表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝉の声  作者: 畦道壱拾蓮
2/2

「それで君は誰なのかな?」


 周りが少しにぎやかなファミレスの一角で僕は少女にそう尋ねる。

 少女はハンバーグランチを食べながら少しだけはにかんで上目遣い気味に覚えてない?と聞いてきた。その姿もしぐさもすべて知っているものだった。


「あかね、葉山あかねだよ」


 僕は何の冗談かと鼻で笑って外を見る。


「あー!信じてないでしょう!その顔!!」


「信じられるわけないだろ。葉山あかねちゃんは僕と同い年の女の子だ。どう見ても君は中学生だろ?それにあかねちゃんは……」


 死んだ。僕の目の前で。そうとは口に出せなかった。うつむいて苦虫を噛み潰したように顔をしかめるしかなかった。


「冗談でも、そういうのはどうかと思う」


 僕が顔を上げずにいると向かいに座っている少女はコロコロ笑って言った。


「実は私死んでなかったんだよね。葬儀もしてないでしょう?川に落ちたけど、すぐに大木が流れてきてそれに必死に捕まってて気づいたらどっかの岸にいたんだよね。築山くんが大人の人に言ってくれたお蔭で私、すぐみつけてもらえて無事に今日まで生きることができたんだよね。本当にありがとう」


 僕は理解できなかった。じゃあ彼女があかりちゃんだとして、その背格好はおかしくないか…?とあいまいな表情になっていると少女はまたくすくすと笑った。


「それでね、お願いがあるの。私今ちょっと実家に帰れなくて、少しの間家に泊めてくれない?」


「帰れない…?泊める…?」


 僕は思考停止していたようで彼女の言葉をかみ砕いて考え、いろいろ突っ込まなくてはいけなかったが深く考えないことにした。まるで本を読んでるかのような感覚になって、ここでうなずかなければ物語は進まないなとか変なことを考えながら、一拍おいてだめだと答えた。


「実家がダメならどこか友達の家は?お金があるならホテルは?…とにかく僕の家はダメだ」


「どうして…」


 僕の言葉を聞いて落ち込み、悲しそうな声で一言だけこぼした。


「僕は男だし、なんなら誘拐だと思われそうだからだよ。真面目に生きてきてこれからもその予定なのに…。警察の世話になるのは困る…」


「友達はあなたしかいないし、こんな格好じゃどこも泊めてくれないわ…」


 少し悲しそうにそういって、彼女は鞄からお財布を出し、お金を机に乗せて立ち上がった。


「わかった。………さようなら」


 そう言い残して僕の前からまたいなくなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