99話:ピオネー攻略 3
長い間、お待たせしてすみません!
去る3月に、書籍版「努力チート」が3巻で完結しましたので、web版のほうもなんとか3章完結まで持って行き、そこで本編完結とさせていただきたいと思います。
頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
僕たちが率いるエジンバラ皇国軍は、ピオネー山岳を抜けてウェルリア王国に迫ろうとしていた。
リリの空間跳躍を使って、洞窟の中の先住民の族長に会った僕は、金品を送ってこの山岳の秘密の登攀路を教えてもらった。
ピオネー山岳は険しい山脈だ。
最大で標高8千ヤルドほどもある、孤高の山脈。
馬はもとより人間すら行軍が厳しい山岳を、僕たちは騎馬を率いて慎重に進んでいく。
「う……、ここを行くわけ……?」
リリが厳しい山岳の道の下を見て、心配そうな声音を上げる。
馬がたたらを踏めば、谷底に砂埃が落ちていく。
遙か下は見えないほど、深い。
ほんの少し馬の手綱さばきを誤れば、一瞬で命が失われることになるだろう。
「リリ、怖い? 引き返したくなった?」」
「私は空間跳躍があるからまだしも……、これ他の隊員は恐怖だよ」
リリはいつもの彼女らしくない、気弱な姿を見せた。
そんな彼女に呼応するように、エジンバラ皇国軍のメンバーにも弱気が移っていく。
「無理ですよ」
「こんな道、行けるはずない」
「そもそもピオネーを越えるなんて、絶対に無理だったんだ」
さすがに屈強で鳴らしたウェルリア兵も音を上げかけていたが、士気の低下した軍隊に、僕は渇を入れるように叫んだ。
「いいか、僕らがこの寡兵で戦争に勝利するには、ここしか残されていないんだ。
ピオネーを攻略し、敵の喉元に剣を突きつける!
生き残りたかったら前に進め! 再び祖国の地を踏みたければ、勝つしかないんだ!」
難地の中で叱咤激励する指揮官は、一兵卒にとっては神のごとく輝いて見える。
なんでもない風に言ったけれど、そんな僕に兵士たちは鼓舞し、士気を回復させた。
名将の素質とは、困難な未来への希望が、手に入るかのように語る人材のことを言うのだと、以前に戦術書で読んだ時に知った。
それを見習って、僕は軍隊を励まし続けた。
そうして全軍が難境に突入して五日あまりが経ったところで、ようやく長く険しい山岳の道に終わりが訪れる。
ピオネー山岳を抜けた先にあったのは、豊かな湖畔、広大な農地が広がる、ウェルリア王国の領土だった。
「ウェルリア王国……やっと帰ってきた……」
「敵として、だがな」
僕の言葉に、ロイさんが苦笑しながら突っ込んだ。
軍の数は険しい道を抜けて、一万程度から九千と少しまで減っていた。
だが、兵たちは無事に生還して大地を踏めたことに歓喜し、自分たちの姿を確かめ合って喜んだ。
敵地に乗り込んだことで、士気は多いに高まっている。
そして僕は九千あまりの部隊に、山岳のふもとで丸一日の休息をとらせた。
この時点で糧食はほとんど尽きかけている。
補給をしなければ戦えないが、ここは敵地・ウェルリア王国。
生きるためには、略奪するしかない。
よって、僕らの狙いは、ウェルリア王国軍の糧秣地を襲う計画を立てた。
「リリ。この辺りで豊富な食料が配備されてある糧秣地を知らないかな?」
「ええと……たしかここから東に10キロヤルドほど行った地に、糧秣地があったと思う」
「よし、そこへ行こう」
ウェルリア軍はまさかピオネー山岳を踏破して僕らが襲ってくると思っていなかったのか、彼らの後方連絡線は無警戒だった。
そのまま無抵抗で王国内の街道を進撃する。
そして、糧秣地。
そこまでたどりつけば、エジンバラ軍は目の前にたっぷりの食料が貯蔵されているこの糧秣地を、食料欲しさに猛獣のごとく襲いかかった。
守備隊の少なかった糧秣地は一瞬にして陥落し、エジンバラ軍はそこに保管されている食料でたらふく腹を満たし、一晩の完全休養を取った。
これによってピオネー山岳越えという厳しい環境で疲れ果てていた体力を回復させ、部隊の士気も向上して鋭気十分となった。
努力チートの書籍が完結したので、新連載を起こしました!
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途中から自分のやりたいことをやりはじめて迷走した「勇者パーティー」の悲劇を思い出し、今度こそはテンプレに徹します。きっと……。
努力チートweb版も3章完結まで頑張るので、よかったら読んでみてください。