺は言葉が通じない可能性を忘れて反射的に謝る。
痛そうに顔を撫でていた謎の生命体である小動物は、俺の言葉に反応して一瞬で距離を取って俺の様子をジッと観察していた。
「言葉……通じるか?」
そう訊ね、首を傾げると、小動物も俺を真似るように首を傾げる。
「通じないのね、やっぱ」
宇宙人の素敵技術で即座に言語を解析して翻訳する機械を持っていないかな、などと期待していたのだが、そんな都合の良いアイテムはないらしい。
星を簡単に移動するという時点で凄いのは凄いのだが、期待をしていた分落胆が大きかった。
「どーすっかな~。宇宙人との交流方法なんて調べても出ないだろうし……」
言葉が通じない相手との交流方法。
英語圏の相手との交流以上に難度が高い。
文明が違い、認識が違う。
同じ人類であるがゆえに同じ認識が根底にある俺たちとは違い、姿形からして異なるから抱く悩みが大きく異なる。
一つの動作が問題足り得るのだ。
それは親指立てがある地域では好意的な意味になり、ある地域では侮辱を意味するように。
「文明が違っても同じのモノを使って交流、というか交流の意図を示す……ッ?!」
どうしたものかと考え込んでいると、顎に当てた手にチクリと僅かな痛みが走る。
何かと反応して手を離し、痛む場所に目を向けるとそこには針が刺さっていた。
さらにはその針の尻には液体を貯めるためのスペースがある。
そしてそこには血が貯まっていた。
「採血? ……ああ、なるほど」
すぐその意図を読み取った俺は針を抜かず、そのまま小動物に直接回収させるように手を差し出す。
驚いた反応を見せながらも意図を読み取ったことを読み取った小動物は襲い掛かられることを警戒しながら慎重に近付き、針を抜くと即座に俺の下から離脱した。
(なんつーか……モーグリみたいだな。いや、全然似てないんだけど、頭の上のポンポンが……)
モーグリとは違って白くも翼も生えていない。
けれど頭の上のポンポンだけはモーグリのようである。
モフモフしているのは同じだが、色も姿形も異なっている。
「○□△~」
「え? なんて?」
血液検査の結果を知った小動物は一先ず安心したという風にこちらへの警戒を少し緩めて何か、宇宙人語らしきものを話した。
初めて聞く言語を理解も聞き取れるわけもなく、とりあえず『何か言ったな』程度にしか感じられない。
「まあいいや。とりあえず……」
現状どうしようもないことを考える気のない俺は宇宙人語のことを意識から外し、紙とペンを持って小動物の前に置いた。
そして俺はその紙に『線』と『図形』と『数字の羅列』を書く。
それは
『一本の線』
『それを直径とする一つの円』
『3.14159265358979323846264338327950』
つまり円周率を示す一枚の紙。
これによって小動物は俺たちの使う数字が十進数であることを読み取れ、それを示したことで現状敵意がないことを示せる。
相手の知力が低い場合はなんの意味もなさないやり取りになってしまうが、即座に血液検査を行ったという事実を考慮すれば目の前の小動物が単独ではなく『組織の一員』であり調査のための『先遣隊』である可能性が高い。
隊であるか単独かは分からないが、そこは重要ではない。
調査のために遣わされた、という事実から種族および組織の中でも『それなりの知識を持っている』存在であることが読み取れるのだ。
「××○……△▽□?」
紙とともに差し出したペンを小動物は使い、数字を0から9と正確に並び替えた。
やはり知能が高い、そう感じた俺は相手の中でも肯定を意味するかは分からないものの勢いよく首を縦に振り、それとともに僅かな笑みを浮かべる。
動作からか、表情からか、肯定を意味していると読み取れたらしく、小動物は思考を終えてペンを置いた。
「なら……」
友好の意思と数字と進数を理解して貰った俺は、続いて定規と一リットルの容器を取り出して容器の中に一リットルちょうどの水を入れる。
そうして容器を差し出し、紙に今度は一辺一〇センチを示した立方体を描いた。
『10cm=0.1M』
『1000ml=1L』
『1000㎤』
『1000g』
これによって長さ、容量、体積、重量を示せる。
「○▽×」
そしてそれぞれをゆっくり口に出して読み方を教える。
『じゅう、せんち、めーとる』
『れい、てん、いち、めーとる』
『せん、みり、りっとる』
『いち、りっとる』
『せん、りっぽう、せんち、めーとる』
『せん、ぐらむ』
露骨に緩やかな話し方に教えられていることを理解した小動物は俺の言葉を復唱した。
拙い言葉ながらも習得しようという意志の感じる態度に、俺は労を厭わず小動物に教え続ける。
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