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1 『終りの始まり』

耳障りな金属音を響かせながら、牢獄の扉を開く。

俺は忍び足で牢獄の外へと足を踏み出す。

俺の前方は、先の見えない永遠の闇が広がっているが、立ち止まる暇はない。今すぐ逃げ出さなければ。

「何やってんだよ。早く逃げるぞ、駿夜」

「お、おう」

「看守が気絶している今がチャンスだ。今逃げ出さないともうチャンスは二度と来ないぜ」

向かいの牢獄に閉じ込められていた少年が走る後方を、俺は息を切らしながらついていった。


もう何時間経っただろうか。

黒一色の廊下が放つ強烈な圧迫感が、俺の体力を猛スピードで削っていったため、足の感覚はすでに消えかかっていた。

「なあ、あれ出口じゃないか?」

少年が白妙の吐息を漏らしながら指差した先には、闇の中で孤独に輝く一つの光点があった。

果たしてその光は俺たちの希望か、はたまた俺たちを絶望へと誘う偽りの光か。

俺は悪い予感を棚に上げ、少年とともに光の元へ進むことにした。

光天は近づくにつれて徐々に広がり、俺達は密林へと飛び出す。

ここは一体どこなのか。

分からないことだらけだったが、とりあえずこの密林を抜け出すため、周辺の探索に出ようとしたその瞬間ーー俺の視界に、男が映った。

その男は、高貴なブーツを履き、汚れのない漆黒のローブを身に纏っていた。

腰には、禍々しいオーラを放つ鞭のようなものを携えており、顔には複雑に絡み合った緋色の紋章。鋭い目つきと、口には残酷な笑みを浮かべながら、空を見上げていた。

俺は自分の予感が的中してしまったこと、この場にいては危険であることを瞬時に悟る。

「**!」

「ああわかってるよ! 取り敢えずーー」

俺達と男とは、ほぼ50メートルほど離れており、なおかつ近づかなければ聞き取れないほどの小声で話していたはずだが……

「この場を離れよう、ってか?」

男は確かに答えた。

「逃げ出そうとしてたなら不可能だよ。この地域一帯は僕らの庭だからね。まあ、僕に見つかったのなら、この森を抜けるどころか、その場から一歩も動くことができないまま殺されちゃうけどね」

「くそッ!! 動けねぇ!!」

始めに少年が動けないことに気づき、遅ればせながら俺も気づく。

「いいねぇ、その顔、傑作だよ」

男は刻一刻と近づいてくる。

「君達は袋の鼠さ。君達はここで殺される。まあ、牢獄を抜け出したのは予想外だったけど。全く役に立たない看守どもめ、訓練を受けているとはいえ、所詮は魔術も使えないただのゴミ人間か。さぁーて、どうやって殺してあげようか……ンン〜ン、想像するだけでワクワクするねぇ」

猟奇的な男の発する一言一言から、男の殺人に対する快楽がひしひしと感じとられる。

ーーイかれてる

その一言で片付いてしまうほど、奴の頭のネジはぶっ飛んでいた。


男は一歩一歩確実に地を踏みしめ、少年の目の前で立ち止まった。

「それじゃあまずは君からだ。折角の研究材料だけど仕方ないよね、逃げ出してきちゃったんだから。それじゃあね、僕のモルモット君」

そう言い放つと、男のかざした左腕に何処からか紫がかった光の粒が集まったかと思うと、闇に包まれたその左腕で少年の頭を強引に掴みーーーー握り潰した。


一瞬遅れて状況を理解した。

俺の顔に激しく肉片と鮮血の雨が降り注ぐ。

顔にかかった彼の血液の温かみから、少年が先ほどまで生きていたことを感じ取る。

強引に握りつぶされたため、彼の首は粗い切断面を残し、彼の死体はしばらく激しい痙攣をするように動いていたが、1分もしないうちに彼はピクリともしなくなった。それはつまり、彼の生命活動が完全に停止したことを表していた。

「あ、あ、あああああああああああああ」

まず、男の容赦ない行動に怒りを覚え。

こんなに近くにいながら、ただ呆然と見ていただけの自分に、怒りを覚え。

大切な人を奪われた、人生で二度目の悲しみを覚え。

そして、それらの感情はやがて男への憎悪へと変わる。

「きっ、貴様ああああああああああああああああああ!!」

「僕を殺すのかい?」

男は満面の笑みで俺の目の前に立ち、両腕を横に広げてみせる。

俺は無意識のうちに足を踏み出し、右拳に全体重をかけた一撃を男に放つ。

だが、その拳は虚しく空を切り、いつの間にか俺の横に移動していた男に掴まれ、原型がとどまらない程に粉々にされた。

「がッ……ぐあああああッッッッッッッッッッッ!!」

全身が熱を帯びるような激しい痛み。しかし、こんな苦痛、少年に比べれば……。

「ほら、殺してご覧よ。君のその弱々しい拳なら、僕に傷一つすらつけられないだろうけど」

俺は溢れ出る殺意を一瞬だけ抑え込み、本能で逃げるという選択肢を選んだ。

すぐに殺意が溢れ返してくるが、勝てない相手を目前にして、俺は逃げることしかできなかった。

「焦らずとも君もすぐにお友達のところへ送って行ってあげるからーーーーおや?」

どうやら男にとって俺が逃げ出すことは予想外だったらしい。

「ほう……面白い。君の成長、見せてもらおうじゃないか」


男が追ってくるなんてことすら考えず、俺はただただ憎悪を抱いて密林の中を突っ走っていた。

ーー俺は何もできない。なされるがまま、少年の仇もとれず、ましてや友の亡骸を置いて逃げているのだから。

いつの間にか、俺の潰れた右腕は傷一つない、禍々しい異形の腕と化していた。

無意識に右腕を地面に叩きつけ、その反動で飛び上がる。

風を切り裂き、右腕を自由自在に扱い、音速の速さで密林の中を弾丸のように進む。

「くそッ! くそッ! くそオオオオオォォォォォッッッッッッッッッッ!!!」

大粒の涙が風に乗って、赤黒い夕空へと消えていった。

そして彼は、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、何も覚えていなかった。


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