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1-3 部屋は明るい

ゆっくりと目を開く。


まずその動作をしなければいけないことが不思議だった。寝ようと思えば寝られるというのは、ひっくり返せば、寝ようと思わなければ寝られないということだ。今までの人生で寝落ちしたなんて体験は持ち合わせていない。私にとって、眠るという行為は自分で調節がきくものであったのだ。



それにも関わらず、私はこうしてベッドに寝転がっている。



私は寝たいだなんて思ってないのだからいつの間にか目が閉じてるなんて不気味極まりない。一体誰だ私の目を閉じさせたのは。副部長だろうか。

それにしても副部長はどこに行ったのだろうか。まあこんなに豪華な部屋なのだから好奇心を抑えきれず探検に行ったのかもしれない。友達がいのない奴だ。そこは私も連れて行くべきところだろう。



そこまで考えてから、のそりと身を起こす。



「いやここどこだよ」



声はかすかにひび割れていた。




= = =




日曜午後三時のコーヒーショップは残滓さえ視界に残していなかった。あるのはお姫様の部屋なのかと突っ込みたくなるぐらい豪奢な調度品達だ。私以外に人はいない。副部長もいない。



そう、本当にお姫様がいそうな部屋だった。後から汚したって難癖付けられて金を要求されたらどうしよう。私はゆっくりベッドから降りる。そこで気づいたが私の足からは靴がなくなっていた。あるのは灰色の靴下のみ。西洋風な部屋なのに土足厳禁だったのか、ベッドサイドにもベッドの下を覗いても靴はなかった。寂しい。



靴下越しに感じる柔らかな絨毯の感触に顔を顰めながらさらに辺りを見る。おかしな部屋だった。別にお姫様感バリバリなピンクに金ピカと目に悪い調度品のセンスの悪さに文句を言いたい訳では無い。部屋にはこれといった出入口がなかったのだ。窓も、ドアも、排気口も、およそ穴と言えるものは何も無かった。コンセントの穴さえもなかった。この部屋の持ち主は頭がおかしいのだろうか。どうやって暮らしているのか。



もしかしたら、そこらにある棚とかこのベットとかを動かせば秘密の出入口があってヒャッハー秘密基地だぜっごっこが出来るのかもしれない。だが私にはそこまでのガッツと中二心はなかった。万年美術部員の細腕を舐めるな。持てるのはキャンパスの重さまでだ。



一頻り棚をパカパカして遊んだが特になんの収穫もなかった。どの棚も空だった。だんだん飽きてきて勢いよく棚を閉まったら上の段が音もなく出てきて私のおでこにパンチを見舞った。痛い。出てきた棚を慎重に戻す。万が一下の段が出てきてもいつでも避けられるように準備をしておく。しかし今度は棚はぴくりとも動かなかった。中身は空だがここの棚には脳ミソが詰まっているのかもしれない。今度からお棚様と呼ぼう。



それにしてもかなり時間がたった気がするが副部長は帰ってこない。いい加減暇になってきた。目に毒な調度品達も慣れればむしろいい味を、味を、出てないな。こんなの慣れるか。顧問のようにドライアイになってしまったらどうしてくれる。



目に優しい景色を探して視線を彷徨わせる。窓があったなら遠くの山でも見とけばいいのだろうが、残念なことにここに窓はない。ほぼ正方形と思われるこじんまりとした部屋には趣味の悪い棚がいくつかとピンクと金のレースがごちゃごちゃ付いたソファがひとつとピンクの支柱に金の垂れ幕天蓋ベッドしか無かった。この部屋の持ち主の頭の中を覗いてみたい。世界に色は二種類しかないとか思っていそうだ。



そんな二種類で彩られた狂気の空間にも、唯一癒しの存在がある。私だ。正確には私が着ている服だ。濃い緑の七分丈シャツに白いパンツ。なんと癒される配色か。特に緑はなんかいい気がする。私はじっと自分の服の袖を見る。肌色もなんかいい感じに目に優しい。すごくいいぞ。さすが私だ。これは副部長が帰ってきたらぜひとも伝えなければならない。探検は楽しいんだろうか。もしお土産を持って帰ってこなかったらチョキで目にハイタッチをしてあげよう。その後に目に優しい緑の袖で目ん玉をグリグリ拭いてあげよう。目に優しいんだからなんの問題もない。



だから早く副部長来ないかな。






ドアもなにもないんだから副部長が帰ってくるはずないのなんてわかっている。出入口がない状態で一人なのだから、そもそも副部長はここにいなかったと考えるべきだ。わかってる。でも私は、寂しい。




最初の地点、ベッドに戻って腰掛けて、ため息をついて上を見上げる。





そこに、発光する不審物があった。



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