パッシング
完全オリジナルのようなどこかで読んだことあるような作品です。
彼女は明るい性格であった。彼女はその性格のおかげで、だれからも好かれていた。
彼女は背が低かった。彼女はそのことをあまり気にしていないように振舞っていた。
彼女はよく、口をぎゅっと閉じて、下唇と下の歯の間に息をためて、眉根を少し寄せる癖があった。
彼女には、付き合って1年になる、彼氏がいた。
彼は昔からよくモてていた。彼は、彼女と同じ高校を受験した。彼は彼女より頭がよかった。しかし、彼は落ちて、彼女だけが受かった。彼は彼女に、合格していたすべり止めの私立高校に彼と共に行きたいと言われた。彼は迷った。だが、彼には、彼女の人生を決める覚悟はなかった。彼と彼女は、違う高校に通うことになった。幸い、彼も彼女も、新しい場所で、新しい居場所を作ることができた。彼女は、彼には会えなかったが、携帯を使って連絡が取れたので、寂しくはなかった。
ある日、彼女の靴箱に一通の手紙が入っていた。ラブレターであった。彼女はこのことを彼に言おうか迷い、結果、意を決し言うことにした。彼の反応は薄いものであった。彼女にとって、それは、限りなくショックであった。彼女は、もしかするともう彼には、ほかにも好きな人がいるのかもしれない、と思ってしまった。
彼は限りなくショックであった。なぜなら、彼女のもとにラブレターが届いたからである。彼はその時初めて、彼女が自分の知らないところでほかの男子と仲良くしているところを想像してしまい、怖くなった。しかし彼は、それを悟られないよう、きわめて普通に返信した。
僕は目立たない存在であった。友達がいないわけでもないが、誰か一人一番仲のいい友達はと聞かれると、返答に困ってしまうだろうと思っていた。僕は日常的に、人を観察するのが好きであった。ほかの人は気付かないような細かなしぐさで、人の気持ちをなんとなく把握できるのが、少しうれしかった。
ある日、ある女子生徒の異変に気付いた。彼女はいつもと変わらずに明るく振舞っていたが、なんとなく無理をしているというのを感じてしまった。特に、彼女の癖である、下唇と下の歯の間に息をためて、眉根を少し寄せる回数が、普段より多いような気がした。
僕は彼女に何があったのかは、尋ねなかった。彼女だったから尋ねなかったというわけではない。僕は、人に干渉することが苦手だと自覚していからだ。彼女は次の日、学校を休んだ。
彼女は体調を崩した。彼女は学校を休んだことなどほぼなかった。もちろん、彼から連絡がきた。お見舞いに行くと言われたが、なんとなくそんな気分ではなかった。彼にそう伝えたところ、分かったと、一言だけ返信がきた。彼女は、自分が、来なくていいといったものの彼が来ないことが悲しかった。しかし何より悲しかったのは、彼が、お見舞いに来るのを、すぐに諦めたことだった。彼女は、もう彼は、私には、興味がないのかも知れない、そう思った。翌日、体調はすぐに回復した。そして、彼女は、彼には内緒で、ラブレターを出した男と付き合うことにした。
彼は、彼女が心配であった。ラブレターをもらったと聞いた日から、明らかに連絡する数が減っていた。そして、体調を崩したという知らせが入った。お見舞いを断られた。彼女は、いつも通り返しているつもりなのだろうが、元気がないのは明らかであった。心配をしてあげているのにそのような態度をとられることが、無性に腹立たしかった。なので、つい、そっけなく返信をしてしまった。
僕は、彼女が隣のクラスの男子と付き合い始めたという噂を聞いた。その男は、僕と同じくらい冴えなくて、僕と同じくらい暗かった。彼女の友達は、教室でよく彼女のことを冷かしていた。彼女は、幸せだと言っていたが、彼女特有の癖が増えていることに気が付いた。だが、気付いたところで、僕にはどうすることもできないと思った。そう思ったところで、僕は、彼女のことをどうにかしてやりたいと思っていたのだということに気が付いた。
彼女は、今の生活に不満はなかった。彼とは連絡を取らなくなっていたが、彼女には新しい彼氏がいた。その男にも、クラスの人にも、彼女に彼氏がいることは秘密だった。彼女は、その男に不満はなかった。彼より背も低く、イケメンでもなく、話も彼ほど面白くはなかったが、とても大切にされているということが分かっていたから幸せであった。
彼は、彼女からの連絡を待っていた。自分から連絡を取ることもできたが、それをすると負けた気がしたので、自分からは話しかけなかった。そんな時、同じ中学の友達から彼女に彼氏ができたと聞いた。彼は、とても傷ついた。彼が、彼女と付き合っていることは、周りには秘密であったから、彼は誰にもこの悩みを打ち明けることができなかった。彼は、彼女に本当なのか聞いてみることにした。彼女は否定しなかった。彼は自分のどこが悪かったのか聞いた。彼女からの返信は来なかった。
彼女は、彼から久しぶりに連絡がきたことに驚き、そして浮気をしていることがばれていることで再び驚いた。彼から、自分のどこが悪かったのか聞かれた。彼女は、別に彼に不満はなかった。ただ、彼女は、彼に本当に好かれているかがわからなかった。彼女は、彼女のどこが好きか聞きたかった。しかし、浮気をしている身でそのようなことを聞くのは、おかしいと思い聞くことができなかった。彼女は、このどうしようもない気持ちを、今の彼氏なら受け止めてくれるかもしれない、そう思い、彼女のどこが好きか尋ねた。その男は、すぐに、小さくてかわいいところと答えてくれた。彼女は純粋に嬉しかった。しかし、嬉しいと同時に、何かはわからないが、何かが違うと彼女は思った。
