少年と龍
明日は運動会。
少年は、借り物競争に出場予定だった。
どうか、クラスの勝利に貢献できますように。
そう思いながら、少年は布団に入った。
夢の中の少年は、借り物競争の最中だった。
例の箱を目指して懸命に走っていたんだ。それに到着して、大急ぎで引いた紙の中身は『龍』。
引いた瞬間、驚いた。
龍!?
少年は思ったんだ。
龍なんて、いるわけがない。いないものをどうやって借りろって言うんだ。
そう憤慨しているときだったんだ、君が現れたのは。
ふわふわと少年の上を漂って、少年を見下ろしていた。ちょっぴり怖かったけど、なんだか、ついてこい、っていってるみたいで、少年はその龍についていった。
そう、そのときは忘れていたんだ。
今が、運動会の最中だったってことを。
だから少年は、なにも考えずに、ただひたすら君についていった。
だけどね、少年は、龍を、つまり上を見ながら龍についていくように歩いていたものだから、下に気を付けてはいられなかった。前を行く龍が、にやり、と笑ったんだ。
それに少年が気づいたときには、もうすでに手遅れだった。
少年は、深い深い穴に落ちてーーー
ドンッ。
叩きつけられて起きたところは、いつものベッドがある部屋だった。
まあ、床だったんだけどね。
さぁ、今日は、運動会だ。
少年は、気合いを入れて、着替えて、準備をして、朝ごはんを食べて、出掛けていったんだ。
いよいよ、借り物競争の順番がやって来た。
気合いは優勝だ。
そう、意気揚々と思いながら、その箱へと走っていった。
引いたのは、なんと、夢と同じく『龍』だったんだ。
え!?
あの夢は予知夢!?
最後の結末が靄がかかったように思い出せなくて、少年は、夢と同じように君が現れるんだと思って、頭の上ばかりを見ていたものだから、そう、気がつかなかったんだ。
結局少年はビリになった。
少年は、龍なんているもんかっ!って愚痴を漏らしたけれど、ほんとはいたんだよね、君は。
あとから気づいたよ。目の前の男の子が、小さな龍のおもちゃを持っていたってね。
そう、全部全部、君のせいなんだ。
少年が上にばかり気をとられて、小さな龍の存在に気づかなかったことも、上ばっかりを見ていて、あのあとゴールの前に転んで大怪我を負ったこともね。…ごめんなさい、大怪我は嘘です。ほんとはただのかすり傷。
そういえば、君は最後ににやりと笑っていたね。
こうなる僕が滑稽だったのか、それとも単に、いたずらを喜んでいたのか。
今となっては、少年になんてわかることじゃあなかったんだ。
それはあのときの龍にしか分からないこと。
今は誰の夢の中にいるのだろう。
そんな少年の様子を空から見ていた龍がいたことなんて、それを知っている人は、いるのだろうか。