六
そういえば、昔あの少女が私のもとへやってきた日は北風が冷たい日でした。
確か、あの子は赤い帽子をかぶっていて、強い北風がその帽子をとばしてしまったのでしたね。帽子が脱げた後に見えた大きな瞳が印象的で、私はその子のことを覚えていたようです。
風に飛ばされた帽子は私の枝に引っかかりました。高いところの枝だったので女の子は手が届きません。次にまた強い風が吹けば精一杯枝を揺らしてあげたいのですが、私にはどうすることもできません。
その時は困ったものでした。
そのうちに、とうとう少女は泣き出してしまいました。
私も途方に暮れていた時、少女と同い年くらいの男の子が遠くから走ってやってきました。少女の声を聞いてやってきたようです。
どうやら二人はその時初めて会ったようでした。
女の子が泣き止んだので私は一安心しましたが、男の子もあまり背が高くありません。私の枝に絡まった帽子をとれるのでしょうか。
男の子は枝に手をかけて私によじ登ろうとしましたが、私は細い枝が折れるのではないかと心配でたまりませんでした。とうとう帽子がかかっている枝までたどり着けずに男の子も降りてしまいます。
今、こうして女の子が座っているのと同じように、あの頃の二人も私の根に腰かけました。
帽子は諦めてしまったのでしょうか。少女は泣き止んで、男の子とお話をしたり歌ったりしていましたが、その声は少し悲しそうでした。
枝にかかった帽子を眺めて私も悲しくなっていましたが、夕日が二人を照らし始めたころ、また強く冷たい風が吹いてきて、帽子を軽々と宙へ投げ出しました。
その帽子は二人の目の前に落ちました。
二人はしばらくじっと目を見合わせた後、明るい声をあげました。その時は私も二人と一緒になって喜んだものです。
それからは、あの二人が一緒に遊んでいるところをよく見かけました。
どちらかが先に来て私の根っこに座って、相手が来るのを待っていましたよ。私の下を二人の集合場所にしていたようですね。
ずいぶん前の出来事ですが、女の子の歌声を聴いているうちに記憶がはっきりとしてきました。本当に、歌は不思議ですね。
なんだか懐かしい気持ちになりました。あの二人は今頃どうしているのでしょうか。
できるなら、もう一度会いたいです。




