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「それで君は誰なのかな?」
周りが少しにぎやかなファミレスの一角で僕は少女にそう尋ねる。
少女はハンバーグランチを食べながら少しだけはにかんで上目遣い気味に覚えてない?と聞いてきた。その姿もしぐさもすべて知っているものだった。
「あかね、葉山あかねだよ」
僕は何の冗談かと鼻で笑って外を見る。
「あー!信じてないでしょう!その顔!!」
「信じられるわけないだろ。葉山あかねちゃんは僕と同い年の女の子だ。どう見ても君は中学生だろ?それにあかねちゃんは……」
死んだ。僕の目の前で。そうとは口に出せなかった。うつむいて苦虫を噛み潰したように顔をしかめるしかなかった。
「冗談でも、そういうのはどうかと思う」
僕が顔を上げずにいると向かいに座っている少女はコロコロ笑って言った。
「実は私死んでなかったんだよね。葬儀もしてないでしょう?川に落ちたけど、すぐに大木が流れてきてそれに必死に捕まってて気づいたらどっかの岸にいたんだよね。築山くんが大人の人に言ってくれたお蔭で私、すぐみつけてもらえて無事に今日まで生きることができたんだよね。本当にありがとう」
僕は理解できなかった。じゃあ彼女があかりちゃんだとして、その背格好はおかしくないか…?とあいまいな表情になっていると少女はまたくすくすと笑った。
「それでね、お願いがあるの。私今ちょっと実家に帰れなくて、少しの間家に泊めてくれない?」
「帰れない…?泊める…?」
僕は思考停止していたようで彼女の言葉をかみ砕いて考え、いろいろ突っ込まなくてはいけなかったが深く考えないことにした。まるで本を読んでるかのような感覚になって、ここでうなずかなければ物語は進まないなとか変なことを考えながら、一拍おいてだめだと答えた。
「実家がダメならどこか友達の家は?お金があるならホテルは?…とにかく僕の家はダメだ」
「どうして…」
僕の言葉を聞いて落ち込み、悲しそうな声で一言だけこぼした。
「僕は男だし、なんなら誘拐だと思われそうだからだよ。真面目に生きてきてこれからもその予定なのに…。警察の世話になるのは困る…」
「友達はあなたしかいないし、こんな格好じゃどこも泊めてくれないわ…」
少し悲しそうにそういって、彼女は鞄からお財布を出し、お金を机に乗せて立ち上がった。
「わかった。………さようなら」
そう言い残して僕の前からまたいなくなってしまった。