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前編


 いつもの帰り道、いつも通りのくだらない会話からこの話は始まった。


「ねえ知ってる?」


 隣を歩くカルタから声がかかった。

 それ以前に何を話していたかなんて思い出せないけれど、こう切り出されたことだけはしっかりと覚えている。


「何を?」


 主語がないから、カルタが何を言おうとしているのかは分からない。あいにく、テレパシーなんて特殊能力も持っていないし、勘繰るくらいならストレートに聞き返す方が手っ取り早いだろう。


「あのね、この森の奥に大きなマンションがあって、そこにバケモノが住んでるんだって」


「まさかー。こんな田舎の山にマンションなんてあるわけがないじゃない」


 そんなこと初耳だ。

 誰かが引っ越してくるというだけで、町中で伝言ゲームが始まるような小さな町だ。マンションなんて立っていればどこかから話が舞い込んでくるし、少なくとも山を駆け回っていた私の幼少期にマンションなんてものは建っていなかった。


「まってチヅちゃん。バケモノの方につっこんでよ!ちょいとカルさんは悲しいぜ」


 チヅちゃんというのは私のあだ名で、本名はチヅルという。

 カルタのこういう面倒発言はいつものことなので、適当にスルーしていくのが妥当だ。


「……それで、バケモノはどんなのなのよ。こんな辺鄙へんぴなところだし、妖怪とか?」


 某アニメ映画のオオカミに育てられた人間の女の子がいそうな山なのだ。

 日本古来のあれやこれやがいてもおかしくはない。


「えっとねぇ、吸血鬼とか、カオナシとか、ぬらりひょんとかぁ…とにかくいっぱい居るらしいよ」


「へー。妖怪なんて見たことないから見てみたいわね」


「でしょ!だからチヅちゃんと行こうと思って」


 その考えは少しおかしいけれど、今回は私も興味があるから問題ない。

 少し日が傾いてきた黄昏時、無意識のうちに足を運んできてしまったのだろう。私たちの傍らには出てきそうな雰囲気のある登山口があった。


「じゃあ、今からここを登っていくのかしら」


 細い丸太と土で作られた見るからに上りづらそうな階段は、私たちを招待しているのか追い返そうとしているのか。ざわざわと木の葉の擦れる音はホラーゲームのワンシーンにありそうな、俗にいう“雰囲気のある”感じになっている。


「っそう!ほらほら、早くいこ!」


 カルタが言葉に詰まってしまったのは、緊張というより興奮のためだろう。きらきらと、こぼれ落とさんばかりに目を開いて、まるで小学校低学年の子どもみたいだ。好奇心に囚われすぎていて、怖いとかいう考えは一切ないんだろう。


「はいはい」


 ずんずんと奥へ進んでいくカルタに私は保護者のような心持でついていくのであった。


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