僕は、彼女のことが気になって仕方がなかった。元気がないのに、無理に明るく振舞っている彼女を見るのがつらかった。僕は声をかけたかった。しかし、彼女に嫌われたらどうしようという、つまらないプライドが、僕の体を邪魔していた。何かきっかけが欲しい。きっかけがあれば、彼女に話すことができる。そう思っていると、掃除場所が一緒になった。僕は、あまりにも急なことに決心が揺らぎそうになった。しかし、ここで彼女に聞かないと、彼女のつらい姿をずっと見ることになるし、何より、自分が変わりたかった。将来の目標も自分の得意なこともわからない、なんとなく今の人生を過ごしている自分を変えたかった。僕は彼女に、何か最近悩んでいることはないかと聞いた。彼女は驚いたように僕を見た。彼女は、しばらく考えて、放課後に話したいと、言ってきた。
彼女は驚いた。あまり話したことのないクラスメイトから、突然声をかけられ、自分が何かに悩んでいることをズバリ言い当てられたからだ。話したい、そう思った。しかし彼女はそのことで、自分がどれだけダメな女かをクラスメイトに知られるのが嫌であった。彼女はそのクラスメイトをうまくあしらおうと思い、そのクラスメイトの顔を見上げた。しかし、彼女が、クラスメイトと目を合わせた瞬間にそのクラスメイトの目に、目を奪われた。彼女は、今までにそのような目を見たことがなかった。そして自分でも気づかないうちに言葉が出ていた。
僕は、彼女と公園のベンチに座って、彼女の話を聞いていた。
彼女は、すべてを話した。
僕は、その話を聞いた後に、本当に彼は、それほど冷たい対応をしたのかと聞いた。
彼女は、彼との普段の会話を思い出してそれほど冷たい対応はされてないことに気付いた。
僕は、彼女に今の彼氏のことが本当に好きなのかと聞いた。
彼女は、自分のことを大切に思ってくれているから好きだと答えた。
僕は、彼は彼女のことを大切に思っていないと思うのか聞いた。
彼女は、その質問にすぐに答えられなかった。
僕は、彼女に今の彼氏に感じている違和感は何だと思うのか聞いた。
彼女は、そんなものは分からないと思ったが、よく考えると、彼は彼女が小さいことには触れなかったと気付いたと言った。
僕は、彼女は自分が小さいと言った後に、いつもの癖をしたことに気が付いた。そしてそれを彼女に告げた。
彼女は、驚いた。彼女は自分がそんな癖をしているなんて気づいていなかった。
僕は、彼女は気にしていないように見えて、小さい自分を本当は嫌っているのだと思った。
彼女は、本当は小さい自分が嫌いなのだと思った。
僕は、彼女にその小さいところが好きな今の彼氏と仲良くしていけるのか尋ねた。
彼女は、その質問には答えられなかった。
僕は、彼ともう一度話すべきだといった。
彼女は、その通りだと思い、彼に電話をかけた。
彼は、すぐに出た。まるで、電話が来るのを待っていたようだった。
彼は、彼女から突然電話が来て動揺していた。彼は、電話に出るべきか迷った。しかし、ここで尻込みをすると一生後悔しそうで怖かったから出た。
「ごめん」と彼女は言った。
彼は謝られてどうするべきか迷ったが、とりあえず、
「こちらこそごめん」と言った。
「なんで謝るの?」と彼女は言った。
「わかんない」彼は言った。
「私のことまだ好き?」彼女は言った。
「もちろん」彼は言った。
「どこが?」彼女は、不安そうな声で言った。
「もちろん全部」彼は本心で言った。
「本当に?」彼女は電話の向こうで少し笑いながら言った。
「今から会いたい」彼は言った。
「あの公園にいる」彼女は初デートの公園にいるようだった。
「すぐ行く」そう言って、彼は駆け出したい気持ちを抑えて支度を始めた。
僕は、彼女ならもう大丈夫だと思った。僕がここにいても邪魔になるだけだと思ったので、もう帰るというと、彼女は申し訳なさそうな顔で、いつかお礼をすると言った。僕はお礼なんていらなかった。僕のしたことで誰かが救われそうになっただけで十分だった。僕は彼女に気持ちだけもらっていくというと、足早に家へと帰った。
翌日からは、普段通りの彼女だった。僕が彼女から聞いた話によると、彼女は公園で話を聞いた日の次の日に、隣のクラスの彼氏と別れることにしたらしい。その時自分には彼氏がいたことを伝え、彼女は必死に謝ったようだ。その男は、それならしょうがないと言って笑って許してくれたそうだ。僕はその男は怒っていいと思った。でもそうしなかったのは、何でも許せるほど彼女のことが好きだったのだろう。ただ、彼女が求めている男とは、違っただけだったのだろう。僕は初めてその男がかわいそうと思った。だが、思っているだけではどうにもならないのだと、今回のことで学べた。彼女は居住まいを正して、もう一度僕に礼を言った。僕は、お礼をしたいのはこっちのほうだと言った。彼女はその言葉の意味が分かっていなかったが、それでもよかった。
僕は最近、口をぎゅっと閉じて、下唇と下の歯の間に息をためて、少し眉根を寄せる、彼女の癖をしてしまうようになった。
なぜか心が落ち着いた。
多少読みづらいところがあったかもしれませんが、最後まで読んでいただきありがとうございました。