第一話
カアカア、と鳴くカラスの声がする。
至近距離で鳴いているらしく、耳を塞ぎたくなるほど寝起きの耳に良く届いていた。
「こちとら徹夜明けだってのに……」
色々やる事が重なり過ぎてログインボーナスを取るだけでサボりがちになっていたソシャゲのイベントを一日で終えるという苦行を行ってしまったせいで頭があまり回らない。
薄らいだ視界で時計をよく見ると、そこには『10:32』の文字。
つまり睡眠時間は一時間。
「道理で全然寝た気がしないわけだ」
眠い目を擦ってカラスがいるであろうベランダを睨みつける。
カーテン越して姿は分からないが、光から考えて五か六羽ほど。
そいつらが何だかよく分からないモノをカンカン、と突いて大きな音を発していた。
このまま放置していては騒音で隣から苦情が出かねない。
このマンションは広いし壁も厚いが、音の発生源はベランダだからそんなこと関係なしに音が響く。
「くそっ、なんだってんだよ……」
徹夜をして風呂に入っていないから皮脂でボサボサになった髪を掻き上げながらカラスを追い払うべく立ち上がる。
ずっとベッドの中でスマホを弄っていて久々に身体を動かしたせいで全身がボキボキボキィッ、とイヤな音と感触を響かせた。
筋肉も凝っていて全身が痛む中、僅かに光を透過するカーテンを勢いよく開け放つ。
「あン?」
カラスが一斉に飛び立つ。
バサバサ、と羽ばたく大きな音が鳴った代わりに鳴き声が消えた。
だがカラスたちが突いていた何かは残されている。
本来ならばカラスが飛び立ったのを確認してカラスの散らかしたゴミを片付けるのは後にするが、俺はカラスたちの弄っていたモノに興味を惹かれて窓を開けた。
「ドローン……じゃねえよな。羽ないし」
そこにあったのは恐らく金属で出来ているであろう何か。
機械らしき姿をしているが正確な事は分からない。
よく見ればベランダの手すりと床、窓ガラスに衝突痕が残っている。
幸いベランダに機体を擦りつけ、床に衝突して跳ねたのが窓ガラスに当たったらしく、窓ガラスに被害はない。
機体自体も強度が高いようで擦過痕が一切見当たらない。
「可能性としては……一、ドローンで運ばれた。ニ、下から投げられた。三、上から入れられた」
機体の正体を突き止める一環として『誰が』『どのようにして』という事を考える。
「ドローンにしては雑だよな。運んできた羽付きが見当たらないし」
一の可能性は低い。
誰が運んだかは不明だが、擦過痕を残すほど雑だから素人でもそんな動きはしないだろう。
「投げられた……ねえな。地上から投げるには高すぎるし、下の階層にしても上の階層にしても角度がおかしい」
痕跡を見る限りでは水平から斜め上方向からの飛来だ。
縦に並んでいるこのマンションという構造上、その角度から投げ込むのは困難。
可能性は限りなくゼロに近い。
「なら自分で飛んできたのか? 羽がないのに?」
正体不明。
心が躍るが、危険物だったらと思うと少し怖い気もする。
別に死ぬこと自体は構わないが、積みゲー積み本を消化せずに死ぬのはイヤだ。
「……とりあえず調べるか」
考えても仕方ないなら調べる以外の選択肢はないだろう。
警察に届ける?
ありえない。
こんな面白そうなモノを何も調べずに他者に渡すなんてとんでもない。
調べる以外の選択肢は俺にはないのだ。
「見た目に反して意外と重いな。何つーか見た目がアレだな、UFOだ。だとしたら宇宙人の探査機か」
パッと思いついたそんな下らない仮説。
宇宙人がいるというのは非常に好ましいが、現実問題そんなのがいたら政治や経済が大きく可能性が高いし戦争も起こりかねないからそのせいで二次元文化が潰えるのはお断りだ。
言語的な問題もあるし、宇宙に進出可能な技術を持った相手と戦えるわけがない。
もし宇宙人が戦意全開で来たら良くて植民地だろう。
……うん、いくつかの文化が消えそうだ。
「さてさて、どうやって作ったのか分からないこの機械を分解するにはどうすれば良いのやら」
ぱっと見、分解出来そうなパーツが見当たらない。
開けられそうなスイッチがどこにもついていないし、分解しようにもネジの姿がないのだ。
もちろんネジを隠していそうな部分も存在していない。
「振っても、叩いても……変化なし」
逆さまにしてみたが何もなく、壊してみようかと考えていると。
『プギョッ!?』
機械が開き、そこから謎の生命体が降ってきた。
俺が逆さまにしていたせいで機械から落ちてしまった謎の生命体は、成す術もなくそのまま床に落ちてそんな情けない声を発していた。
「……マジか?」
面白いと思ったら感想、評価をお願いします